実里ちゃん、お元気ですか?
「実里ちゃん、お元気ですか?
澪です。
こっちに戻ってきた私は、最初に召喚された場所に帰されました。
しかも時間は進んでいなかったんです。
今までのことは全部夢だったの? と首を傾げました。
でも、制服の汚れ具合を見るとそうでないと思ったし、何より向こうでの生活。
実里ちゃんとのこと。
――そして、お互いの住所や電話番号を書いたメモが私の制服のポケットに入っていて「これは絶対夢じゃない」と確信しました。
私は休日を利用して、すぐに住所に記してある実里ちゃんの家を訪ねました。
…………これは実里ちゃんに知らせようかどうか、とても迷いましたけど、理由があって手紙に記します。
実里ちゃんの家族に会って実里ちゃんのことを話したら、ものすごく変な顔をされました。そして
『実里? そんな子、うちにはいないわよ? 家を間違えたんじゃないの?』
と言われました。
住所も電話番号も合っているので、ご家族にとても怪しまれましたけど…………
どうしてだろう?
と毎日考えました。
そうして気づいたんです。
私も、実里ちゃんのこと。
異世界へ召喚されたこと。
ダーク聖女になってしまったこと。
全ての記憶が薄れてきて、よーく思い出そうとしても、細かい部分がもう記憶からなくなっていることに。
きっとこのまま生活をしていったら、異世界のことも実里ちゃんのことも忘れてしまう。
だからそうなる前に、こうして手紙を書くことにしました。
もしかしたら、しばらくしてこの手紙を読んだら、自分で不気味だと捨ててしまうかもしれない。
でも、どうか、未来の私。
この手紙は捨てたり破ったりしないでと、お願いしておきます。
そしていつか奇跡が起きて
この手紙が実里ちゃんの元に届きますように。
あなたのソウルメイト・澪より――」
◇◇◇◇◇
「ウィルドさん! 行ってきます!」
「おう! 頼むぜ!」
またいつものようにランチ配達。
今日は役所へ五人前。
こうして異世界へ残ってから、三ヶ月が経った。
私はいつものようにウィルドさんのお店を手伝って、看板娘としての地位を揺るぎないものにしている。
そして「聖勇者」の称号持ちで「治癒」の力があるので、美容の商売も始めた。
まあ、始めたばかりなのでぼちぼちとね。
何せ、これからお金が必要なのです!
今の飲食店兼宿屋を、もっと大きくするので!
それに――
「ふふふふん」
思わず鼻歌。
大きくするのに伴って、私とウィルドさんの部屋を造るんだもん!
『これから家族も増えるかもしれんからな。部屋を増築しておこう』
耳まで真っ赤にして、照れながら言ってくれた。
それから――
(ささやかだけど、結婚式もしようって言ってくれたし!)
ああああ! 幸せ!
私は漕ぎながら空を仰ぐ。
そして、もう会えない友達に向かって言った。
「澪ちゃん! 大丈夫! 私は幸せだよ!」




