イメージ違うんですけど!
「うそおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 嘘だもん!!」
私、空中で叫びました。
その叫びにダーク聖女の澪ちゃん、ビクッとしたけど。
私の嫌気か何かの波状が出たのかもしれない。
でも、そのおかげで闇に取り込まれていたアントンさん達が解放された。
顔が真っ青で、ヨロヨロと息も絶え絶えだ。
おっさんズが彼らと待避。
キアラさんが、異常回復の薬を飲ませてる。
それは良いけど――今の私は衝撃を受けたまま。
澪ちゃんの変貌した姿もだけど、私のこの姿にショックだよ!
「こんなのやだあああああああああ!!」
私、半泣きで地上に降りました。
ウィルドさん、ビックリして私と慌てて柱の陰に隠れる。
「ミサト、どうしたんだ? 『聖勇者』だぞ? 凄いじゃないか! 俺、こんなチェンジの仕方なんて初めて見たぞ!」
ウィルドさん、興奮しておいでです。
「これならミナトというふざけた勇者なんぞいなくても十分戦える!」
なんて私の肩を揺らすけれど――そんなことじゃないよーーーー!
「戦えるのは、そりゃあ嬉しいけれど。嬉しいけれど!」
ピー! と泣いてしまう。
「なんでそんなに泣くんだよ? いいじゃないか、なかなかカッコいいぞ?」
「カッコいいんじゃなーーーーーーい!」
私は叫ぶ。
「こんなのヒロインの衣装じゃなーーーーーーーい!」
「へっ?」と目を丸くするウィルドさんに、私は心の叫びを吐露した。
「私の知ってる『戦うヒロイン』っていうのは、もっと、こう、ひらひらとした綺麗なドレス着て、アクセサリーつけて『カッコいい』んじゃなくて、『素敵』『可愛い』なの! こんな『特撮戦隊』みたいなのじゃなーーーーい!」
うえーん。
制服はそのままで、ガーディアンが鎧になってこれじゃあ、男の子が好きな変身シリーズだよお!!
「せめて、異世界ではお姫様のようなドレスに変身したかった……」
私だって女の子だよ。普段は諦めているおしゃれな格好で変身したかった……。
メソメソしてる私にウィルドさんは「よしよし」と頭を撫でてくれる。
「いや、そりゃあ、うん。ドレスで戦えるかっていう問題もあるけどな」
「戦えるんだよーーーーー!そのほうがテンション上がるもん!」
わんわん泣きながら言っていたら――
ガチャン、と武装が外れた。
「えっ……」
ガーディアン自ら外れたらしい。
普通のチャリの姿に戻っていた。
心なしか、いや、そうじゃない。ハンドルや籠が下を向いているところを見ると落ち込んでいるみたい。
ようやく私、ガーディアンを傷つけてしまったことに気づく。
「ご、ごめん。ガーディアン……。ガーディアンのせいじゃないよね」
落ち込むガーディアンに私、謝罪。
確かに鎧武装な姿にショックを受けちゃって理想と違うから泣いちゃったけれど、ガーディアンだってレベルアップして私の助けになろうとしてくれたんだし。
「ありがとう、私を守ろうとして変身してくれたんだよね。我儘言ってごめんね」
ガーディアンを撫でながら私は謝罪とお礼を言う。
そうだ、今は「格好」がどうのこうのと言ってる場合じゃない。
澪ちゃんを無事に瘴気から外して、取り戻して――この国を救う。
王様や王太子の為じゃなくて、ウィルドさんやおっさん達。
カスターさん。
そしてこの国に住む人達の為に。
「ガーディアン、もう一度お願い。一緒に澪ちゃんを取り戻そう!」
リンリン!
とガーディアンのベルが鳴る。
良かった、機嫌が直ったみたいだ。
「聖勇者モード!行くよ!」
恥ずかしいけれど。
正直、恥ずかしいけれど!
ガーディアン、装着!
そしてまず向かった先は――
「ミナトさん! 剣! その剣を私に!」
剣を抱えるように持って隠れていた勇者ミナトに、私は「その剣くれ」と言った。
なんでも勇者用の剣らしく、持つ相手によって属性や形が変わるらしい。
『おそらく、剣の保有者の願いや理想を形象化するのでは?』とウィルドさんが話してくれた。
「な、なんでだよ! これは俺の剣だ! 勇者の剣なんだからな!」
としっかり持った上に私から離れていく。
「この状況で扱い切れてないじゃん。それにこの危機を救うのはあんたじゃない」
ずい、と私はミナトに迫る。
「う、うっせー! このデブ! てめえに扱えるわけねーよ! デブスのくせに!」
「――だったら、いま戦ってこい!」
と、ミナトの首根っこひっぱって澪ちゃんの前にぶん投げたは、ウィルドさんだった。
うわ~……めっちゃ飛んだ。
ナイスな位置に転がるミナトだったけど、ダーク化した澪ちゃんに上から見下ろされてブルブル震えてる。
ちっちゃくなってて情けないけれど、小動物だと思って見てれば可愛い……かな?
(いや……! 全く可愛くない!)
私を散々「デブス」と言った奴に情けはいらん。
これで勇者として戦えるなら見直して、援護するけれどやっぱり「ヒイイイイイイ」と情けない声を出して尻餅ついたまま後ろに下がるだけ。
「お前、仮にも勇者だろうが! 剣を振ってみろ!」
ウィルドさん、あれですか。
指導は実戦派ですか? という厳しさです。
「ぅ、ふう……っ!」とミナトは変な掛け声を出して尻餅をつきながら、澪ちゃんに剣先を見せる。
「一応、剣はしかと持てるらしいな……でも、あれじゃあ、無理だろう」
アントンさんが呟いて「援護してくるよ」と駆けていく。
ジョンさんも「しゃーねー」と向かっていく。
「みんな優しい~」
とキアラさんは、腰が抜けたまま泣きじゃくってる白魔術師の子をひっぱたく。
「あんたもしっかりしてよ! せめて倒れている味方の人達を回復させて!」
「……ふっ……う、うん」
王様からようやく離れ、ごく近くで倒れている人達の回復を始めた。
そしてウィルドさんは王様の前に仁王立ちをした。
「おい、『勇者の剣』は予備があったろう? あれはどこに保管してあるんだ」
と王様に凄みながら尋ねる。
(王様にタメ口ってウィルドさん凄いな)
なんてビックリしていたら、王様にさらにビックリさせられました。
「我が弟よ……! 国の危機に駆けつけてくたのか! 礼を言うぞ!」
「……えっ?」
今「弟」って言いませんでしたか?
私、ウィルドさんと王様を交互にガン見。
「弟? ウィルドさんって王様の弟さん?」
「まあ、な……。全く、こんな兄をもって情けないやら恥ずかしいやらだが、血が繋がっている」
――それより、とまだへたり込んでいる兄である王様に向かってウィルドさんは凄む。
「いいから予備の剣はどうしたよ? ミナトってやろうじゃあ、属性からもだが、あんなへなちょこじゃあ今回の瘴気を倒せるわけねーだろ? あいつが素直にミサトに剣を渡せばいいが、へんなプライド持っているせいか無理っぽいしな」
「あ、ああ……」
と王様はフラフラと立ち上がると、暖炉の上に飾ってあった帯剣を取る。すると――脇に設置してあったキャビネットが横にスライドした。
そこに鉄の扉があり、開けると剣が立てかけて保存されていた。
ウィルドさんは剣を取ると、状態を確かめる。
「うん、破損もないし。予備とはいえさすがに勇者用の剣だ」
と、鞘から抜いた剣を見て満足そうに頷く。
確かに、その剣の刃の輝きが違う。素人の私でさえ分かる。
僅かな光を吸収し、自分の内なる力を放出しているかのようなまばゆい光だ。
「おい、兄貴。――言いたいことが山ほどあるが、まずはこの瘴気を倒さないといかん」
「あ、ああ……」
「首洗って待ってろよ」
しょぼん、としている兄貴――王様。
なんだか、弟さんの方が偉そう。
ぼんやりとこの状況を眺めている王太子を後目に、ウィルドさんは私に剣を渡す。
「いいか、勇者の剣は持ち手の性質や願いで形を変える。これは予備として鍛え上げられた剣だが、あの馬鹿勇者が持つ剣と対で造られて性能は変わらん。これも『勇者の剣』だ。ミサト、もって願ってみろ」
「は、はい」
恐る恐る受け取って重さにガクンと身体が揺れた。
「お、重い……っ!」
と口に出した途端、軽く持てる程度の重さになった。
「あ、あれ……重さが変わりました」
「ミサトに合うように剣の方が調整してくれてるんだ。何度か振ってみろ」
「はい」と剣道の振り方を思い出しながら振ってみると、みるみると剣の形も変わっていく。
幅広な刃だったのに、まるで日本刀のような幅になり、柄も私の手のひらにあう大きさになる。
何より――
「剣の仕様? なんでしょうか? 属性が変わったような気がします」
表現すれば『逞しさ』や『男らしさ』があった剣が『神々しさ』『艶やかさ』な剣になった気がする。
「今のミサトならステータスが視れるだろう? 視てみろ」
「どうやって『視る』んですか?」
まずそこからだろう。
「そうだな……剣に手をかざして『状態開示』でいけるんじゃないか?」
「はい」と私は剣の前に手をかざし、
「状態開示」
とせりふを吐く。
すると――目に前に透明な画像が出現した。
「うわぁ! ゲームの世界だわ!」
思わず声を上げる。
「名称『聖勇者の剣』対象物に切りつけることで相手の状態、魔力、体力を回復させる。アンデット、ゾンビ、闇属性のモンスターに有効だが、普通のモンスターに対しては回復させてしまうので注意が必要……ああ、支援系の剣ですね」
「元々、治癒師のミサトだからな」
「人を切って怪我させるより良いかな、と思います」
ぽん、と私の頭にウィルドさんの手のひらが乗る。
「ミサトが持つのに相応しい剣じゃないか!」
「はい……!」
頭ぐりぐりされる。いつも髪が乱れて嫌だ~とか思う反面、大好きだったりする。
(乙女心は複雑だ~)
「これならミオの身体を傷つけることなく『瘴気』だけを倒すことができるぞ、ミサト」
――そうだ、私はそう願って剣を握った。
剣はそれに答えて姿も属性を変えてくれた。
私は、気を引き締めて真剣な顔をウィルドさんに向ける。
「澪ちゃんを助けてきます!」