新しい召喚者に会いました(2)
「いやぁ~美味かった! 久しぶりにまともな食事をとったよ!」
ジョンさんが満足というように腹を撫でる。
「しばらくサバイバル食だったもんね」
とキアラさんも、しんみりと答える。
「今までどこにいたんですか?」
城の中で酒池肉林生活している勇者とその数名達と喧嘩別れして、出て行ったメンバーであるのは間違いないと思う。
「城下街の外とかですか?」
「ああ」とアントンさん。
「その方がモンスターとかに遭遇しやすいかな、って思ってね。レベル上げないといざ国の危機がきたら倒せないだろう?」
ジョンさんが言う。
「……すごいな、あんな王様と王太子を見ていながら役目を全うしようなんて」
感心してしまう。
「あんな統治者だけど、国民に罪はないしね。それに倒さないと帰れないんでしょ?私達」
キアラさんが肩を竦めつつ言った。
「それでまあ城下街の外に出て、森の中に入ったりしてモンスターを倒していたんだけど、あまり大物がでなくてね。これじゃあレベル上がらないねーって移動しようかと相談していたんだ」
「そうしたら――そこのウィルドさんがやってきて『修行にいい場所があるぞ』って洞窟に連れて行ってくれたんだ」
「――えっ?」
私、すごい勢いで首を回してウィルドさんをガン見する。
「どうして私には教えてくれなかったんですか!?」
ウィルドさんは「まいったなー」とつぶやくと頭を掻いた。
「ミサトの『治癒』は行えば行うほどレベルが上がる。お前毎日ガーディアンとか自分に『治癒』施していただろう? 日常でばんばん使っていたからかなりレベル高いし、そこで修行しなくても大丈夫だとふんだんだ」
「……まあ、そうですけど……でも! アントンさん達と面識あったんなら教えてくれてもいいし、そうしたら『治癒』の力を持ってるから洞窟での修行で皆さんのお役に立てましたよ!」
「それなら大丈夫よ、ミサト」
とキアラさんが杖を出す。
「この杖『回復』の付属がついてるの。しかも色々薬を持たせてくれたし。念のためだとウィルドさんの友達も交代できてくれた」
「ええっ?」
ウィルドさんの友達って……いつもやってくる常連客のおっさん達だよね?
「俺達の剣や槍に盾、杖とか防具もウィルドさん達が揃えてくれたんだ――それもかなり良いものを」
「えええっ!?」
私、三度びっくり。
(ウィルドさん! 貴方いったい何者なんだ!)
しかも常連客のおっさん達も、ただ者じゃない疑惑が一気に浮上してきた。
ウィルドさんは苦笑しながらも、
「そこは蛇の道は蛇ってな。俺達も若い頃はやんちゃだったってことよ」
しかも、ことわざを使ってる!
「俺達おっさん達はこっそりと、若くて気概ある者達をサポートする連盟を作ってるのよ。『未来ある若者達を支援する会』ってな」
「はぁ……」
そう説明されると、なんとなく納得できる。
私を拾ってここにおいてくれたことも、気軽に澪ちゃんも宿においてくれたことも。
こうして城から出て修行を始めた若者達を修行の場として洞窟に導いたことも。
――そういう連盟で優しくしてくれただけで、私だけじゃなかったってことなんだ。
(……あれ? なんだか私、すごくガッカリしてない?)
良いじゃない。王様も王太子様も召喚しとおいて援助は均等じゃないし。
第一、一緒に酒池肉林を楽しんでるたわけで、全く役になってないし。
だからこそ、こうしてウィルドさん達が支援してくるってことはとても助かることなんだ。
なのに、むー、と口を尖らせてしまう。
「――それでな、ミサト、聞いてるか?」
「は、はい?」
「大丈夫か?まだ、雷矢の影響が残っているのか?」
ウィルドさんが心配して頬に触れてきた。
あんまり優しく触れるので――こそばゆい。
「くすぐったいですよ、ウィルドさん! 本当にもう大丈夫です」
「嘘は言うなよ? 痺れている感覚があったらすぐに言え」
「はーい」
こそばゆいのは頬じゃない。
(……私の胸の中だ)
同時――分かってしまう。
私、自分以外の人にウィルドさんが親切にしているの嫌なんだ。
これがなんの言葉がつく感情なのか、私だって分かる。
2、5次元や2次のキャラクターを追うのと似ているようで、違う色。
私――
(リアでは枯れ専だったのか!!)
新たな自分発見に「ほぉぉおおおおおお」と感激している私に、
「ほら、これからミオ奪還の作戦会議するんだから」
とウィルドさんが突っ込んできた。
「そうでした。澪ちゃんを救出して勇者とか王様とかボコボコにして、軌道修正するんですよね!」
そうでした。
ウィルドさんへの気持ちを確認したけれど、今は澪ちゃんのことを最優先に考えないと。
昨日、目の前で落ちた私を澪ちゃんは、きっと心配している。
元気な姿を見せて、騎士のごとく助けにいけば安心すると思う。
「『視た』ところ、アントンはLV45。ジョンはLV48。キアラはLV50。うん、あの短い期間でよくここまでレベルを上げたものだ」
「はい? レベル? ウィルドさん、ステータス視れるんですか?」
そんなこと、初めて聞きましたが?
「俺はな、ただ者ではないおっさんなんだ。鍛え方が違う」
いや――それはよく分かりますが。
いつ寝ているのか分からない人だし。だらしなく寝そべっているところなんて見たことなどございません。
これにはアントンさん達も驚いている。
「それに、ミサトも修行してレベルを上げていけば高確率で視られるようになるぞ」
「――本当ですか!?」
「ああ。じゃないと、有効な治癒方法が探れないだろう? そうすれば少しの力でパーティメンバーのステータス異常や体力を回復できる。もっと上がれば自分の力を魔法使いなど魔力を行使するメンバーに与えることも可能になってくる」
「私ってすごいじゃないですか~」
これぞ支援系キャラ。
そこでハッと気づく私。
「ウィルドさん、私のレベルは? 視れますか?」
「勿論。もう視てる」とウィルドさん。
「いくつです?」
「LV79」
「えっ……?」
――嘘?




