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勇者の仲間としていきなり異世界へ呼ばれましたが捨てられた上、元の世界へ帰れません(1)

中編くらいの長さです。

 私、及川実里はざっくりと言うと、「勇者を助ける仲間の一人として異世界に呼ばれましたが、デブスが原因で捨てられて、しかも元の世界へ帰れません」な身の上になりました。


 もっと詳しく話してくれって?

 もうヤケだし、ご飯くれて優しいおじさんだからお代のかわりに話す、ということでいいですか?


 ありがとうございます。いただきます。

 約二日ぶりのご飯美味しいです。ありがとうございます。

 臓物の煮込みですね。柔らかくて味がしみていて最高ですね。

 飲み物まで頂けるなんて、感謝です。


 あ、はいはい。

 では、私が住んでいた世界から、ここに運ばれてしまった時のことからお話します。


 私は向こうでは、高校生でして。

「高校生」というのは、そうですね。義務教育からもっと先の勉強をしたいという人々が試験をして、基準点を越えたら希望の学校へいって勉強する若者のことを言います。

 だいたい、十六歳から十八歳がほとんどですが、たまにもっと年上の方も通っています。

 他に色々分別できますが、この世界には関係ないので割愛させてください。


 私は「高校生」で「オタク」です。

「オタク」とはなんぞや? と。

 おもに、大衆文化を愛し、それに人生を捧ぐ者達のことです。

 例えば、この世界でいえば……うーん、部屋に閉じこもって研究に没頭して、その世界は弁舌爽やかだけど他以外はさっぱりなので、大人しくなる方っていません?

 そう! そんな感じの方々です。

 えっ? 私がそうに見えないと?

 ……ありがとうございます。おじさんとても優しい方ですね。


 確かに、私は引きこもってはいませんでした。

 高校生です。学業大事です。そして自分の推しのキャラクター「ファクター様」を応援するために、バイトをしてました。

 引き籠もってる場合ではないのです。

 今度、ファクター様が活躍するゲームが舞台化するので、そのチケットを買うためにバイトをしていたんです。

 ――えっ?

 ちょっと意味が分からない?

 うーん、そうですね。ここでは観劇はありますか? はい、ありますか。

 そしてゲームは? カードゲームとか博打系ですか。

 もっとこう大人のものではなくて……そうそう! 大人も子供も楽しめるものでして……そうですね、祭りみたいなもの……ですかね……

 チケットというのは、舞台を観るために事前に席を購入しておくんです。

 話を続けますね。


 そのチケットを購入する、来たる日のために、私は学校が終わるとせっせとコンビニでバイトをしていました。

 コンビニってなんぞや? と。

 二十四時間、一日中開いているお店みたいなものです。

 便利ですよね~。でも、私は高校生なので十時までしか働けなかったんですよ。年齢でできるできない、しちゃいけない、というのが法律で成立していました。

 うーん、ここの世界に来てまだ二日ほどなので、どんな世界なのか分かりませんが……そうですか。確かに私のいた世界は色々、整っていたかもしれません。


 そうそう、それでそのバイトが終わり、自宅に向かって自転車を漕いでたら――突然、光に包まれて気が付いたら、コスチュームに身を包んだ人達に囲まれていたんです。

 ファクター様のような大きな剣を持っている男性もその中にいましたし、いかにも魔法使い! という格好の方もいるし、髪の色や瞳の色も様々で「イベント会場かな?」って思いました。

 イベント……催しですね。はい、お祭りみたいなものです(お祭り万能!)


 集まっている方々の中で明らかに王冠被ってる、一番偉そうな男性が言いました。

『よくおいで下さった! 魔王を討伐する勇者メンバーの一人! 治療師よ!』

 これ何のイベント? って首傾げちゃいましたよ。

 全力で「?????」としてる私に、先にこの世界にきたと思われる女性が話してくれました。


 はい。『魔王が復活する兆しがあって、異世界から力のある者達を召喚し、助けてもらう』ということだと。

 どうやら、こちらの希望する職種の人を転移する際に、素質のある方がランダムに選ばれるそうですね。

 私は「治癒・回復」に素質があったんでしょう。

 そして転移したら、その素質が開花されるという仕組みだそうです。

 元々この世界にいた人が修行して強くなるより、神懸かり的な強さになるそうです。

 ――本当ですよ! 自分の世界の危機なんだから、自分達で頑張れよですよ!


 おじさん、分かってくれて嬉しいです。


 一番偉そうな王冠被ってるお方は「王様」でして、この世界の人達は『これで世界が平和になる!』と万歳してました。

 こっちの世界でも万歳ってあるんですね。

 でもね――問題はそこからでした。

 その、ファクター様のような大剣を持った若者が不満そうな顔で私を見つめて、こう言ったんです。


『こんなデブスがメンバーなんてありえない! これでは世界など救えない!』


 ――失礼ですよね!?


 確かに私はデブで、決して可愛いとは言えない顔ですが、清潔感には気をつけてますし、おデブながらも洋服だって十代として気を使ってます!

 眼鏡はしかたありません。ゲームしすぎて視力落ちちゃって。


 そのファクターもどきが言うんです。

『おそらく間違って召喚されたに違いない! 普通勇者のパーティの人物はみんな、美男美女と決まってる。こんなデブスは存在しない。バグだろう』

 って。

 お前、それブーメランだろ。ゲームとリアルの世界分けて考えろよ!――と突っ込みたかったけれど、その時は私もゲームの世界に入り込んだのかと思って何も言えませんでした。


 他の召喚されたメンバーも、口々に言い出したんです。

『そうだよな。治癒系ってもっと清楚で可愛らしい子だよな』

『そうそう。聖女で召喚されたこの、澪ちゃんみたいに』

『聖女だって治癒も回復もできるし、しかも癒しもできて万能じゃん。治癒師いらなくね?』

 聖女、と言われた女の子は先程私にご親切に説明してくださった方でして、それは困ったようなお顔をしていらっしゃいました。

 もう一人、女の子がいましたがあからさまに私を見て笑っていらっしゃいました。

 私は思いましたね。


 ――選ばれたけど、こいつらと一緒に魔王倒せないって。


 と、まあ、治癒師選び直しということで、私は一緒に転移された自転車と一緒にお城から追い出されたというわけなんです。


 ごちそうさまでした。



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