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ココロはタイクツしているぞ

world:ハッピーエンド

stage:西暦2041年7月 鷹狩学園

personage:不死者の心臓(こころ)

image-bgm:非実在系女子達はどうすりゃいいですか?(綾瀬理恵)





 ココロはココロだぞ!


 ココロのなまえはマジリがつけてくれたんだ。

 ほんとうのなまえは“不死者の心臓(いもーたる・はーと)”なんだってマジリは言ってたけど、ココロはココロってよばれる方がなんかうれしいんだぞ。


 “不死者(いもーたる)”って言うのはおおむかしにワルいことしてバラバラにされた人のことで、ココロのオトーサンだぞ。

 オトーサンは今もバラバラだけど、ときどきココロのユメに出てきてくれるんだ。

 オトーサンはな、すごく大きくって、すごくすごくつよそうなんだぞ。

 でも、オトーサンのおはなしはムズかしすぎて、ココロにはよくわからないんだ。


 マジリが言うにはな、ココロがいっぱい“不死者(いもーたる)”のテンセイタイっていうのをいただきますしつづければ、ココロがオトーサンになれるらしいぞ。

 だから、ココロはいっぱいいっぱいテンセイタイを食べてるんだ。

 えへへへへ。

 はやくオトーサンに会ってみたいんだぞ。


 あ、そうだ。

 マジリはな、マジリだぞ。


 マジリはな、ココロをツチの中からホリ出してくれたイノチのオンジンなんだ。

 ずっとうごけなくって、クライクライでコワイコワイだったココロをだっこしてくれて、じぶんの血をココロに飲ませてくれたんだ。

 そのマジリの血がな、とってもとってもとっても、あまくてシアワセでおいしかったんだぞ。


 テンセイタイをいただきますするのもおいしいけど、マジリの血はそれよりもずっとおいしいんだ。

 だからまた飲みたいのに、マジリはアレからいちども飲ませてくれない。

 ほんとうにケチンボさんなんだぞ。


 でもでも、マジリはそのかわりにオカシを作ってくれるんだぞ。

 なんかよくわかないおいしくないものをマゼたりモヤしたりしてるとな、なんでかしらないけどオカシになるんだ。


 オカシはな、すごくすごくおいしいんだぞ。

 マジリの血のつぎに、ココロはオカシがシアワセなんだ。


 マジリはなんでも知ってて、おいしいものもつくれて、とってもエライエライなんだぞ。

 ベンキョーベンキョーってうるさいときもあるけど、でもがんばったあとにはちゃんとなでてくれるし、オカシも作ってくれる。

 オヨーフクもきせてくれるし、いっしょにオフロに入ってくれるし、テンセイタイも食べさせてくれる。


 だからココロ、マジリのことが大好きなんだ!





 ◇ ◇ ◇





 マジリはほとんどまいにちガコウとか言うところにいっちゃうんだぞ。

 そのあいだ、ココロはマジリのいえでおるすばんなんだ。


 マジリがいないとタイクツで、ココロはユカの上をゴロゴロしちゃうんだぞ。

 マジリがいるときはプンプンおこられちゃうけど、いまだけはダイジョブなんだ。

 ぞんぶんにゴロゴロできるぞ。


 ……でも、おもしろくないんだ。

 ゴロゴロしたときには、やっぱりマジリにプンプンしてほしー。


 つまらないから、ココロはうぃんくでベンキョーすることにしたぞ。


 うぃんくっていうのは、なんかさわるといろんな絵と音が出てくるふしぎなオモチャだぞ。

 ほんとうはコジンニンショーでマジリにしかつかえないみたいなんだけど、『わたしのいちぶをとりこんでいる』からココロにもつかえるらしいんだ。

 よくわかんないけどラッキーなんだぞ。


 マジリはうぃんくでなんかいろんなことをしてるけど、ココロはホンをヨムことしかまだできないんだ。

 だけど、絵がバリバリーってうごいてドカバキーってワルモノたおしちゃうハナシは、すごくおもしろくてベンキョーになるんだぞ。

 なんだかココロがテンセイタイをいただきますするときみたいだ。


 ココロの体には今まで食べたテンセイタイがたくさんいるんだぞ。

 ウデとかメダマとかハツネツキカンとかマリョクカイセンとかエラとか、なんかいっぱいあるんだ。


 中でも“不死者の肋骨(いもーたる・りぶ)”はとてもベンリなんだぞ。

 カラダからとりだすときはちょっとイタイイタイだけど、ココロがおねがいすると、なんかガシャーンシャキーンって形をかえてくれるんだ。

 ほかのブイとガッタイさせると、このマンガみたいにおっきくカッコよくなって、かたいテンセイタイもイットーリョダーンだ。


 じつは“必殺技名(ぶらすと・とりがー)”をさけぶとトテモツヨイってマンガにかいてるんだけど、それはダメってマジリに言われてるんだ。

 ザンネンだぞ。ココロも“ぶらすと・とりがー”してみたいぞ。


 そんなことを考えているうちにホンをよみおわったけど、トケイの文字がぜんぜんかわってくれないぞ。

 おかしいぞ、いっつもこうだ。

 マジリといるときとかオカシを食べているときはすぐ文字がかわるのに、こういうときだけトケイはズルイんだ。


 しかたないから、ゴハンを食べるぞ。


 マジリがおいていってくれたゴハンは、オカシほどじゃないけどおいしいぞ。

 このまえヒエヒエで食べたらマジリにガミガミされちゃったから、こんどはしっかりチーンするんだぞ。


 大きなしかくいハコから小さなしかくいハコをとり出して、それを中くらいのしかくいハコに入れたら、あかいボタンをおしてチーンだぞ。


 まだかなー。


 まだかなー。


 まだかなー。


 まだかなー。


 まだかなー。


 チーンしたぞ!

 なんかジュージューしててお手てがアツイアツイだけど、でもすっごくおいしそうだぞ。

 たしかバンバーグーってマジリが言ってた。


 それではりょうてを合わせていただきますだ。

 ちゃんとアイサツしないとゴハンが食べられないんだぞ。


 それでは食べるぞー。


 なんかこの丸いの、少しやわらかくてつかみにくいぞ。

 それになにかダラダラこぼれてくるし、すごくあつくて手がヒリヒリしてきたぞ。

 だけど、おいしそうなニオイだ。


 かじるとやっぱり口の中もアツイぞ。

 舌がカーってなってなんだかよくわからない。


 でもおいしいぞ。

 ワルくないぞ、マズくないぞ。

 なんだかテンセイタイを食べてるみたいなかんじだけど、こっちはアツくてやわらかくてドロドロしているぞ。

 テンセイタイの方がおいしいけど、こっちの方はなんかシアワセなキブンになるんだ。


 あれ、もうなくなっちゃった。

 むぅー、もっといっぱい食べたかったんだぞ。


 あ、手とかハコにまだくっついてるぞ。

 もったいないし、あんまりヨゴしてるとマジリが悲しいしちゃうからペロペロしておこう。


 ペロペロ。

 アツくなくなったけど、でもこれはこれで食べられるぞ。

 おっと、ユカにもくっついてるぞ。

 ペロペロ。


 よし、ベタベタがなくなるくらいペロペロしたからもうダイジョウブだとココロは思うぞ。

 ゴハンを食べたら、ようやくオカシが食べられるんだぞ。


 オカシだぞ♪

 オカシだぞ♪


 きょうのオカシは白くてヌルヌルしててサンカクで、てっぺんだけあかいヤツだぞ。

 食べにくいけど、ココロはこれが大好きなんだ。


 えーっと、大きなしかくいハコの中にあるってマジリが……


 あ。


 ……。


 うすくてマルいイタの上からおとしちゃったぞ。

 ユカにベチャッてなっちゃった。

 せっかくさっきがんばってペロペロしたのに。


 まあ、もういっかいペロペロすればいいだけだな。

 いただきまーすだぞ。


 うん、あまくておいしいぞ。

 よくかんがえたら、こうやって食べれば手がペタペタしないぞ。

 ココロかしこい。こんどマジリにもおしえてあげようっと。


 む、でもこれハナとかカオにヌルヌルがついちゃう。

 うーん、もっとレンシューするヒツヨウがありそうだぞ。


 さて、食べちゃったらちゃんとごちそうさましないといけないぞ。

 そうしないとごちそうさまのカミサマにバリバリされてオヘソをとられちゃうんだぞ。

 オヘソをとられるとなにがこまるのかよくわからないけど、よくわかなすぎてコワイんだぞ。


 ごちそうさまでしたー。


 ……。


 まだまだトケイがかわらないぞ。

 マジリがかえってこないぞ。


 タイクツだぞ。

 ツマンナイぞ。

 ……サミシイぞ。


 もうやることもなくなっちゃったから、ココロはもういちどゴロゴロするんだ。


 ゴロゴロー。


 ゴロゴロー。


 なんだろう、カラダが。


 ゴロ、ゴロ。


 ごロ、ゴロ。


 ポカポカしてきて。


 ゴろ。ゴロ。


 ごろ。


 むにゃあ……





 ◇ ◇ ◇





 楔岩(くさびいわ)(まじり)は、アパートの扉を開けるや否や、中の惨状に嘆息した。


 投げ出されたWINK。

 蹴っ飛ばされた座布団。

 引きずりまわされた毛布。

 開けっ放しの冷蔵庫と電子レンジ。

 床に置かれたタッパと周囲に散らばる脂分。

 ひっくり返った皿と周辺に飛び散る生クリーム。


 猫の群れにでも引っ掻き回されたような部屋の中央では、ワンピースの上半身をベタベタにした赤い幼女――こころがスヤスヤと気持ちよさそうな寝息を立てていた。

 後ろ手に扉を閉めた交は、さてどこから手を着けたものかと腰に手を当てる。


「……あーマジリだー。おかえりなさいだぞ」

「ただいま、こころ」


 惨状を咎めることはせず、交は鞄を置きながらこころの前にしゃがみ込んだ。

 こころは少しだけ眠そうに目を擦ってから、ぴょんと上半身を起こしてニパッと白い歯を覗かせる。


「ココロ、今日もちゃんと一人でおるすばんできたぞ! エライか?」

「えらいえらい。ご飯もちゃんと一人で食べられたんだね」

「とうぜんだぞ。ココロはもうカンペキにチーンできるんだからな!」


 若干汚れた両手をギュっと握りしめながら、こころはドヤ顔で胸を張った。

 交はそんなこころの頭を優しく撫でると、「さて!」と気持ちを切り替えて制服の袖をまくる。


「それじゃあ夜の見回りに行く前に、キレイに掃除して晩御飯の用意をしちゃいましょうか。こころも手伝ってくれるよね?」

「もちろんだぞ! どんなかたい食べ物も“りぶ”でイットーリョダーンだ!」

「あ、それは出さなくていいよ。本気でエグいから」


 己の脇腹に右手を突き入れようとするこころを、交は寸でのところで引き留める。

 なんで交がそんなに青い顔をしているのか理解できないこころは、ワンピースを捲り上げた状態のまま可愛らしく小首を傾げた。





/ココロはタイクツしているぞ 完

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