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どうしてあたしに構うのよbyココア

ひとり娘にココア(心愛)なんて名前を付けた割に、あたしの両親は仲が悪い。

あたしとしては、年中ラブラブであって欲しいんだけどね。


夫婦喧嘩はこれまでも何度かしてたんだけど、

ゆうべなんか特に酷くてさぁ。

やれ仕事が上手く行ってないだの、

やれ食うだけのお前は黙ってろだの。

そりゃあ、夫婦だって元は他人でしょ?

ずっと一緒に居たら、文句や喧嘩のひとつやふたつ、

無い方がおかしいよね。


だけどあたしの両親は度が過ぎてるワケ。

どっちが先手か知らないけど、まあ手も出る足も出る。

その凄まじさと来たら、間違い無く過去最大規模。

ガチャーン、バリーン。

食器やガラスが割れる音には、流石のあたしもビビった。

自分の部屋から出れなかった。


しばらくして喧嘩は終わったみたいなんだけど、

二人とも居なくなっちゃった。

あたしがリビングに出てみると、もうメチャクチャ。

皿やガラスの破片で足の踏み場が無い状態。

もしあたしの部屋にスリッパが無かったら、危なくて通れなかった。


で、結局部屋に戻ってさ。

体育座りでずーっと考えてたら、いつの間にか朝になってたの。


とりあえず着替えてみて。

限界だよ。

学校どころじゃない。

なんとか明るく取り繕って来たけど、もう自分を保てない。

視界の全てが灰色に感じる。

結局パパもママも帰って来なかったし。


何とか家を出て、エレベーターの前までは行ったけど。

ボタンを押した所で、あたしは決めた。

自殺しよう、って。


だってどうせ、このままずっと独りなんでしょ?

何度も何度も離婚離婚って言ってたし。

どんなに大喧嘩しても、離婚の話はしなかったのにさ。


パパ、ママ、どっちがあたしを引き取んの?

もうどっちもヤダよ。

このまま生きてなんかいけないよ。

どうせいつかは死ぬんでしょ?

だったら若くて綺麗なうちに終わらせちゃおう。


自宅に引き返し、靴も脱がずに自分の部屋へ。

遺書なんか遺さない。

書いた所で、どうせあのふたりは読んだりしないでしょ。

バーカ。


あたしは窓を勢い良く開け放ち、フェンスに手をかけ、それを乗り越えた。

思えばこれまで良く我慢したよね、あたし。

ちなみにあたしの家は4階なんだけど、もっと高い方が良かった。

だってどうせ死ぬならさ、確実に死にたいじゃん?

4階で(高さが)足りるかな?


なんて思ってたらーーー


「下に俺が居たって訳だ」


「そ。

てかあんた何とも無いの?

ケロッとし過ぎ」


死ぬ気で飛び降りたあたしを受け止めたのは地面じゃなくて、

あたしと同じ高校の男子だった。

どうナイスキャッチしたら、お互い無傷で居られるんだろ。


男子はカバンを持ってるし、いかにも今から学校行きまーすって感じ。

学ランがボロボロなのが凄く気になるけど。

顔は、ちょっと俺様っぽい。


「お前こそ何だよあの派手なパンツは。

あんなのブッ」


男子が言い終わる前に、あたしは平手をかました。


「ヘンタイ」


男子は痛がりもせず、笑ってさえいる。


なにこいつ、もしかしてマゾ?


「わりいわりい。

で、お前どうした?」


「どうしたって?」


男子はマンションを指差した。


「お前さっき飛び降りたろ。

足を滑らせたって感じじゃなかったよな。

もしかして、お前も不死身なのか?」


あたしは、自殺のつもりとは言い出せず、

男子の問いに黙っていた。

てか、お前も不死身ってなによ。

その言い方じゃ、まずあんたが不死身みたいじゃん。


「…言いにくいなら、無理に言わなくて良いぞ。

お前のその服、俺と同じ高校のだよな?

俺フジミヤ。

お前は?」


男子はフジミヤと名乗って、座ったままのあたしに手を差し出した。

さっき言ったフジミって、名前の事だったのかな。


「…ココア」


「ココア?珍しい名前だな。

なんて書くんだ?カタカナか?」


「うるさい」


名前の事なんて、これまでにも散々弄られたから、

今更どうって事無い。

ってのは嘘。


あたしはそれより、

フジミヤがさっきからずっと手を差し出したままなのが気になった。


「なに、この手」


「いや、足くじいて立てないのかと思って」


「立てるから…」


あたしは自力で立ち上がった。

口では突っぱねたけど、気遣って貰えたのは、

内心悪い気分じゃなかった。

体は無傷でも、ココロが弱ってるからかな?


「ケガしてなさそうで良かったぜ。

なあ、なんか辛い事でもあったんだろ?

俺で良けりゃ話聞くからさ、一緒に登校しようぜ」


フジミヤは親指で学校の有る方向を指している。

でも今のあたしは、学校なんて行く気分じゃなかった。

飛び降り自殺が失敗して頭は冷えたけどね。


「やだ」


「やだか。

じゃあお前、この後どうすんの?

また死ぬのか?」


この後どうするかなんて思い浮かばない。


「ほっといてよ…」


「ほっといたらお前、また飛び降りるかも知れないだろ。

教室に居辛いってんなら、具合悪いですーって医務室行っても良いじゃん。

なあ来いよ」


フジミヤはまたあたしに手を差し出した。

こういう時、ひとは中々素直になれないもの。

あたしはみたいなのは特にそうで、

ホントは誰かに話を聞いて欲しいのに、

うんともすんとも言わず突っ立っていた。


すると、フジミヤもその場を動かない。

あたし達はしばらくの間、ただ黙って見つめ合っていた。

何?この我慢比べは。


「ねえ」


「なんだ?」


「あんたいつまでここに居るつもり?

遅刻しちゃうわよ」


「遅刻は嫌だな」


「じゃああたしなんかほっといて行っちゃえば良いじゃん。

どうしてあたしに構うのよ」


フジミヤは右上を見て「うーん」とうなった後、


「遅刻は嫌だが、俺が遅刻しても欠席しても学校は無くならない。

だけどお前が死んだらどうなる?

お前は亡くなっちゃう。

替えは効かない。

だろ?」


「何それ。

あんたとあたしは初対面なのよ?

あんたの知らない女子なんていっぱい居るじゃん。

替え効くじゃん。

どうしてあたしに構うの?」


フジミヤは左手で頭を掻き、少し困った顔をした。


「話がループしてねえか?」


「うるさい」


なんだか悲しみがこみ上げてきて、

このままだと泣いちゃいそうだったから、

あたしはうつむき、両手をキュッと握った。


「うーん…」


フジミヤがあたしから離れた。

あたしがグズってばかりだから折れちゃったのかな。

そうだよね、結局あたしの事なんてどうでも良いよね。


今度はあたしの部屋じゃなくて、もっと高いとこから落ちてやる。

そうだ、屋上にしよう。


涙が結構ギリギリまで来ている。

呼吸の乱れも。

ああ、悲しいなあ。

悪いのはパパとママなのに、なんであたしがこんなに苦しんでるのかな。


やだなあ。


やだなあ。


恋人だった時みたいに、仲良くしてくれないかなぁ。

…なんて、頭の中をグルグルさせていたら、

フジミヤの声がした。


「あー、なんか今日学校さぼりてえな」


まだ居たんだ。


「なんでだろ、スッゲーさぼりたい!」


そんな大声で言う?


「どっか出かけよっかなぁ。

でもひとりじゃつまんねえよな。

どこかにスッゲーヒマなヤツ居ないかなぁ」


その声、スッゲーわざとらしいんだけど。


「どうせなら女子が良いなぁ。

俺、彼女居ないしなぁ。

どこかにヒマな女子居ないかなぁ」


そう言って、フジミヤがあたしの顔を下から覗き込んだ。

その時のフジミヤは何故か変顔で、

目玉をひん剥き、口をゆがませている。

その顔に不意打ちを食らったあたしは、

吹き出しそうなのをごまかす為にも、両手で顔を隠した。


「お、お前ヒマそうだな?

俺もヒマなんだ。

良かったらふたりでヒマ潰ししないか?」


フジミヤは劇を演じるみたいに、あたしの周囲を右へ左へ動き回った。


「な?」


こいつ、そこまであたしをほっときたくないの?


「な?」


「聞こえてるから…」


女に飢えてるって感じでも無いし。


「な?」


もう、なんなのよ!


「しつこい!」


「おっ?」


なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。


「よっぽどあたしに構いたいのね」


「お前、可愛くて胸も有るしな」


「あたしが不細工で貧乳だったら?」


「男子にも不細工でガリガリなヤツは居るぞ」


確かに。


こいつ、ウザいけどちょっと面白いかも。


「分かったわよ」


あたしはにじむ涙を腕で拭き、顔を上げた。


「あんたのヒマ潰しに付き合ってあげる」


「素直じゃねえなあ…ま、良いや。

どこ行く?」


ウザいけど、その分あたしも遠慮しなくて良さそうだ。


「一旦帰る。

制服でうろついたら目ぇ付けられるし」


「それもそうだな。

付いてっても良いか?」


あたしは逆に、フジミヤの手を掴んでやった。


「おっと」


「あれだけ言ったんだから当然でしょ。

行くわよ」


あたしはフジミヤを引っ張って歩き出す。

正直、独りでいるのは嫌いだ。

特に今は。


「グズッてた割に積極的だな。

お前って結構肉食系?

だからパンツの柄もブッ」


経験を活かせないフジミヤに、あたしはまたビンタをくれてやった。


「…次はグーで殴るから」


「じゃあ俺パー出すわ」


「ジャンケンじゃない!」


駄目だ、全然懲りてない。

もしかしたらこいつ、本当にマゾなのかも。

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