オー、イッツァクレイジーbyフジミヤ
隠し持ってた包丁でクマ子を刺しただけでも今のヨシトモはイかれてるのに、
最愛のクマ子を亡くして茫然自失になっているシゲゾウに、
ヨシトモは自ら包丁を投げ渡し、それを使って自分を殺す様にとシゲゾウを挑発しやがる。
俺は無理矢理にでも止めたいが、今は不死身じゃないから無理は出来ない上、
ウララの体を借りてるヨリコにしがみ付かれて動きづらい。
最悪ヨリコ……ウララをも巻き込みかねないしな。
いよいよシゲゾウが殺意を剥き出しにした時、ヨリコがウララの声で投げかけた。
隠し持ってた包丁でクマ子を刺しただけでも今のヨシトモはイかれてるのに、
最愛のクマ子を亡くして茫然自失になっているシゲゾウに、
ヨシトモは自ら包丁を投げ渡し、それを使って自分を殺す様にとシゲゾウを挑発しやがる。
俺は無理矢理にでも止めたいが、今は不死身じゃないから無理は出来ない上、
ウララの体を借りてるヨリコにしがみ付かれて動きづらい。
最悪ヨリコ……ウララをも巻き込みかねないしな。
いよいよシゲゾウが殺意を剥き出しにした時、ヨリコがウララの声で投げかけた。
「タイムリープ出来ないよ?」
その瞬間、ヨシトモは自身に迫る正面のシゲゾウを無視して俺とヨリコの方を向いた。
恐ろしい程に目を見開き、
株かなんかで有り金全部溶かしたかの様な絶望感を醸している。
そして、そのままシゲゾウに首を斬り付けられた。
「ヨシトモっ!」
血がドパッと吹き出す。
ヨシトモは力を失い、グルリと半回転して仰向けに倒れる。
シゲゾウは斬り付けた直後、手にしている包丁をその場に落とし、
踵を返してクマ子の亡骸へと歩き始めた。
「救急車だ!」
俺が殴った時にヨシトモが落としたスマホが有る。
それを使って119番をするんだ!
「ナリツグ、どこ行くの?」
ヨリコは相も変わらず、俺を抱き締めて離そうとはしない。
さっさと振り払ってればシゲゾウを止められたかもだが、
ウララの体を乱暴に扱いたくないし、
それに何だか今は……何故だかこいつに手を上げられない。
俺の最も愛した女、ヨリコが中身だからか?
「るせぇっ!
大ケガしたら救急車だろ!」
「この大火事じゃ無理だよ。
こんな危ない所に来てくれっこないよ」
そりゃそうだが。
「やってみなくちゃ分かんねえだろ!」
「それよりナリツグ、死んで?」
ヨリコの発言が余りにも意味不明過ぎて、俺は硬直した。
俺達はカップルだった筈だし、
それにヨリコは俺に会いたいからこそウララの体を借りてまでここに来たんだろ。
それがどうして死を要求してんだよ。
「さっき言ったでしょ?良い事思い付いたって。
私、他人の超能力を操作出来るの。
この体だと何だか調子が良くって、試してみたら成功しちゃった!」
なんとなく察したけどよ。
「……何が成功しちゃった?」
ヨリコはパアッと明るい満面の笑みを浮かべた。
ウララの顔でそれをやると、中々のキャラ崩壊になるな。
何故だか普段ウララが隠してる右目も、今はフルオープンだし。
「ヨシトモのタイムリープを、ナリツグにシフトしちゃった!」
「それって、だから……」
その発言の真意を理解した時、俺はゾオッと寒気を感じた。
周りは火の海だってのにな。
相手が幽霊だってのも影響してるか。
「お前、間接的にヨシトモを殺したな?」
しかも、それをさも楽しげに俺に言う。
まるで獲物を飼い主に自慢する飼い犬みたいだ。
善悪に縛られていないので、ある種非常にタチが悪いと感じる。
「えっ?
ヨシトモは殺されたがってたし、
殺したのはあの大男だよ?」
大男と聞き、俺はシゲゾウの様子が気になってそちらの様子を伺った。
そこにはシゲゾウとクマ子の姿が無く、ならどこだと視線を上げてみた所、
大きな炎の塊の中に消えて行く、シゲゾウの広い背中が在った。
「シゲゾウ!?」
俺の叫びは何ら影響を与えられず、そのままシゲゾウは炎の中に消えた。
……心中か。
「くそっ!何だよこの超展開!」
俺は夜空に怒りを飛ばした。
俺達がこの大公園に着いた時にはまだ夕暮れだったが、
今は暗く染まっていて、星々があちこちで瞬いている。
楽しみにしてた仕掛けとやらは、いつの間にか終わっちまってたみたいだ。
噴水が上がってたような気はするが。
「……あれ?」
体が自由だ。
ずっと纏わり付いてきてたヨリコが今、俺から離れている。
何の為?
「ナリツグ、やっぱり自殺は難しいよね?
だから私が殺してあげる」
ヨシトモの近くから声がした。
見ると、シゲゾウがヨシトモを切った後その場に捨てた包丁を、
ヨリコが腰を折って拾い上げようとしている。
「ヨリコ……やめろ」
「私、ちょっと前まで後悔してたの。
ナリツグに会いた過ぎて、ナリツグの不死身を解いちゃった事。
でもヨシトモがタイムリープを使えて、
それにこの体と私の相性が良かったお陰で、
ナリツグをもっともっと幸せにしてあげられる」
包丁を構えたヨリコが俺に一歩近付く度に、俺も一歩後退した。
俺は痛みを感じない。
だが今は不死身じゃない。
正直死ぬのは怖い……と言うか嫌だ。
「どうして私から逃げるの?
今私がナリツグを殺せば、あの時にタイムリープ出来るんだよ?」
あの時あの場所に私が設定したの。
ホントだよ?」
やっぱりそれが狙いか。
生きた人間の肉体を借りてはいても本質は幽霊。
ヨリコは成仏出来ず、あの瞬間に魂を縛られているんだ。
「ヨリコ。
俺はまだ生きてる。
けどな、お前はもう死んでるんだ」
「うん」
「うんって……」
「続きは?
昔の私も勿論だけど、今の私だってナリツグともっとお話ししたい」
「そうか、そうだよな。
じゃあその包丁を一旦下ろしてくれ」
ヨリコは首を大袈裟に傾げた。
ウララの肉体なだけに、長い黒髪が頭につられてバサっと揺れる。
「どうして?
お話ししながら刺せば良いじゃない」
「オー、イッツァクレイジー……」
こんな時にエセ英語が出てくる俺もだが、ヨリコも大概おかしい。
俺は生まれ付き無痛症なせいで、常人離れした思考の持ち主だと自負している。
だがこのヨリコはと言うと、幽霊になるまでは割と普通の女の子だったぞ。
流石は幽霊……だな。
『パァン』と3度目の銃声が上がった。
すまん、今それどころじゃないんだわ。
そっちでなんとかしてくれ。
「不死身じゃないけど痛くは無いでしよ?
なら平気だよ、ね?」
「ね?じゃねえよ……」
あー、なんか疲れた。
どうすりゃ良いんだよこの状況をよ。
そういやココア達はどうなったんだ。
まだ生きてんのか?
「ウララっ!」
「きゃ!」
おお、良い所に助け舟が。
ヨリコに金的されて悶絶してたアツシがいつの間にやら復活していて、
またしてもウララ姿のヨリコに縋り付いた。
また金的食らわないようにねと心配せずにはいられない。
「ウララ!俺はどうすれば良いんだウララ!ウララウララ!ウララぁ!」
「邪魔しないで!
私はナリツグを殺すの!
殺してあげなくちゃいけないの!」
ヨリコはアツシを振りほどこうと足をバタつかせつつ、
両手で握る包丁はしっかりと俺に向けられている。
殺して『あげなくちゃ』って、それヤンデレでも言うかどうかの台詞だろ。
「ナリツグを……フジミヤを殺す?」
「そうよ!」
アツシが俺をギロッと睨んだ。
なんか瞳孔がヤバい感じに開いてるな。
……おい、これヤバくないか?
「ウララがそうするなら俺も従おう!
協力してフジミヤを殺そう!」
アツシはヨリコから離れ、胸のペンダントを外して十字架を手に取り、
仕込みナイフを展開した。
「うっそぉ!?」
「手伝ってくれるの?
嬉しい」
「ウララが嬉しいなら俺も嬉しい」
ヨリコがニッコリヤンデレスマイルをアツシに向けると、
なんとアツシもニッコリと笑い返した。
精神崩壊キャラ崩壊、もうついて行けないよ。
クマ子と共に逝ったシゲゾウ、決して褒められた行動ではないがその潔さだけは評価する。
俺はと言うと、もう何がなんやら。
発砲事件も大火災も、クマ子やヨシトモやシゲゾウの死も、
そして己の生死さえも手詰まりになっちまった。
だが、死ぬとしても無意味に死ぬのはゴメンだな。
「ウララの為に……死ねぇっ!
まず、アツシが先陣を切ってこっちに走って来る。
アツシはヨリコにそそのかされてこそいるが、
精神崩壊してるのは自身が過去に負ったトラウマのせいだ。
俺の責任じゃないから、この前みたいに迎撃されても恨むなよ。
俺は大振りな中段回し蹴りで迎え撃った。
アツシは瞬間移動し、俺の足は空を切るが……。
「ぐっ!」
命中。
アツシは腕でガードし、怯んでいる。
精神崩壊で理性は鈍ってるだろうし、背後に瞬間移動して来るのは読んでた。
だからこそワザと大袈裟な蹴りを繰り出し、
その有り余る勢いで軸足を中心に回転、後方をもカバーしたのだ。
むしろこっちが本命ね。
「うらぁ!」
アツシが怯んでる隙を逃さず、
俺は奴の握っている十字架……仕込みナイフを狙って殴りかかった。
瞬間移動が使えても、アレさえ奪えればなんとかなる。
とか考えてたら、アツシは自分から十字架を俺へ投げつけてきた。
「なっ!?」
あの仕込みナイフは刃が小さく脅威度は低いのだが、
それが顔面目掛けて飛んできたとなれば話は別。
眼がやられると視界が封じられるので大いに困る。
止むを得ず右腕でガード。
『ガバッ』
今度は俺が隙を突かれ、アツシに抱き付かれた。
これダメな奴じゃん。
「くそ!」
「今だウララ!」
2人に敵う訳無いよなぁ。
これで銃も家火事もココアとのケンカ別れも、
どれ一つとして解決に導けないままヨリコに刺されて強制タイムリープか。
俺はいよいよ諦めの境地に入り、静かに目を閉じた。
「ウララ!」
「……ん?」
刺されないな。
これ見よがしに包丁で俺の背中を刺しながら、
一方的に楽しくお話ししてくるものとばかり思ってたんだが。
アツシはトドメをヨリコに任せるつもりなのか、仕込みナイフを拾ったりはせず、
ただ抱き付いて動きを封じる事のみに徹している。
俺は左目だけを薄く開け、ヨリコの居るであろう背後を確認した。
「う……うあああっ!」
ヨリコは両手で黒髪の頭を抱えてよろめき、何やら悲鳴を上げている。
彼女の足元には小振りの包丁。
とりあえず俺は助かったらしい。
だが、今度はヨリコの様子が変だ。
一難去ってまた一難……じゃないと良いんだが。
「ウララ……邪魔しないで、ウララぁっ!」
一時的に他人の肉体を借りているヨリコが、元の持ち主であるウララの名を叫ぶ。
幽霊とかスピリチュアルなんてからっきしな俺は、ただ黙って見ている他無かった。