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こういうのはどうかな?byヨシトモ

 ハツカくんの超能力が暴走し、この大公園のみならず町全体が炎に包まれた。

 この世の地獄とも言える光景を見て、僕は全てを思い出す。

 今更どうにもならないけど、

同じ茂みに隠れていたクマ子さんに腹いせで包丁をひと突きしておいた。

 せめてもの慈悲で急所は外してある。

 ほらクマ子さん、シゲゾウくんが来てくれたよ。

 お別れの挨拶を済ませなよ。

 そしてシゲゾウくん、キミには一仕事してもらう。

「クマ子ぉっ!」


 予想通り、フジミヤくん達と僕の間にシゲゾウくんが現れた。

 銃声がしてもフジミヤくんが動かなかったから、彼も様子を見ていたんだろうね。

 アツシくんからコピーした瞬間移動で、この火の海を掻い潜って来たのかい?


「……ほらね?」


 僕は少しだけ微笑みを作った。

 自分で言うのもなんだけど、命を感じさせない枯れた感じの顔。

 まるで自分の死期を悟っているように見えるんだろうな。

 ……その通りさ。


「フジミヤ!クマ子は!?」


 シゲゾウくんは血相を変え、フジミヤくんの両肩に掴みかかった。

 フジミヤくんの背中にはヨリコちゃんが抱き付いているけど、

今のシゲゾウくんはそんな事眼中にもないみたいだ。


「落ち着け!」


「クマ子はどこだ!?」


「ちょっとデカ眼鏡、 今のナリツグに乱暴しないで!」


 ヨリコちゃんがフジミヤくんの背中から離れ、シゲゾウくんの腕を引き剥がそうとする。

 相手は大男なのに、それは無謀だよ。


 あ、そう言えば噴水が上がっている。

 午後6時になったんだ。

 最新技術を使って星やハートなどの図形を宙に描く水のアートだ。

 この程度で超能力による大火災は鎮火しないし、

そもそもみんなそれどころじゃないけどね。


「うるさい!」


「きゃっ!」


 案の定、シゲゾウくんはヨリコちゃんをいとも容易く振り払ってしまった。

 ヨリコちゃんは地面に尻餅をつき、悲鳴を上げる。


「ウララっ!」


 アツシくんだ。

 ヨリコちゃんが悲鳴をあげた直後、彼女のすぐ近くにアツシくんが瞬間移動して来た。

 座っている状態のヨリコちゃんに合わせ、アツシくんも膝をついている。


「ウララ!どうした!?」


 中身はヨリコちゃんだけれど、肉体や声色はウララさんの物。

 その区別が、大火災でトラウマに苛まれている今のアツシくんには付かないみたいだね。


「私はヨリコだよ」


「ウララ!俺は逃げたい!だが俺の瞬間移動は自分だけにしか働かないんだ!

 俺はどうすれば良い!?どうすれば良いんだウララ!」


「だから私はヨリコだってば。

 ホントだよ?」


 クマ子さんに超能力を無効化されている筈のアツシくんが瞬間移動したのであれば、

それはつまり無効化の無効、終了を意味する。

 クマ子さんおやすみ……案外早かったね。

 小柄で血の量が少ないせいかな?


 さて、一応カイリくんを動かしておこうかな。

 僕は右手に包丁を持ったまま、左手でスマートフォンを取り出して電源を入れた。

 元々騒がしいのは嫌いで、重要な局面では特にそうだから切ってあったけど、

これは少しやり過ぎだったかもね。


「お前、瞬間移動を……?」


 シゲゾウくんはフジミヤくんの肩を掴んだまま、顔をアツシくん達の方に向けている。


「シゲゾウ、落ち着け。

 な?」


 フジミヤくんが宥めるように言うと、シゲゾウくんはフジミヤくんと向かい合った。


「無理を言うな。

 クマ子はどこに居る?

 それにフジミヤ、何故銃声を聞いて飛び出さなかった?」


「俺、今不死身じゃねえんだ」


「クマ子にも無効にされなかったのにか?」


「色々有ってな……」


「それよりクマ子は「ああもしもし!?」


 カイリくんとの電話が繋がり、僕はワザと大きな声で通話を始めた。


「ヨシトモ、こんな時に誰と話してんだよ……」


『ヨシトモか、町で大火事起きてんぞ!

 俺様は病院の屋上に居るからひとまず平気だが、お前らは!?』


「うん!知ってるよ!

 僕達は大公園に居る!」


『こんな時に俺様は見てるだけなんてな、悔しいぜ』


「いや!カイリくんの超能力は復活している!」


『何ぃ!?』


「試しに床でも蹴ってみて!」


 僕は轟音に備えてスマートフォンを耳から遠ざける。

 直後、スマートフォンからゴォンと響く音がした。


『マジだな』


「カイリくんにお願いがあるんだ!

 馬鹿力を取り戻した今のキミなら、この大火事を止められる!」


『どうすりゃ良いんだ?言ってみろ!』


 僕はおおよそ、ハツカくんがいるであろう方向を見た。

 炎に阻まれて直接は見えないけどあの辺だ。

 ハツカくんの周囲数メートルは燃えていない筈。

 暴走しているからと言っても自分を燃やしはしないし、

それにココアさんが一緒だからね。


「大公園の中に燃えていない円形の場所が見える筈だ!

 そこにこの大火事を起こしている超能力者が居るから、

 キミの馬鹿力で物を投げつけて彼を殺して欲しい!」


「ヨシトモ!」


「フジミヤ、クマ子は……」


 フジミヤくんが怒鳴っている。

 分かるよ、誰かを殺して自分達や他の人達が助かる……そんなの後味が悪いよね。

 でもそれは、僕が既に経験している感情なんだよ。

 キミが最も愛した人……ヨリコちゃんを身代わりに僕は生存した。

 何事にも犠牲は付き物さ。


 所で、シゲゾウくんの質問を無視しているのは何だい?

 アツシくんの超能力が復活したとくれば、もう分かっている癖に。

 いつまでもは隠しておけないよ?


『……それしかねえのかよ!?』


 僕は横目でアツシくんを見た。

 瞬間移動こそ復活したものの、

彼はトラウマで精神をやられきっているから駒にならない。


 次にシゲゾウくんを見る。

 彼は問題なく瞬間移動を使えているね。

 ただ、今こそ僕の通話やフジミヤくんに気を取られているけれど、

火事を止めるより先にまずクマ子さんの安否を確認するだろう。

 確認したならば、彼もアツシくん同様駒にならなくなってしまう。


 フジミヤくんはただの無痛症。

 ヨリコちゃんはただのわがまま幽霊。

 僕は……最終手段だ。


「早くして!

 でないともっと沢山の人達が焼け死んでしまう!」


「ヨシトモぉっ!」


『バキッ』


 フジミヤくんが僕の左頬を殴った。

 無痛症なだけあって遠慮がない、全身全霊の良いパンチだね。

 歯医者の治療よりもずっと痛いや。

 僕は無言で横向きに倒れた。

 スマートフォンが僕の手を離れて吹き飛んだけど、要件は伝えたからこれで良い。


「てめぇ、何故クマ子を殺した!?」


「遂にバラしてしまったね、フジミヤくん。

 シゲゾウくんを気遣って誤魔化すつもりじゃあなかったの?」


「クマ子が……クマ子!?」


 僕に襲いかかってくるかと思ったけど、シゲゾウくんは右に左に首を振り、

あっちこっちに瞬間移動をしてはクマ子さんを探している。

 灯台下暗し、実はすぐそこの茂みの中なんだけどね。


「ヨシトモ、自分で教えてやれよ……シゲゾウによ」


 フジミヤくんは僕を殴った右腕を怒りに震わせている。

 僕も歯が2、3本折れたけど、

 全力パンチはフジミヤくん自身にもダメージを与えたようで、

右拳から血が垂れている。


「ナリツグ!ケガしちゃったの!?」


 ヨリコちゃんがフジミヤくんへ手を伸ばす。

 アツシくんには抱き付かれているせいで、駆け寄る事は出来ないみたいだ。


「待ってくれウララ!俺を置いて行かないでくれ!」


「離してよ、どこ触ってるの?エッチ!」


「シゲゾウくん!」


 瞬間移動であちこちをうろついていたシゲゾウくんが、僕の前でピタリと止まった。

 顔全体から大粒の汗をダラダラと垂らし、愕然と引きつった恐怖の表情をしている。


「クマ子……クマ子は……」


 僕はゆっくりと起き上がり、中でクマ子さんを刺した茂みを右手の包丁で指し示す。


「あそこだよ、シゲゾウくん」


 僕が言い終わるより先に、

シゲゾウくんはガサガサと木の葉を散らして茂みに飛び込んだ。


「ヨシトモ……どうしちまったんだよ」


『ボォンッ』


 大きな物音だけれど銃声じゃない。

 僕が指示した通りに、カイリくんがこの大公園に何かを投げてきたんだろう。

 正直に言って当たるとは思えないし、気休めにしかならないけど。


「フジミヤくん。

 キミにひとつアドバイスをあげよう。

 キミは超能力者ではないし、今後超能力者になれる可能性もゼロだ」


「ゼロ?」


 また僕を殴ってくるかと思ったのに、意外と大人しいじゃないか。

 不死身で無くなっているから色々と弱気なのかな?

 そう言えばシゲゾウくんもやけに静かだね。


「僕は超能力者について調べた。

 そしてひとつの結論に至ったんだ。

 超能力者はこの町の、同年代の少年少女達にだけ開花している。

 同年代なだけじゃダメ。

 この町に住んでいるだけでもダメ。

 両方が必要なんだ」


「ヨリコはどうなんだ?」


 ヨリコちゃんはやや離れた所でアツシくんに絡まれていて、

僕達に干渉する暇が無いみたい。


「良い質問だね。

 ヨリコちゃんは出生前後の期間をこの町で過ごしている。

 その間に彼女は超能力者としての因子を得たみたいだよ。

 因みに『パァン』……因みに仮説だけど、超能力者が同年代なのは期間限定の乳児ワクチンの影響。

 この町生まれなのは、ワクチンと近い時期にこの町へ落ちた隕石の影響。

 僕はそう睨んでいる」


途中で銃声が鳴ったけど、僕は構わずに長々と言い切った。

フジミヤくんも、あっちの事はもうあまり気にしていないみたいだね。


「随分とお喋りだな、ヨシトモ」


 フジミヤくんが気だるそうな半目で僕を見てくる。

 僕はニヤリと微笑んで返した。


「意外だったかい?

 今、喋っていないと頭が割れそうなんだよ」


『ガサガサ』


「うん?」


 茂みの音に僕達が注目すると、そこからシゲゾウくんが出てきた。

 彼はクマ子さんの死体を大事そうに抱えている。


「シゲゾウ……」


 さて、カイリくんも最初の1発以降音沙汰が無いみたいだし、

後は僕がタイムリープを発動させて『今回は』終わりか。


「シゲゾウくん!」


 僕が叫んでもシゲゾウくんは無視して、僕達に背を向け何処かへトボトボと歩いて行く。


「僕がクマ子さんを殺した!」


 クマ子さんの名を出した途端、シゲゾウくんはピタリと止まった。


「僕がクマ子さんを刺したんだ!この包丁でね!」


 僕は右手の包丁を高く掲げる。

 あちこちで燃え上がっている炎が包丁を照らし、銀を紅く染めている。

 クマ子さんを刺した時に付いた血は、もう殆ど落ちていた。


 シゲゾウくんは膝を折ってその場にしゃがみ、静かにクマ子さんを下ろした。

 そして立ち上がり、向きを180度変えて僕と対面する。

 最愛の人を殺した憎っくき相手なのに、彼がかけている丸眼鏡の奥の瞳は意外と普通。

 さっきの顔面蒼白振りは何処へやら、真顔で僕をジッと見つめている。


「それ、でか?」


「そうだよ。

 キミよりは正義感が強く、

 瞬間移動の扱いに長けているアツシくんだけでも無効になっていなければ、

 拳銃に立ち向かい、この大火災を未然に止められたかも知れなかったんだ。

 これはその報いさ」


「ワガママなクマ子の事、いつか何らかの恨みを買うとは想定していた。

 だがよりによって包丁……刃物でとは」


「うん?」


「過去、クマ子が超能力者に襲われた時も包丁だった。

 以後クマ子は刃物全般に恐怖するようになった」


「俺がアツシに頬を切らせる時、怯えて逃げ出してたのはそれか……」


 これまでは割とすぐ刺されてオシマイだったのに、ここまで来て僕の知らない話題か。

 クマ子さんを上手く使えれば、あるいは何とかなるかも知れないね。

 最もこの記憶は『次』に持ち越せないから、知る意味は薄いのだけれど。


「そうなんだ、お気の毒に。

 それじゃあシゲゾウくん、こういうのはどうかな?」


 僕は右手の包丁をボウリングよろしく、シゲゾウくんに向けてアンダースローした。


「ヨシトモ!?」


 僕がシゲゾウくんをも殺そうとしていると勘違いしたのか、フジミヤくんが叫ぶ。

 幸い、僕が投げた包丁はシゲゾウくんの足元に良い感じで落ちた。


「僕がクマ子さんを刺したその包丁を使って、

 次はキミが僕を刺し殺し、クマ子さんの敵討ちをするんだ。

 どうかなシゲゾウくん?」


「ヨシトモっ!」


 フジミヤくんが僕の服を掴んだ。

 そのフジミヤくんを、更にヨリコちゃんが抱き締める。


「ナーリーツーグー!

 私を無視しないでよ!」


「ヨリコ?」


 ヨリコちゃんはアツシくんに絡まれていた筈、と振り向いてみたら、

アツシくんは股間を両手で押さえ、地面をバタバタとのたうち回っている。

 とってもシリアスな場面なのに、金的を狙うなんて。

 ヨリコちゃん、フジミヤくん以外の男には容赦無いんだね。


「ナリツグ聞いて!私良い事思い付いたの!」


「そんなの後にしろ!」


 纏わり付いてくるヨリコちゃんにフジミヤくんは抵抗こそしているけれど、

相手は最愛の人だし、それに肉体はウララさんの物だから躊躇しているみたい。

 ココアさんの縁結びも働いているのかな?

 最も、彼女がまだ向こうで生きていればの話だけどね。


「クマ子の、敵討ち……」


 シゲゾウくんがボソボソ呟いた。

 僕は再度彼と向かい合う。

 大男だから、ただでさえ小さい包丁が彼の手に有るとより小さく見える。


「やっとその気になったんだね、シゲゾウくん。

 心臓は肋骨に阻まれて刺し辛いだろうから、喉笛を横一文字に切り裂くのもお勧めだよ。

 どうする?」


「喉笛……首……」


 シゲゾウくんが一歩、僕に近付いた。


「首を切るんだね?」


「ヨシトモ!」


「クマ子……クマ子……」


 シゲゾウくんがまた一歩。

 ここまで来て中断はしないだろうけど、最期のひと押しをしてあげよう。


「シゲゾウくん、キミがクマ子さんを引っ張ってでもここに連れて来さえしなければ、

 僕が彼女を刺す事も無かったろうに。

 甘やかすだけじゃダメなんだよ。

 馬鹿なベットの世話は楽しかったかい?

 次はちゃんとしつけてあげなよ?

 良いペット葬の会社を知っているから、紹介してあげようか?」


「クマ子を侮辱するな」


「侮辱じゃない。

 正当な評価だね。

 キミだって見下していたんだろう?

 馬鹿だって」


「がああああっ!」


 咆哮。

 シゲゾウくんが包丁を大きく振りかぶり、僕に突撃してくる。

 中々の大迫力だ。

 怖い。

 これなら間違いなく「タイムリープ出来ないよ?」


 え?

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