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マジかbyフジミヤ

ヨシトモの危険予知に従って、俺達は大公園の中心付近に陣取った。

 何故だか知らないが、ココアはナンパ空き巣男であるハツカを連れている。

 シゲゾウも配置に着き、能天気なクマ子を除いて俺達が緊張を増す中、

デートでもしてたのか、偶然にもウララとアツシのカップルが俺達と鉢合わせ。

 しかしウララの様子が変だ。

 アツシいわく、ウララにはヨリコの霊が憑いていると言う。

 まさかだろ……?


「……ヨリコ?」


「そうだよナリツグ。

私、ヨリコだよ」


 ナリツグ(成次)ってのは正真正銘俺の名前。

 ガキの頃、特に遠足の交通機関なんかで乗り継ぐ乗り継ぐって馬鹿にされまくって以降、

自分からは極力この名を明かさず、苗字のフジミヤで通している。


 実際、ここに居るメンツだって知らない筈。

 俺に抱き付いてるこのウララも例外ではない。

 いや、ウララじゃないのか?


「アツシよ、どう言うこった?」


「質問したいのは俺の方だ。

お前はヨリコを知っているのか?」


「知ってるも何も、ヨリコは俺の……「恋人だよね?」


 ウララが俺の顔を見てくる。

 普段のウララは右眼を黒髪で隠していたが、今は両眼を出している。


「私死んじゃったけど、今も恋人だよね?」


「えっと……」


 どうしたもんか。

 肉体はウララだけど、中身はヨリコなのか?

 ココアとの口喧嘩て『取り憑かれてる』なんて言われたのを思い出す。

 だが俺自身じゃなく、他人を介して現れたってのか。


「ナリツグ、キスしよ?」


「ちょっ!?」


 まだ現状を把握し切れていないのに、

ウララの体を借りているらしいヨリコが口付けを迫って来る。

 無理矢理にでも突き放そうかと思った瞬間、

俺とヨリコとの間にアツシが腕をねじ込み、強引に割って入った。


「そこまでだ。

ヨリコ、その肉体はウララの物なんだぞ。

勝手な真似はよせ」


「でも、私がナリツグにキスしようとして、その時に……」


「堂々とノロケ話をするのはやめてくれ、ヨリコ」


「でもホントの事だよ?」


「だからってお前……あ、ヨシトモ。

ココア達の様子はどうだ?」


 困り果てた俺は、話題を少しでも逸らそうとヨシトモに声を投げかけた。

 そもそもあっちこそが俺達のこなすべき使命だし。


「特に変わりはないよ、フジミヤくん。

ココアさん達は僕が見ておくから、キミはそっちに集中してくれて構わないよ」


「ああ……ありがとなヨシトモ」


 ある意味有難いが、ある意味冷たい奴だなヨシトモ。

 さて、アツシに軽く取り押さえられてるあのウララだが、

中身がヨリコだってのは一応俺の中で確定した。

 さっき言いかけてたキスの話は、俺とヨリコだけが知っている情報だからな。

 問題はその背景だ。


「離してよお兄さん!

何で私の邪魔をするの!?」


 いつの間にかアツシに両方の手首を握られているヨリコ。

体をくねらせて、ささやかながら拘束を解こうと抵抗している。


「逆に考えてみろ。

フジミヤが他の女とキスしていたらヨリコは嫌だろう。

それと同じだ」


「でも……」


 不意に、クマ子が後ろから俺の首にドスッと抱きついて来た。


「キスならぁ、クマ子ともうしちゃったけどねぇ?」


「げっ、お前!」


 俺は一旦クマ子を睨んだが、すぐにヨリコへと目を移した。

 暴れていたヨリコがピタリと動きを止め、丸い目と半開きの口を俺に向けている。

 まずい。


「ナリツグ、その子誰?」


「ああっ、こいつか!?こいつはただのチビだからなぁーんにも気にしなくて良いぞ」


「ええぇー?フジミヤ嘘つくんだぁー?」


「クマ子ちょっと黙ってろ!」


 俺はクマ子を引っ張って正面に抱きかかえ、口を手で塞いだ。

 ただでさえややこしくなってる所を、更に掻き回したりしないでくれよ。


「んぐんぐ……」


「ナリツグ、その子としちゃったの?どこまで?」


「何もしてない!してないから!」


 嘘っちゃ嘘だけど、その実俺は殆ど被害者なんだよね。

 初対面のキスだってそうだし、家に泊めてやったら夜這いかけられたしさ。


「なあアツシ!ウララがヨリコだってのは分かった!

それは分かったんだが、ヨリコはどんな経緯でウララに乗り移ったんだ?」


 現在、奇遇にも俺はクマ子を取り押さえ、アツシはヨリコを取り押さえている。

 路地裏で揉めた時は相容れない奴だとばかり思ってたが、変なとこで同調しちまってんな。


「カイリの親友である植物人間のオサムに、ヨリコが取り憑いていた。

ヨリコもオサムも超能力者であり、

ヨリコはオサムに憑依してその超能力を操作する事でフジミヤ、

お前を不死身にしていたそうだ」


「訳分かんねえんだが……」


「ならばこの場における重要な点だけ挙げよう。

まずフジミヤ、今お前は不死身ではなくなっている」


「……冗談だろ?」


 俺が肉壁になれなくなったら、この後の発砲事件をどうすりゃ良いんだよ。

 冗談であって欲しいんだが、残念な事にアツシはそんなキャラじゃない。

 これがクマ子とかなら笑い飛ばせるんだけどな。


「俺の十字架で試してみるか?」


 アツシはヨリコから右手だけを離し、十字架付きのネックレスを代わりに持った。


「何する気だよ」


「この十字架が仕込みナイフになっているのはフジミヤも知っていよう。

これで少しだけ切り傷を付ければすぐに分かる。

お前が不死身なら傷は残らない」


「確かにそうだけど……」


「怖いのか?」


「そりゃあな。

あーでも、ホントに不死身じゃなくなってたらいざって時に困るか?

なあヨシトモ」


 混乱してるせいかつい振っちまった。

 ヨシトモでも誰でも良いから、この状況を何とかして欲しい。

 神頼みとまでは言わないが。


「もしもフジミヤくんが不死身じゃなくなっていたら、

僕の計画は白紙同然になってしまうね。

クマ子さんとシゲゾウくんには元々ココアさん達を助ける義理なんか無いし、

その時には……僕も撤退を考えておくよ」


「げえっ」


「ヨシトモ、その計画とやらは一体何の事だ?

それに今更だが、何故その女を連れている?

俺達の敵だろう」


「むぐぐ……」


「敵だったが、今は一応俺達の味方してくれてるぜ。

そうだよなぁー、クマ子」


「んぐんぐ」


 良かった。

 クマ子は俺に同調し、縦に頷いてくれた。


「てな訳だ。

アツシもやられたんだろうけど、少しだけでも許してやってくれないか?」


「その話は良い。

その女については理解したが、大男の方はどうなんだ?」


 あら、意外とあっさり流すのな。

 アツシのキャラにしてはちょっと意外だ。


「シゲゾウもクマ子と同じく俺達の味方。

クマ子よりは乗り気じゃないが、別の場所で待機してる」


「待機だと?」


「ヨシトモ、これ話して良いのか?」


「良いよ」


 正直な所、こう言う解説じみたものはヨシトモに投げてしまいたい。


「アツシ、ヨシトモが危険予知出来るのは知ってるよな?

今回は発砲事件の予知夢を見たらしくて、それにはココアも関わってる。

俺達はその事件を防ぐ為に来たんだ。

シゲゾウが待機してるってのもそれさ」


「発砲事件か。

随分と物騒だな」


「ナリツグ。

そんな危ない事してないで、私と遊ぼうよ」


「危ないのは百も承知だけど、ココアその他の人命がかかってるんだよ」


「でもナリツグはもう不死身じゃないよ?」


 う。

 なるべく考えないようにしてたが、断言されると来るものが有るな。

 ものすごーく気が進まないが、ハッキリさせるしかなさそうだ。


「……アツシ、俺がまだ不死身かどうか試してくれ」


「良いだろう。

どこを切る?」


 アツシはカチャッと音を立てて、右手の十字架から仕込みナイフを展開した。

 俺に近付いて来るが、ヨリコがアツシの左腕を引っ張って引き留める。


「そんな事しなくてももう不死身じゃないから。

ナリツグにケガさせないでよ」


「だそうだが」


「ヨリコには悪いが確かめておきたい。

アツシ、左のほっぺたを切ってくれ」


「もう!ナリツグの分からず屋!」


 ヨリコは納得していない様子で、アツシから手を離さない。

 そんなヨリコをアツシは引きずりつつ、更に俺へと迫った。


「んー!んー!」


 いよいよアツシが仕込みナイフを突き出した時、

大人しくしていた筈のクマ子が突然暴れ出した。

 もう懲りただろうし、良い加減離してやるか。


「おわっ!」


 俺から解放された途端、クマ子は走り出した。

 そのまま5、6歩程度走った後、頭を抱えて小さく丸まりしゃがみこんでしまう。


「シゲちゃん、助けてシゲちゃん……」


「何だよクマ子、どうした?」


「シゲちゃんシゲちゃん、シゲちゃん助けてぇ……」


「終わったぞ」


 俺がクマ子に気を取られていると、不意にアツシの声がした。


「終わったって、あ……」


 俺は自分の左頬を指で拭った。

 その指を眼前に持ってくると、指先には生命を感じる鮮やかな赤い血が。

 無痛症だから言われるまで気付かなかったよ。


「さて、どうなるだろうな。

結果がどちらであれ、俺とヨリコはここから退散させて貰う。

不死身でなければ発砲事件などに関わるのを避け、

ここから退却する事を勧める」


 アツシは十字架付きのネックレスを首にかけ直しながら、淡々と俺に告げた。

 その忠告は俺だけじゃなく、ヨシトモやクマ子にも向けられているのだろう。


「でもココアが……」


「不死身無しでどうやって守るつもりだ?」


「まだ決まった訳じゃないだろう!」


「なら、もう一度触って確かめてみるんだな」


「ぐ……」


 俺は無能に成り下がるかも知れない悔しさに歯を食いしばり、

再度ゆっくりと左頬を触る。

 指には……血が付いていた。


「マジか……」


「フジミヤくん、誰か来たよ!」


「何っ!?」


 ヨシトモが控えめに叫び、俺は自分の目で確かめようとヨシトモの方へ一歩踏み出した。

 しかし後ろ手を誰かに掴まれる。


「分かったでしょナリツグ。

もう不死身じゃないって。

こんな所に居ないでさ、帰ろ?」


「ヨリコ……!」


 俺の手を掴んだのはヨリコだった。

 アツシはヨリコから離れてこそいないものの、何を思ってかヨリコを自由にさせている。

 ヨリコは自由になった両手を使い、俺の左手を包み込む。

 顔形はウララだが、中身はヨリコなんだ。


「フジミヤ、早く決断しろ。

お前がここに残るつもりならお前の勝手だが、俺はヨリコを引きずってでも連れて行く。

ウララの体だからな」


「そんな!

ナリツグも連れて行ってよ!」


「怖いよぉ、シゲちゃん助けてよぉシゲちゃんシゲちゃん……」


 くそっ、何がどうなってやがる。

 ココアが危ないってのに、俺は逃げるしかないのかよ。

 俺があの時、ココアを引き止めてさえいれば……!


『パァン』


 ……銃声!

アツシの仕込みナイフで試した所、フジミヤは不死身では無くなっていた。

これから起こるであろう発砲事件の直前にこれでは、何の役にも立てはしない。

愕然とするフジミヤにアツシは撤退を勧めるが、無慈悲にも銃声が鳴り響いた。

引き金は何故引かれたのか、それはココア達当事者にしか分からない。

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