ハーフタイム終わりっbyフジミヤ
俺はカイリにぶっ飛ばされ、コンクリの壁を貫通。
見上げれば満天の青空という訳だ。
好きで見上げてんじゃないけどな。
仰向けで体が動かねえから。
廃ビルとセットの広い空き地に、ただひとり寝転がる俺。
助けなんて来ないだろう。
しかしカイリの野郎…やな事を思い出させやがって。
今朝だってあいつとゲーム、しかもよりによってレースゲームをする夢見たのに。
何度も何度もナリツグナリツグって呼びやがるし、何らかの悪意すら感じるね。
あー、クソ。
やり返したいなあ。
「フジミヤくん!」
足音とヨシトモの声がする。
こんな良いタイミングで来てくれるなんて有り得ない。
死ぬ間際でも耳は聞こえてるらしいけど、だからって幻聴かよ。
「フジミヤくん大丈夫!?」
一度のみならず二度までも、しつこい幻聴だ。
「味噌汁飲める?」
ヨシトモの顔が青空を遮り、俺を覗き込んでいる。
幻視までセットか。
「ほら、これ!」
頬に当たる魔法瓶の、金属特有の冷たさは本物だった。
ヨシトモの声も姿も全部本物なのか。
「ヨシトモ?何でここに?」
寝転がったままではカッコ悪いので、俺は立ち上がろうとした。
しかし、上半身を少し起こすのが精一杯だ。
相当消耗してるな、俺。
「とにかく飲んで!」
ヨシトモは既に魔法瓶のフタを回している。
フタが取れると、ほんのりと湯気が上がった。
外は冷たいが中身は温かい、さすがは魔法瓶だ。
「おう…」
俺は差し出された魔法瓶を両手でしっかりと握る。
「君が医務室から消えてて、あちこち聞いて回ったんだ。
カイリくんに連れてかれたとなったらここしかないよ」
魔法瓶を傾け、口を付けた。
小さいネギやサイコロみたいな豆腐が浮いている。
「んく、んく…」
暑過ぎずぬる過ぎず、丁度良い温度だ。
赤味噌を使ってるみたいだな。
「どう?」
どうも何も、ムチャクチャ美味しいです。
ヨシトモ様本当にありがとうございます。
昼メシ食ってなかったし、体が今最も求めてる物だからな。
朝も食ってなかったなそういや。
こんなの絶対美味いに決まってる。
「好きなだけ飲んでくれて良いからね」
…ちょ、多くね?無くならないんですけど。
いや助かるけどさ、これお茶碗一杯の数倍入ってるぞ?
俺の命の塩水500ミリバージョンより多いとか。
「んん…」
次第に味噌汁が体に吸収されていき、全身に血がみなぎる。
一度にほとんど飲み干し、魔法瓶の底にはワカメが残っているのみ。
汁を吸って沈んでたんだな。
「ありがとな、ヨシトモ」
俺は魔法瓶をヨシトモに返した。
「どういたしまして」
ヨシトモのほほえみを見て、この味噌汁はヨシトモ自身が作ったんじゃないかって思った。
平時なら全部頂いていたが、今は残す。
ワカメの食感をゆっくり楽しんでるヒマは無い。
カイリとの決着を付けないとな。
俺は勢い良く立ち上がった。
「っしゃあ!復活!」
「うわっ」
俺の回復っぷりにヨシトモが驚いている。
塩分と水分さえあれば、俺は動けるんだ。
「ハーフタイム終わりっ。じゃあ行ってくるぜ!」
カイリは結構バテてたから、まだ廃ビルの中に居るはずだ。
俺は廃ビルに向かって走り出す。
体が軽い。
「どこへ!?」
「第3ラウンドだ!」
俺は振り返らず、ヨシトモに返事した。