表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/67

どこにしまってあったかなbyヨシトモ

僕はまたあの予知夢を見てしまった。

この町が炎に包まれ、多くの人が焼き殺される最大最悪の予知夢だ。


この内容は過去に一度見た事があるけれど、今回は日付と時間が分かってしまった。

日付は今日、時間は午後6時前後になる。

これまでみんなには黙っていたけれど、もう行動に移すしかない。


手始めに僕はフジミヤくんの家へ電話をかけ、僕の家に来るよう言った。

昨日は通話自体駄目だったけど、今日は来てくれるらしい。

そしたらフジミヤくんは、僕の知らない人をウチに連れて来たんだ。

ラフなフジミヤくんにしては珍しく大きめの黒いニット帽を被っているけれど、服装なんて今はどうでも良い。


「ヨシトモ、来たぜ」


「クマ子もお邪魔するぞぉー」


「クマ子、靴を揃えろ……」


4人も玄関に居ると少し狭く感じるね。

さて、クマ子さんは僕と同じクラスだからある程度知っている。

問題はもう1人の大きな男子だ。


「フジミヤくん、彼は……?」


「ああ、こいつは俺と同じクラスのシゲゾウ。

クマ子の守護神さ」


「へえ。

シゲゾウくん、初めまして」


「こちらこそ」


僕が軽くお辞儀をすると、シゲゾウくんは90度の深いお辞儀を返して来た。

見かけによらず真面目なんだね。


「クマ子の一番乗りぃー!」


クマ子さんは1人突出し、勝手に家の中へと走って行く。


「僕の部屋は左だよ」


「あいーっ」


僕が自室の場所を知らせると、そこを通り過ぎていたクマ子さんは急ブレーキした。

またすぐにパタパタと駆け出し、僕の部屋のドアを開ける。


「すまない、クマ子が迷惑をかける」


「別に迷惑じゃあないし、シゲゾウくんが謝る事じゃないよ」


「そうだな……」


「じゃあとりあえず上がるぞ、ヨシトモ」


「うん」


既に入っているクマ子さん、フジミヤくん、シゲゾウくん、僕の順に部屋のドアをくぐった。

すると、クマ子さんは本棚の本を5冊ほどベットの上に置き、自分も寝転がって本を読んでいる。


「おいクマ子!行儀悪過ぎんぞ」


「クマ子は健康優良児だからぁ、後でちゃんとカラダで払います」


「誰に何を払うんだよっ!」


「あはは、賑やかだね」


僕が笑うと、フジミヤくんはベットの上のクマ子さんをビシッと指差した。


「あいつがやらかしてるだけだぞ!」


「ヨシトモ、本当にすまない」


シゲゾウくんは体が大きいのを気にしているのか、部屋の隅で縮こまっている。


「そこ窮屈じゃない?もっと楽にして良いよ」


「ああ……」


僕が諭すと、シゲゾウくんはその場に正座をした。


「なあヨシトモ、また予知夢を見たって?」


フジミヤくんはベッドのフチに座っている。

僕は勉強机とセットの椅子に腰掛けた。

クマ子さんは、相変わらずベッドの上に居る。


「それは一旦後にして、まずふたりについて聞きたいな。

僕はフジミヤくんが来てくれればそれで良かったんだけど?」


「帰るか?」


「シゲゾウ、萎縮し過ぎだぞ」


「すまない」


「はあ……調子狂うぜ」


フジミヤくんが右耳を掻いている。

ニット帽が当たって痒いのかな。


「俺が説明してやるよ。

まずヨシトモ、この2人も超能力者なんだ」


「へえ、どんな?」


「シゲゾウは他の超能力者をコピー出来る。

だよな?」


フジミヤくんが話題を振ると、シゲゾウくんは小さくそれに頷いた。


「ああ」


「で、そこのクマ子は他の超能力者を封じ込められる」


「フジミヤぁ、正解ーっ!」


ベットの上に仰向けで寝転がるクマ子さんが、フジミヤくんに向けて両手を伸ばしている。


「封じ込められると言うと、アツシくんやカイリくんが言っていたあれかい?」


「その通りだ。

最初は敵対関係だったが、俺がなんとかしたからそこは安心してくれ」


クマ子さんがフジミヤくんの肩にしがみ付き、右肩からヒョコッと顔を出す。


「寝てただけの癖にぃーっ」


「あっこら、黙ってろ!」


「うん?」


僕が事情を掴めずに首をかしげると、フジミヤくんは何やら慌てている。


「ヨシトモ、今のは忘れてくれ。

とりあえずもう敵対関係じゃないし、どっちかと言うと味方だ。

な?」


フジミヤくんはクマ子さんとシゲゾウくんに、それぞれ視線を送った。


「俺はクマ子を守るだけだが」


「クマ子はシゲちゃんに守られるだけだぞぉー」


「フジミヤくん、結局どうなんだい?」


「味方の認識で良い。

クマ子は家が火事で全焼しちまったから、今俺の家に泊めてやってるんだ。

恩があるから少しは言う事聞くだろ」


「おぉー?今度はフジミヤが攻めぇー?」


さっきは右肩からだったクマ子さんが、今度は左肩から顔を出す。


「お前マジ黙ってろ!

キャンディ没収すんぞ!」


「ええーっ!やだぁーっ」


「なら黙ってろマジで!」


フジミヤくんとクマ子さんが何やら揉めている。


「フジミヤくん、そろそろ僕の本題に移っても良いかな?」


「おう!むしろさっさと移ってくれないか?」


「そうだね。

今回僕が見たのは、ココアさんが人質にされる予知夢だった。

人質にされたココアさんを誰かが助けようとするんだけど、その誰かが銃で撃たれてしまうんだ」


本当はその後の大火災こそが最重要なんだけど、

これを安易に伝えてしまうと自己保身に走られかねない。

だからあえて、この先については伏せさせて貰うよ。

ごめんね、フジミヤくんにおふたりさん。

なんとしてでも、僕はこの町を救いたいんだ。


「ココアが……!?」


フジミヤくんの顔付きが変わった。

目が鋭くなり、腕を組んで僕と対面する。


「銃……!?」


正座しているシゲゾウくんも驚いて、腰を少し浮かせている。


「ヨシトモぉ、ここ日本だぞぉー。

それってオモチャなんじゃないのぉー?」


「確かにそうかも知れない。

僕の予知夢だって完璧じゃないからね。

ただ、オモチャと言ってもエアガンなんかは改造してしまえばそれなりの威力が出るし、

究極この国にだって銃は有る」


「物騒だな」


「おいヨシトモ、ココアがどうしたって?」


フジミヤくんが僕の両肩をそれぞれ掴んで来た。

それだけ、ココアさんの事が心配なんだね、


「銃を持っている人が、ココアさんを人質に取るんだ」


「ヨシトモ、ココアに連絡しないのか」


フジミヤくんが怖い顔で僕を見てくるから、僕は勉強机の上のスマホに目をやった。


「ココアさんにも連絡はしてあるよ。

だけど返信は無いね。

どうしてだろう?」


フジミヤくんは僕から離れてベッドのフチに戻り、右手で自分の顔を覆っている。


「俺のせいなのか……?」


「どうしたの?」


「いや、これは俺とココアの間だけの問題だ。

悪いがヨシトモにも話せない」


「別に詮索するつもりは無いよ」


僕の方だってフジミヤくんに事実を伏せているしね。


「ヨシトモ、大体分かった。

だが俺達は手伝わない」


「どうしてだよ?」


フジミヤくんが喧嘩腰でシゲゾウくんに尋ね、シゲゾウくんは眉一つ動かさず冷静に答える。


「俺はクマ子を守るだけ。

撃たれる危険の有る場所にクマ子を連れては行けない」


シゲゾウくんの主張には一理ある。

だけどフジミヤくんや僕だけでは、大火災を止められそうに無い。

なんとかしてこのふたりにも付いて来て貰わないと。


「お前にはアツシからコピーした瞬間移動が有るだろ。

それでやっつけりゃ良いんだよ。

簡単な事だろうが」


「クマ子の安全が最優先だ」


「じゃあお前だけでも来いよ」


フジミヤくんがベッドからおり、シゲゾウくんに接近した。


「断る」


「ビビってんのか?」


「それもそうだが、俺が居ない時にクマ子に何かあったらどうする。

守れないぞ」


「そもそもお前らが引っ掻き回してくれたお陰で、俺たちは半壊しかけてるんだぞ。

俺の不死身はたまたま無効になってないが、アツシやカイリが戦えないのはお前らのせいも有るだろうが」


フジミヤくんは、シゲゾウくんに膝が当たるくらい近い所へと座った。


「アツシの代打をしろと?」


「まあそんなとこだ。

もし良いとこ見せてくれたら、俺達だって恩返しはさせてもらうぜ?」


「少し時間をくれ」


そういって、シゲゾウくんは腕組みをしながら考え事に入った、


「クマ子さんはどうなんだい?」


「クマ子は興味あるぞぉー」


興味が有ると言う割に、クマ子さんはうつ伏せで本にかじりついている。

話す時はちゃんと姿勢を正して欲しいな。


「クマ子!?」


シゲゾウくんが動揺している。

クマ子さんを守りたいだけの彼としては、クマ子さんが行くなら付いて行かざるを得ないんだろう。

直接シゲゾウくんに働きかけるよりも、クマ子さんを引き込めるかどうかが重要になりそうだ。


「日本で銃なんて珍しいからねぇー。

なるべく間近で見たいよねぇー」


「クマ子、よせ」


シゲゾウくんがそう言うのは至極当然だけど、クマ子さんはムッとしていて不満なようだ。

両腕をベッドに突いて体を浮かせ、シゲゾウくんを上から見ている。


「大丈夫、クマ子はシゲちゃんが絶対守ってくれるからぁー。

でしょぉー?」


「クマ子……」


シゲゾウくんは鼻をこすり、高圧だった態度を少しばかり弱くしている。

クマ子さんはベッドの上を四つん這いで移動し、シゲゾウくんに近付いた。


「シゲちゃんも来るよねぇー?」


「う……」


クマ子さんに頭の上がらないシゲゾウくん、彼女の笑顔には特に弱いみたいだ。

それだけクマ子さんが好きなんだろうね。


「へへっ、クマ子には逆らえないよな、シゲゾウ」


「仕方無い。

だが条件が有る」


「条件ってなんだい、シゲゾウくん」


「フジミヤの不死身をコピーさせてくれ。

不死身ならクマ子の盾になれる」


「だってよヨシトモ。

俺は別に良いけど、お前はどう思う?」


フジミヤくんが僕の方を見ている。


「うーん、確かに相手は銃だから回避はまず無理だよね。

手札の種類は多いに越したことはないけれど……。

えっと、一度にコピーできるのは一種類だけなのかな?」


「そうだ」


「何度も切り替えたりはできる?」


「分からない」


「今から実験するのは、色々と厳しいよね。

どうやったらコピーできるの?」


シゲゾウくんは舌を出し、それを指差している。


「相手の体液を舐める。

唾液がやりやすい」


「改めて聞いてみると、少しだけヤダな。

ああ一応言っとくけど不死身と無痛は多分別だから、

痛いのは覚悟しとけよ」


「仕方無い」


「まあね。

とりあえず、シゲゾウくんも協力してくれるって事で良いかな?」


シゲゾウくんがクマ子さんに視線を送った、


「クマ子次第だ」


「クマ子、銃見たいよな。

勿論間近で」


フジミヤくんが煽ると、クマ子さんはミュージックライブの観客よろしく右拳を上に突き上げた。


「見たいぞぉー!」


「見たいかぁー!」


「見たいぞぉー!」


フジミヤくんとクマ子さんって、結構相性が良さそうだね。


「はあ……」


ノリノリな2人を見たシゲゾウくんは頭を垂れ、小さな溜め息を吐いた。


「じゃあ簡単な作戦を立てるよ。

人質に取られているココアさんを発見したら、フジミヤくんは正面から陽動、その間にシゲゾウくんがなるべく敵の背後に回って、瞬間移動で銃を奪うチャンスを伺って欲しい。

良いかな?」


この作戦は上手く行かないだろうとは、大体察しが付いている。

これはココアさんを守る為よりも、愚直だけど超能力者をできるだけ多く掻き集めて、

なんとしてでも大火災を阻止して貰うのが目的だ。


正直な所、フジミヤくんはまず死なないだろうけどクマ子さんやシゲゾウくん、

はたまたココアさんが死ぬ事になったとしても僕はそれを厭わない。

大火災そのもののインパクトが強過ぎて、対処法が見えなかったんだ。

非常に残念だけど、こうするより他に方法は無い。


「クマ子の為なら……」


観念した様子のシゲゾウくんが呟くと、

クマ子さんがベッドから飛び跳ねてシゲゾウくんに抱き付いた。

ちょっと痛そうだけど大丈夫かな。


「うおっ」


「わぁーい!シゲちゃん大好き愛してるぅー!」


「クマ子……」


「はは、ホントに凸凹な奴らだ」


フジミヤくんが笑っている。

シゲゾウくんはクマ子さんにされるがままだ。

クマ子さんが単純な性格で良かったよ。

まるで、世の中の右も左もまだ分かっていない幼稚園児みたいだ。


さて、僕も心構えを固めておかなくちゃ。

携帯に便利な1番短い包丁は、キッチンのどこにしまってあったかな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ