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超能力なんて無いさbyハツカ

オイラ、今空き巣しようとしてとりあえず適当な民家に侵入したのさ。

凄く丁度良い窓を見付けたもんだから、燃え上がっちゃってね。

所がどっこい、なんと侵入した部屋には縛られてる高校生が!


「お兄さん、監禁でもされてるのかい?」


「えっとだな、半分正解」


男子じゃなくて女子だったら燃え上がってたのになぁ。


「半分?

じゃあもう半分はなんなのさ」


「それは良いとして、お前誰だ?」


ここで馬鹿正直に『オイラはハツカさ!』と、答えるワケないって。


「お兄さんを助けに来た正義の味方さ」


「嘘つけ。

どう考えても空き巣だろ」


「うーん、まあそうなるよね」


オイラはニット帽越しに頭を掻いた。


「普段ならとっ捕まえてる所だが、ご覧の通りだ」


男子はガムテープやらなんやらで何重にも縛られ、床の上に放置されている。

人間と出くわした時点で空き巣は失敗みたいなもんだけど、

ちょっと面白くて燃え上がりそう。

オイラは少し探りを入れようと、束縛男子の近くにしゃがみ込んだ。


「オイラ、お兄さんを助けるべきかな?」


「助けるって言うと、ちょっとだけ違うんだが……」


「でもお兄さんが自由になったら、オイラをとっ捕まえるんだろ?」


「む……もし助けてくれるんなら、俺が叫んで読んだって事にしてやるよ」


「別にオイラ、お兄さんをほっといて逃げても良いんだけどね」


オイラは立ち上がって窓の方にクルリと振り向く。


「待ってくれ!」


「なんでさ」


「漏れそうなんだよ!」


束縛男子が叫ぶ。

オイラはなんだかおかしくなってきちゃって、

火がパチッと弾けるみたいにクスリと笑った。


「なあ頼むって!

この歳で漏らしたらアダ名がクソミヤになっちまう!」


「大きい方!?」


小さい方とばかり思ってたオイラは、驚いて振り向く。


「なあ頼む!


俺を自由にしてくれ!」


「うーん……」


オイラはまた頭を掻いた。


「じゃあさ、オイラの願いを叶えてくれるなら助けてやるさ」


「願いっ!?」


束縛男子が変に驚きの声を上げた。


「嫌なら帰るさ」


「ままままま、待て待て。

良いよ、言えよ。

俺に出来る範囲ならやるよ。

ただひとつだけ確認させてくれ」


「何さ?」


「お前ホモとかじゃないよな?」


「はぁー?

オイラはホモじゃない。

むしろその逆さ」


「レズか?」


オイラのどこをどう取ったら女に見えるのさ。


「いや、確かに逆だけどそうじゃなくて、

燃え上がれるようなカノジョを紹介して欲しいのさ」


こないだのあの子みたいなさ。


「カノジョか、よし。

チビアホとデブアホどっちが良い?」


両極端な上にどっちもアホって。


「そのどっちかしかないのかい?」


「すぐに俺が紹介できるのは今言ったふたりだけだ。

ちなみにチビはカレシが居るがビッチで、セフレなら余裕でなれる。

デブはスイーツ中毒だから、財布次第でお触りオッケーだぞ」


「ふた股推奨!?」


「どうだ空き巣さん。

俺を助けてくれるか?」


「ちょっと考えさせてよ。

とりあえず、その2択なワケ?」


「わりいな。

俺もそんなに顔が広くはないから」


「うーん……おチビさんのカレシは許してくれるのかい?」


「問題無いぞ。


何せ俺が既にそのチビとふた股だからな」


「三股!?」


オイラはなんか、もうこれ以上束縛男子に関わらないのが良いと感じた。

だがカノジョをゲットする悲願のチャンス、出来るならモノにしたいさ。

ドロドロになりそうなチビはやめといて、

もう一方のおデブちゃんを打診してみよう。


「おチビさんはカレシ持ち、って事はおデブちゃんはフリー?」


「俺に纏わり付いてくるけど、一応フリーだぞ」


「幼馴染みとかかい?」


「いや、そうじゃない。

色々あって良く絡んでくるようになった。

家も同じマンションだし」


「それ、お兄さんのカノジョなんじゃないの?」


束縛男子が首を振って、オイラの発言を否定する。


「それは無い。

もしかしたらココアはそう思ってるかもだけどな」


「ココア?」


どうして急に、飲み物の話題になるのさ。


「デブの名前だよ。

知らない奴には紛らわしいよな」


「そのココアちゃんの事、もっと教えてくれないかい?」


「もっとか、そうだな……」


ここでオイラは、束縛男子が漏れそうと言ってたのを思い出した。


「お兄さん、やけに落ち着いてるね。

もしかしたらもう出ちゃった?」


「絶対に出てない。

なんかしばらくガマンしてたら消えた」


「イヤイヤ、消えてはないでしょ……」


他人事なのにひと安心してしまったオイラだが、

カノジョ紹介が無しになるくらいなら、束縛男子にはまた催してもらいたいもんさ。


「とりあえずココアはデブって言うか割と巨乳で」


「良いね」


「手がやたら暖かくて柔らかい」


「手を繋いだのかい?」


「ああ。

経験人数が少ないから強くは言えないが、

手のついでにオッパイもやたら柔らかいぞ」


「なんの経験!?」


「当てられたりとか、自然と当たったりとか……」


「自然と当たる距離感なのかい!?」


それキミがニブ過ぎるだけで。客観的にはカノジョだよ。

この束縛男子、オイラと大して変わらない歳だろうにリア充し過ぎじゃないか?

オイラなんか16歳にして、警察に怯えながら空き巣でメシを食うのが精一杯なんだけど。


「はあ……」


オイラはガックリと脱力し、溜め息を吐いた。

やっぱりこの世の人間には生まれ付き、勝ち負けが決まってるんだなぁ。

神様ぁ、リア充が妬ましいさ。

神様ぁ、こころが冷えるさ。

オイラの心の奥で、嫉妬の炎がジワジワと燃え上がる。


嫉妬したり寂しくなった時にオイラがなる、お決まりの感覚さ。


「どうした?」


オイラは右手を振る。


「もう良い。

やっぱオイラは燃え上がれないのさ……」


もう束縛男子がウンコ漏らそうがシッコ漏らそうが、オイラの知った事か。

むしろ漏らせ。

リア充脱糞しろ。

オイラはゆっくりと、出入り口である窓へ向かった。


「燃え上がらない……?

おい、ちょっと待て!」


「待たない」


窓に右手をかける。


「お前、超能力持ってないか!?」


束縛男子がオイラの背中に、意味不明な事を言う。


「超能力なんて無いさ。

あったら人生こんなに苦労してないよ」


床を蹴り、左手も使って窓枠に飛び付く。


「お前の周りで、変に火事が起こったりしないか!?」


「起こってないよ。

じゃあね、お兄さん」


「おい!」


オイラは遂に束縛男子を無視し、窓の外へ脱出した。

当初は空き巣する予定だったのに、

手ぶらどころかリア充の神々しい輝きを見せ付けられて終わりとはね。


「オイラってホント、ツイてないよなあ……」


オイラは肩を落として空を見上げた。

もう夕方か。

さっきの束縛男子はカノジョに加えて、

おチビさんとふた股までしてるって言うのに、

オイラには帰る家さえ無いんだよなあ。

家なんてとっくの昔に、綺麗サッパリ燃え上がっちまったさ。

通行人を警戒しつつ。オイラは塀を乗り越えて道路に着地した。


とりあえずスーパーでも行こうと少し歩いた時、さっきの家の方からパチパチと、

何か弾けるような音がオイラの耳をつついた。

オイラが振り返ると、さっきオイラが出入りした窓越しに、

オレンジ色に燃え上がる炎が見えた。


その炎は黒い煙を吐き、先端を揺らめかせている。

それなりに高い位置の窓から見えるんだから、結構な燃え上がり方だね。

危ない物は見当たらなかったけど、火の元はなんだろう。

木造っぽかったし、あの様子じゃあ完全に燃え上がっちゃうね。


だけど、外道に堕ちているオイラは消防を呼ぶ気なんか無いし、

そもそも今この場で通話する手段を持ってない。

オイラは結果的に間一髪だったけど、あの束縛男子は助からないだろうさ。

幸不幸のアンバランスを精算しろって、きっと神様がそう言ってるのさ、リア充くん。


「超能力なんか無いさ」


オイラはボソッと呟いて、その場を後にした。

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