既に食らっちまってるんだわbyフジミヤ
俺がカイリの背中を発見した時、そこにアツシはおらず、
代わりと言うと変だが大男が居て、カイリはそいつと対峙していた。
パッと見ケンカをしている感じだが、どうも押され気味らしく、
カイリは肩を大きく上下させている。
「カイリ!」
俺が駆け寄ると、カイリは膝を折ってその場にガクッと崩れ落ちた。
俺がしゃがんで覗き込むと、カイリの頬にアザが出来ているのが分かる。
「おお、フジミヤじゃねえか……」
「カイリ、なんでケンカしてんだよ。
アツシはどうした?」
「あいつか?あいつなら、帰っちまったよ……」
「そうか。
じゃあこのケンカは何なんだよ」
俺はしゃがんだまま、カイリと対峙していた大男を見上げる。
カイリのやられっぷりとは対照的に、この大男の顔には傷ひとつ無い。
メガネもピカピカ……っておい!
「おまっ、シゲゾウ!?」
俺、こいつの事知ってるぞ。
俺と同じクラスのデカブツ、シゲゾウじゃねえかよ。
「フジミヤか」
「お前がカイリをやったのか」
「ああ」
シゲゾウが俺に返事した直後、シゲゾウの背後から誰かがヒョコッと顔を出した。
「クマ子も協力したぞぉー!」
っておいおいおい!
「お前さっきのキス魔じゃねえか!」
俺が思わず怒鳴ると、クマ子はニカッと笑ってこっちに右手を振る。
「覚えててくれたのかぁー。
ちょっとだけ嬉しいぞぉー」
「忘れようがねえよ!」
「フジミヤ……ってて」
カイリが何か言いかけたが、ケガの痛みでそれは中断された。
「どうしたカイリ」
カイリは震える右腕を持ち上げ、クマ子を指差した。
「あのチビにチュウされんなよ」
「は?」
「あいつ、チュウした奴の超能力を消しちまうんだ。
アツシも俺様も消された。
それでこのザマよ」
えっとですね、出来れば、ボコボコにされたあまりにカイリの意識は混濁し、
一時的に錯乱を起こしてる……という扱いにしてしまいたいですね。
だがカイリの発言が正しく、超能力を無効にされたのなら、
ケンカに負けたのも半分納得がいく。
もう半分は、馬鹿ヂカラ無しだからってカイリが10対0で負けるのか?って所だ。
「フジミヤ、逃げろ」
「いや、そのな?
俺……既に食らっちまってるんだわ。
クマ子のチュウ」」
かろうじて閉じずにあったカイリの薄目が、俺のカミングアウトを受けてたちまち丸くなる。
「変な勘違いすんなよ。
トイレに侵入して来て無理矢理……」
クマ子に向けられていたカイリの右腕がグーになり、
俺の左頬を殴る。
だが俺は不死身になる前から無痛だし、今のカイリは馬鹿ヂカラを失った上に弱っているから、
その低威力たるや、とてもパンチと呼べるものではなかった。
「……馬鹿野郎」
このつぶやきを最後にカイリは脱力し、右腕もバタリと地面に落ちる。
気絶しちまったんだろうか。
俺はカイリをそっと地面に下ろし、立ち上がってシゲゾウ達を見た。
「クマ子、お前超能力者だったんだな」
「そうだぞぉー」
「フジミヤ。
お前の不死身は既に無効」
「分かってるよ……」
「アツシもカイリも無効にした」
「ちょっと良いかシゲゾウ」
「なんだ?」
「色々聞きたい事は有るんだが、
超能力を消せるのはクマ子であってシゲゾウ、お前じゃないよな?」
「ああ」
「その通りぃー!」
クマ子が右手でピースサインを作る。
「だよな。
さっきからシゲゾウ自身が超能力者みたいに解説すっから、
そこんとこ気になっちまってよ」
「シゲちゃんも超能力者だぞぉー」
「クマ子……」
仲間の秘密をあっさり暴露するクマ子に、シゲゾウも何か言いたげな様子。
「やっぱりか。
道理で元番長のカイリが一方的にやられたワケだ」
「まあ良い。
その内バレる」
「んじゃ次だ。
お前らはなぜ俺やアツシ、カイリを襲った?
俺達に恨みでも有るのか?」
「恨みは無い。
利用し、無力化するだけ」
シゲゾウは自分の前で拳を握った。
「利用だと?」
「俺は他の超能力者をコピーできる」
「へー、すげえじゃん。
そんで無力化ってのは?」
「お前達がいつクマ子を傷付けるとも限らない。
危険は少ないほど良い」
「それは納得行かねえな」
「同意は要らん。
俺はクマ子を守るだけだ」
「わー、シゲちゃんカッコいい!」
クマ子がシゲゾウにギュッと抱き付いた。
身長差のせいで同年代には見えず、そのギャップは下手すると親子レベル。
「じゃあアツシやカイリは、クマ子に危害を加えたってのか?」
シゲゾウは俺の問いに答えず、クマ子を抱き付かせたまま歩いて立ち去ろうとした。
「待てよ!まだ聞きてえ事が!」
「長話が過ぎた。
もうお前達に用は無い」
「バイバーイ」
俺は走り、歩くシゲゾウの前方に先回りした。
「邪魔だ」
「お前、要は悪質な超能力者からクマ子を守りたいんだろ?」
「まあ、そうだが」
「だったら俺達とは組むべきだ。
むしろ最初からコピーさせて下さいってお願いすりゃあ、
お前らだってリスクを負わずに済んだだろ」
「無理だな」
「そう言うなよ。
アツシだって最初はヤバかったんだぜ?
それが今じゃかなり大人しくなってるんだ。
俺達だって出来るさ。
とりあえず、俺だけでもそっちの仲間にしてくれないか?」
「しつこいぞ」
シゲゾウが俺を押しのけようと左腕を伸ばしてきた時、
クマ子がシゲゾウの服を引っ張った。
「シゲちゃんシゲちゃん、瞬間移動より不死身のが強くないー?」
「むう……」
シゲゾウが判断に迷っていると、クマ子はシゲゾウから離れ、
なぜか俺に抱き付いてきた。
「なんだよ!?」
「クマ子の言う事聞いてくれたらぁー、仲間にしたげるよぉー」
「クマ子……」
シゲゾウがうろたえている。
どうやらシゲゾウはクマ子を大事にしたいが為に、
逆にクマ子の意思には逆らえないみたいだな。
さて、他人の願いを聞き入れるのは大きな負担だが、
どうせアホの考える事なんてたかが知れている。
大方、もう1回キスさせろーとか、
今度はそっちからキスしろーとかだろキス魔だし。
「ああ、良いぜ。
俺に何しろってんだ?」
クマ子はつま先で立ち、舌が届くんじゃなかろうかってくらい俺の左耳に顔を寄せる。
「セ、フ、レ」
「はい?」
えっ、お前キス魔だろ。
待てよ何盛大にエスカレートしてんだよ聞いてねえぞおいこら。
「じゃっ、シゲちゃん。
フジミヤを連れてクマ子の家へ出発ーっ!」
クマ子の号令でシゲゾウが俺の胴体を掴み、
いとも容易く、俺はシゲゾウの右肩の上に担ぎ上げられた。
「ちょっ……強制連行かよ!」
「悪いが、クマ子の意思だ」
ココア達がカラオケでまだ待ってるし、
アツシはともかくボロボロのカイリが置き去りのままだ。
それに、こんな事で俺は脱童貞しちまうのか?
こんなんじゃいつかあの世で会った時、ヨリコにぶっ飛ばされちまうぞ。
俺は暴れ出したい衝動に駆られたが、
これも超能力者同士の交流を深める為なのだと、断腸の思いで飲み込む。
結局、俺はそのままクマ子の家までデリバリーホストされちゃいましたとさ。
何これ全然めでたくない……。




