あたしのアドリブがキラリと光る!byココア
あたしがたこ焼き(セーフっ!)の具であるタコの歯ごたえを楽しんでいると、
ようやくフジミヤが戻って来た。
「おせぇぞフジミヤぁ!」
「わりいわりい、ドリンクバーが故障しててよ。
治るまで待ってたんだ」
「それは災難だったね、フジミヤくん」
「なあ、それなんだ?」
フジミヤは両手にそれぞれカップを持ってて指が使えないけど、
何を言いたいのかは分かってる。
テーブルのど真ん中に置かれた、激辛ロシアンたこ焼きの事に違いない。
むしろ他に何かあるかしら。
「ただのたこ焼きじゃなくてね、1個だけ激辛が混ざってるのよ、これ」
「ふん、下らん」
アツシが腕を組んでそっぽを向いた。
こういう集まりでもなきゃ、あんたとコレって一生縁無さそうよね。
「私達が丁度6人だったものですから」
「いや、でも4つだぞ?」
「フジミヤくん、とりあえず座ろうよ」
ソファーの出入り口側端っこを封鎖してたヨシトモが、
あたしとの間にフジミヤを座らせようと立ち上がった。
「ヨシトモ、あんたがあたしに詰めたら良くない?」
あたしが指摘すると、ヨシトモは苦笑いをした。
「フジミヤくんの方がココアさんとは仲良しだし、
それに、僕は女の子に免疫が無いから……」
「ふーん。
じゃああたしがヨシトモんちに泊まって、一気に免疫付けちゃう?」
「ヨシトモ」
ヨシトモがサクランボな反応をするより先に、
フジミヤが座りながら言う。
「あんな事言ってるが、ココアはヨシトモんちのクッキー食べたいだけだぞ。
絶対引っかかんなよ」
「チッ、バレたか」
あたしは歯を噛み締めて舌打ちをした。
「そんなにあれが気に入ったのかい?」
「ええそりゃもう!」
正直、あのクッキーが貰えるならお触りくらいはオッケーかな。
量にもよるけど。
「よだれ拭け。
で、なんでこのたこ焼きは4つなんだよ」
「あの、私とココアさんが先にひとつずつ……」
「はあ?
同時に食わなきゃ意味無いだろ」
「レディファーストだとよ。
俺様達はこれで4分の1ってなワケだ」
「はっはっは、その通りぃ。
ほらウララさんも笑って!」
「へっ?」
「せーの……その通りっ!」
「そっ……その通り……っ」
あたしが連続でニカッと笑う一方、遅れたココアさんはぎこちない笑顔を作る。
ウララさん、笑わなきゃせっかくの美人が台無しよ。
「馬鹿共め。
先に食べた者が死ぬ確率を考慮しろ。
最終的に2択になったとしても、それは表面上2分の1なだけだ」
「アツシくん、色々と言い過ぎてないかな」
「まっ、細かい事は置いといてだな。
俺が戻って全員揃ったんだし、冷める前に食っちまおうぜ!」
4つのたこ焼き全てに突き立てられたつまようじの1本を、フジミヤがつまんだ。
「じゃあ僕はこれにするよ」
「俺様はこれな!」
フジミヤ、ヨシトモ、カイリの3人が、つまようじをつまんだまま待機。
そしてあたしも含めた5人が、不動を貫くアツシに注目した。
アツシは腕を組んだまま視線だけを動かして、向かいのあたし達をそれぞれ見た。
「揃いも揃ってなんだその目は。
俺は下らん遊びをしにここへ来たのではない」
「ウララさん、今よ!」
あたしは口に手を添え、小声でウララさんに合図を送った。
事前にスマホ(今日の為の打ち合わせで既に連絡先は交換済み)
でこっそり伝えた作戦を、実行に移す時よ!
ウララさんは小さく、でもチカラ強くコクリと頷くと、
キリリと眉にチカラを込めた真剣な顔つきで、
アツシの代わりに最後のつまようじに右手を伸ばした。
「ウララ?」
ウララさんの行動を不思議に思ったアツシが、たこ焼きを目で追う。
ウララさんはたこ焼きをアツシの目の前に移動させ、左手をすぼめて受け皿にした。
ウララさん、いけ!
「アツシさん、あーん」
ウララさんの満面の笑みを見て、あたしは緊張からツバを飲み込んだ。
固唾を飲んで見守る、って言うやつね。
ウララさんは今愛するひとと真っ正面から向かい合い、
オンナにとっての戦場に立ってるのよ。
男子達も空気を読んだらしく、3人ともまだ凍ったまま。
フジミヤ、後で褒めてあげるわ。
「おい、ウララ……」
アツシはお堅い表情をまだ崩さないけど、声色からは動揺を感じる。
ええいまどろっこしい、もうひと押し!
「ウララさんっ、
アツシは猫舌だからフーフーして冷ましたげないと食べれないみたいよ!」
縁結びの女神であるあたしのアドリブがキラリと光る!
「ええ!?
アツシさん猫舌だったんですか?」
ウララさんは受け皿にしていた左手で、自分の口を覆った。
違うって、とにかくフーフーしてあげなさいって意味だからこれ!
そりゃふたりは長い付き合いだから、本来食の好みは知ってるはずだろうけど、
いくら天然ウララさんでもそこは察して!
「なあ、俺様先に食って良いか?
ビミョーに腹減ってんだけど……」
「カイリくん、ふたりの為にもうちょっとだけ我慢してあげて」
「これでアツシが激辛引いたら台無しだな」
男性陣が顔を寄せ、ヒソヒソと囁きあっている。
「おい、聞こえているぞ」
ここでやっと、ウララさんが口をすぼめてたこ焼きをフーフーした。
もうこれは、仲睦まじい夫婦そのものね。
「よし、これで……アツシさん、あーん」
ウララさんが再度挑むも、アツシは右の壁にプイッと顔を背けてしまった。
「冗談ではない」
「ええい、しゃらくせぇっ!」
アツシの左隣(アツシがウララさんと向かい合ってるから実質後ろ)のカイリが、
自分のたこ焼きから手を離して 、アツシの頭を両手でガッチリと掴んだ。
「何をする!」
アツシの叫びを無視し、カイリはチカラずくでアツシとウララさんを対面させた。
「てめぇのカノジョだろ!?
それに俺様だって待ってられねえんだよ。
ほら食えよ!」
「くっ……」
アツシは納得いってないみたいだけど、カイリのパワーには逆らえないわよね。
やるじゃんカイリ、ただのウンコヘアーかと決め付けてたけど見直したわ。
「アツシさん、ほらあーん」
3度目の正直よっ!
目を細くしていたアツシが遂に観念し、ハァと小さくため息を吐いた後、
目を閉じて大きく口を開けた。
ウララさんの右手が動き、たこ焼きがアツシの口の中へ。
舌でたこ焼きを感知したアツシがパクッと口を閉じ、
ウララさんはそっとつまようじを引き抜いた。
「イェーイッ!」
フジミヤが自分の食べるたこ焼きの事も忘れ、頭の上で両手を叩いて歓声を上げた。
フジミヤに釣られて、ヨシトモもささやかにパチパチと拍手を送っている。
「へへ、それで良いんだよ」
カイリはアツシを解放し、らしくない明るさの笑顔を作った。
フジミヤと潰し合ってたようには見えない。
「ふん……」
アツシはまだ納得いかない様子で、
眉間にシワを寄せつつたこ焼きを咀嚼している。
「ココアさん、ココアさん、私……っ」
ウララさんはつまようじを持ったまま両手で顔を隠し、席を立ってまで向かいのあたしにすがりついて来た。
ウララさん陰キャ寄りだから、実は物凄く無理してたのよね。
「ウララさん、良く頑張ったわね、
ナイスファイトだったわ!」
あたしはつまようじに気を付けつつ、ウララさんを撫でであげた。
「ぐぅぅぅう!」
オトコとしてこの上ない幸せを味わっていたはずのアツシが、
まるで激辛ロシアンたこ焼きの大当たりを引いたみたいに苦悶のうなり声を上げた。
両手をシャカシャカと、口の周りを引っ掻くように激しく動かし、
両足もバタバタと上下させている。
左足をテーブルにぶつけ、『ガン』と音を立てた。
「アツシさん!?」




