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意外とツルツルしているbyフジミヤ

5番部屋の誰かがその内、フジミヤおっそいなーとか、

これだけ遅いと大きい方してんじゃないかーとか言い出すんだろうな。


で、なんで俺がそんな事を考えたのかっつうと、

俺は、男子トイレの個室に閉じ込められているからだ。

繰り返しになるが、俺は大をしに来たのではない。


「ふっふっふ、逃がさないよぉー」


目の前に立つ女が、後ろ手でガチャリと扉の鍵を閉めた。

他でもないこいつが、俺をここに閉じ込めた犯人。

ちなみに狭いので、俺は仕方無く便座に座っている。


短めの黒い髪に垂れ気味の目で、ちょい小さいが(色々とな)多分高校生。

薄茶色で半袖のゆったりとした服で、

腕と胴の間の布がやたら余っている。

オシャレに関心の強いココアなら、これは去年流行ったナントカでーとか言うんだろうけど、

その辺が疎い俺にはサッパリだ。

生足を露出していて、上の服に隠れているがよーく見ると短パン。


驚くなかれ。

このチビ女はなんと、俺が小便器で用を足している最中に男子トイレへ入って来やがったんだ。

当然俺は自分の下半身を庇うわな?

それで両手が塞がり無防備になった俺を、こいつは個室に押し込んだ……と。

とりあえずチャックは閉めたが。


「おい、なんのつもりだ」


「大人しくしてないと、キャー連れ込まれたって騒いじゃうぞぉー」


「お前が連れ込んだんだろ」


「んー、そうだっけ?」


チビ女はアゴに指を立てて、頭を傾げている。


「そうだよ!」


「良く覚えてないなぁー」


指をそのままに、チビ女はさっきと逆方向の左に頭を傾けた。


「数秒前の自分の行動を忘れたのか?

もしマジなら病院で診てもらうのを勧めるぜ」


「クマ子は健康優良児だから、病院なんて行きません!」


チビ女は名を明かしつつ、両手を腰に当てて堂々としている。

クマ子って多分アダ名だよな。

そんなゴツくて強そうな名前を女の子に付ける親なんて、まず居ないよな。


「お前、クマ子って言うのか」


「あっ、しまった!」


クマ子は口を横に広げ、直後に両手で口を隠した。


「まあ良いや。

クマ子はクマ子の本名じゃないしねぇー」


クマ子が左上を見ている。


「お前、両方の意味で頭大丈夫か?」


「キミぃ、さっきから失礼だぞぉー」


クマ子の右手が俺を指差す。


「絶対お前の方が失礼だ。

それどころか下手すると犯罪だな」


「クマ子は健康優良児なので犯罪なんかしません」


「じゃあ今のこの状況はどう説明するんだ?」


「んん?これはねぇー、キミにイイコトしてやろうと思ってさぁー」


クマ子はそう言うと、両手を俺に向け指を曲げた。


「は?」


「大人しくしててねぇー」


「いや、イイコトってなんだよ?」


「ぐぬぬ……オンナノコに言わせるな!

健全な男子がそんな事も分からんのかぁー!」


クマ子の頬や耳が赤みを帯びている。

まさか……イイコトって、オトコとオンナのアレですか?


「ふざけるな!」


「損はさせないからさぁー。

それにオトコってハーレム願望持ってるでしょ?

ちょっとくらい良いじゃん」


「良くない!

ったく、付き合ってられるか!」


俺は強行突破しようとして無理矢理立ち上がり、扉の鍵に手を伸ばした。


「あっ!」


クマ子とぶつかるが、構いやしない。

俺は鍵を開け、扉を押した。

が、開かない。


「なにっ!?」


開かないと言うか、外から誰かに押し戻されてる感じだ。


今の今まで気付かなかったが、外に誰かが居るらしい。


「えいっ!」


動揺した隙にチビ女は俺を引っ張り、便器の上に座らせた。


「くそ、なんなんだいったい」


「ふっふっふ、諦めろぉー」


チビ女がまた鍵を閉める。


「クマ子、お前仲間が居るな?」


「仲間じゃなくてカレシぃー!」


「……居るんだな?」


「あっ、今のナシ!」


クマ子が両手でバッテンを作る。

俺、一応ピンチのはずなんだけど、

こいつがあんまりに馬鹿なもんだから呆れて来た。


「で?お前達の目的はなんなんだよ?」


これまでのやり取りから、大方察しはついてるけどな。


「さっき言ったろぉー!」


「具体的には言ってなかったぞ」


「セッ……」


クマ子は頬を更に紅潮させ、そっぽを向いて呟いた。


俺はせめてもの腹いせにと、右耳に右手を添えてクマ子に向けた。


「なんだって?」


「セッ……セッ……」


「んん?」


「接吻!」


クマ子が目を閉じ、ヤケクソ気味に叫ぶ。

今の絶対外に聞こえたぞ。


「キスか。

なんで初対面のオトコに無理矢理キスしようとしてんだ?」


「それは、色々と事情が有ってぇー……」


クマ子は右へ左へとせわしなく目を泳がせつつ、

両手の人差し指を突き合わせてグリグリとイジッている。


「だろうな。

逆に、大した事情も無しにキスする奴なんか居てたまるか」


「とにかく!

キミは大人しくしてなさい」


やれやれ、どうしたもんか。

無理矢理出ようにも、外から押されて扉を開けられない。

つうかカップルの女が共犯でオトコにキスするとか、意味不明だな。

今更だが、たかがキス程度ならされちまった方が早いんじゃないか?


……と思考を巡らせていたら、クマ子の顔面が俺に迫っていた。

舌を出し、唇を湿らせている。

フン、フンと鼻息が荒い。


「おい、クマ子」


「なに?」


「俺はともかく、お前はカレシ持ちだろ?

これ浮気になんねえか?」


「それは……」


クマ子が俺へとにじり寄るのを止め、視線を落とした。

俺の大事な所を見ているのではないと思いたい。


「色々と事情が有るってか?」


「……うるさぁーい!」


クマ子は叫んだ直後、勢い良く俺に体を重ねる。

それと同時に右へ頭を傾け、俺とクマ子の唇が重なった。

触覚が鈍いからあまり分からないが、意外とツルツルしている。


更にクマ子は俺にしがみ付き、舌をねじ込んで来た。

クマ子の舌が俺の歯や唇の裏側、口の中を舐め回す。

時々、クマ子の舌と俺の舌が触れ合った。

牛タンとかそうだが、これだけ動くと舌は筋肉の塊なんだと良く分かる。

しかしこいつ、舌噛まれたらどうしようとか考えないんだろうか。

俺は特に興奮なんかもせず、ただ肉と肉が接触してるだけだなと感じた。


早く終わんねえかな。


「……ぷはっ」


10秒くらい経っただろうか、クマ子が俺から大袈裟にガバッと離れ、

右手で口元を拭った。

俺の口周りも、クマ子の唾液で濡れている。

俺もクマ子に遅れ、同様に口を拭いた。

あーあ、ヨリコともしてなかったのに、行きずりの女に奪われるとは。


「気が済んだか?」


「まあねぇー……」


「すっげー顔赤いけど大丈夫か?」


「大丈夫じゃない」


自分からした癖に、俺よりクマ子の方が動じている。


「じゃあなんで……」


俺が喋っている途中で、クマ子は扉の鍵を開けた。

そして、素早く扉を押し開けて出て行く。

外のカレシは先に逃げたらしい。


「……なんだったんだ、あのキス魔は」


一瞬、俺はクマ子を追いかけようかと思ったが、

殴る蹴るならまだしも、たかがキス程度で騒ぎ立てるのはいかがなものか。

俺は追跡をせず、トイレに来た本来の目的を果たす事にした。

終わったら飲み物を入れて 、サッサと部屋に戻らないとな。


「あ!」


ココアが俺に頼んだ飲み物、どれだか忘れちまった!

ええい仕方ねえ、いっそおちょくってココアにすっか。

初対面ではかなり気を遣い、名前イジリはしないようにしてたが、

最近俺への態度がでかくなってるからな。

甘やかすのはやめにしよう。


スッキリした俺は、ココアに文句を付けられない為にも、

普段より念入りに手を洗う。

禁断の名前ネタは使うが、それとこれとは別だ。


「うーん……」


さっきのクマ子の事、みんなに報告しとこうかな。

でも超能力を使われたワケでもないし、

ふたりがかりで男子トイレに閉じ込められて女にキスされたなんて、

言った所で信じてもらえるかは怪しいな。

別に必要もねえか。


そういや、クマ子達もカラオケの客なのか?

だったらどこかの部屋に居るかも知れねえ。

キス魔の変質者をわざわざ自分から探す理由も無いけどな。

エアータオルで手を乾かし、俺は男子トイレを出た。


入店した時はバラードだったが、今はノリノリの女性アイドルソングが流れている。

随分時間食っちまったな。

キス魔の事はしまっておくとして、この遅れはどう説明したもんかな。

適当に、ドリンクバーが故障してたとでも言っとくか。


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