なるべく誰にも盗み聞きされたくないんだろうなbyフジミヤ
アツシからココアを守り切ったのが昨日の話。
んで今、俺は昼休みを利用し、ココアを連れてヨシトモの教室をを訪ねている最中だ。
俺達は、ヨシトモにどうしても聞いておかなきゃならない事が有る。
ヨシトモは自分の席に座り、ひとり黙々と弁当を食べていた。
黙々とモグモグ…なんつって。
もしこんなつまんないダジャレを言ったら、すぐ隣のココアに引っ叩かちまうな。
「ヨシトモ居るー?」
ココアが名を呼ぶと、ヨシトモが箸を置いて俺たちの方を見た。
「やあ、フジミヤくんにココアさん。どうしたの?」
「どうしたのじゃねーよ」
俺はポケットから、ヨシトモに貰ったお守りを取り出し、
ヨシトモの座っている机の上にドンと置いた。
ヨシトモの弁当箱が揺れ、その上の箸がカタッと音を立てる。
「これについて説明してもらおうか」
俺が机に置いたお守りは横にパックリと切り開かれており、
赤い色もなのも相まって、おばけちょうちんみたいに中から舌でも伸びてきそうだった。
「これ、僕があげた交通安全のお守り?
綺麗に切れちゃってるね。
何があったかは知らないけど、もっと大切にして欲しかったな」
「そんな事どうでも良いんだよ」
「あたし達はこれの中身について聞きたいの」
「中身?」
「しらばっくれんなよ、ヨシトモ」
「良く分からないけど、僕が何か怒らせるような事をしちゃったなら謝るよ。
御免ね、フジミヤくん、ココアさん。
ただ、僕は食事の時は静かにしたいから、
僕と話がしたいなら放課後にしてくれないかな?
そうだ、二人で僕の家に来なよ。
丁度、母さんが買った珍しいお菓子が有るし」
なんか棒読みっぽかったんですけど。
「それってどんなの!?」
ココアが目をハートにし、よだれを垂らしながらヨシトモの肩を掴んだ。
女ってホントに甘いもんが好きなんだな。
「あはは……見てからのお楽しみと言う事で」
「焦らしプレイ!?」
「仕方ねえな。
まあ、俺達の方も急に邪魔して悪かった。
じゃあ放課後、校門で集合な」
「うん。
また後でね」
「ヨシトモ、お菓子楽しみにしてるから!」
「ココアよ、本来の目的を忘れてやしないか?」
何はともあれ、ヨシトモとの対談にこぎつけた俺達は教室を出る。
俺はお守りの中に入っていた1枚の紙を取り出し、手の上で広げた。
俺の手とほぼ同じ大きさのこの白い紙には、黒い文字でこう書かれている。
『最寄りのバス停でバスに乗って。
乗ったら、もう1枚の小さな紙を1番左奥の優先席の下に捨ててから、
すぐにそのバスから降りて。
追伸、間違っで乗ったって言ったらタダになるよ。』
俺がアツシからココアを庇って切られた時、
胸に付けていたお守りも切られたんだが、
中に大小2枚の紙が入っていた。
1枚がこれで、もう1枚、ガムの包み紙程度の小さい紙には、
『これいじょうフジミヤくんたちにてをだすな』と書かれていた。
俺達が紙の指示に従った結果、アツシから逃れる事に成功。
バスの窓の向こう、乗客の隙間から覗くアツシと一瞬目が合ったが、
あの時の驚いた顔は1日経った今でも忘れられない。
相当ビックリしたよな?俺も驚きだよ。
「3人だけで、か。
なるべく誰にも盗み聞きされたくないんだろうな……」
俺が呟くと、ココアが後ろから俺の首に抱き付いた。
「フジミヤフジミヤ、あたしのお昼ご飯あんたにあげるから、
その代わりヨシトモんちのお菓子全部あたしにくれ!」
「良いけど、胸当たってんぞ」
ココアがニヤリと笑った。
「当てたげてんのよ」
「離れろっ!」
俺は左腕の肘でココアの頬を押した。
「きゃー!」
……ったく、これじゃ完全にカレシとカノジョじゃねーか。
すれ違った生徒に「いつものふたりだ」とか言われるしよ。
勝手に交際扱いすんなってーの!
「で?ココアの今日の昼メシって何なんだ?」
「ドーナツ」
「はあ!?昨日食ってただろ!
てかそれもお菓子をみてえなもんじゃねえか」
ココアは右腕で俺に抱き付いたまま、
さっきの仕返しとばかりに左手の指で俺の頬をつついた。
「あれ殆ど食べれなかったもん。
それに、ドーナツ大なりレアお菓子ですから」
はあ……オンナってみんなこうも、オトコを振り回すもんなのかね?
ヨリコはもっと大人しかったぞ。
結局、俺はココアに押し付けられたドーナツ3個を全て平らげ、
普通に授業を受けて放課後が来るのを待った。
恐らくだがヨシトモも、俺やカイリやアツシのように、
何らかの超能力を使えるんだろう。
俺達の味方なのは間違い無いが、どうも良い予感がしない。
ココアも含めると、この町だけで一体何人の超能力者が居るんだ?
カイリの件も有るし、今後まだまだ増えそうではある。
アツシが完全にココアを諦めたとも限らないし、ヨシトモと上手く連携しないとな。
あれこれ考えてる間に、放課後までの時間が過ぎていった。




