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この際誰だろうと構わないbyアツシ

フジミヤとココアを取り逃がした俺は、一旦近くの建物の上に瞬間移動して身を隠した。

常人などこの俺、アツシの敵ではないが、邪魔されると鬱陶しいのでな。


しかしフジミヤの奴め、上手く切り抜けたものだ。

あの体質もさる事ながら、非常事態への柔軟な対処には目を見張るものが有る。

生まれ付き痛みを感じないと言っていたが、

痛みを知らずに育ったが故に恐怖との縁が浅く、肝が座っているのだろうな。


そして、それだけの能力を有していながら、

奴がなぜ正義の味方紛いの事をしているのかは理解に苦しむ。

最もその正義も、俺からすれば人類進化の妨げでしかない。

全ての才能は開花して然るべきではないか。


あの女がどの様な超能力に目覚めるかは未知数だが、

その特性次第で多くの命を救えるかも知れんというのに。

俺にはフジミヤの思考が到底理解できん。

俺とフジミヤは、絶対に相容れない。


「さて…」


もう少し遊んでやりたい所だが、

フジミヤとココアは横断歩道を渡り、更に直進を続けている。

信号は赤に変わったが、瞬間移動があれば信号の制約など無に等しい。

しかし過度な連発は出来ず、最長距離では数秒おきに1回の移動が限度だ。

それに、一度ナイフを振るってしまった以上、

ある程度衆目を気にして行動せねばなるまい。


「…むっ?」


フジミヤ達が歩みを止め、四角く透明な屋根の下に入り、

ふたりがけのベンチに並んで座った。


「バス停だと?」


まさか、もう俺が追って来ないと楽観してバスで帰宅しようとしているのか?

だとすれば、俺も随分と舐められたものだ。

バスは一旦走り出してしまえば、次のバス停まで下車出来ない。

俺が奴らと同時に乗車してしまえば逃さず仕留められる。

俺が通り魔騒ぎを起こした程度で大人しくしていると思ったのか?


俺はパーカーを脱ぎ捨て、ナイフと共に建物の上に投げ捨てた。

後で回収しても良いし、なんなら別に放棄してしまっても構わない。

どの道、こんな場所に人の手は入らないからな。


通り魔を行なったのはあくまで『黒いパーカーを来た謎の男』であり、

今の俺は白シャツに金髪アシンメトリーの『アツシ』だ。

しかも黒パーカーの男はたちどころに消え、被害者もまた平然と立ち去ってしまった。

物的証拠も無いに等しく、これなら幻覚として処理される可能性さえ有る。

結果、俺の次なる行動は誰にも阻害されない。

甘かったなフジミヤ。


俺はタイミングを計って瞬間移動を使い、誰にも悟られない様に建物から降りた。

仲間に引き入れようと顔を見せたのは迂闊だったが、

それならば影から忍び寄るまで。


俺は再び瞬間移動して、バス停近くの建物の上を陣取った。

慎重に奴らの様子を伺うと、ココアが上着を脱いでグレーのタンクトップ姿になっており、

代わりにフジミヤが薄桃色のワンピースを着ている。

どうでも良い事だが、俺が切り裂いた胸を隠すつもりなのだろう。

あれはあれで目立ちそうだが。


それにしても、フジミヤの再生能力は評価に値する。

評価に値するだけに、手を組む事が出来ないのが残念だ。

不死身の体なら、他の超能力者との接触も安全に進められるものを。

口惜しさから、俺は歯ぎしりをした。


やがて、バス停に黄緑色のバスが到着する。

俺は奴らが乗車するのを確認してから地上に降り、自らもバスに乗り込んだ。

ナイフも置いてきたが、俺には別の武器が有る。

俺は自らの首にかかっているネックレスを触った。


『カチャ』


このネックレス…一見すると銀の十字架に過ぎないが、

これは特別製の仕込み武器で、展開すれば小型のナイフとして機能する。

普段使いのナイフよりもかなり小さいが、首などの急所を狙うにはこれで十分。

さあ女よ、神の選別を受ける時だ。


車内は多数の乗客で占められている。

俺は車内を見渡し、ココアを探した。

しかし、中々見付からない。


なぜだ?確かに奴等はバスに乗車したはずだ。

俺の目に狂いは無い。

あの女はどこだ?


女どころかフジミヤさえも発見出来ないまま、音楽と共にバスの昇降口が閉じられた。

まあ良い、出口付近に居れば嫌でも向こうから姿を見せてくれる。

何も焦る必要は無い。

俺は乗客を無理矢理押し退け、出口付近を目指す。

右側の優先席が偶然にも空いているので、俺はそこに座った。

右側に背を向けた席なので、必然的に車体左側を向く事になる。


バスが発進し景色が流れて行く中、

乗客同士の隙間から覗く窓の外に、フジミヤとココアがチラリと見えた。


「なにっ!?」


俺は気が動転し、思わず優先席から立ち上がった。

どういう事だ!?


この時点で俺がこのバスに乗る理由は無くなったが、

これだけ周囲に人間が多いとその質量に邪魔され、瞬間移動が使えない。

仮にこのバスの乗客が俺だけなら脱出可能なのだが。

まさか奴ら…俺から追跡されていると分かっていて乗車後即座に下車し、

俺だけをバスに閉じ込めたとでも言うのか?

フジミヤ…奴は俺とのたった数回の接触で、俺の瞬間移動の欠点を掴んだのか?


頭脳がパンク寸前となり、俺はしばらくの間呆然と立ち尽くしていた。


『クシャッ』


再度座ろうとした時、俺の靴の下で紙の擦れる音がした。

乗客が捨てたゴミを気付かずに踏んでいたらしい。

俺は普段、わざわざ他人の不始末を肩代わりしたりはしないのだが、

ガムの包み紙程度しかない、小さなその紙切れに何らかの文字が書かれているのが見え、

軽い好奇心から、紙切れを拾い上げた。


そこには、『これいじょうフジミヤくんたちにてをだすな』と書かれている。

俺は声も出なかった。

どう考えても、これは単なるゴミなどではない。

この短いメッセージは、現在俺が置かれている状況に、

完全にマッチしてしまっている。


答えは単純。

俺にウララが付いているようにフジミヤ達にも味方が居て、

その味方に俺は敗北を喫したのだ。

もしかしたらあの女…ココアが超能力者になったのかも知れないがな。


いや、この際誰だろうと構わない。

俺は新たなる超能力者との間接的な出会いに、心の中で拍手を送った。

名前も顔も知らないお前の能力に免じて、あの女は見逃してやろう。

俺は、ウララが次の超能力者候補を探し出すまで大人しくしていると決めた。


そう言えば、彼女を待たせたままだったな。

俺はウララと連絡を取るべく、ポケットからスマホを取り出す。

バスの下車を運転手に知らせる為のボタンは、既に誰かが押した後だった。


バスを利用し、アツシをまく事に成功したフジミヤとココア。

どちらの提案だったのか、はたまた第3者の介入か……?

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