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分かりやすいなぁこの子byココア

死神をやり過ごそうとドーナツショップで過ごすあたしの背後から、

突然女性の呼び声が。


「あっ、すみません!」


「いや、大丈夫です…」


「驚かせちゃいましたか?」


あれ?この声、聞いた覚えが…?


座ったまま振り向くと、すぐ後ろに紫のワンピを来た黒髪の女の子が立っていた。

ショッピングモールのゲームコーナーで会った、手相占いの子だ。


「あっ、もしかしてウララさん?」


確認を取ると、女の子はニコッと笑った。

相変わらず、顔の左が髪で隠れている。


「はい。

覚えていてくれたんですね。

あなたは、ココアさん…でしたよね?」


「そうです。

また会っちゃうなんて、偶然ですね!」


「ええ、私もまさかと思って驚きました。

お席ご一緒しても良いですか?」


ウララさんを見ると、彼女もこの店のトレイを手に持っている。

あたしは迷いもせず、テーブルの向かいを手で指し示した。


「どうぞどうぞ」


「ありがとう」


ウララさんはまた微笑み、席に座ろうとする。

落ち着きが無いと称されるあたしとは違って、

ウララさんの振る舞いは優雅で気品のある感じがした。


「ココアさんは、ここで誰かをお待ちなんですか?」


待ってると言えば待ってるけど、

これまでのバイオレンスな経緯をあれこれと説明するのもどうかと思ったあたしは、

差し障りの無い返事をしておこうと決めた。


「いや、ひとりです」


「そうですか。

私はひとを待っていまして、いつまでここに居るかは分かりませんけど…」


「誰ですか?彼氏さん?」


あたしが適当に突っつくと、

ウララさんは『えっ?』とか言いそうな虚を突かれた表情の後、

フルフルと首を振った。


「彼氏だなんて…そんな関係じゃ無い…です」


ウララさんの顔がゆっくりと沈んでいく。

ははーん、なるほどなるほど。

そういう事ね。


「どうして笑ってるんですか!?」


「えっ、あたし今笑ってました?

特に意味とか無いですよ。

すいません、気に障っちゃいましたか?」


「いえ、そこまででは…」


ウララさんはハンドバッグからスマホを取り出し、操作し始めた。

うーん、電話借りてママに連絡入れとこっかな?

あたしスマホ落としちゃってるからね。

フジミヤがちゃんと回収してくれてたら良いけど。


「ココアさん、いきなりすみませんね。

ちょっとだけ…」


ウララさんはスマホを斜めに持っていて、あたしからは画面が見えそうで見えない。

積極的に覗き見るつもりは無いけど、こうもギリギリだと気になってしまう。


「誰ですか?」


これまた軽ーいノリで聞いただけなのに、

ウララさんは抱きしめるようにして、大袈裟にスマホを隠した。

しかも、顔がちょっと赤い。

ウララさんは元々白肌が白めみたいだから、余計にそれが目立つ。

あはは、分かりやすいなぁこの子。


「もしかして、画面見えました!?」


「見えてませんけど…」


ウララさんは安心したらしく、ため息を吐いた。


「そうですか。

なら良いんです。

本当にすぐ終わりますから…」


ウララさんは、今度は絶対見えないようにとスマホを真っ直ぐ持った。

これだけ反応が大きいと、あたしのイタズラ心が黙っていない。

気にした事ないけど、あたしってエス寄りなのかな?


「ウララさんが待ってるのって、男のひとですか?」


「ええ、まあ…」


「その人の事、好きなんでしょ?」


ウララさんは少し硬直した後、スマホを持ったまま両手で顔を覆い隠した。

えっ、何これ楽しい。

ウララさんの乙女な反応可愛い!


「ココアさん、さっきからなんなんですかぁ…」


両手の隙間から、ウララさんのか細い声が漏れてくる。


「スマホ操作してるウララさんが嬉しそうだったから。

同じオンナなんだし、顔見れば分かりますよ」


ウララさんが両手アンドスマホのガードを解除し、あたしに顔を寄せる。


「顔で分かるって…私は手を見ないと分からないのに。

もしかしてココアさん、

あなたも見えちゃう人だったんですか!?」


見えちゃうだなんて、まるで霊能者みたいな言い方。


「いやいや、

あたし特別なスキルとか無いですよ。

誰にでも分かるくらい、ウララさんが顔に出ちゃってるんですよ。

表情って言うかリアクションと言うか…」


「そうだったんですか。

気を付けます」


いや、個人的にはそのままで居てくれるとオイシイんだけど。


「つまり、デートの待ち合わせってワケですね?」


ウララさんがあたしから目線を逸らす。


「そこまでじゃあないんですけど、急に彼に会いたくなっちゃって…」


「急に呼び出しても来てくれるような関係なんですね」


目線を逸らしたまま、ウララさんがコクッと頷く。


「羨ましいなぁ。

あたしなんかつい最近振られちゃってまして。

しかも酷いんですよー」


「ええ?それはお気の毒でしたね。

どう酷かったんですか?」


あたしが失恋話を続けようとした時、ウララさんのスマホが『ピロン』と鳴った。


「あ、彼氏さんから返信ですよ」


「ココアさん!」


ウララさんはあたしの茶化しに軽く怒りながら、スマホを覗き込んだ。


「え…?」


「どうしました?」


ウララさんの目線が、あたしとスマホを一往復した。


「いや、あのですね、彼が待ち合わせ場所を変えるとの事でして。

すみません、せっかくまた会えたのにもう行かなくちゃ…」


うーん、電話借りようとおもってたんだけどなー。

ま、恋するウララさんにあたしの都合は関係無いよね。


「あたしの事は気にしないで、早く彼のとこに行ったげて下さい。

向こうもきっと、ウララさんに会いたがってますよ。

それに、二度あることは三度あるって言いません?」


ウララさんはスマホを仕舞い、席から立ち上がった。


「それもそうですね。

ではココアさん、私はこれで失礼します」


ウララさんがあたしに対し、丁寧にお辞儀をした。

あたしなんかより、ずっと育ちの良さそうな子だな。


「あ!」


席から離れて出入り口に向かうウララさんが、途中で立ち止まった。

黒い髪を翻してあたしに振り向く。


「ココアさん、私のドーナツ差し上げます!

ひとくちも食べてませんし、持ち帰って貰っても結構ですのでー!」


そう言えばそうだった。

ウララさんは席に着いてから、ドーナツを触ってすらいない。


「はい!

ありがとうございます。

ウララさんお元気で!」


こうしてウララさんが居なくなり、あたしは独りに戻った。

あたしはみっつもドーナツ要らないし、テイクアウトしよっか。

でも無断で夕食をすっぽかし、

更に余り物まで持って帰ったんじゃあ、ママの目が気になる。

こっそり隠しといて、明日の朝ごはんにしよっかな。


ウララさんから貰ったドーナツについて考えつつ、自分のドーナツをパクリ。

こっちは最初のと違い、チョコでコーティングしてある。

チョコも嫌いじゃないんだけど、プレーンが十分美味しいから無くても良いな。

ああ、ウララさんのきな粉っぽいのも気になってきちゃった。

どうせ最後は全部自分で食べるんなら、半分ずつにしてもいっかなぁ?

あたしは適当に、きな粉ドーナツを両手でちぎった。


「おーい!ココア!」


指に付いたきな粉を舐めていると、誰かがあたしの名を叫んだ。

あたしが良ーく知っている声。

大慌てであたしの席に駆け寄って来るのは、他の誰でもないフジミヤだった。


「フジミヤ!?」


周りの客や店員が、あたし達の騒ぎに注目している。


「やっぱりここに居たか。

ココア、ドーナツ食ってる場合じゃねえぞ」


「あんた、なんでここが分かったの?」


「良いから来い!」


フジミヤはあたしの問いに答えもせず、あたしの左手を握ってグイッと引っ張った。


「あっ」、ちょっと」


あたしは半ば強制的にだけど、席から立ち上がった。

事情は分かってる。

きっと、あいつがまだあたしを狙ってるんだ。

ドーナツ達を連れて帰りたい気持ちをきな粉と一緒に飲み込み、

あたしはフジミヤに逆らわず、ふたりで店を後にした。


フジミヤと合流出来て安心したからかな?

こんな非常事態な時に何を呑気な…とは自分でも思うけど、

あたしはウララさんに密かなエールを送った。

ウララさんと彼氏さん、上手くいくと良いな。


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