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悪い選択しゃないでしょbyココア

フジミヤに助けられ、死神を名乗る男から逃げ延びたあたしは、

まず家に帰ろうとしたけど、途中で踏みとどまった。


フジミヤがあのまま死神を取り押さえて、

警察に突き出してくれてれば万事解決なんだけど、

もしそうじゃなかった場合、あたしを追って来る可能性が高い。

死神につけられたまま帰宅してしまうと、当然住所がバレる。


最悪のケースだけど、

あたしだけじゃなくパパとママまで狙われる事になるかも知れない。

そんなの嫌だ。

交番に駆け込もうにも安直過ぎて、待ち伏せされてたらどうしようもない。

だからあたしは直接家に帰らず、どこかで死神をやり過ごす事にした。


カラオケ?ううん、密室だといざって時に逃げ場が無くなっちゃう。

女子トイレ?これも密室だし、モロ犯罪者のあいつが女子トイレ程度で怯むかな。

むしろ、ある程度人目に触れる場所のが良いかも。

死神がいつからあたし達をつけてたかなんて分かんないけど、

わざわざ路地裏で襲って来たくらいだから、あまり目立ちたくはないはず。


安地を求めて夜の街を小走りしていると、ドーナツのお店に目が止まった。

ただ販売するだけじゃなくて、店内でお召し上がり出来るお店だ。

ここならそれなりに人が居るし、ある程度は男子が入りにくい雰囲気もある。

それにあたし、ラーメンとかチャーハンの中華よりスイーツのが好き。


この後どれくらいで家に帰れるかなんて分かんないし、

死神との逃亡劇が長丁場になる事を考えて、

ここでエネルギーを補給しておくのは悪い選択じゃないでしょ。

スマホは落としてきちゃったけど、財布はちゃんとある。

あたしは満を持して、ドーナツのお店の自動ドアをくぐった。


香ばしい小麦の香りが鼻から脳に伝わり、あたしを誘惑する。

四角いテーブルと四角い椅子が並び、店内は四角だらけ。

客はそんなに多くない。

レジに併設されたショーケースには、色とりどりのドーナツがズラーッと並べられている。


テキトーにドーナツを2個と、豆乳オレを注文。

商品を乗せたトレイを受け取り、代わりにお金を払う。


「ごゆっくりどうぞー」


どこに座るかも考えた方が良いんだろうけど、気にし過ぎてもね。

とりあえず、出入り口から遠過ぎない目立たなさそうな席を選んだ。


ようやくひと息つけた所で、あたしは自分の首にそっと触れる。

死神に付けられた2箇所の傷はとても小さく、

出血はとっくに止まっていて、乾いた血がポロッとはがれ落ちた。


「乙女に傷を負わせるなんて、ホンットにサイテーな外道よね…」


こないだ買ったストール、巻いてくれば良かった

あたしは豆乳オレをズズズとストローで吸いながら、逃げ出した時の事を思い返した。

超能力か何かとしか思えない瞬間移動をする、凶悪変質者の自称死神。

あたしにぶら下がって、駐車場から落っことそうとしたのもあいつだったんだ。


なんだか恥ずかしくて口には出せないけど、

自分から死のうとするのと他人に殺されるのとでは全然違くて、

駐車場の時は死ぬ気なんて無かった。

イヤーな出来事から…生きる事から目を背けたくて、

暫定的に『死にたい』って言ったんだと思う。


今日のは襲われたから当然だけど、全然死ぬ気なんか無くて、

ナイフがあたしの首を狙ってるのが、ただただ怖かった。

でも、それ以上にフジミヤがあたしを見捨てるのは、もっと嫌だった。


正直、今のあたしは失恋から来る孤独感や喪失感をフジミヤで埋めている。

飛び降り自殺したあたしを受け止めてくれたことから始まり、

一緒に遊びに行ってくれて、危ない所をまた助けてもらったりして。

フジミヤがあたしをどう思ってるのかはまだ分かんないけど、

あたしに凄く優しいのだけは確かだ。


だからこそ、あたしはフジミヤの本心を知りたくて、

近道するフリをしてまで、ふたりっきりに持ち込んだ。

そこに、あの自称死神が現れたワケ。


大事なとこを邪魔されたあの時の怒りが蘇り、

それを食べ物にぶつけるような気分で、

あたしはトレイの上のドーナツを掴み、ガブッと噛み付いた。

ドーナツの表面がサクッと小気味良く潰れ、

砂糖の甘みと、歯ごたえのある生地のモチモチ食感があたしに至福をもたらす。


「うーん、やっぱりチャーハンなんかよりこっちね」


家ではママの手料理が待ってるっていうのに、

あたしはすっかりドーナツの虜になってしまった。

まあぶっちゃけると、これまで主婦らしい事をほとんどしてこなかったママは、

まだまだ料理が下手だ。

残飯処理はパパに任せて、あたしは今を楽しんじゃおう。


ドーナツで気がまぎれたあたしは、また回想に戻る。

あたしがあそこから逃げ出せたのは、

死神が着信に気を取られたからってのは勿論だけど、

それ以上にフジミヤの活躍が大きい。


あの時あたし自身が諦めかけてたから、

フジミヤが迷わず突撃して来てくれたのは、凄く嬉しかった。

良かった、あたし見捨てられてなかったんだ、って。

ちょっと大袈裟かもだけど、あたしは三度もフジミヤに命を救われていて、

これについては感謝のしようがない。


ただ、どうしてフジミヤがこれ程あたしに構ってくれるのかが謎。

あたしが試しに迫っても、フジミヤはかわそうとしてくるし。

彼女さん(推測)を亡くしてるらしいから、自殺だったり死神だったりと、

生死との縁が強いあたしをほっておけないのだろうか。


それとも、ホントはあたしが好きだけど、

照れ屋さんだから言い出せないのかな?

だとしたら、時間は待ってくれないんだから、

男らしくスパッと行けば良いのにって思う。


…他人事みたいになっちゃった。


「はあ…」


フジミヤの本心が知りたい。

あいつは次の恋をって言ったけど、

あんたの事が気になってたんじゃあ、次に進めないじゃん。


てか、フジミヤは今どうしてるんだろ?

死神を上手く取っちめられているだろうか。

不死身らしいから本人の心配は要らないだろうけど、

死神をなんとかしない限り、あたしにもフジミヤにも安息は無い。


あたしは豆乳オレのカップを手に取り、ストローの先端を咥えた。


「あのー…」


「ぶっ!」


誰!?

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