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つまり損得は表裏一体byフジミヤ

目当てのラーメン屋で、俺は予定通りに激辛ラーメンを堪能。


「っあー、ウマかったー!」


ゴトンと音を立て、ほぼ空っぽのどんぶりをカウンターに置いた。。


「激辛ラーメン完食したぜー!これでタダだよな?」


「はい…」


カウンターの向こうの店員は心なしか青ざめていて、返事の声も小さい。


「ねえフジミヤ、ホントになんともないの?」


隣の椅子に座るココアも眉を潜めている。

そんな顔で見られても、俺は単にラーメンを食べただけなのだが。


「全然平気だったぞ。

辛いのと痛いのとは近いらしいからな。

痛みを感じないと、辛さも感じないんだろ」


俺はカウンターのちり紙を一枚取り、口を拭きながら答えた。


「凄い体質ね…」


ココアは自分が注文した半チャーハンをレンゲですくう。


「羨ましいか?」


レンゲを口に運ぶのを途中で止め、ココアは俺の方を見た。


「ビミョー。

あたし辛いの苦手だけど、

そもそも食べようと思わないし。

ドーナツとかスイーツが好きだから、太らない体質が良いな」


言い終わると、ココアはレンゲごとチャーハンを頬張った。


「そうか。

まあこの体も、良い事ばっかじゃないしな…」


今回みたいに、

(特に挑戦系の)激辛ラーメンをあっさりと平らげられるのはオイシイが、

これを裏返せば、食べ物の辛さを全く楽しめない欠点にもなる。

つまり損得は表裏一体なんだが、

せっかく持って生まれた体質だ、しっかり活用させて貰わなきゃな。


「ねえ、それ何?」


ココアが俺の胸元を指差す。

まだチャーハンが口の中に残っているらしく、声がこもっていた。


「それってどれだよ」


「首になんか下げてるでしょ?」


直接言われて、俺は思い出すと同時に自分の胸元を触った。

確かにココアの言う通りで、俺の首には金色の紐がかかっている。


「ああ、これか」


生まれ付き痛みを感じない体質の俺は、肌の触覚も鈍い。

その為、ポケットから物を落としても気付くのが遅れたり、

今回みたいに肌に直接身に付けた物の存在を忘れてしまう。


「あんたがアクセサリー付けるなんて意外」


「アクセサリーっつうか、お守りだな」


俺はココアに直接見せようと、金色の紐に手をかけ首から外した。


「お守り?」


「ヨシトモから貰ったんだ。

交通安全祈願だってよ」


首から外したお守りを、ココアと俺の間に置いた。

お守りは少しオレンジがかった鮮やかな赤色で、

中央に交通安全の白文字が書かれている。


「ヨシトモってあんたの友達の?」


「そう。

今日も俺と一緒に居たろ?あいつ、やたら俺に親切なんだよなー。

あいつから俺への恩も有るっちゃ有るけどね」


ココアは俺のお守りを手に取り、軽く観察している。


「ふーん。

でも友達にお守りって、なんて言うか年寄りっぽくない?

あたしだったらもっとオシャレなのが良いな」


「俺は貰えるもんは貰うぞ。

別に損しないし」


工夫の無い地味なデザインに飽きたのか、ココアがお守りを俺の前に置く。

そして、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた。


「どうせすぐ壊しちゃう癖に」


「仕方無いだろ。

生まれ付き加減とか分かんねえんだから」


「おお怖い怖い。

あたしも気ぃ付けよっと」


「どういう意味だよ」


ココアは俺の質問を無視し、チャーハンを口にした。

元々量の少ない半チャーハンを注文してたとは言え、

ココアが一口で食べる量は、俺からすればやけに少なく見える。

気になるので、ちょっと指摘する事にした。


「ココア、やけに食うの遅いな。

俺、ラーメンだけじゃちょっと足んないんだわ。

要らないならそのチャーハン、俺が貰うぞ」


ココアは目線を沈め、少しの間考えた後、

「んー、じゃああげる」と言って、

俺にチャーハン入りの小さな器を差し出す。


「ありがとな」


俺は器を受け取ると、

乗っかっているレンゲをラーメンのどんぶりに移動させ、

その代わりとして、自分が使っていた割り箸を握った。

このレンゲを使うと間接キスになるが、俺にそんな趣味は無いからな。


「しっかしココア、本当にちょっとしか食ってないな。

腹減ってなかったのか?」


「あんま食べ過ぎると、ママの料理が入んないから」


俺は一瞬混乱したが、理解はすぐに追い付いた。

初対面の時点では、ココアの両親はあわや一家離散の状態だったが、

なんやかんやあって、三人は家族の絆を取り戻している。

それで、量の少ない半チャーハンにしたワケか。


「ママは手作りなんてしてくれない、って言ってたよな」


「昔はそうだったんだけど、あの後ママが

『これからココアの母親をやり直す!』って張り切ってて、

毎晩あたしの好きな料理作ってくれるの。

料理教室にも通い始めてさぁ、もうビックリ」


自分の親の話題な癖に、ココアはさも驚いたような調子でそれを話している。

その様子を見て、俺は安心感を覚えた。


「良かったじゃないか、ココア。

お前もママ同様、一人っ子としてやり直しだな」


悪口のつもりじゃなかったんだか、

ココアが少しばかりふくれっ面を見せる。


「子供扱いしないでくれる?

フジミヤもあたしも同じ高1なんだから、、そんなに変わんないでしょ」


「わりい、ココア。

ただ、どっちがいくつになっても親は親、

子供は子供なんだなって思っただけだよ。

実際、お前だって嬉しいんだろ?」


ココアがカウンターに頬杖を突く。


「まぁねー。

ちょっと遅かった気もするけど…」


ココアは何か物思いにふけっているようで、遠い目をしている。

その間に、俺はチャーハンをかき込んだ。

小さいエビが口の中でプチっと弾け、チャーハンの旨味と混ざり合っていく。


「ねえ、あたしの話ばっかしてるけどさ、あんたんとこは良いの?

そんなに食べたら絶対晩ご飯入らないでしょ?」


「おれんいおおあああいあああ…」


俺はすぐに返事しようとしたが、

これじゃあモゴモゴ過ぎて全く伝わらない。

ココアも呆れた顔をしている。


「後で良いから食べちゃってよ…」


俺は謝る代わりのジェスチャーとして左手をココアにかざし、

チャーハンをゴックンと飲み込んだ。


「わりいわりい。

俺んち共働きだからさ。

帰りもおっそいし、一人で食う事も多いんだ。

今夜もそうだから、特に問題無いぞ」


「へー。

じゃあ門限とか無いの?」


「ん、まあ実質無いようなもんだな」


「ほうほう…」


ココアがニヤリと微笑み、目を細くして俺を見ている。


「な、なんだよ?」


「いーや、なんでも?」


ココアはいかにもわざとらしく、大げさに目線を逸らした。


「おいおい、嘘つくなよ。

絶対なんか企んでるだろ。

またどっかに俺を連れまわすつもりじゃないだろうな」


「そんな事しないわよ。

今日はあんたが主役なんだし」


今日は…ってのが物凄ーく引っかるのだが、

ココアはこういうヤツなんだと諦め、

俺はこれ以上の追求を止めた。


「フジミヤ、この後どーすんの?」


「ん?帰るつもりだけど」


ココアは「えっ?」と漏らし、目を丸くして驚いている。

今更だが、こいつってコロコロ表情変わるよな。


「どうしたココア」


「いや…せっかくあたしが付き合ってあげてんのにさ、

ラーメン食べただけで解散しちゃうのっておかしくない?

どっか寄り道とかしないの?」


「お前、主役にケチ付けんのかよ…」


ココアは俺に身を寄せ、制服の左腕を掴んだ。


「いやいやいや、あんたの方が変だって。

これってちょっとしたデートなのよ?

それでも健全な男子高校生のつもり?」


…特に本人の居る前で絶対口に出しはしないが、

ココアが片思いの先輩に見限られた理由の一端を、

今俺は垣間見た気がする。

多分、こいつ重いんだ。

相手への要求とか期待とか、そんなもんが。


仮に俺がココアと交際したとして、

それが長続きするかどうかについて、この調子では疑問が残る。

不死身で無痛の異端児な俺が、

果たして健全な男子高校生の内に入るのかという、

全く別の疑問もあるのだが。


「あんたさぁ、ホントに生えてんの?」


ココアは俺から離れ、自分が元居た椅子にドカッと座る。


「性別まで疑うのかよ…」


「そうしなきゃ、

今度はあたしの魅力が揺らいじゃうじゃない」


「オンナも大変なんだな」


俺は話の論点をなんとかココアに押し返し、

残りのチャーハンを平らげる。

元々量の少ない半チャーハンな上にココアの食べ残しだから、

空っぽになるのはあっという間だった。


「他人事にしてると、あんたもこの先苦労するわよ。

人間の半分はオンナなんだから」


俺は器に残った米粒を割り箸でつまみ、口に放り込んだ。


「そりゃどーも」


「あっ、生返事!」


「ごちそーさま!じゃあ会計すっか。

俺は激辛ラーメン完食でタダだから、ココアの半チャーだけだな。

こないだの代わりに俺が払おうか?」


このこないだってのは、

ショッピングモールのフードコートでの口約束の事。

俺のおごりにすると言ったのだが、

ココアが一時的に失踪してそれどころじゃなくなったので、

約束も反故になっていたのだ。


「これくらい自分で払うわよ。

また今度、もっと高い出費の時におごってもらうから」


「なにっ!?

いやいや、ここは俺に任せてだな…」


高い出費と聞き慌てる俺を見たココアは、

軽く握った左手を口元に当ててクスクスと笑っている。

しかし、また今度と言うセリフはいかにもココアって感じだな。

要するに、またふたりで出かけましょって言いたいワケだ。


「ジョーダンよジョーダン。

あたしだって鬼じゃないから、加減はしてあげる」


「ジョーダンになってないぞ…」


「じゃ、帰ろっか」


「だな!」


ココアが先に立ち上がったので、俺もそれに続いた。

俺とココアはふたりで、店内出入り口付近のレジ前に並ぶ。


「俺タダっすよね?」


「ええ、はい…」


レジを打つ店員は、どこかオドオドしているように見える。


「あんたの一気食い、凄かったわね…」


俺達は会計を済まし、店を出た。

そろそろ7時くらいになっただろうか。

外は既に暗く、あちこちに立てられた街灯のおかげで視界が確保されている。


「いやー、結構美味かった。

案内してくれてありがとな、ココア。

俺多分また来るわ」


店を高く評価しただけなんだが、ココアはなぜか俺をジト目で見てくる。


「フジミヤはもう、ここに来ない方が良いと思う。


下手すりゃ出禁食らうかもよ?」


「え?」


出禁だなんて、知らぬ間に何か重大なマナー違反でもしてしまったのか?

俺には、ココアの言った意味がさっぱり分からなかった。


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