宙を舞う瞬間、俺は考えたbyフジミヤ
「やな夢見ちまったぜっ!」
目覚めの悪さを愚痴りながらも、遅刻を回避すべく歩道を爆走する俺。
大きく膨らんで曲がり角を右折した時、
前方10数メートル先にある障害が立ち塞がった。
リーゼントかなんかの変な頭してるデカい不良に、
いかにも大人しそうなやや髪の長い男子生徒が胸ぐらを掴まれているのだ。
カツアゲか八つ当たりか。
どちらにせよ正義感の強い……のもそうだが恐怖心を持たない俺は被害者を守る為、
すれ違いざまに大人しそうな奴の腕をガッチリ掴んで奪い取る。
そのまま爆走を続けた。
「てめっ!」
「あっ!」
しまった、俺の『大事な物』を落としちまった!
だが2つの理由から後戻りは出来ねえ。
遅刻の回避と、被害者の安全確保だ。
『ベコッ』
踏み潰しやがっただと!?
あいつ、俺の『大事な物』をよくも!
「前見て前!」
「ん?」
俺に引っ張られている被害者が何やら叫ぶ。
言われた通りに前を向くと赤信号。
しかも右から自動車がかなりのスピードで突っ込んで来る。
呑気に青信号を待ってたら遅刻は確実だ。
「うわぁ!?」
つまりこうするしかない。
俺は被害者を巻き込まないよう、進行方向へとぶん投げた。
『ゴッ』
宙を舞う瞬間、俺は考えた。
あの時も不死身だったら、今朝の夢だって単なるのろけで済んだのに。
そして着地。
「人が轢かれた!」
「誰か救急車呼んで!」
『パシャパシャ』
「写真撮るな!」
「うるせぇ!」
怒号と共に俺が立ち上がって見せると、周りは静かになった。
俺は再度走り出す。
「君!救急車を!」
「要らねっす!俺不死身なんで!」
痛みも感じないっす!
「はあ!?」
さっき投げた被害者を横目に、俺は高校を目指した。
どれくらい走っただろうか、遂に校門が目の前に現れる。
俺は歓喜のあまりに両手を高く上げ、
マラソンのゴールテープを切るような気分で校門を通過した。
周りの騒めきも今は選手を祝う歓声に聞こえる。
寝坊こそしたが、遅刻まではせずに済んだぜ。
俺は徐々に速度を落とし、終いには徒歩の速度で校舎に入った。
階段を登り、俺の教室である一年A組の前に辿り着く。
そしてここで、俺の意識がフッと遠のく。
「あ…」
俺不死身だけど、流した血は戻って来ないんだよね。
つまりは……貧、血。
フジミヤは登校途中、リーゼントヘアの大柄な不良から大人しそうな生徒を救い出した。
赤信号を無視して自動車に轢かれるも平然と立ち上がり、俺は不死身と言い残して走り去る。
フジミヤが落とした『大事な物』を踏み付けた辺りからして、
彼は不良から恨みを買ってしまったようだ。
猛ダッシュで登校し遅刻は免れたものの、不死身にも穴がある……貧血で倒れたフジミヤ。
彼が次に目を覚ました時、そこは高校の医務室だった。