薄いプライド
冒険者の生業の大半を占めるクエスト。
それは国などの地位のある人間から一介の子供たちまで、どんな人間でもギルドを通じて発行できる依頼。
そこには「最近、国の大事な貿易ルートがモンスターで溢れている。一掃してほしい」とか「村の畑に夜な夜な小さなモンスターが作物を食べに来て困っている。追い払ってくれ」などの討伐クエストというものが多く存在する。
しかしそれでけではなく「回復ポーションを作りたいのだけど、薬草が足りない。取ってきてほしい」などの、対象物を探して持って帰るような採取クエストというものもあるのだ。
中には、誰でも発行できるというだけあって「一日買い物に付き合ってほしい」とか「子供を見ててほしい」とか、それ冒険者じゃなくてもよくね? みたいなクエストもある。
そんな感じで、採取クエストもあるのだからこの試験でもモンスタードロップ以外の武器入手方法があるはずという考えのもと、僕たちは団子状態で戦闘している冒険者の脇を通り過ぎていく。
先ほどから冒険者たちが目の敵のようにモンスターを倒していくので、道をスムーズに進んでいくことができる。
ちなみにこの世界のモンスターは魔力だまりという、この星からあふれ出た魔力が一定量を超えると発生する空気中の魔力が飽和した場所に自然発生する。
しかし今はモンスターが湧くそばから倒されるので、比較的安全で僕みたいな戦闘を避けたい人間にはちょうどいい。
そんな中を歩きながら、
「そういえばシンリ、なにか考えはあるの?」
「そうだなあ……」
マフラの質問に、僕は答えあぐねる。
どうするも何も武器を頑張って探し出すだけなのだが、
「この一本道に、物を隠せそうな場所ってないからな」
「そうよね。舗装された洞穴みたいなところだし」
ルーカンス一本道はすでに冒険者に攻略しつくされ、というかされすぎてもう最初の地形をもゆがめてしまっている。今はきれいさっぱりしただだっ広い一本道だ。
そんな場所のどこに、ギッシュは武器を隠したというのか。
僕は改めて周りを見渡すが、一本道の名の通りほかの道など存在しない。
その事実に落胆しながらも、少しずつ前に進んでいく。
そしていまだ何も見つからないこと数分。
「あ、あの二人」
「ああ、セイナとピニャじゃない」
前からこちらに向かって歩いてくる二人の姿を見つけた。
そして向こうもこっちに気づいたのか、小走りで寄ってくる。
「シンリとマフラ、どう? 順調?」
ピニャがそう聞いてくるが、僕とマフラは、
「「まったく順調じゃない(わ)」」
ストレートに今の状況を話す。
しかしピニャもセイナも驚いた様子もなく「そうよね」みたいな反応だ。そして俺に向けられる「わかってる」と言わんばかりの視線。
「別に僕がお荷物なわけじゃないからな? な? マフラ」
「この武器は飾りなんだ! とか言ってたのはどこのどいつよ? んん?」
先ほどの縋り付いた時のことを言っているのだろう。
「まあ、シンリがお荷物なのはわかってますから」
「お荷物シンリ」
「僕の名前がお荷物みたいじゃないか」
セイナとピニャに結局お荷物呼ばわりされてしまう。しかし僕はそんなことよりと、二人に問う。
「二人はどうなの? もう回収できたのか?」
その声に二人は顔を見合わせ、どこか誇らしげに胸を張る。
そしてセイナが腰の後ろに巻きつけたものを取り出し、目の前に掲げてみせる。
「どうですか? 一つ手に入れました!」
「このくらい楽勝」
二人とも普段より弾んだ声でそう応える。
そんなセイナの手には、独特な文様が彫られた短剣があった。
それを見た僕たち二人は、
「マジか⁈ ……はあぁぁぁ……、僕もセイナたちと組んでいれば今頃……」
「なによそれ! 私のセリフなんですけど⁈」
お互いに組む相手を間違えたと、喧嘩を始める。
しかし僕たちの喧嘩を見ていた二人は「やっぱり」と、クスクス笑う。
その予想外の反応にさすがの僕とマフラも、頭の中に?マークを浮かべ、困惑する。
もしかして「お前たちのような質の悪い冒険者には不可能で当然! おーほっほっほっほっ!」とか高笑いでもするつもりか?
そんな最低な妄想をしていると、セイナが呼吸を整えて、
「あー、すみません。ただ二人が思った通りすぎたからおかしくて」
僕たちはいまだにポカンとしていたのだが、そんな僕たちにセイナがその短剣を差し出す。
「はい。どうぞ。お二人にあげます」
「ありがたくもらうといい」
セイナとピニャはごく自然にその短剣を差し出すのだが、さすがにこの言葉には僕たちも我に返る。
「え? くれるの?」
「だってそれって二人が手に入れたものでしょ?」
「はい、そうですよ。でもあげます」
セイナが「あげる」と僕の前に短剣を突き出すが、
「ま、待ってよ!」
「どうしました?」
「……えーっと、いや……だってさ…………」
その僕の反応にセイナがため息を漏らす。
「だいたいシンリの気持ちも察せますよ? でもギルドでも言ったと思いますけど、シンリはここで落ちたらもう冒険者にはなれないと思いますよ?」
セイナは再びギルドと同じことを言ってくる。
つまり自分のことよりも、僕のことを優先してくれているのだ。なぜセイナやピニャがそこまでしてくれるのかはわからない。
それにセイナの言うとおり、僕も試験に落ちれば……。
しかし僕はその重たい現実を理解しながらも、言わずにはいられなかった。
「それは受け取れない」
「……どうしてですか? 冒険者を止めるつもりですか?」
「いや、そんなつもりはさらさらないよ」
「でも」と僕ははっきりと、その短剣をセイナに押し返しこたえる。
「僕は確かに弱いし、この選定にも受かる確率は少ないよ。でも僕にも薄いかもしれないけど、プライドがある」
「仲間を犠牲にしたくないとかいうんですか? ……さっきギルドで対戦だった場合は負けてもらうことに賛成してたくせに」
セイナの鋭い指定を受けながらも、僕は首を横に振る。
「違うよ。仲間を犠牲に? 命でもかかってなければ別にかまわないよ?」
「それはそれでどうなのよ?」
即座に横からマフラのツッコミが入るが、あえて触れずに続ける。
「だから僕が言うプライドってのは、マフラのことだよ」
「マフラ?」
セイナがマフラの方を見て首をかしげる。当のマフラもよくわかっていないのか、僕に続きを促すように視線をよこす。
僕はそれにこたえるべく、口を開く。
「最初は僕を犠牲にして~とか、あの阿鼻叫喚な空間に~とか言ってたマフラが、今はこうして僕のわがままに、勝手に付き合ってわざわざクエスト達成の道を大回りしてくれてるんだ。こんな当てもなく探し回るよりも、目の前に確実にあるあの場所で戦った方がずっと達成の可能性は高いはずだよ」
僕は一度息継ぎをし、
「だから、そんな無理に付き合ってくれる、僕のいう可能性を信じて付き合ってくれるマフラに申し訳ないから。その短剣は受け取れない」
僕はきっぱりそう言い切る。
もしかしたらマフラから「バッカやないの?」とか言われるかなと、ゆっくりマフラに視線を移す。
するとそこには、笑顔のマフラがいた。
「それでこそシンリよ! むしろ受け取ってたら失望してたわ!」
心底嬉しそうにそういって、僕の背中をバンッとたたく。痛いからやめてほしい。
背中をさすりながらマフラに抗議をしていると、セイナが口を開いた。
「そうですか……。少しシンリを勘違いしてたかもしれません」
そういって少し落胆するようなしぐさを見せたが、セイナはすぐに顔をあげ、いつものセイナとは少し違い可愛らしく僕を指さし、
「わかりました。だからもう手は貸しません。けど、私はシンリがこの試験に受かるって信じてますからね?」
「あ、安心しなよ。プライドにかけて見つけ出すから」
僕はそのいつもと違うセイナの可愛らしさにドキッと動揺しながらも、ちゃんと断言する。その言葉を聞いたセイナは「はい」と満足げにうなずいた。
「ピニャもいいでしょ?」
「シンリがいいならいい」
セイナはピニャの了承も得たところで短剣を再び腰に巻きつける。少しもったいないことをしたとは思うが、これだけは曲げられない。
だから僕は二人に別れ告げる。
「それじゃあ二人とも、またギルドで会おう」
「また冒険者として、ですからね」
セイナがそう答え二人は出口へと向かって歩き出す。
そして僕とマフラも正反対の方向――ダンジョン最深部に向けて歩を進めていった。
――絶対に見つけてみせる!
先考えてないやつだったので、やめます。
時間があれば、そのうち再開するかもしれません。
見ていただいた方はすみません。