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ルーカンス一本道

 ルーカンス一本道。

 そこはこの街の周辺におけるダンジョンでは最低難易度と言われている。

 名前の通り、ダンジョンの入り口からは最深部まで長い一本道が続いている。

 しかし道といっても、細々としたものでなく、その中はだだっ広い空間が連続して続いているといった感じだ。

 昔は普通にあるダンジョンよろしく、細く暗く曲がりくねった道が幾重にも存在し、一本道という名前でもなかったらしい。しかし難易度が低いということもあり、冒険者たちがこぞって潜入を繰り返していくことで、その戦闘の際の余波がだんだんとダンジョン内の壁を削っていき、今ではすべての道がつながり大きな空間となってしまったのだ。

 熟練の冒険者が通うダンジョンならともかく、冒険のいろはもまともに知らない駆け出し冒険者たちは、自分の放った物理攻撃や魔法が薄いダンジョンの壁に与える影響など考えないのだろう。

 まあ、こういうところでダンジョンの崩壊の原理を知り、次からはしないように成長していくのだろうから、仕方のないことだ。

 そんな見通しの良くなってしまったルーカンス一本道に、僕は今いるのだが……。


「そりゃ、こうなりますよねー」


 目の前では街の冒険者たちが目算で六十人近くがひしめき合ってダンジョン探索をしていた。


「おいコラテメェ! 火飛ばしてんじゃねぇよ!」

「何言ってるのだ! むしろ貴様の雑な剣さばきが邪魔くさいんだが⁈」

「ちょっと! 誰か今、どさくさに紛れておしり触りましたよね⁈」


 阿鼻叫喚。まさに地獄絵図である。

 こうなったのはもちろん、先刻唐突に告げられたギッシュのクエストのせいだ。

 内容はギッシュがダンジョン内に残した武器の回収。

 武器には一様に独特の文様が彫られていて、それがある武器がギッシュのいう回収対象だ。

 そして今目の前では、


「スケルトンに武器持たせるとか頭おかしいのか?」


 僕の目の前で繰り広げられる戦闘において、冒険者と骸骨のモンスター・スケルトンの間には致命的なまでに武器の差があった。

 僕たち冒険者側が持っているのは基本、街で買えるような武器やそれを少し強化した程度のものである。

 中にはなにか特別な素材で作ったのか、いい武器を持っていて習熟した冒険者もいたのだが、彼らはすでに武器を回収して、今頃街についていることだろう。まさに冒険者としての質が違う。

 一方スケルトンは、明らかに業物とわかる高そうな武器。そしてそれにはギッシュの言っていた文様も彫られている。

 パリィをしようものなら、冒険者の安物の方が消耗していく速度は速い。

 もちろんできるだけかわしながらという選択肢も本来ならあるが、


「ふざけんな! あれは俺が一番に見つけたんだ!」

「はぁああああ⁈ この広い空間で一番もクソもねぇよ! 最初から全員見えてたつーの!」

「見つけた順じゃなくて、手に入れたもの勝ち」


 見通しの良いこの空間では、誰かが回収する武器を見つければ、だいたい他の誰か気づく。

 そしてこの場合、それぞれのペア同士が互いを牽制しながら、我先にとモンスターに武器を振りおろし、魔法を放っていくのだ。

 そうすると自然と一カ所に大人数が集まり、団子状態になってしまうのだ。

 ほかにもモンスターが武器を持っているらしく、中にはスライムに回収対象の槍がぶっ刺さっていたりする。

 とにかくモンスターからのドロップを狙うということは、あの阿鼻叫喚な空間に身を投じなければいけないわけで……。


「マフラさん、他をあたりません?」


 僕は、実際のところモンスターとの戦闘というよりは冒険者同士の戦闘になってしまっているあんなところに足を踏み入れたくないと、隣にいるマフラに提案する。

 しかしマフラは目をキラキラさせながら、


「シンリ今すぐ突っ込むわよ! こんな体験なかなかできないわ!」

「嫌だよ? 絶対行かないからね?」

「何でよ⁈ 熟練の冒険者と剣を交えて、自分の力量を試すチャンスじゃない!」

「それもう目的が変わってるんじゃ……」


 マフラは何を思ったのか自分の力を試してやると、集団の中に突っ込んでいこうとする。

 しかし僕はそれを必死に引き止める。


「ちょっと放しなさいよ。アンタがいかなくてもアタシは行くから!」

「そんな⁈ マフラに行かれたら僕をだれが守ってくれるのさ?」

「アンタはもう少し自分で戦いなさいよ⁈」


 マフラが言っていることに間違いはないが、それでも僕が自分を守るのは無理だ。

 なんせ冒険者になってから丸一年、ずっとマフラたちの後ろに隠れて、後援に徹していたのだから。

 だから僕はマフラの服を引っ張って放さない。


「そんなこと言わないで守ってよ! 僕武器持ってるけどこれまともに振れないからね?」


 腰に刺さったくだものナイフよりは大きな、しかし短剣としては短い部類の武器をコンコンと示す。

 何を隠そう、これはただの飾りである。ちゃんと武器としての性能はあるが、振れないなら飾りと同義だ。

 

「ならもっと強くなりなさいよ!」

「それができたら苦労はしない。というか苦労せずに強くなりたい!」

「なに甘ったれたこと言ってんのよ? むしろアンタこそあの場に突っ込んで、文字通り死に物狂いで頑張んなさいよ!」

「そんなスパルタすぎですよマフラさぁぁぁあああんっ!」

 

 僕の弱いアピールにむしろ激情していくマフラに、それでも僕は「あそこに突っ込むのだけはやめよ?」と必死に訴える。

 男が涙目で女の服の裾を引っ張るなんて情けないが、背に腹は代えられない。死にたくないのだ。

 そんなことをしていると、


「……ッ! ……………はああぁぁぁ……」


 マフラがついに諦めたように脱力し、


「……はいはいわかったわよ。戦闘は避けて、落ちてるのでも探しましょ……」

「マフラさん大好き!」

「バ、バカじゃないの! 別にアンタのためじゃないし、アタシもやっぱりあそこに突っ込むのは得策じゃないって思っただけよ!」


 僕は提案を受け入れたマフラに大げさな感謝の言葉を継げるのだが、なぜかマフラは慌てたようにそんなことをまくし立てる。


 さっきまで目をキラキラさせていたのはどこのどいつだよ……。


 反応の変わりように戸惑うが、結果として僕の命の危険を少なくすることに成功したのでよしとする。


「それで、モンスターの持ってるのは狙わないっていうならどうするわけ? まだ見つかってないはぐれモンスターでも探す?」

 

 目の前で繰り広げられる戦闘に向かわないのならどうするのかと、マフラは僕に尋ねる。

 僕は「んー」と少し考えてから、


「モンスターを探すのは現実的じゃないと思う。仮にモンスターが見つかっても、どうせほかの冒険者が群がってくるのは目に見えてる」

「じゃあどうするの? このまま冒険者やめる?」

 

 冗談めかして言ってくるマフラだが、そんな気はさらさらない。

 冒険者を止めるということは、誰かに寄生しながら人生が送れなくなるのだから。……まあ、それも一念で首を切られたわけだが。

 とにかく僕は冒険者を止める気はないし、それはマフラも一緒だろう。

 だから僕はマフラに現実的な案を出す。


「普通にこのダンジョンのどこかにある武器を探す。以上」


 僕的には至極普通の案をあげたつもりだった。しかし僕のあげた案にマフラは即座に否定的な発言をする。


「でも今の目の前のも含めて、すでに持ち帰られた武器もみんな、モンスターが持ってたじゅない」


 マフラの言うことは正しく、確かにすでに発見されている武器は、どれもモンスターが所持していた。

 続けてマフラが僕の案に苦言を呈す。


「それに探すって言っても、もしかしら残り何個かもわからないでしょ? あとも全部モンスターが持ってるかもしれ――」


「ない」と続けようとしたのだろうか、しかし僕はマフラの発言の途中で口をはさむ。


「大丈夫。まだ少なくとも八個は残ってるし、それを全部モンスターが持ってるとは思えない」


 マフラの考えを、僕は力強く否定する。

 僕は戦闘をしたくないとずっと入り口の近くにいたのだ。

 そうすれば自然と武器を回収して、このダンジョンを後にした人数も確認できる。

 そしてその結果、すでにこのダンジョンを後にしたのが十六ペア。

 それからいまだに武器を所持しているモンスターが、ここから確認できる範囲だが六体。

 計二十二個。

 だから残りは八個となるわけだ。それを踏まえて僕はマフラにその事実と憶測を話す。


「――そんなわけで残りは八個だと思うんだけど……。これは冒険者の資質を見極める試験なわけだから、それを踏まえて考えれば……」


 僕はそこでいったん区切り「なによ?」と先を促すマフラに教える。


「冒険者の仕事は討伐と採取。だったら採取の方もあって当然だよね?」

  

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