言い訳
僕とペアを組もうとした元パーティーメンバーの女の子三人。
その中でも、セイナとピニャの言い分はこうだった。
「シンリは弱いですから」とセイナ。
そしてそれに同調するように、ピニャも続く。
「ん、シンリは雑魚すぎるから」
「よ、弱い弱いって……僕だってやればできーー」
「そう言ってこの一年まともにできた試しがないけど?」
「うぐっ……」
ごもっともな事を言われ「できる」の言葉が最後まで出てこない。
まあ、本当に弱いので仕方がない事だ。
自分が弱いことを認めながらも、しかし僕は言わずにはいられない。
「で、でもさ。酷くないか⁈」
「なにが?」
「何がですか?」
僕が何を言っているのかわからないと言わんばかりに、セイナとピニャは首をかしげる。
まさか、この世は弱肉強食だとかいうつもりではなかろうか。
二人の反応にそんなことを思いながら、僕は声を荒げる。
「だってこのタイミングで僕という雑魚を確保って、まるで自分が冒険者として生き残るために、僕を犠牲にするみたいじゃないか!」
僕の言葉に、今まで首をかしげていた二人は「やれやれ」とでもいうかのように、その肩をすくめる。
そしてセイナが僕に向き直り、
「勘違いも甚だしいですよ。こうも私たちが信用されてなかったなんて……はあぁぁぁ…………」
心底呆れたと、頬に手わあてため息をつくセイナ。
隣のピニャも、
「弱くて想像力も最低なのに、はあぁぁぁ……なんでこんな人を……はあぁぁぁ…………」
僕を見てため息をついて、肩を落とす。
しかしそんな二人の反応を見ても、彼女たちの僕を確保しようとする意図がわからず、僕は戸惑う。
「え? じゃあ、なんで僕を?」
分からないと、僕は素直に二人に答を求める。
そうすると脱力していた二人は再びため息をつき、セイナが口を開く。
「シンリは弱いんです」
「え? ……あ、はい」
また弱いと断言され、一瞬「なにいってんの?」となるが、まっすぐ僕を見つめるセイナの瞳に茶化してはいけないと思い、その流れに従順に従う。
そしてセイナも僕の反応の後、さらに続ける。
「弱いから、もしこの選定で冒険者の資格を剥奪されれば、シンリはおそらくもう一度冒険者になることは不可能でしょうから」
その言葉を受けて、僕は疑問に思ったことを口にする。
「これって冒険者の選定だろ? だったら落ちたあと、また冒険者資格所得のための試験とか受けられるのか?」
その質問には、僕たち冒険者がペアを組むのを静かに待っていたギッシュがこたえた。
「おう、なれるぜ。しかし、今よりもずっと難しい試験が待ち受けてるだろうがな」
どうやら、クエストカウンター前で声を上げていたのが聞こえたらしい。
しかし僕はその聞き耳をたてられていたことに対して腹をたてることもなく、むしろギッシュに向き直り質問を重ねる。
「でもそれじゃあ、選定の意味がないんじゃないの?
選定で落とされた質の悪い冒険者が何度も試験とを受けに来るかもしれないし、そうなったら受かりもしない人間のために場所や他人の時間が奪われることになると思うんだけど……」
そんな僕の疑問に、ギッシュが答える。
「今度からギルドは質のいい冒険者づくりとして試験を難しくするわけだが、すでに冒険者になっている奴等の中にいる質の悪い奴はどうするか? っていうことの答えが今回の冒険者の選定ってわけだ」
「だから」と、ギッシュは続ける。
「選定の意味はなしてるし、落ちた奴等も訓練でも重ねてからまた出直せばいい。成長しない奴なんていないしな」
ギッシュの話が終わると、すかさずピニャが口を開く。
「そもそも努力とか成長とかしないのはシンリくらい」
まるで僕がなにも変わっていないかのように、そう言うピニャに僕はとりあえず事実を一言。
「身長なら〇・三センチ伸びたよ?」
「そう言う屁理屈言うところとかが、まさに成長してないことを物語ってますね」
セイナはそう呆れを示し、嘆息する。
しかしすぐに顔をあげ、先ほどの続きを話し出す。
「まあ、シンリがそんな風だからこそ、ここで落ちないように私がペアになって負けてあげようかと思ったわけです」
そのセイナの言葉にピニャも、
「わたしもそう思った。だから蹴落とすとか、それはシンリの勘違い。むしろ負けてあげるんだから、感謝してもらってもいいくらい」
そういって二人は「わかった?」と言いたげに僕の顔をのぞく。
女の子に負けてもらって、自分の立場をとどめるのはすごく恥ずかしいことだ。
しかし彼女たちならこの選定に落ちても、難しい試験も再び受かることはできるだろう。だが僕の場合は、純粋に弱い僕にはそれはできないだろうし、何より努力など面倒くさい。
だから僕は二人に向かって、微笑む。傍から見たら僕はクソッたれにでも見えるのではないだろうか。
「いやー、勘違いして悪かった。二人ともそんな風に僕に楽をさせてくれるなんて助かるよ」
「そう思うなら強くなりなさい!」
「努力あるのみ」
セイナとピニャが僕の身の変わりように、少し怒りを覚えているのかその表情は少し歪んでいて、声音も強い。
僕はそれを見てこれ以上変に刺激せまいと、僕を確保しようとしていたもう一人に目を向ける。
もちろんマフラだ。
先ほどまで騒がしかった彼女が今の一連の会話には一言も発していないのは気になるが、僕はかまわず話しかける。
「最初にマフラがペア組んで互いに戦って脱落者を決める、とか言うから焦ったよ。でもマフラも僕のことを思って、自らやられ役を買って出てくれるなんて、なんかマフラのことも勘違いしてたみたいだね」
「……」
「……ん? マフラ?」
マフラは話を聞いていないのか少し俯き、一人で何やらブツブツ言っている。
だから僕はマフラの肩に手を置き「おーい、マフラさーん!」と、揺さぶりながら呼びかける。
「……ッ⁈ な、なに⁈」
僕の呼びかけに我に返ったのはいいが、まるで予想外のことに反応するかの如く、オーバーリアクションに驚くマフラ。
「なに? じゃなくて……。さっき不安を煽るようなこと言ってたけど、マフラも僕が冒険者を辞めなくていいようにペアを組もうとしてくれたんだよね?」
「え? あ、うん。……そ、そうだよ?」
マフラは歯切れ悪く、そう答える。
あれ? 何か違和感を感じる……。
「なあ、マフラ」
「な、なにかしら?」
「さっきペア組んだ者同士が戦って、負けた方は冒険者ライフ強制終了みたいなこと言ってたよな?」
「そ、そうね」
歯切れが悪くなるマフラ。
「そのあとお前、僕のこと確保したよな?」
「そ、そうかもね」
視線が泳ぎだすマフラ。
俺はその反応にほぼ確信しながら、
「お前……、お前だけはあの場で俺のこと『自分が生き残るための雑魚』として確保しただろ?」
「ち、違うのよ?」
完全に僕から視線を外し、あらぬ方を向きながら答えるマフラ。
「その言葉がもう確信犯じゃないか⁈」
「だってしょうがないじゃない! シンリがおいしい獲物に見えたんだから⁈」
「なんで半ギレ⁈ そもそも元仲間をおいしい獲物って⁈」
「はああッ⁈ そもそもとかいうなら、アンタだって仲間に負けてもらうとか最低なことしてるでしょうが!」
「あれはセイナたちから提案したことだから最低にはカウントされませーん」
「何その理屈、意味わかんない⁈ 最低!」
そして僕とマフラはお互いに最低だのなんだの、罵り合いを始めたのだった。