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ソロ一日目

 仲間にパーティーからはぶられた翌日。


 僕は本当に困っていた。

 冗談抜きで困っていた。

 それは今朝のとりあえず新しい仲間でも見つけようとギルドに訪れた時のことだった。


 ギルドの建物の中は、昼夜問わず冒険者で溢れていて、いつ来ても騒がしいものだ。

 しかしその日はなぜかいつもの喧騒はなりを潜め、どこか沈痛な面持ちの者が多かった。

 中にはその顔に陰りのない者もいたが、どうも周りの雰囲気に流されて、談笑をができるような状況ではなかった。

 そんな異様な空気の中で、その原因を探るべく僕は受付嬢の前に踏み出す。


「あのぉ……、なにかあったんですか?」


 いつもならいい笑顔で出迎えてくれるはずの年上の女性――ミュールさんも、今日は集まっている冒険者たちの空気を察してか、苦笑いだった。


「あ、はい。おはようございます、シンリさん」


 それでもちゃんと僕の名前を呼んで挨拶を返すミュールさん。

 彼女は人より記憶力がいいらしく、冒険者の顔と名前をみんな覚えてしまっているらしい。

 だから僕のような弱い冒険者のこともしっかり知っているのだ。

 そんな彼女は冒険者たちからの人気が高い。それは彼女の麗しい容姿もあるが、それ以上に彼女の人当りが誰に対しても分け隔てなく良く、性格が明るいからだ。


 しかしそんな彼女も今は歯切れが悪く、僕に向ける目には「気の毒に……」と書かれてあるように思えた。


「それが、ですね……」

「ミュールさんらしくないですよ。何があったか教えてくださいよ」

「……はい、わかりました」


 僕が早く言うように促すと、彼女は仕方ないという感じでその全容を話してくれた。


 彼女の話を要約するとこうだ。

 近年、ギルド登録している冒険者の質が悪くなってきているから、その選定をしようということらしい。


 それを聞いた僕は叫ばずにはいられなかった。


「だ、誰なんだ! その質の悪い冒険者ってのは⁈ おかげで僕まで冒険者をやめさせられたらどうしてくれる⁈」

「まさにアンタがそうでしょうが⁈」

「うわっ! びっくりした……」


 僕のあげた声に後ろからさらに大きな声がかかり驚いてしまう。

 そして僕はその声のしたほうに目を向ける。


「ああ、なんだマフラか」

「なによ? アタシでなんか悪いわけ?」


 後ろにいたのは赤っぽい装備に身を包んだスレンダーな少女――マフラだった。

 昨日までパーティーを組んでいたが、今は元仲間の知り合いである。

 ギルドに来れば当然彼女たちとも顔を合わせることになると思っていたが……。


「別に悪いなんて言ってない。……けど、捨てた男によく平然と声をかけられるなと思っただけだ」

「ちょっと言い方! まるでそれじゃ、あ、アンタとアタシが、その……こ、こここ、ここ……」


 なんだこいつ? なんで一人で顔を赤くしてるんだ?


「こ」という言葉を壊れたおもちゃのように連呼する彼女に、僕は声をかけようとするが、その前に彼女の肩に後ろから手が置かれた。


「マフラ落ち着きなさい。周りに迷惑よ」


 そう言ってマフラをいさめるのは、水色と白色を基調としたローブを羽織った少し背の高い少女――セイナだ。そして彼女もマフラ同様、昨日まで僕の仲間だった人物だ。

 そこまでくれば、もう一人もいるのだろうと、さらにその背後に目を向けると、彼女の長身のセイナの陰に隠れるように、やはりいた。

 全身黒一色で決めたみんなより一回り小さい子猫のような少女――ピニャは、セイナの背中から水平移動するように顔をだし、


「あ、弱いシンリ。おはよ」

「弱いは余計だけどな、おはよう」


 パーティーを強制的に抜けさせられた僕と三人の少女は結局いつもと変わらず、ギルド内で顔を合わせるのだった。


 そんな風に僕たちが話していると、近くにいたミュールさんが首をかしげる。


「あれ? 皆さんは昨日パーティーを解散されたんですよね? シンリさんが弱いから」


 その後半悪意があるのでは? と疑いたくなる質問に、セイナが向き直ってこたえる。


「いいえ? 解散はしていませんよ?」

「え? でも昨日マフラさんは解散したといっていましたが……」


 そういわれたマフラは頭の後ろに片手を回し、もう片方の手を胸上にかざす。


「ごめんごめん。解散じゃなくて、シンリが脱退するだけだった」

「シンリ弱いから、仕方がない」


 そんなマフラとピニャの言葉を受けて、僕は改めて思う。


「僕、ホントにお役御免なんだな……」

「アンタが役立ったことは一度もないけどね」

「まあ、少なくとも荷物係くらいには役に立ちましたよ?」

「セイナ、それはウソ。わたしも荷物をたくさん持った」

「せっかくのセイナのフォローをつぶすんじゃないよ!」

「事実は事実」


 そんな風にマフラの棘のある言葉から、僕たちはこの一年してきたような会話を再びこの場でしだす。

 しかしそれを見ていたミュールさんは「?」というような顔をする。


「あの、ふつう誰かが力不足でパーティーから抜けることになったら、もっとこうお互いいがみ合ったりするのもなのではないのですか?」


 その言葉に僕たち四人は顔を見合わせ、


「「「「ないない」」」」


 一様に首を振って見せる。

 そして僕は応える。


「だってさ、僕の力が足りなくてなったんだし、仕方ないじゃん?」

「そうそう、シンリが弱いのが悪いんだから!」

「雑魚に用はない」

「お前らもっとオブラートに包もうって気はないの⁈」

「まあ、シンリが弱いのは本当ですから……」


 パーティーではまだ口の良い方のセイナまで「弱い」というのだから、やっぱり僕の弱さは折り紙付きなのだろう。


「ま、僕が弱くて解雇されるのと、こいつらと仲良くすることはまた別の話だしね」


 弱くて解雇されたのを理由に逆恨みして「復讐してやる!」とか、それはもう犯罪者である。


「だから、ミュールさんもそこらへん、変に気を使うことはないから」


 そういってこの話題を終了し、僕は「それより」と先ほどの冒険者選定の話に戻ろうとする。

 しかしそれより早く、ギルドの入り口に聞きたいことに答えてくれる人たちが現れた。


「諸君おはよう! 俺は領主からこの地域の冒険者の選定を任された、ギッシュだ!」



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