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テキヤが売ってる竜はトカゲです。

俺は馬車の上から、エロい・・・いやそんな余裕は一切ない。真面目な目で金髪青眼の美女を見つめた。

なんで、師匠がこんな所に。

師匠は、基本、人里離れた所にしかいない。

それ故に、天然スキル野盗ホイホイを常に発動している。こんな露出の高い美女居たら、そりゃあ襲っちゃうだろ。

ちょっと前に、石おいて逃げて手配されたのが、まずったか・・・。

「どうした正道、久々の再開に何の言葉もないのか?」

「相変わらずエロい体してますね、師匠。」

「よし、わかった、死にたいのだな。」

正直な感想を言ったのだが・・・。

「随分と羽振りがよさそうだな。」

「そ、そうですね。どうですか師匠、この馬車。」

「豪華にもほどがあるな。」

「結構、お金もありますよ?」

「ほう?」

「師匠には言葉には言い表せないくらいお世話になってますし、全て差し上げますよ。」

「殊勝な心掛けだな。しかし、そんなことを私が望むとでも?」

「いや、マジで、半端ない金額ですよ?」

そう言って師匠を馬車の荷台へ案内する。

「これが全て金だというのか?」

「はい、確認してみてください。」

「ほう、これは・・・。」

師匠が全て言い終わる前に、俺は逃げ出した。

全力で。

こう見えて逃げ足には自信がある。

一人旅するうちに、身に着けた最大のスキル(?)。


やべえな、師匠。まだ俺を追ってんのか・・・。

地獄のような修行を思い出して、俺は身震いした。

当分は大人しくしてないとまずいな。

さて、有り金を置いて来た為、金は手持ちしかない。

仕事するしかねえなあ。

ああ、暫く遊ぼうと思ってたのに・・・。

まあ命があっただけマシか。

そう思うことにしよう。


仕事を探して、小さな町を訪れると。

俺は歓待された。

「ようこそ、冒険者様。」

またかっ!

こう歓迎された時は、碌なことがない。

さっさと逃げ出したいのだが、纏わりつく村人の数が半端ない。

無理やり村長の家に連れて行かれた。

「実は、わが村は存亡の危機に瀕しています。」

お決まりの言葉にウンザリする。

日本でも小さい村はそんなもんだろ。

「多くの若者が、村を出たために、この村には未来がありません。どうか冒険者様の子種をわが村に。」

「ぜ・・・。」

是非にっ!と答えようとした俺は躊躇した。

若者が居ないんだろ?

BBAというか、また婆さん出てくるんじゃないだろうなあ。

「言いたいことは、わかるが、若者が居ないのだろう?期待に添えるとは思えんがな。」

「いえ、女は、十代の者が5人居ります。」

「ごっ、五人っ!」

俺はゴクリと唾を飲み込んだ。

「さすがに5人全員となりますと、冒険者様にも負担がかかると思いますので、気に入った者を1人選んで頂きたいと思います。」

「心配無用!5人全員面倒見よう。」

俺は童貞なのに大見得きった。

てかさ、5人って日本じゃあ、ありえんだろ?

教祖とか大金持ちになりゃあ、可能なのかもしれんが、一般人には無理。

そういやあ、無職のおっさんに、そういう風俗もあると教えてもらったことがあったなあ。

「さすが冒険者様。では、全員をお願いします。」

「任せなさいっ!」

これよ!

これじゃないと異世界はっ!

「で、五人は何処に?」

「ドラゴンに捕えられて居ます。」

これよ。

これが異世界だよ。

「あ、そう・・・。」

どの世界も共通だが、ドラゴンは強い。

いち冒険者が相手にできるものではない。

この村長、頭おかしいのか?

「ドラゴンと言っても亜種でして。」

馬鹿なの?

亜種の方が強いのは世の常でしょうっ!

「大きさも3m程度しかありません。」

ドラゴンにしちゃあ、小さい方だろう。

でも腐ってもドラゴンでっせ?

「冒険者様なら、きっと勝てるかと。」

「はっきり言わせてもらおう。無理だ。他を当たってくれ。」

「そ、そんな冒険者様に断られたら。」

すがりつく村長を無視して立ち去ろうとしたのだが、突如現れ、すがりついてきた村人合わせて10人。

み、身動きとれねえ。

気が付いたら、簀巻きにされ棒に張り付けられていた。

「な、何卒。」

俺を前にして、土下座する一同。

またか、前にあったよな、これ。

「このまま、退治に行けってやつだろ?」

「ええ、是非。」

馬鹿なの?簀巻きのままドラゴンの巣に放り込まれたら餌でしょ、餌。

「わかりました。この依頼、引き受けましょう。」

「おおー、さすが冒険者様。」

依頼を受けるだけ受けて逃げる手もあるし。

「申し訳ありませんが、持ち金を置いて行ってもらえますか?」

鬼か?鬼なの?

さすがに持ち金0で、生きていけるほど甘い世界じゃなく。日本のように保護してくれるような施設もないし。

渋々?いや、強制的に俺はドラゴン退治に出かけることになった。

ふと思うんだが、若い女たち生きてるのか?

食われてるんじゃないだろうなあ。

そんな俺の心配も杞憂に終わった。


ドラゴンの巣に忍び込んだ俺が目にしたのは。

「竜様のちょっといいとこ見てみたい~。」

人間の若い女性にチヤホヤされているドラゴンの姿だった。

真昼間から、酒なんか飲みやがって。

なんとも、だらしないドラゴンである。

本当に俺でも勝てそうだ。

まずは、敵情視察と忍び込んだのだが、なんか馬鹿らしくなった。

一旦、帰る気も失せ。

「おい、エロドラゴン。女たちを返せ。」

俺は堂々と姿を現せた。

「んあ~?人間風情が何用だ?」

ドラゴンと人間が扱う言語は違う。

しかし、この世界の言語は、意思伝達言語で成り立っている。その為、ドラゴンと会話が出来たりする。

言語を持つ生物であれば会話は可能だ。

「だから、女たちを返せと言っている。」

「ふ~ん。」

完全に酔ってるな、目もとろ~んとしている。

「嫌だな。」

ドラゴンはそういうといきなり火を噴いた。

ドラゴンの火は岩をも溶かす高温で、並みの冒険者なら一瞬で消し炭と化す。

中級クラスの俺でも、同じことだが。

持っている装備が違う。

俺が持ってる盾は、ドラゴンの中でも最も炎に強い炎竜の鱗で作られていた。

以前、永きにわたって眠っていた、炎竜が目覚め、近隣の村を襲っていたのだが。

師匠が、退治に行くと腹を上にし、絶対服従のポーズで謝りまくった。

しかも、自ら大量の鱗を引きちぎり、師匠に差し出したのだ。

その恩恵で、作った盾なのだが。

普通の冒険者風の安そうな装備に見えるけど、師匠の恩恵はふんだんに使われている。

うむ、師匠には感謝してもしきれないほどだが、地獄の特訓だけは勘弁してほしい。

「炎竜の鱗かっ!」

無傷の俺を見て、ドラゴンが叫んだ。

酔いも吹き飛んだようだ。

「その剣も、なまくらじゃないようだな。」

ドラゴンが俺の剣を警戒する。

使うものが使えば、ドラゴンですら一刀両断できる剣。

見た目は普通の冒険者が持つような剣だけど。

腐ってもドラゴンだなあ。知能が高いってのは、困ったもんだ。油断でもしてくれりゃあいいのに。

ぶっちゃけ、俺が使ってもドラゴンを斬ることはできない。

キンっ。

試しに斬りかかってみると固い鱗に阻まれた。

ですよねー。

「ふっ。三流冒険者風情がっ!」

ドラゴンから見下したような笑みがこぼれる。

野郎・・・。

って、野郎なのか?

まあ女侍らせて喜んでたんだから雄だろう。

多分。

打つ手がない訳じゃあない。

これでも冒険者なんで、幽鬼を倒す程度の腕はある。

ということで、俺は鱗と鱗の間を狙って突き始めた。

「いてっ、いてえええ、いてえええっつうの。」

まあ痛いだろう。

結構突き刺さってるし。

痛みから、ドラゴンは体制を崩し、後ずさりした。

「(俺の嫁たち)女たち、今のうちに村に帰れ。」

俺は5人の嫁、嫁って言っちゃった。5人の女たちに命令した。

「ありがとうございます。冒険者様。」

感謝の表情で女たちが去っていく。

おいおいおい。

あんな顔されたの、こっちの世界に来て初めてじゃね?

すみません。

見栄を張りました。

生まれて初めてです。

間違いないな、確実に卒業できる。

俺の中で、闘志が湧いてきた。

「おいおいおい、何やる気スイッチ入れてるんだ、下等生物がっ。」

「だまれ、モドキがっ!」

「ぐっ。」

俺のモドキ発言に口ごもるドラゴン。

そもそも3mのドラゴンって、亜種にしてもコンパクト過ぎだろ。

そんなドラゴンが存在するとしたら、モドキしか居ない。

フェアリードラゴン、通称モドキ。

手乗りドラゴンなんて、呼ばれたりもするが、俺が見るのも始めてだ。何せ希少種だから。

「さっさと、元に戻ったらどうだ?」

本来の姿は、人の肩に乗る程度らしい。

擬態で巨大化できるらしいのだが、実際のドラゴン程大きくはなれないようだ。

「戻るか、アホがっ!」

そりゃあ、そうだ。戦闘力も落ちるだろうからな。

ブンっと、尻尾を振ってきた。

ドガっ。

何とか体で受け止めたが、痛いなこれ・・・。

「よしわかった、話し合おう。」

俺の提案にドラゴンは・・・。

「馬鹿か、俺様が話し合うメリットがどこにある。」

断然、強気なドラゴン。

「この野郎・・・。突くぞ?」

「痛いだけの攻撃が効くか、アホめっ。」

「いいのか?本気を出しても?」

「くどい下等生物が、押し潰してくれる。」

何か話が通じそうな奴だったから、話し合いでと思ったが、所詮、種族が違うので無理だった。

ドラゴンの敗因は、巣にある。

大きな洞穴の奥に、大きな空洞があり、そこを巣としているのだが、所詮は洞穴。

今が、真昼間と言えど暗闇である。

暗闇で、この俺、いや俺のユラちゃんに勝てると思ってんのか。

「ユラちゃんっ!」

俺の呼び声に、ユラちゃんが出現した。

空洞の隅の方で縮こまるドラゴン。

なんかちょっとだけ可愛いな。

「おい、さっきの威勢はどうした?」

「ば、馬鹿か貴様、それあれだろ幽鬼だろ?」

「スライムに決まってるだろ。」

「そんなどす黒い、闇色のスライムが居るわけないだろっ。」

「目の前にいるだろう。」

ガクガクと震えてるドラゴン。

所詮は、モドキか。

幽鬼は怖いらしい。

「とりあえず、正体を現せ。」

俺が命令すると、ドラゴンはみるみる小さくなった。手乗りドラゴンと言われるだけあって、肩に乗りそうなサイズだった。

「殺しても死体は役に立ちそうにないな。」

俺はマジマジとモドキを見回した。

「お、鬼か貴様はっ!こんな可愛い生物を殺すというのか?」

「なに今更、可愛い生物アピールしてんだよ。」

しかし、こいつは希少種だしなあ。

「売り物には、なりそうだな。」

「ちょ、ちょっと待て、話し合おう。」

「お前さっき、話し合うメリットはないとか、ぬかしてなかったか?」

「言ってない、言ってない。そうだ、俺を冒険に連れて行けば、役に立つぞ。」

「ペットはユラちゃんだけで十分だ。」

「誰がペットだ、ごるああああっ!」

「なんだ?やんのか?」

「ペットでいいです。是非、この私をペットに。」

「だから、このユラちゃんだけで十分つってんだろ。」

そう言って、俺はユラちゃんを優しく撫でた。

「幽鬼をペットって非常識にも程があるだろうっ!」

「知るかっ。」

「あれだろ?スライムって言っても幽鬼だから、闇でしか呼び出せないんだろう?」

「だから、どうした?」

「その点、俺様なら常時オッケーだぞ。」

「ユラちゃんが呼び出せない時に俺を狙おうってか?」

「くっ、用心深い奴め、もっとドラゴンを信じろよ。」

「信じれん。お前からはゴミと同じ匂いがする。」

「し、失礼な。ちゃんと水浴びはしてるぞ。」

「ゴミっていうのは、そういう名前の人間だ。」

「いやいや、そんな名前の人間居ないだろ・・・。」

「とりあえず高く売れそうだから、金持ちの家で優雅に暮らすんだな。」

「わかった、これを渡すから。」

そう言って、モドキは、体の中から光る何かを取り出した。

「何それ、気持ち悪い。」

「無礼にも程があるぞ、貴様。これは竜魂と言ってだなあ。種族の違うものに竜族が渡す信頼の証のようなものだ。」

「要らねえ・・・。」

「罰当たりかっ!これを受け取れば、俺様が貴様を害することはできないんだぞ。」

「そういうシステムか?」

「幾ら出しても買えない代物というのに。」

「ほう、高く売れるのかそれ?」

「売れるならな。」

「じゃあ、貰っといてやる。」

竜魂とかいう、光る球を受け取ると・・・。

俺の体の中に吸い込まれるように消えてった。

「ちょ、き、気持ち悪い、取って、取ってくれ。」

「無理だな。貴様の魂と同化したぞ。」

「何してくれてんだ、お前。」

俺は、剣を抜きモドキに突きつけようとしたのだが。

「どうした?剣を抜いたらどうだ?」

小さいドラゴンが、あざ笑うように言う。

「だましたな。」

「騙してはいない。俺様だって貴様には火も噴けないんだからな。」

馬鹿だな、コイツ。

俺には、ユラちゃんという最終兵器が。

「ユラちゃん、この小さいのを踏みつぶせ。」

ユラちゃんは、いつものように、ただ、ぷよぷよと動いてるだけだった。

「なっ!」

どういう事だ?

動揺する俺。

「幽鬼スライムには俺様と貴様が同一と認識されたのさ。」

高らかに笑うモドキ。

ドガっ!

「ぐぎゃっ。」

あまりにも頭に来たので、無駄と分かってドラゴンの頭を踏んづけたのだが、クリティカルヒットした。

「どういう事だ?」

ドラゴンを踏んづけたまま、聞いた。

「足を退けろ、無礼者がっ!」

仕方ないので、足を退けてやった。

「殺意や悪意がない攻撃は、攻撃とは見なされない。」

ああ、なるほどね。

踏んづけるなんて、じゃれてるようなもんか。

「まあいい、売るのに支障はないだろ?」

「辞めておけ、半身を売り払う馬鹿がどこにいる?」

「半身だと?随分と物騒なこといいやがる。」

「例えばだ、売り払われた俺様が解剖されて死んだとしよう。」

「解剖なんて、しねえだろ?」

「例えばだ。それに竜胆とか竜骨とか高価に取引されるし、解体される可能性も大いにあるだろう?」

「モドキでもいいのか?」

「モドキちゃうわっ!れっきとした竜族だ。」

「おい、もしかしてだが、死んだ時の痛みが俺に来るとかいう馬鹿な話なら、辞めてくれよ。」

「さすが、我が半身、察しがいいな。」

「ちょ、馬鹿かお前、なんてことしてくれてんの?」

最悪の事態だ。

解剖される痛みなんて味わいたくない。

「まあ、そういうことだから、仲よくやろうぜ相棒。」

「ふざけんな。どうやったら、解除できるんだ?」

「どっちかが死ねば自然解除だ。」

「痛みが来るだろうがっ!」

「大した痛みじゃないさ。」

そりゃあ、竜族にしたら人が死ぬ時の痛みなんか大したことはないだろう。

ん?

コイツ、突っつかれたとき、めっちゃ痛がってなかったか?

「お前、痛いの嫌いなんじゃないのか?」

「大嫌いだ。だから貴様も死ぬんじゃないぞ。」

「・・・。」

アホだ、コイツ。

なんで、俺なんかに変なもの渡したんだ。

「お前の目的は何なんだ?」

竜族なんて、人間を下等と見てる奴が、まともに答えるとは思ってないが、とりあえずストレートに聞いてみた。

「女だ。」

ああ、あれだ、こいつやっぱゴミみたいな奴だ。

「メスなら、どんな種族でもいいのか?」

人間の女相手に、チヤホヤされて喜んでたくらいだ。種族なんて関係ないんだろう。

「同種族の女に決まってるだろう。貴様はアレか?犬や猫に欲情でもするのか?」

「するわけねえだろっ。」

「そういうことだ。」

「つまり、ドラゴンの雌を探したいと?」

「そうだ。」

「あの炎竜、雌だったかなあ?」

俺は、今も眠りについてる炎竜を思い浮かべた。

「馬鹿か貴様は!」

「何なんだ、一体?」

「ゴリラやチンパンジーに貴様は欲情するのか?」

「するわけねえだろっ。」

いくら童貞で飢えているからと言って、ゴリラやチンパンジーはない。

「つまり、そういうことだ。」

「フェアリードラゴンの雌を探したいと?」

「Yes!」

「勝手に一人で探してろ。」

結構、この世界にきて時間は経っている。何故か全然成長しないのは置いといてだ。修行や一人旅であちこち回ったが、ドラゴン自体、会うことが稀だった。

しかも噂でしか聞いたことないフェアリードラゴンなんて、こいつが初めてだ。

「アホか、貴様は。一人で探して、飽き・・・疲れたから、人間の女にチヤホヤして貰ってたんだろうが。」

コイツ飽きたって言いそうになりやがったな。まあフェアリードラゴンなんて希少種だから気持ちはわからんでもないが。

「というとあれか、お前、童貞か?」

「当たり前だろう。同族に会ったことないんだからな。」

なんか、少しだけ可愛そうにもなってきたが。

そうだ、忘れていた。

俺には、今から卒業式という大事な行事がっ!

「まあいいだろう。旅の同行者にしてやるよ。勝手に変な死に方されたら、たまったもんじゃないからな。」

「貴様は、竜魂の貴重さを一つも理解しとらんな。」

「そんなもんはどうでもいい。それよりもお前の姿だ。フェアリードラゴンなんて連れてたら大騒ぎになるだろう。さっさと他の動物に擬態しろ。」

「出来るわけないだろう。」

「・・・。」

「貴様はアレか?フェアリードラゴンが何にでも擬態できるとでも思ったか?」

「まさか、同族しか擬態できないとか、使えねえこと言うなよ?」

「その通りだ。」

「・・・。」

「幽鬼スライムなんて連れてるのだし、俺様が増えても問題ないだろう。」

「あのなあ。」

俺が合図するとユラちゃんは消えた。

「なっ!」

「ユラちゃんは、普段は引っ込んでるんだ。お前にこういう芸当が出来るのか?」

「ぬぬぬ。」

しかし、参ったな。

3mのドラゴンでも十分、大騒ぎになるだろ。

「トカゲになれねえのか?」

「同族ちゃうわっ!ドラゴンなめてんのか貴様。」

あれ?ドラゴンの幼体ってトカゲみたいなの想像してたんだが、違うのか。

「幼体というか、出来るだけ小さくなれんのか?」

「幼体なら幼体と先に言わんか。」

そういうとモドキは、普段の小さい大きさより若干小さくなった。

形はというと・・・。

どっからどう見てもトカゲだった。

「トカゲじゃねえか。」

「馬鹿か貴様は、よく見ろ。頭の中央が突起してるだろうがっ。」

確かに頭の中央から尻尾の先まで、ドラゴン特有の突起物があるっちゃあ、あるが。

よく見ないとわからないし、やっぱトカゲだろこれ?

「しかし、いいのか?ドラゴンの幼体と言えば、希少であろう?」

「う、うん・・・。」

確かにドラゴンの幼体と言えば、超希少、所謂レアもの。でもさ、これ持ってって、ドラゴンの幼体ですって言っても信じるのは子供だけだろ。この世界でも村祭り的なものは存在していて、ドラゴンの幼体というトカゲがよく売られている。まさにこんな感じの。

「な、なるべく隠れていれば、多分大丈夫だろう。」

「そうか、貴様がそういうなら、俺様は、この姿で同行しよう。」

「よし、結構、時間くったが、俺は今から繁殖しなくてはいけない。」

「ほう?」

「さっきの女たちが居たろ?子を成さないと村の未来がない。」

「ふむ、繁殖は大事だ。参考の為に俺様も見学しようとしよう。」

えっ・・・。

始めてで、見られるの?

何この羞恥プレイ。

「いや、まて。種族も違うのに何の参考になるんだ?」

「男女の語らいに種族の違いもないだろう?」

「そ、そういうもんか?」

「貴様も冒険者の端くれなら、繁殖活動なんて、お手のものだろ?」

「あ、当たり前じゃないか。」

「何を動揺している?」

「ど、動揺なんてしてねえだろ。」

「魂が同化してるんだぞ、それ位わかる。」

ちょ、マジ勘弁して、このシステム。

「もしかして、貴様も童貞なのか?」

「ど、どど童貞なわけねえだろっ!」

「人間種の女なんて、星の数も存在してるというのに。」

「ちょっ、童貞確定すんなやっ!」

「まあいい。貴様がどのように卒業するか見届けてやろう。」

「見届けんで、いいわっ!」

「いいのか?童貞のくせに5人も相手にして、不安はないのか?」

み、見透かされてる。

「あの5人の性格は、暫く生活を共にしてきた俺様は熟知しておる。」

や、やべ、モドキが頼りになる相棒に見えてきた。


結構、時間を費やした気もしたが、俺はモドキを肩に乗せて村へと帰還した。

村の入り口には土下座した村人一同が・・・。

まあ、こんなこととは思ったよ。

どうせあれだろ?女達が嫌がったとか、そういうんだろ?

「申し訳ありませぬ、冒険者様。女たち5人、それぞれが皆、旅立っていった男達を追いかけて・・・。」

ああ・・・。

まあ、卑下した目を向けらえるよりはいいんだけどね。

「人間の女は星の数ほど居る。」

肩にとまってたトカゲがボソッと俺を慰めるように言った。余計に涙が出てくるっつうの。

「差し出がましいようですが、これを。」

そう言って、村長が差し出した金は、かなりの額だった。5、6年は、遊んで暮らせるような金だ。恐らく村中からかき集めたのだろう。なんかねこういうのも貰うのも気が引けるよね。

「村民のタンス預金の半分です。遠慮なく。」

そう言われて、俺は遠慮なく受け取った。

すげえ、田舎の老人のタンス預金半端ねえわっ!


「貴様と今後、付き合っていく上で提案があるのだが?」

道すがら、肩にとまっていたトカゲが言ってきた。

「やはり、竜契を結んだのに貴様とかいうのでは、何か味気ない。お互い名で呼ぼうではないか。」

「ちょ、待て、何、竜契って?初耳なんですが?」

「魂の契約をしておいて、細かいことを気にするな。」

「いやいやいや、魂の契約とか、細かくねえから。」

「でだ、名前でだな。」

端折りやがった。大事な事をいとも簡単に。

「俺の名は、正しい道と書いて正道だ。」

「・・・。」

「おい、名前を聞いといて何だ、その態度は・・・。」

俺の名前に異論があるらしい。

文句があるなら名付け親のばあちゃんに言ってほしい。

「まあ、貴様のふざけた名前は置いといてだ。」

「おい、ふざけてねえよっ!」

「俺様の名前を付けるがいい。」

「なんだトカゲ、お前、名前無いのか?」

「無い事はないが、せっかくだ貴様に付けさせてやる。」

ふっ、名前を付ける事には定評がある、この俺に頼むとは、中々物がわかってやがる。

さすが、腐っても竜族だな。

「ではな、ト・・・。」

「先に言っておくがトカゲは却下だからな。」

俺が全部言い切る前に却下しやがった。

「じゃ、じゃあモ・・・。」

「モドキなんて、センスがないのもやめろ。」

くっ。

ことごとく却下しやがって。

「ぐぬぬぬ。ドラオでどうだ?」

なんかもう、名前考えるのが面倒臭くなったんで、ドラゴンの雄でドラオ。

安易すぎて却下だろうな。

「ふむ。いいだろう。」

いいのか?おいっ・・・。

まんざらでもないようだ。


とりあえず、急いで働く必要の無くなった俺は、のほほんと旅を続けていた。

「おい、正道。貴様は俺の事をなんだと思ってるのだ。」

同行者の火を噴くトカゲが苦情を言ってきた。

「そんなもん、役に立つライターに決まってるだろう。」

ドラオが居るおかげで、野宿で火を起こす必要がなくなった。乾いた古木を探す必要もない。

腐ってもドラゴンらしく、水を含んだ木だろうが、若木だろうが簡単に燃やしてくれる。

キャンプには、絶対必要なものだ。

よく無人島に行くなら何を持って行く?なんて質問があるが、今なら即答で、ドラオって言っちゃいそうだ。

それ程、頼りになるマッチ棒になっている。

「ほう、俺様がいかに頼りになるか貴様にも、ようやく理解できたようだな。」

こっちの世界にライターがなくてよかった。きっとファイターとか、そういったもんと勘違いしてるのだろう。

「しかし、貴様。金は持ってるのに、毎度毎度、野宿とはどういう事だ?」

「人と関わるのは最小限でいい。」

「コミュ障なのか?」

「ちゃうわっ。」

現在、金が必要ない俺にとって人と関わるのは、何らメリットがない。

「酒場に行きたいとは思わんのか?」

「てめえが、飲みたいだけだろがっ!」

俺、未成年だし、酒飲まないし。

本来なら、結構な年にはなってる気がするんだが、いっこうに年をとらない。

まあ異世界だし、そんなもんだろ?

特に気にしてない。

そもそも、師匠もずっとピチピチしたエロい体のままだったし、この世界は、そういうもんなんだろうと勝手に納得していた。

「女を買ったりしないのか?」

「おいっ、童貞なめんなよっ!初めては、ちゃんと計画してんだよ!」

「童貞が夢見ると碌な事にならんぞ?」

「てめえも、童貞だろうがっ!」

「我ら竜族に性欲はない。」

「は?」

「下等な生物は、繁殖というものの本質を理解していない。」

「子孫を残すための大事な儀式だろうが。」

「だから、人間は性質が悪い。繁殖に快楽がともなってなければ、早々と絶滅していただろうな。」

「あんまり人間を下に見んじゃねえよ。快楽なんて無くてもちゃんと繁栄するに決まってんだろ。」

「では、正道。お前が求めるのは子か?それとも行為か?」

「・・・。」

まだ高校生の俺が、子なんて答えるわけねえだろ。まあドラオの言う事もわかる。動物ってのは、未来に子孫を残すために、発情期や性欲が存在するんだと思うし。

「中途半端に知恵を持つ人族は、繁殖の重要性は理解しているくせに自分本位に物事を考える。正道、貴様が求めてるものは、ただの快楽にすぎん。」

「じ、自覚してるわいっ!男の子なんだから仕方ないだろがっ!」

そう、だって健全な男子高校生なんだもんっ!

「では聞くが、快楽の相手が誰であるか重要な事か?」

「な、なに?」

「繁殖する相手ならば、優秀な子孫を残すために相手を選ぶのは、わからんでもない。だが、ただの快楽の相手に、夢見るのは、おかしいと思わんか?」

ぐっ・・・。


親戚の無職のおっちゃんが、昔、言っていた事が頭に浮かんできた。

「いいか、正道。俺が昔、そこそこモテてたのは、母親から聞いてるよな?」

50歳無職の伯父は、20代の頃は痩せていて、恋人も居たというのを母から聞いていた。

「その俺が教えておいてやる。最初の女に拘るな。風俗でもなんでもいい。チャンスがあればさっさと卒業しろ。童貞こじらせると碌な事にならんからな。」

おっちゃんの友人に童貞こじらせて、魔法使いになった人が居るらしく。俺に同じようになるなと、いつも言っていた。俺からすれば、無職で親族から金借りまくっている、おっちゃんの方が心配だったが。


「ドラオ、何が言いたいんだ?」

「金がある今のうちに、さっさと卒業しろと言ってるんだ。」

「手前が町に泊まりたいだけだろ?」

「それがないとは言わんがな。貴様を見てると不憫でならん。冒険者というのは、飲む打つ買うってのが、自然なのであろう?」

「アホか!冒険者が全員そんな碌でなしと思うなよ。」

今まで、見てきた冒険者の実に8割が・・・。いや9割?やべっ、思い起こしたら、碌な冒険者が浮かんでこない。

「ほう、まともな冒険者が居るなら、紹介してほしいものだ。」

「くっ・・・。」

居ねえよ。そんな奴・・・。

「今からでも遅くない、町へ行って来たらどうだ?」

「うっさいわ。行けばいいんだろ。行けば。」

そうして、俺は仕方なく・・・、本当に仕方なく町へと繰り出すことにした。


「この意気地なしが。」

町の酒場につくと、肩に乗ってるトカゲがポツリと呟いた。

「そうか、酒が飲みたいであろう、お前の為に来たんだが、じゃあ帰るとするか。」

そう言って、俺は踵を返そうとした。

「ま、待て。せっかく来たんだし、勿体ないであろう?」

結局、こいつは己が飲みたいだけなんだと思う。

「一番強い酒と適当に食い物を頼む。」

見た目が若いと酒なんて頼むとお子様扱いされがちだが、冒険者なら話は別だ。

「チェイサーはどうします?」

「ジョッキで頼む。」

ウェイターは、眉を顰めながら、去って行った。

この世界では、強い酒を頼むとチェイサー、つまり水がついてくる。水は俺の分なので、ジョッキで頼んだ訳だが、チェイサーをジョッキで頼む奴は、まずいないだろう。

料理が運ばれてくると、俺はジョッキの水を飲みながら、

料理を頬張った。

ドラオはというと、背伸びして強い酒を飲んでいた。

トカゲの癖して、目いっぱい背伸びしてる姿は、何か可愛いなあ。

そんな事を思ってると、下品な笑いをしながら、酔っ払いが一人寄ってきた。

でっかい体で、禿げ頭の柄が悪そうな男。デブはデブなんたが、醸し出す雰囲気は、ただのデブではなかった。

「ガキが珍しく酒なんて頼んでるから、珍しいと思ったのにトカゲに飲ませてるのかよ。」

「失礼な奴だな、どこをどうみてもドラゴンの幼体だろ?」

俺がそう言うと、酔っ払いは酒場中に響くように笑った。

「おいおい、ドラゴンの幼体なんて居る分けねえだろ。」

「手前が言うなっ!ハゲっ!」

このハゲは、冒険者で以前、何度か一緒に仕事をしていた。村や町の祭りで店を出している、所謂、テキヤというやつだ。

この世界で、テキヤをするなら、冒険者にならないといけない。じゃないと町から町へといった移動が出来ないからだ。商人のように護衛を雇えば、冒険者でなくても移動は出来るだろうが、テキヤの稼ぎで、そんなことしてればやっていけない。自らが強くなるしかない。

「ハゲ、お前が居るってことは、祭りがあるのか?」

「ああ、そうだ。どうだ手伝うか?なんなら、そのトカゲも売ってやろうか?」

ハゲが出す店は、この世界では定番のドラゴンの幼体売り。日本でいうところのカラーひよこ売りみたいなものだ。人に害が及ばないトカゲを捕まえて色を塗って売っている。一人旅で金がない時に、何度か世話になったのだが、結構、大変な仕事だ。

この世界には、火を噴くトカゲや、氷のブレスを吐くトカゲなんてのが、ザラにいる。

そんなの祭りで売った日には、速攻で処罰されかねない。なので人畜無害なトカゲを集めるわけだが、結構、骨が折れる。

「今は、金に困ってないからやめとく。」

「そうか。俺とお前の仲だし、なんならそのトカゲ、金色に塗ってやろうか?」

そう言われて、俺はドラオを見た。

やべ、金色だとかっこよくね?

「どうだ金色?」

俺は小さな声でドラオに聞いてみた。

「ふざけるな。」

小さな声で返された。

まじで?

金だよ、金。

まあ、本人嫌がってるなら、しかたないか。

「色落ちするし、遠慮しとくよ。」

俺はそう、ハゲに返した。

「そうか、まあ気が変わったら、いつでも言ってくれ。」

そう言って、ハゲは笑った。

このハゲ、結構、出来上がってんなあ。

まあ、黙々と強い酒を飲んでるドラオも何気に2杯目だったりするんだが・・・。

「それはそうと、正道、ガキから卒業できたのか?」

「うっさい、ハゲ。」

「まだガキのままか。」

「ほっとけ、俺の勝手だろが?」

「せっかく俺が何度も紹介してやったのによぉ。」

俺に女を紹介したランキング2位のハゲが言った。1位は、言わずもがなアイツだけど。

「その話、詳しく。」

ちょっ、馬鹿かお前は!ドラオが喋りやがった。

「なんだトカゲの癖に。気になるのか?」

「うむ、この意気地のない童貞をどうにかしないとな。」

「ぶははは、トカゲにも心配されてやがる。」

こ、こいつら完全に酔っぱらってやがる。

ハゲも長いことトカゲを扱ってるのに、喋るっておかしいと思わねえのかよ。

ドラオも喋ったらダメだろ?知性が高いドラゴン様なんだろ?そんなこともわからんのか。

酒ってこええなあ・・・。

俺は、酔っ払いどもを無視して、テーブルの上の食事に没頭した。

「おい、ドラオ。困ったことがあったら俺に言え。トカゲの嫁ならいつでも紹介してやる。何せ専門家だからな。」

酒場からの帰り際、酔っ払いどもは、すっかりマブダチ化していた。

てか、専門家なら喋るトカゲを疑問に思えよ!

「いいか、ハゲ。ドラゴンの雌だ。小柄な奴な。」

「ぶははは。トカゲの癖に贅沢な奴だ。ガキと一緒にいるから、そんなになっちまったんだなあ。まあ気長に期待せずにまっとけや。」

「期待せずに待っといてやる。」


翌日、俺はドラオに説教した。

「おい、自称ドラゴンのドラオ君。」

「じ、自称は酷いではないか・・・。」

「では、自称知性が高いドラオ君。」

「自称ではない。ドラゴン族は・・・。」

「ドラゴンの幼体の希少価値は知ってるよな。もちろん?」

「じゅ、重々承知しています。」

「なんで普段、トカゲに擬態してるんだっけ?」

「し、失礼なトカゲではない。ドラゴンの幼体だ。」

「で?」

「す、全て酒が悪いんだ。俺様が悪いわけじゃあ・・・。」

「今後は、全野宿な。町だ、酒場だ言うんじゃねえぞ。」

「は、はい・・・。」

自称トカゲの専門家の前で、ベラベラ喋りやがって。知性が高いとか自称してたのが、ほとほと呆れてしまう。

まあドラゴンの幼体なんて、存在しないと思ってるのが、人族の常識だから、助かったようなものの。本当に相手がハゲで助かった。

一応、念のため、翌日にハゲに会いに行った。

「よう、正道にドラオ、昨日は楽しかったな。」

がんがん飲んでたくせに、全然平気な顔してやがる。

しかも、ドラオに普通に話しかけてきた。

「おい、ハゲ。自称トカゲの専門家だろ?」

「自称とはなんだ。正真正銘の専門家だ。」

呆れてものが言えくなるところだが。

「トカゲは普通喋らんだろ。」

「普通わな。だからと言って喋るトカゲが居ない訳じゃあない。」

ま、マジで?

てか、ハゲ、専門家とか言って、ドラゴンの幼体見逃してんじゃねえのか?

まあトカゲの専門家だから、ドラゴン知らないのかもだが。

「ドラゴンの幼体知ってんのか?」

とりあえず聞いてみた。

「おいおい、馬鹿にすんなよ正道。何勘違いしてるのか知らねえが、お前こそ、ドラゴンの卵の殻ぐらい見たと事あるだろ。」

「当たり前だろ。」

卵の殻どころか、炎竜見てるわい。

「で、大きさは?」

ん?ハゲに聞かれて思い出してみると。

そういや人間が簡単に入れるくらい大きな殻だったような。

「サイズ的に間違えようがないんだよ。」

ハゲに言われて、ようやく気が付いた。

普通のドラゴンなら、幼体もはるかにでかい。

という事は何か?

希少と言われてるフェアリードラゴンって実は結構、数が多いんじゃないのか?

誰もフェアリードラゴンとは思わず、喋れるトカゲと勘違いしてるんじゃあなかろうか。

「ちなみに、喋るトカゲって何処で見たんだ?」

ドラオの嫁探しもあるし、念のため聞いてみた。

大した情報にはならんとは思ってたが。

「喋るトカゲの集落に決まってるだろ。」

「は?」

集落があんの?

フェアリードラゴンの集落じゃねえのか?

金の匂いがプンプンするのに、なんでハゲは捕まえないんだ?フェアリードラゴンじゃあないにしても、喋るトカゲでも高く売れそうな気がするんだが。

「集落があるなら、捕まえて売ればいいだろ?」

「剣聖の保護区なんだよ。」

「・・・。」

剣聖、三剣者と呼ばれるこの世界の創造主の一人。

そりゃあ、剣聖の保護区となれば、テキヤごときが手を出せるわけがない。

となるとだ、剣聖が保護してるくらいだから、フェアリードラゴンの可能性は高い。

「剣聖の保護区っていう事は、中央にあるのか?」

この世界は、西、中央、東の3つの地区に大分される。

それぞれに三剣者が住んでいるからだが。

「おい、金儲けしようと考えてるんじゃないだろうな?喋るトカゲって事は、知性があるんだぞ。一匹チョロまかしたら、剣聖にばれて殺されるぞ。」

この世界の言語は、意思伝達言語。どんな生物であっても、言語を有してる生物であれば、会話が出来る。

「アホか、そんな命知らずの事するわけないだろ。ドラオの嫁探しだよ。」

「童貞の癖に他人、いや他トカゲの世話してる場合じゃないだろう。」

「うっさい、ハゲ。さっさと場所教えろっつうの。」

周りの人目もあって、ドラオは一切喋らない。昨日、説教したのが効いてるのだろう。


ハゲに場所を教えてもらった俺たちは、中央を目指した。

「よかったな、ドラオ。嫁さん見つかるかもな。」

肩に大人しくとまってる、ドラオに話しかけた。

「だといいがな。俺様は、喋るトカゲの集落だと思うぞ。」

「おいおい、喋るトカゲなんている訳ないだろう。」

今まで冒険してきた俺も、喋るトカゲは、見たことがない。殆どが東地区で冒険してきた俺だが、西や中央へ行ったことがない訳でもない。

今まで噂すら聞いたこともなかったんだ、フェアリードラゴンの可能性は高いと俺はみた。


【無法者、即斬死 剣聖】

林の中に、柵で囲まれた一角が存在する。

その入り口の立て看板に書かれていた訳だが。

「やはり三剣者の一人だな。物騒な人なんだろうな。」

創造主の一人なんだから、人じゃないと思うけど。

「三剣者の中で一番話がわかる人族だと思うが?」

ドラオがそう言った。

「いやいやいや、即斬死だぜ?」

「他の三剣者なら、問答無用だと思わんか?」

「・・・。」

「それに保護区を設定するんだ。他の三剣者とは違うと思うがな。」

「まあ確かにな。」


「おい、お前。ここは剣聖様の保護区だぞ。」

突如、どっかから声を掛けられたが、姿が見えない。

「こっちだ、こっち。」

木々の間から、声が聞こえたので、そっちの方を見ると、トカゲが居た。

間違いない、これはトカゲだ。

よく見ないでも、ドラオとの違いが一目瞭然だった。ぬっぺりとしているトカゲに比べて、ドラオはゴツゴツしていた。

「何しに来た。」

「ああ、コイツの嫁探しにな。」

そう言って、俺は肩のドラオを見せると。

トカゲは一目散に逃げて行った。

「当然だな。」

ドラオがポツリと言った。

「似たようなもんなのにな。」

「全然違うわっ!」

ドラオが抗議の声をあげる。

まあ確かに、ドラゴンの幼体とは別物であることは、俺も今回でよくわかった。


「お前らか、この地区を襲いに来たやつらは。」

そう言って、ゾロゾロとトカゲが出てきた。

「いや、そんなことしねえよ。剣聖の保護区なんだろ、ここは?」

「この地区に独身の女性は、この3匹だけです。ドラゴン様どうか、この3匹でご勘弁を。」

トカゲの中でも年配の者なんだろうな多分。年配の者っぽい人がそう言った。

はっきり言って、見分けがつかん。

「ふざけるなっ!」

ドラオが一喝した。

トカゲたちがビビる。

腐ってもドラゴンの咆哮という奴か。

俺には効かんけど。

「サイズ的にいい感じじゃね?」

「正道、お前はサイズさえあえば、犬や猫でもいいのか?」

「犬や猫は種族が違うだろ、そこはチンパンジーとかゴリラじゃねえの?」

「トカゲとドラゴンを一緒にするなっ!」

まあ、確かにそうだけど。

ぬっぺりとしてるトカゲの方が美人なんちゃうん?

トカゲとかドラゴンの基準が判らんけど。

「まあ、そんな怯えないでくれ。剣聖に敵対する人間なんて居ないから。俺はフェアリードラゴンが居ないか探しに来ただけだから。」

「「「ぶはははっ。」」」

トカゲたちが笑う。

なんだろ、踏みつぶしたくなってきた。

「この人間、頭おかしいんじゃないのか?」

「フェアリードラゴンだってよ。」

「おとぎ話じゃあるまいし。」

このトカゲどもめ。剣聖の保護がなければっ!

「ぼ、冒険者様、そのような伝説の生物を言われましても・・・。」

年配の者と思われるトカゲに言われた。

こいつら、全部一緒に見える。

ああ、踏みつぶしたい。

無性に。

「じゃあ、俺の肩のドラゴンは何だというんだ?」

トカゲたち、全員が固まった。

暫く時間が経った後。

「すっごく小さなドラゴンの幼体かと・・・。」

「アホかあああああ、何だそれ。そんなのが居るのか?ええ?」

俺は、トカゲ達に突っ込んだ。

「そ、そう言われましても・・・。」

「フェアリードラゴンなんて空想の生物だし・・・。」

どうあっても、フェアリードラゴンとは認めないらしい。

「あ、あのう。」

トカゲの一匹が言ってきた。

聞こえてくる声からして雌なんだろうな。

「私、ドラゴン様の子を産んでも構いません。」

おおー、男冥利に尽きる言葉だ。

「どうだ?ドラオ?」

「散れっ!」

ドラオがそう言うと、女トカゲは怯えて逃げて行った。

「選り好み激しくね?」

「貴様に言われたくないわっ!」

無駄足になったな。

本当に喋るトカゲだけだなんて。

ハゲの言うこと疑って悪かったなあ。

さすが自称トカゲの専門家だけはあるな。

「騒がして悪かったな。」

そう言って、トカゲの保護区を後にしようとしたのだが・・・。

「あのう、冒険者様にお願いが。」

来たよ・・・。

いつもの。

「実は保護区の近くに鶏が住み着きまして。」

「そう言ったことは、剣聖に言ったらどうだ?」

「剣聖様もお忙しい身でありまして。」

「へえ。」

「何とか駆除をお願いできないでしょうか?」

「鶏とかってコカトリスってオチなんだろう?」

正直、この世界の村人は、人であろうがトカゲであろうが信用できねえ。

「い、いえ頭は、確かに鶏でした。」

舐めてんのか・・・。

「剣聖に頼むんだな。」

「そこを何とか・・・。」

トカゲの集まりだし、人間の村人と違い取り押さえられることはない。

「体は、何だった?」

剣聖の保護区でなかったら、無視するレベルだが、無下にも出来ず、ちょっとだけ聞いてみた。

「我らに似たようなという情報もありますが・・・。」

おい・・・、そんな鶏いねえだろ。

「剣聖の保護下にありながら、冒険者を騙すってのは、まずいんじゃないのか?」

「確かに、我らも並みの冒険者なら、こんな無理なお願いはいたしません。しかし、冒険者様の装備は、並みの冒険者というには、装備がずば抜けています。」

見た目は、その辺の冒険者風なんだけど。

「炎竜の鱗を使った盾に、鎧には高価な魔法石が使われております。その鎧を作れるのはドワーフのみ。鎧の下の衣服にしても、尋常じゃない材料が・・・。」

トカゲの癖にそんなことまでわかるのか。

見た目で判断する人間とは大違いだな。

「なら、最初に鶏って言ったのは何故だ?」

「ドラゴンの幼体を連れていらっしゃる冒険者様には、コカトリスも鶏も変わらないと思いまして。」

アホか、大違いにも程がある。

でもまあ、この世界では、コカトリスも益モンスだったりするんだが。蛇やトカゲを食べてくれる。

「被害は出ているのか?」

「今は、出ておりませんが。」

まあ、コカトリスは蛇やトカゲを食べるからなあ。被害が出るのも時間の問題か。

「最後に一つ。バジリスクじゃないだろうな?」

コカトリスとバジリスク、見た目が一緒なんだが、益モンスのコカトリスと違い、バジリスクは害モンス。

毒が半端ない。

正直、関わりたくないレベル。

「どう見分けるのでしょう?」

見分けるのは不可能と言われてる。

「毒は使ったか?」

「いえ、まだ被害は出ておりませんので。」

今までの異世界に来てからの流れからして、十中八九バジリスクだな。

「バジリスク相手で勝てるか?」

頼れる?相棒に聞いてみた。

「問題ない。蛇の王とて、ドラゴンの相手ではない。」

「「「おおーっ!」」」

トカゲ達が歓声を上げる。

俺には、不安しかない。

ていうか、ドラオのセリフがフラグにしか聞こえん。

ぶっちゃけ、断りたいのだが。

なんかもう、周りの雰囲気がそういう雰囲気じゃない。

これって剣聖に借りとかならんかな?

まあ三剣者なんて、関わらない方が見の為とは思うが。

「正道、行こうではないか。我らの力をバジリスクに見せつけてやろう。」

そういや、こいつ煽てとかそういうのに弱かったなあ。


俺は、いやいや鶏が住み着いた場所へと向かった。


初戦、あっさり敗北。

俺たちは一目散に逃げ出し、鶏のテリトリーから離れた。

「おい、蛇の王なんて相手じゃないって言ったろ!」

「何だ、あの毒は、鱗の下まで浸食してきたぞ。」

「バジリスクの毒はそういう毒だっ!」

武器や鎧を伝って身を犯す。

バジリスクの毒が恐れられている理由だ。

「危うく、毒に殺されるとこだった。」

「お、おい。お前が死んだら痛みが俺に来るんだよな?」

「痛みで発狂死しないよう、気をつけろよ。」

「お前が死なないよう、気を付けろっ!」

「さて、正道。どうする?」

「このまま逃げたらどうなる?」

「二度と中央の地は踏めないだろうな。」

「やっぱりか・・・。」

まあ、手がないことはない。

「夜まで待つか。」

「夜になれば、奴は巣に帰ると思うが?」

「巣を探せばいいだろ?」

「何処にあるのだ?」

「テリトリー内にあるんだろ?」

「テリトリーと巣は別だろう。何せ、あやつは翼を持っていたからな。我らと同じ。」

なんで、バジリスクがドラゴンの羽を持ってるんだ・・・。

そういう生き物と言われれば、それで終わりだけど。

バジリスクの生態は知らないが、ドラゴンならわかる。ドラゴンの巣は人が入れないような山にある。

「なあ、あいつもドラゴンと同じように山とかで寝るんかな?」

「ドラゴンの羽を持っているんだから、そうだろうな。」

ですよねー。

くそっ、来るんじゃなかった。

俺は、喋るトカゲの集落に来たことを後悔した。

「そうだ、ドラゴンの羽を持っているんだし、話し合いはどうだ?知性があれば、剣聖と敵対したいとは思わないだろう?」

「奴は鶏の頭をしていたぞ?」

「だから何だ?」

「鳥頭ということだな。」

「・・・。」

打つ手なし。

こうなったら、剣聖を呼んでくるしかないだろう。何せバジリスクだからな。直ぐに動いてくれるだろう。

トカゲの集落に戻ろうとした俺たちだったが。

ガサっ。

茂みから音がした。

「誰だ?」

「あ、あのう。」

幽鬼の気配をもった美少女が現れた。

「気を付けろ、幽鬼だ。」

ドラオが忠告してきた。

年齢的には、俺と同じかそれより幼い。

ショートカットの可憐な美少女。

「おい、正道。目を覚ませ幽鬼だぞ。」

「何を言ってるドラオ。幽鬼が喋るわけないだろう。」

こんな可憐な幽鬼が居てたまるか。

「何か用ですか?お嬢さん。」

「僕の事、怖くないんですか?」

僕っ娘、きたああああああああああああっ。

これだよ、これこそ異世界にきた甲斐があるってもんだ。

「おいっ、正気になれっ。」

「いい加減だまれ、ドラオ。こんな可憐な美少女に失礼だろ。」

俺は戯言を言ってるドラオを黙らせて、美少女の話を聞いた。

「実は強い冒険者を探して、旅をしてたのですが。」

「ふむふむ、しかしお嬢さん俺はそんなに強くないですよ?」

とりあえず、謙遜してみた。

こういう時は誇大自己評価しない方が、カッコいいだろう。

「わかります。見れば・・・。」

グサッ・・・。

俺は深く傷ついた。

何だよ、何なんだよ、まったく。

「今まで出会った方は、僕と会話する前に逃げてしまって・・・。」

「そうですか。」

何かもう、どうでもよくなった。

どうせ強くない俺には用はないんだろ?

「強い冒険者にお願いがあったんですが。」

「どうせ俺は強くないですよ?」

「ええ。」

グサグサっ。

もういいや。

「じゃあ、俺に用はないですね。それじゃあ。」

俺は、トカゲの集落に向かいたがったのだが。

「お願いを聞いてもらえませんか?」

「俺、弱いですよ?」

「ええ、ですから、まずは剣聖の弟子になって貰えないでしょうか?」

「は?」

「三剣者の弟子ともなれば、強い冒険者になれると思いますし。」

「三剣者が弟子をとるとは思えんな。」

そう答えたのはドラオだった。

「ええ、ですから、先ほどのバジリスクを倒せば、剣聖も弟子入りを認めてくれると思うんです。」

「ははは、無理だな。」

俺はスッパリと答えた。

「そうですね。その口だけドラゴンと弱い冒険者じゃあ相手にもならないでしょうね。」

ケンカ売ってんのかこいつは・・・。

いくら可愛い僕っ娘とはいえ。

毒舌だと?

あると思いますっ!

いいじゃねえか、毒舌僕っ子。

「どうするというのだ?」

ドラオが聞いた。

「僕がさくっと倒しますので、それで退治したことにしましょう。」

「何をいうんだ、お嬢さん。危ないよ?」

「馬鹿か、正道。こいつは幽鬼だぞ。」

「こんな可愛い毒舌僕っ娘が、幽鬼なわけがない。」

俺がスパっと言い切ると、ドラオは呆れたようにため息をついた。


第二戦。

毒々しいバジリスク相手に、臆することなく突っ込んでいく僕っ娘。

「お、おいっ危ないぞ。」

俺が遠くから忠告したが。

構わず僕っ娘は、バジリスクに向かっていった。

毒が浸食してるはずが、何の変化も起こらない。

バジリスクと僕っ娘が接触すると変化は起こった。

バジリスクが飛んで逃げようとしだした。

それを僕っ娘は許さない。

どんどんとバジリスクは浸食されていき、消滅した。

「鳥頭故、幽鬼すらわからなかったか。」

ドラオがポツリと言った。

バジリスクを退治した後、僕っ娘は戻ってきて言った。

「これで、剣聖に弟子入りを申し出てみてください。」

「そんなに簡単に事が運ぶかね?」

とりあえず聞いてみると。

「バジリスクが住み着いたことは剣聖の耳には入っています。恐らくは、トカゲの集落に居るはずです。」

「ま、マジで?」

もうバジリスク退治したんだし、逃げ出したい俺。

「もしかして、トンずらしようとしてます?」

「えっ。」

見透かされていた。

「一方的に依頼を押し付けて、随分じゃないか?こちらに何のメリットがあるというのだ?」

ドラオが言った。

確かに。俺らに何のメリットもない。

「そうですねえ。僕は何も持っていませんし、僕にできる事なら何でも。」

「何でも?」

「はい。」

ちょっと興奮してきた俺。

「あんな事や、こんな事も?」

「それ位なら、構いませんよ?」

「ま、マジでっ?」

超、興奮してきた。

「落ち着け、正道。幽鬼相手に子は為せんぞ。」

子供が出来ない?

最高じゃないかっ!

これぞ異世界。

ビバ異世界。

俺の興奮は最高潮に達した。


俺たちは、とりあえず僕っ娘と別れて、トカゲの集落へと戻った。

僕っ娘の言う通り、剣聖が居た。

年の頃なら30代だろうか?

めっちゃ美人だ。

未亡人シリーズに出てきそうな美人顔。

正直、未亡人はストライクゾーンだ。

俺のストライクゾーンは広いのだ。

こっちの世界にきて、碌な女性に合わないから、俺ってストライクゾーン狭いのかなと思っていたとこだが。

しかし、剣聖からはそう言った、感情は一切湧かない。

この世界を創造した創造主の一人というのは関係ない。恐ろしいまでに放つ剣気も関係ない。

顔だ、顔。

いくら絶世の美人と言ったって、親戚のおばちゃんに似てたら萎えるだろ。

まあ親戚のおばちゃんの何十倍も美人なんで、剣聖に悪いとは思うが。

「久しぶりね。○×△■。」

誰だ、それは・・・。

俺には理解不能な言葉が頭に流れ込んでいた。

「捨てた名だ。今はドラオという名前だ。」

「おい、ドラオ。剣聖と知り合いだったのか?」

「遠い昔のだ。」

腐ってもドラゴンと言ったところか。

というか知り合いなら、弟子入りも簡単なんじゃね?

「正道、くだらん性欲に惑わされるな。剣聖というか三剣者とは関わらない方がいい。」

三剣者とは関わるな。

冒険者の鉄則だ。

しかし、男には進まなければならない時がある。

だって男の子だもんっ。

「正道?そう、あなたも来てしまったのね。」

「え?」

剣聖が俺を慈しむような目で見つめてきた。

まてまて、いくら俺がカッコいいからって。

勘弁してくれ。

親戚のおばちゃんに似てるのは勘弁ね。

「こっちにいらっしゃい正道。」

その声、その仕草、その雰囲気。

俺は知っていた。

そのひとを。

ああそうだ間違いない。

彼女は。



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