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依頼終了~、物語も・・・

現地に着くといつもの如く、ガオが草むらから出現した。さすがにもうビビったりしないもんね。

「どういう風の吹き回しですか?」

レトがガオに聞いた。

「お前には、関係ない。」

なんだろ、この兄弟、仲が悪そうだな。

「まあいいでしょう、今の兄さんは足手まといですから、正道さんと一緒に後ろをついて来て下さい。」

すっごく、嫌そうな顔をガオはしているが、現状、従うしかなく、トボトボと俺の後ろをついてきた。

しばらく、レト無双が始まった。

襲い来る幽獣をバッタバッタと倒していく。

いや本当、幽鬼の世界に戻って来てからのレトさんの強さは半端じゃないですよ。

思わず心の中で敬語になってしまう俺。

「それにしても、やはりおかしいですね。」

無双を繰り広げるレトが言った。

「何かおかしいのか?」

「そうですね、しいて言えば、幽獣たちの統率が取れているという事ですかね。」

「それでもバッタバッタと倒してるじゃないか?」

「幽獣たちは、闇雲に襲って来てる訳じゃないみたいですよ?」

「どういうこと?」

「こちらの力量を計っている感じでしょうか?」

「それって、まずいのか?」

「いえ、特には問題ないと思います。所詮は、幽獣ですから。」

用心に越した事は無い。

俺はいつでもユラちゃんを呼び出せるように心掛けた。

暫く進むと、ネズミの大群が俺たちを待ち構えていた。

「結構、数居るけど大丈夫なのか?」

俺は心配になってレトに聞いてみた。

「僕の方は問題ありませんが・・・。」

「どうした?」

「囲まれていますよ。」

レトにそう言われて、周囲を見渡すとネズミたちに囲まれていた。

ひいいいいいい。

逃げ道すらないじゃん。

俺がアタフタと慌てていると。

「心配するな、俺がなんとかする。」

と頼もしくガオが言ってきたが。

駄目じゃん。

お前、本来の力無いんだからっ!

絶体絶命と言う訳ではない。

切り札は、取ってある。

しかし、今、ユラちゃんをここで出せば、こいつら逃げてくんじゃね?

ネズミの大群を見渡しても、薄っすらと発光するネズミは居ない。

「正道さん、出来るだけ僕の傍に居てください。」

「お、おう。ガオはどうするんだ?」

「兄さんは自力で何とかするでしょ。」

「自力で何とかする。」

本当か?本当に大丈夫なのか?

目まぐるしく、素早い攻撃を仕掛けてくるネズミたち。

攻撃と言っても全身で体当たりしてくるわけだが。

こいつらには、牙があり、爪がある。

ちょっと前までの俺なら、ネズミのスピードにはついていけなかったのだが、辛うじて見えて、そして避けて。

レトの後ろに隠れていた。

ガオはというと、もうボロボロに攻撃を受けていた。それでも平然と立ってるのはさすがと言うべきか。

「どうやら、王のお出ましのようですよ。」

ネズミたちの群れを掻き分け、少し発光しているネズミが現れた。

大きさは他のネズミと大差ない。

違う点は、薄っすらと発光していることだ。

幽鬼の世界は闇の世界。

薄っすらとでも発光していれば、それは太陽のように存在感を醸し出す。

王様ネズミは、ジッとレトを見つめた。

相手の力量を計っているのだろうか?

そして、一呼吸置いた後。

一目散に逃げだした。

「「あっ・・・。」」

あっけにとられた、俺とレト。

慌てて、レトは追いかけようとするが、ネズミたちが退路を塞ぐ。

何とも律儀な子分ネズミたち。

疾風の如く、ネズミの群れを片付けるレト。

しかし、王様ネズミが逃げるには十分な時間だろう。

駄目元で、俺たちは王様ネズミが逃げた方向へ向かった。

そこには。

串刺しにされ息絶えた王様ネズミが居た。

剣に一刺しにされ、ピクリとも動かない王様ネズミ。

「剣豪、どうして殺したんですか?」

レトが師匠に聞いた。

「何の事だ?」

「そいつを捕獲するのが、今回の依頼内容です。」

「そうなのか?私は聞いてないが?」

そうですね。言ってませんもの。

「というか何で、師匠がここに?」

「暇だったんでな。」

やっぱ暇なんじゃねえかっ!

「とりあえず、それを渡してもらっても?」

レトがそう言うと、師匠は剣を振り王様ネズミをレトの方へと投げた。

「恐らく、カラスの女王には既に伝わってるはずです。」

そう言って、レトは空を見上げた。

空には何匹ものカラス達が居た。

「最悪は倒してもいいと言ってたから、何とかなるだろ?」

俺は、自分が安心したいが為に、レトにそう聞いた。

「だといいですがね。」

レトからは不安を煽るような答えが返ってきた。

まったく、師匠は、本当に余計な事ばかりする。

しかし、師匠が居なかったら、王様ネズミに逃げられていたのも事実だし。


俺たちは、報告の為、天狗山へと向かったのだが。

師匠がついてきた。

「剣豪は、入山を禁止されています。城へ戻ってくれませんか?」

レトがそう言ってくれた。

「私が誰かに指図されるいわれはない。」

いや、ほんと・・・。

すみません、聞き分けの悪い師匠で。

俺は心の中でレトに謝った。

「余計に話がこじれても知りませんよ?」

「構わん。」

レトの忠告を一切聞こうとしない師匠。

俺たちが天狗山へ入山しようとした時、一匹のカラスが降り立った。

ほら、師匠が居るから。

俺は、抗議を込めて師匠を見たのだが、気にするそぶりすら見せない。

「剣豪の入山を許す。」

「はっ?」

俺は思わず、素っ頓狂な声をあげてしまった。


俺たちがカラスの女王の元を訪れると、カラスの女王はあからさまに嫌な顔をしていた。

よっぽど師匠が嫌なのだろう。

「剣豪、お前の腕ならば捕獲も容易かったろう?」

「知るか、私は、依頼なぞ、一切聞いてないのだからな。」

はい、師匠には一切話しておりません。

「まあよい。さっさと居なくなってくれた方がせいせいする。」

ということは?

「歪みの使用を認めるという事ですね?」

レトが聞いてくれた。

「うむ、好きに使うがいい。」

何か知らんが、いい方向に勝手に向かってくれた。

結果オーライというやつか。

「それで、このネズミの王の死骸はどうします?」

「どうやら突然変異のようだな。今後またこのような幽獣が生まれることもあるやもしれんが、この幽鬼の世界に生まれし者、土に帰すがよかろう。」

「わかりました。」

何とか一件落着という事だ。

後は、歪みを使って、三剣人の世界に帰るだけか。

「私もこの世界には飽きてきた所だ、早々に帰らしてもらおう。」

えっ?今?

「お前の顔は見たくもない。さっさと帰れ。」

えっ、マジで?

いやほら、この世界で色々とお世話になった人とか居るんですが?

挨拶も何もなく?

「ときに正道。」

「はい?」

カラスの女王が俺に話しかけてきた。

「この世界に残る気はないか?」

そんなの1ミリもねえよ。

いい幽鬼は一杯いるし、悪い所ではない。

が、それがこの世界に残る理由には全くならない。

「私は幽鬼ゆえ、お前の子を成すことは出来ぬが、夜伽の相手くらい幾らでもしてやるぞ。」

「のっ・・・。」

この時俺は、全身に悪寒を感じ、冷汗をダラダラと流した。

首には冷たい物が添えられていた。

師匠の剣が・・・。

「元の世界に戻って、何もなければ剣聖に合わす顔がない。カラスの女王よ。望みとあらば正道の体をやる。首は持ち返るがな。」

後ろから放たれる師匠の殺気。

マジで、首跳ねられるよ、俺。

「の、残る訳ないじゃないですか?」

俺は、何とか声を絞り出した。

「そうなのか?」

「あ、当たり前じゃないですか?師匠、何言ってるんですか?」

「お前の事だ。残ると即答するのかと思っていたぞ。危うく首を斬り落とすところだった。」

そう言って師匠は、笑った。

笑い事じゃねえよ。何言ってんだこのあま

「正道、お前も気の毒だな。そんな師を持って。」

わかります?わかって貰えます?

もちろん、そんな事を言えるわけがないのだが。

「もういいだろ。正道、さっさと別れをすませ。」

この人、情もへったくれもないな。

「レト色々と世話になったな。」

「残念です。正道さんが残ってくれたら、約束通り僕が性奴隷になってあげたのに。」

「いや、それいいから。なっ。」

本当、こいつが女ボディなら、どうにか師匠をだまくらかして、この世界に残る所だが。

「ガオも色々とありがとうな。力を奪ってしまって申し訳なかったな。」

「気にするな。」

このモフモフボディとお別れもなんだか・・・。

最期と思うと、思わず手が出てしまい、ガオを撫で撫でしてしまった。

ガオは嫌がる素振りを見せない。

「なるほど、そうやって兄さんを篭絡したんですね。」

「いや、全然、そういうのと違うからっ!」

「もういいだろ。」

この無感情の生物は、何だろうな。

別れを惜しむとか、そう言った気概が一切見受けられない。

まあ、人ではないし、何千年も生きてるらしいから、こんなになっちゃうんだろうが。

俺は、無感情の師匠に促され、三剣人の世界に帰る歪みの元へ向かった。

歪みに入る前に、俺は見送りに来た、レト、ガオ、カラスの女王とカラス達に、何度も何度も手を振った。

師匠はもちろん、後ろを振り返る事すらしなかった。


歪みの中は暗闇だった。

といっても、幽鬼の世界が闇なんだから、何も変わらんけど。

「正道、帰ったら修行だな。」

なんで?

意味、わからん。

「返事はどうした。」

「は、はい・・・。」

このまま、引き返してやろうか、本当。


突如、目の前を歩いていた師匠が消えた。

はっ?

いや、引き返そうかってのは冗談なんですが?

忽然と足元が消える。

地に足がつかない状態に俺は陥る。

これは、あれだろうか?歪みってこんな感じなのか?

次に地に足がついた時が三剣人の世界っていうシステム何だろうか?

「よう兄弟。」

な、お前かお前の仕業か。

「そう言う事だ。」

相も変わらず喋らなくて会話が可能な、自称俺の影。

「自称いうな。傷つくだろ。」

「嘘つけっ!」

俺は、声を出して突っ込んだ。

「まあ、嘘だけどな。」

「何の用だ?」

「時間だ。」

「それって元の世界へ帰る時間ってことか?」

「そうだ。」

「今すぐ?」

「今すぐだ。」

どいつもこいつも急すぎる。

情ってものがないのか?本当。

「別れの挨拶をさせてやりたいのは、山々なんだが、俺の体が限界だ。」

「どういうこと?」

「俺が存在し、お前がこっちの世界に繋ぎ止められている。俺が居なくなれば、お前は元の世界へ戻るって事だ。」

「消滅するのか?」

「気にするな。俺はお前の影だ。完全に消滅するわけじゃない。」

なんだか、釈然としないが。

「こっちの世界はどうだった?」

「どうって言われても。」

「楽しかったか?」

「そうでもねえよ。」

「だろうな。」

「だからって、元の世界がいいかって言うとそうでもないんだがな。」

「そんなもんなんじゃないのか?誰しも満足する様な世界には生きちゃあいねえよ。」

「そういうもんかな、やっぱ。」

「そういうもんだろ。」

「なあ、師匠にも別れの挨拶は言えないのか?」

本当はばあちゃんにも挨拶したいところだが。

「それ位なら可能だ。」

「そうか、悪いな何か。」

「気にするな、俺はお前の影なんだから。」

突如、足元が地に着いた。

ビックリするわ、これ。

「聞いているのか、正道!」

どうやら、師匠は、何か俺に言っていたらしい。

聞いてねえよ。

しかし、まあ、怒られるので。

「はい。」

とだけ返事しておいた。

「あのう師匠。」

「何だ?」

「ばあちゃんに元気でって伝えておいてくれませんか?」

「何を言っている。自分の口で言え。」

そう言って師匠は俺の方を振り向いた。

「・・・っ。」

何やら言葉に詰まってる師匠。

「ま、正道。お前・・・。」

「どうかしました?」

「か、体が・・・。」

師匠にそう言われて、自分の体を見ると薄くなっていた。

なるほど、こういうふうに存在が薄くなって元の世界に戻るわけか。

俺は一人で納得した。

「師匠もお元気で、師匠と出会わなければ、俺は早々に死んで居たと思います。ありがとうございました。」

俺は心の底から、師匠に礼を言った。

「ま、まてっ!正道っ!」

段々と師匠の声が遠く感じる。

自分の存在が消えていくのが感じ取れた。

「ま、正道――――っ!」

今まで聞いたこと無いような、師匠の悲痛な叫びを最後に俺の存在は、この世界から消滅した。


もう俺の影の声も聞こえない。

俺は何もない無の空間に浮いていた。

もしかしたら、俺は既に死んで居て、このまま存在が消えるのかもしれない。

そんな思いも浮かんできた。

それにしても、師匠は何だってんだ、最後の最後にあんな悲しそうな顔をして。

あんな表情するくらいなら、乳くらい揉ませろってんだ、まったく。

俺の長いようで短かった異世界の冒険は、これで幕を閉じる。

このまま消滅するのか、元の世界に戻れるのか、それはわからない。

もし元の世界に戻れるなら、俺は三剣人の世界で学んだことを胸に、生きて行こうと思う。

それは、かつて無職のおっちゃんが俺に教えてくれたこと、童貞を拗らせると碌な事にならない。

異世界で俺は、何度も卒業するチャンスに恵まれた。その度に、クソみたいな夢を振りかざし、自らチャンスを溝に捨ててきた。

昔のお偉いさんの言葉が胸に突き刺さる。

最初に掴んだチャンスをものにするのが脱童貞プロの鉄則だ!

もし、元の世界に戻れるのなら、俺は二度とチャンスを棒に振るようなことはしない。

そう、俺が異世界で学んだことだ、これだ。

辛い事も多く、辛い事ばかりだったが。

あれ・・・。

まあなんだ。

ばあちゃんが元気で何よりだった。

元気というか元気過ぎたが・・・。


辛い事が多い異世界ではあったが、悪くはなかった。

このまま消滅するなら、それはそれで仕方がない。

しかし、元の世界に戻れた暁には、俺は立派な非童貞になることだろう。

いやきっとなる・・・はず・・・・。

次回、最終回です。

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