今度のクエストは捕獲依頼です
「しかし、毎度の事とはいえ、最凶と言われた黒竜がよくも背を預けるものだな。」
一回目の時は、慌てていたカラスの女王も、2回目ともなると堂々としていて、黒竜に話しかけた。
「我が友と竜契を交わした者ならば、友と同じ。友の頼みなら幾らでも聞いて、不思議はなかろう。」
「なっ、竜契だと?正道、竜契をしているのか?」
カラスの女王は、かなり驚いていた。
「ええ、まあ。」
結構、無理やりというか、訳も分からず契約したんだけど。
「驚いたな。竜が人と契約するとわな。」
「我が友は、変わり者だからな。」
まあ確かに、変わり者というか、変わり竜というか、今のサイズじゃあ、とても竜とは呼べないけど。
「それで、女王。正道さんに要件とはなんですか?」
一緒に来てた、レトがカラスの女王に尋ねた。
「大した用ではないのだ。ただ聞いて貰えるなら、剣豪の入山を許そう。」
なんというかまあ、あれだけ嫌がってた師匠の入山を許すぐらいなんだから、結構な無理難題なんだろう。
正直、内容を聞くだけでも気が滅入りそうだな。
「そう身構えなくてもよい。実は、天狗山の麓の周辺にいる幽獣たちの事なんだが。」
はいはい。
もうね、幽獣って名前が出てくる時点で、大した用事ですよ?
「ここ最近、麓にいる幽獣たちの数が増えすぎていてな、天狗山でも対処に困っている。さすがに山への侵入までの事態にはなってないのだがな。」
「なるほど、幽獣たちを一掃すればいいんですね。黒竜頼めるか?」
暇つぶしで幽鬼を狩っていた黒竜なら、それ位引き受けてくれるだろうと思い頼んでみた。
「別に構わぬが。」
あっさり了承してくれた。
「まて、なぜそういう発想になる?」
カラスの女王が呆れた表情で言ってきた。
「私は、幽獣たちが増えた原因を探って欲しいだけだ。」
「はあ、なるほど。」
そっちの方が、よっぽど面倒じゃね?
「それにだ、今居る幽獣たちを一掃したとして、再び幽獣たちが、集まりだす可能性もあるであろう?」
「確かに。」
増えた原因が何かしらあるのなら、現状、一掃したとしてまた集まりだす可能性はある。
しかし、原因を探れって・・・、どうやって?
「いきなり原因と言っても、探りようがないと思いますが?」
俺の代わりに、レトが言ってくれた。
「カラス達にも原因は探らせておる。何かしら情報を掴めば、そちらにも渡そう。」
何とも言えんな。
三剣人の世界に戻る道筋が見えたようで、見えて無いような。そんな気分だ。
城へ戻る途中、俺はレトに聞いてみた。
「なあ、ガオって普段、何処にいるんだ?」
「さあ?」
さあって・・・兄弟ちゃうんか・・・。
「城へは?」
「殆ど帰ってきませんよ。」
「・・・。」
ガオは、何となく幽獣に詳しそうな気がしてたんだが、所在が判らないと見つけようもないな。
どうせ、師匠は手伝ってくれないだろうしな。
とりあえず俺は、城へ戻ると、カラスの女王からの依頼を師匠に伝えた。
「なるほどな。私は訳あって手伝う事は出来ないが。」
「どんな訳ですか?」
「忙しいのだ、こう見えてな。」
「何が?」
今回に限っては、しつこく追及してみた。
「色々だ。」
「例えば?」
「うるさいっ!とにかく一人の力で頑張れ。」
キレやがった・・・。
まじか、この女。
本当、鬼のような強さが無ければ、揉み倒してる所だ。
「申し訳ありません、正道さん。ずっと手伝いたいのは山々なんですが、色々忙しくて。」
時間を工面しては、俺に付き合ってくれているレト。
どっかの乳デカ女とは、同じ言葉でも重みが違った。
「いいさ、レト。気にしなくていい。」
結局、一人で調査する事に。
天狗山の麓から少し離れた場所に着き、あれこれ考える。
都合よくガオが来てくれんかな?
そんな甘い考えをしてると。
ガサガサっ!
俺は、とっさに身構えた。
そうそう都合よく事が運ぶわけがない。
物事は常に最悪を予測しなければ、この世界では、生きていけない。
俺は全力で逃げる準備をした。
そうして、草陰から現れたのは・・・。
ワーウルフボディの幽鬼だった。
「どうした正道?」
「いや何でも・・・。」
俺が身構えてたのを不審に思ったのか、ガオがそう言って尋ねてきた。
まあ世の中こんなもんだよね。
「最近は幽獣たちも多く、危ないぞ。」
戦闘狂いの危ない奴と思ってたが、俺がばあちゃんの孫だと知ると、優しい事この上ない。
「それなんだが、幽獣たちが増えた原因は何か知らないか?」
「わからない。原因を探ってるのか?」
「カラスの女王に頼まれたんでな。」
「そうか、なら手伝おう。」
めっちゃ心つえええええ。
「まずは巣の中心に行ってみよう。」
ちょ、まて・・・。
俺が止めようとする前に、ガオは進みだした。
「危険だろ?」
「大丈夫、俺がついている。」
何とも頼もしい、セリフではあるが・・・。
巣の中心部に行くまでもなく、テリトリーに入った段階で、幽獣に囲まれた俺たち。
「目つきがおかしい。」
ガオがそんなことを言ってきた。
普段、幽獣の目なんて気にしたこともないので、俺にはサッパリわからない。
ただ、奇妙な事に、俺たちを囲んでる幽獣は多種多様だった。
幽獣は単独で行動するものも多いが、群れで行動するものもいる。
普通というか、基本というか、群れの場合は同種だ。
普通の動物で考えてもわかるように、ブレーメンの音楽隊のような群れは自然ではない。
それは、ここ幽鬼の世界も同じで、幾度となく幽獣と出くわしているが、同種以外の群れを見たのは今回が初めてだった。
「幽獣って、多種多様な群れを作ったりするのか?」
もしかしたら、稀にそういうケースがあるのかもと思ってガオに聞いてみた。
「ありえない。」
そう言って、ガオは幽獣たちに向かって行った。
頼もしいと言えば頼もしいのだが、大丈夫なのか?
ガオが向かって行った為、6匹の幽獣が連携を取って、ガオに襲い掛かった。
え?連携もするの?
俺は驚いて、心配そうにガオを見ていたのだが・・・。
押されてる。
というか、やばくね?
俺は急いでガオの腕を取り後方へと引き寄せた。
すかさず。
「ユラちゃん!」
ユラちゃんを召喚させた。
猪突猛進の幽獣たちだから、ユラちゃんに怯むことはないだろう。
勝手に突っ込んで、消えちゃってください。
そう俺が思っていると。
幽獣たちは、後退し、姿を消した。
まじか・・・。
そんな事ありえるのか?
「大丈夫か?ガオ。」
倒れてるガオに手を差し伸べた。
「おかしい、力が出ない。」
そりゃそうだろ、ユラちゃんに力を吸われてるんだから。
レトにどれ位で回復するのか興味本位で聞いてみたが、人の寿命を遥かに超えるくらいかかると言っていた。
「力を戻すには、もっと時間が掛かるそうだ。」
力を奪った張本人ではあるのだが、ガオにそう告げた。
「そうか、助かった。ありがとう。」
素直に礼を言われると、なんとも複雑な気分ではあるが。
「とりあえず、天狗山へ行って報告しよう。」
俺がそういうとガオは、頷いた。
明らかに幽獣たちの様子が違う。
俺たちが天狗山へいって、事の詳細を女王に告げると、女王も既に幽獣たちの異変を知っていた。
「どうやら、幽獣たちに王が生まれたようだ。」
女王がそう告げた。
「そんなのも居るんですか?」
まったく、なんでもありとはいえ、王って奴が多すぎだろ。
「いや、幽獣たちに王が居た事は未だかつてない。」
「じゃあ、新種って事ですか?」
「そうであろうな。」
「どんな奴でしょうね。」
「薄っすらと発光するネズミらしい。カラス達が確認した。」
「なるほど。」
「天狗山の麓に王国でも作るような雰囲気だそうだ。まったく迷惑な事よ。」
「一掃しましょうか?」
黒竜に頼んでもいいし、なんなら、でっかいユラちゃんを落としてもいい。
「どうして、そう、お前は物騒なのだ?それでも剣聖の孫なのか?やはり剣豪の弟子なんぞになるから。」
カラスの女王にそう言われたのだが、確かに師匠が物騒なのは、反論の余地はない。
だけどさ、ばあちゃんも結構物騒だと思うんだけど?長い事会ってないから、美化されてるんじゃねえのか?
「何にせよ。一掃は却下だ。幽獣の王を捕まえてまいれ。」
何言ってんだ、この人?
古来より討伐クエストよりも、捕獲クエストの方が難易度が断然跳ね上がるのは、異世界でも共通じゃないのか?
「た、倒しちゃ駄目なんですか?」
「捕獲が、無理なようであれば、それも仕方がない。だが、一掃はするなよ。幽獣とて、この世界で生きている者たちなのだからな。」
ちっ、一掃は駄目と釘を刺されてしまった。
俺は1人城へ帰り、王とレトに詳細を伝えた。
どうせ師匠は、言う事なんて聞いてくれないだろうし、面倒くさいとか言って動かないだろうから、今回は師匠には伝えなかった。
「一大事だな。レト、正道に力を貸してやれ。」
「わかりました。」
王の命令により、レトが力を貸してくれることになった。心強いわ。
「それにしても正道さん、兄を篭絡するなんて、とんだ浮気者ですね。」
レトが訳の分からない事を言ってきた。
「意味がわからん。ガオは協力してくれてるだけだ。」
詳細を伝えた時に、ガオの名前はもちろん出していた。
「あの兄が、正道さんを恨まず、力を貸すなんて本当信じられません。」
「俺だってよくわかんねえよ。」
城へ戻る時、ガオも誘ってはいるが、帰ろうとしない。まあ師匠がいるから、会いたくないんだろうと思ってるんだが。
「とりあえず現地に向かいますか。剣豪はどうするんですか?」
「来るわけないだろ・・・。」
「それもそうですね。」
俺とレトの二人は、とりあえず天狗山の麓へと向かった。