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死亡フラグ

15年ぶりの異世界転移ものになります。

高校一年生の俺、鈴木正道は常々思っていた。

いつか異世界に行ったら、チート能力貰って、ハーレム、ウッヒャーって。

しかし、現実を知った俺だからこそ言ってやる。

はっきり言って、そんな世界あるかボケえっ!

所詮、小説や漫画なんて妄想です。

リア充が、書いた妄想を俺たち、非モテ高校生や大人になっても碌な人生送ってない連中が見ているという悲しい現実。

売れっ子小説家や漫画家が、若い声優やコスプレイヤーとイチャコラしてる金は、全国の非リア充のなけなしのお金を集めた物なのを彼らは、きっと歯牙にも掛けてない事だろう。

そう考えると腹が立ってきた。

もし、元の世界に戻ることが出来たら、奴らに一言言ってやりたい。

と、俺が異世界でそんなことを思ってる最中にも、奴らはイチャコラしてるんだろうなあ。

はあ・・・。何で俺、今、異世界にいるんだ?

異世界に来た経緯がまったくわかりません。

そりゃあ確かに買ったよ?お年玉を全部つぎ込んで、異世界へ行けるとかいうジャージをさ。

でもね、気が付いたら異世界に居たけど、あのジャージ着てませんでした。

金返せっ!

しかも普通は、異世界の神様とか女神とか、精霊とかさ。

案内役いるよね?

そんなの全然なしで、気が付くと異世界に居て。

この世界で、幽鬼と呼ばれてるモンスターに襲われて、師匠に助けてもらって、色々、面倒見てもらったんで、何とか生きながらえてるんですけどね。


この世界は、夜になると幽鬼というモンスターが湧いたりするんだけど、こいつ等に勝てないと、まず生きていけない。まあ、結界が張ってある町で暮らせばいいんだが、異世界の人間がおいそれと住める訳がない。

ならば、幽鬼に勝てる力をつける訳だが、チート能力があるわけでなく、只管、修行、修行、修行・・・。

思い出しただけで、吐き気が・・・。

まあ、結果、一人で旅できる程度には、成長したんですがね。

どれ位、強くなったかというと、この世界の冒険者の中級くらいには。元の世界に帰れば、リア中を百人くらいは片づけられますよ?と。

しかし、強いだけじゃあ生きていけないのは、どこの世界も変わらないので、冒険者らしく、仕事をしてお金を稼がなきゃいけない。

ということで、今日も、立ち寄った村で仕事を探そうとしたのだが。

村に入った途端、村長の所へ案内された。

嫌な予感しかない。

これ、あれだろ?すっげえ強いモンスターをやっつけてくれとか?

「お願いします。冒険者様、この村に巣食うスライムを退治してください。」

「断るっ!」

俺は、即答で断った。

この世界では、スライムが強いかというとそうではない。ご多聞に漏れず、最低ランクのモンスター。

そんな最低ランクのモンスターを村長自ら退治を頼むなんて、普通であるわけがない。

こっちの世界に来てから、スライム絡みで酷い目を見たのは一度や二度じゃない。

分裂する奴とか、斬ったら痺れる奴とか、亜種なスライムが沢山。

「そ、そんな冒険者様に断られたら。」

すがりつく村長を無視して立ち去ろうとしたのだが、すがりついてきた村人合わせて10人。

み、身動きとれねえ。

気が付いたら、簀巻きにされ棒に張り付けられていた。

「な、何卒。」

俺を前にして、土下座する一同。

何これ?何の宗教?

てか、この状況で断ったら、俺、火炙り?

「あのう・・・、断ったらどうなります?火炙りとか?」

「そんな、めっそうもない。そのまま、スライム退治へ行ってもらうだけです。」

それって生贄だよね?

この状況で、断れるわけもなく、渋々というか無理やりスライム退治を引き受けることになった。

生贄にされるよりマシだよね。

「で、どんなスライムなんですか?」

とりあえず気になったんで、村長に聞いてみた。

「そ、それが。」

勿体付ける村長に、俺は唾を飲み込んだ。

ゴクリっ。

「幽鬼のスライムでして・・・。」

村長が言いにくそうに、ポツリと。

幽鬼のスライムって。

そりゃあ、またレアな。

「お任せください村長。この鈴木正道が一刀両断に退治いたしましょう!」

「「「おおおーっ!」」」

俺の強気の発言に村長と村人が歓声をあげる。

正直、分裂やら痺れるのに比べると俺的には、なあんも怖くない。

「念のために聞いておきますが?何匹で?」

これ重要。

幽鬼を倒す技を師匠に仕込まれてる俺にとって、幽鬼は怖くない。が、数には限度がある。

「1匹です。」

「大船に乗った気で任せなさい。」

「「「おおおおおー!!!」」」

歓声があがる。

その日は、俺を歓待する宴が執り行われた。

来たよ。

俺の時代がっ!

お姉ちゃんに酌なんかされたりして。

期待を胸に女性の登場を待ってた俺。

なんと村の未亡人3人が傍に着くことにっ!

「・・・。」

未亡人ってさ、そりゃあ男の幻想だけど。

エロゲーだともっと若いよ?

俺についた女性は平均年齢60歳くらいの女性3人。

近所のおばちゃんの方が若いやんけっ!

思わず大きい声で突っ込むとこだった。

「申し訳ございません、冒険者様。スライムを退治した暁には、村の若い女性を用意致しますので。」

はいはい。

どうせ村で若いって40代とかでしょ?

「若いって何歳?」

期待もせずに聞いてみた。

「冒険者様と同じ10代で、ございます。」

「盛り上がっていこうぜっ!」

俺は立ち上がり、村人たちを鼓舞した。

まだ昼間だけど・・・。

何せ、幽鬼は夜にしか出ない。

未成年だから、俺、酒飲まないしね。

あれ?

俺、この世界に来て何年経った?

結構、長い間、修行してた気がするんだが。


普通にこの世界の人間と会話をしてる俺だけど、この世界の言葉を覚えたわけではなく、この世界の言語が特殊なだけ。

この世界の言語は、意思伝達言語。

元の世界でも、研究はされていたけど、実現はしていない。

異世界の俺であっても、相手が言うことが判るし、俺が喋ってる日本語も相手に伝わるという、素敵なもの。

科学がないこの世界は、魔法が存在していて、俺の様な科学の世界の人間には理解できない仕組みらしい。

文字は、さすがにそういう便利なものはないので、覚えましたが。


夜になり、村の中に幽鬼スライムが現れた。

そもそも、なんで結界の中にこいつは出現できるんだ?

疑問には思ったが、とりあえず退治だ。

幽鬼は、そもそも影のような存在。

コアと呼ばれる部分を斬れば簡単に消滅する。

が、こいつらは、すばしっこい。

修練を積んでない人間では、まず勝てない。

まあ、血反吐吐くほど鍛えられましたんで。


俺はサクッと幽鬼スライムのコアを斬った。


分裂した。


ほらね、スライムに係ると碌なことねえ。

普段なら、速攻で逃げ出すところだが、頭の中を若いお姉ちゃんがチラつく。


仕方ない。

だって、男の子なんだもんっ!


力ある限り!

斬る!

分裂。

斬る!

分裂。


村中が幽鬼スライムで、溢れるんじゃないかというくらい斬りまくると、幽鬼スライムは消滅した。

分裂系のスライムは、分裂した時には、大きさは小さくなる。

ちゃんと質量保存の法則が効いてるのだ。

だから、斬って斬って斬りまくれば、消滅する。

言えば簡単なようだけどさ。

大量に斬らなけりゃあいけないし、コアを狙わないといけない。しかも、ただのスライムならまだしも、幽鬼となるとスピードが違う。

現に、幽鬼スライムを退治した後の俺はというと、地面に俯せに倒れこんでいた。

やべっ、このまま村人に殺されるんじゃ?

なんて、思ってると、丁重に村長の家に運んでくれた。

意外に、優しい人たちで助かった。

更には、俺の寝床に3人の若い女性が訪れた。

い、いいのに。

俺よ、今、立ち上がらないで、いつ立つの!

自分を奮い立たせようと頑張る俺。

3人の若い女性の方を見ると・・・。

あっ、俺、この目知ってる。

元の世界の女性たちが俺を見る目だ。

「私、パスっ。」

そう言って一人消え。

「そもそも冒険者って、甲斐性ないしっ。」

ゴミを見るような目で、捨て台詞を吐いてまた一人消え。

「無いわあ、マジ、無いわあ。」

そして、誰も居なくなった。

自分で歩けないくらい疲れていた俺は、最後に心を折られ、気絶するように眠った。


次の日、申し訳なく思ったのか、豪華な食事とちょっと多めのお金と何か訳が判らない石を村長がくれた。

同情した目で。

二度と来るかっ!

そう思い、この村を後にした。


なんだかわけが判らない石を眺めながら思った。

ただの石じゃねえの、これ?

町の買い取り屋で鑑定してもらうも、訳がわかりませんと。

「ただの石なのこれ?」

「ただの石では無いですが、何ですかこれ?」

判んねえから、鑑定して貰ってんだろっ!

駄目だ、この買い取り屋。

「幾らなら買い取ってくれんの?」

「申し訳ありませんが、鑑定できないものは。」

買い取り拒否されてしまった。

訳の判らない石をしまって、俺は町を出た。

宿に泊まるくらいの金はあるけど、勿体ないし。

いつもの如く野宿を。


その日の夜。

幽鬼が出た。


いやいやいや、ここ町の外だけど、結界内だし。

しかも、幽鬼スライムって。

レアにも程がある。

って、この石か!


そう思いながらも、幽鬼スライムが消滅するまで斬りつけ、気絶するように眠った。


「生きてたわ、俺。」

朝起きて、感想がこれだった。

血反吐を吐くほど鍛えられたおかげで、野宿してる時に幽鬼が出現すれば起きることが出来る。

が、昨日みたいに気絶するように眠っていては、無理だ。

生きてることに感動し、訳の判らない石を。

いや、幽鬼スライムを呼び出す石をブン投げようとして思い留まった。

その辺に捨てちゃあ、ダメなやつだろこれ。

さて、どうしたもんか。

しょうがなく、石を仕舞い込んだ。


少し大きい町の買い取り屋で。

「これ幽鬼スライムを呼び出す石らしいんだが、どうすりゃいい?」

「またまた、お客さん。そんな石あるわけないじゃないですか?」

「じゃあ、この石は何なんだよ?」

「訳の判らない石です。」

駄目だコイツも・・・。

「幾らなら買い取ってくれるんだ?」

「買い取れませんよ。どうしてもというなら、鑑定の為にお預かりしますよ。」

「よし、頼む。」

俺は石を預けると、一目散にその町から逃げ出した。

いやあ、やっかいな石が、処分出来てよかった、よかった。


二日後、半壊した町で俺は磔にされていた。

やっべ、俺、死ぬの?

遠くへ逃げたのに、手配され捕まってしまったのだ。

「お客さん、これを引き取ってください。」

磔にされた俺に、買い取り屋のオヤジは土下座しながら言った。

「俺言ったよね?幽鬼スライムを呼び出す石って。」

そう、ちゃんと言ってたのだ、信じなかった、このオヤジが悪い。

「お客さんの言う通りでした、ですから。」

土下座するオヤジ。

「断るっ!」

そんな石持ってたら、安心して野宿できんだろっ!

俺が断固、拒否するとオヤジは、スーッと立ち上がった。

「そうですか、それなら仕方ありません。この半壊した町の修理代なんて、持ってないでしょうから、この石と一緒にひと気のない奥地に。」

「よしっ、引き取ろう。そして直ぐに町から離れます。」

俺は、磔から解放され石を持ったまま、町から追い出された。

あの村に、行って捨てて帰ろうかとも思ったが。

さて、どうしたものか。

とりあえず、情報を整理してみることにした。

幽鬼とは、夜の闇に現れて人を害するもの。

多くの人々が殺されてきているのだが。

この石から呼び出される幽鬼スライムは、人を殺していない。村でも被害者は出てないし、半壊した町でも、死んだ者は居ない。

何故?

仕方なく俺は、人里離れた山奥で野宿してみた。

出てきた幽鬼スライムを暫く観察してみると、俺の周りをグルグルと回りながら、周囲の木々を消滅させていった。

食ってるのだろうか?

特に害が及ぶわけでもなく、むしろ他の幽鬼が寄ってこない。

何コイツ可愛い。

ずっと見てたら愛着が湧いてきた。

朝になると、他の幽鬼と同じように消えていった。

よし、とりあえず、問題なしっ!

にしておこう・・・。

だって、処分する場所ないし。


何日もユラちゃんを観察してるとある事がわかった。

あっ、幽鬼スライムじゃあ、アレ何で名前付けちゃいました。

ユラちゃんの大好物は植物、なんと草食系スライムでした。

村や町で暴れたわけではなく、木々食ってたら人々が騒ぎ出して、驚いたって感じなのだと思う。

黙ってみてると、森の木々を黙々と食すだけ。

何この子、超可愛くね?

昼間は町で仕事したりして、夜は人里離れた森で寝泊まりしてたのだが、ユラちゃんが居れば、野宿でも安心して眠れるという。

よし、俺とユラちゃんの冒険がこうして始まるんだなっ!と勝手に思っていたら、ユラちゃんが出てこなくなりました。

こいつ、ずっと腹減ってただけかっ!

お腹を満たしたのか、出現するペースとしては月1。

しかも、出てきても木1本もあれば、満足して動かなくなる。

完全に動かなくなるわけじゃなく、ただ、ぷよぷよしてるだけ。可愛いんだけどね・・・。

まあ、大体は把握出来たので、俺は旅を再開した。


何処の世界にも腐った大人は居るもので、カジノの中では、有り金すって、涎垂らしてる大人とか、有り金すって土下座してる大人とか、有り金すって、見ず知らずの俺に金を借りようとする大人が居たりする。

「直ぐ返す。だから兄ちゃん金を。」

見ず知らずのダメな大人をゴミを見るような目で一瞥すると知り合いだった。

「あっ。」

そう言って、逃げようとするゴミを捕まえて、俺は剣を抜いた。

「何事ですか?」

カジノの店員が聞いてきたので。

「こいつはゴミだから、処分しようと思って。」

「そうですか、店内では迷惑ですので、奥で殺ってもらっていいですか?」

「ちょ、待て待て。何で店側も協力的なんだよ。」

駄目な大人が抗議した。

「その辺の冒険者にタカるゴミのような人なんで、当店にとっては、居なくなって貰った方が。」

「・・・。」

「じゃあ、奥で。」

俺はゴミの首根っこを掴んで店の奥へと行った。

さきほど鞘に納めた剣を再び抜き、直ぐに首を断とうとしたがゴミが土下座して、何か言ってきた。

「ま、まて、正道。俺とお前の仲だろ?」

「ほう、どういう仲だ?」

「ほ、ほら、仕事の分け前をピンハネしたり、幽鬼の巣で置いてけぼりにしたり、無理難題な依頼を押し付けたり・・・。」

碌な仲じゃない。

「死体は、当店で処分しておきますので。」

「それは、ありがたい。」

俺は、お店の好意を素直に受け入れた。


普通の世界で生きていたら、人を殺すなんて異常な事だ。戦争をやってる国なら、まだしも、日本では、犯罪になる。しかし、この世界で生きていくには、時に人殺しが必要な時もある。旅をしていれば、野盗や強盗にあうことなど、日常茶飯時。

情けは、人の為ならず、自分の為にもならない。そう師匠に教えられた。日本とじゃあ、随分、違う意味になるけど、ここはそういう世界。

だから、こんなゴミに情けなど微塵もかけず。

一気に首を跳ねようとしたのだが。

ゴミの一言が俺の動きを停止させた。

「なんて言った?」

ゴミに聞いた。

「お、女を紹介する。」

このゴミ、20代後半のワイルド系なんだが、口が上手い。結構、女を侍らせたりもしている。

以前、大きな依頼で大金を手に入れた俺とゴミは、お姉ちゃんと朝まで飲み明かしたこともある。

俺はジュースだけど。

俺が童貞なのを知っているゴミは、何度か卒業できるよう手配してくれた事もあるのだが、俺のリクエストが中々ハードルが高いようで、未だに留年中だ。

「おい、ゴミ。俺のリクエストが煩いのは承知だろうな?」

「ちょ、ゴミって酷くね?俺ら仲間だったろ?」

「仲間と思ったことは一度もない。」

俺が言い切るとゴミは、ガクッと肩を落とした。

「童貞の理想が高いのは、世の常だがな。お前のは度を越してるんだよ。」

ゴミに指摘されたが、動揺はしない。

だって、相手はゴミだし。

「童貞が夢見て何が悪いっ!」

「あ、あのお客様、当店でお相手をお探ししましょうか?」

店の人が気を使って申し出てくれた。

お店に紹介して貰えば、ゴミは処分できるなと俺はそう考えた。

「商売風でなく清楚で、優しいお姉さん。あんまり経験もなく、恥らいがある女性で、経験が少ないのに優しくリードしてくれる女性。居ねえよっ!そんな女。」

俺の理想を一つも間違えることなく言い放つゴミ。

居るよね?そんな女性?

期待を込めて、店員を見ると。

「と、当店では、お探しできないですね。」

困った風に言う店員。

「どういうこと?」

自分で紹介しましょうかと言っておいてそれはないだろう。

「当店が紹介できるのは、商売女だけですから。」

「ああ、それはそうですよね。」

俺は納得した。

「まあ、それはそれとしてゴミを処分するか。」

俺が非情に宣告すると、ゴミはまだ何かを訴えてきた。

カジノに来た目的もあるし、そろそろ面倒になって来たんで、サクッと殺ろうとした、その時!

「俺がお前の夢を叶えてやる!」

ゴミがそんなことを言い放ってきた。

「その場しのぎは、もういいから。」

俺が面倒臭そうに言うと、更にゴミが。

「今までだって、お前を卒業させてやろうと、結構、俺努力しただろ?」

確かに・・・。

仕事に関しては、殺してもいいくらいの事はされているが、女関係だけは、信頼ができなくもない。

「いいだろう、今回は見逃してやる。」

面倒臭くなってきたし、俺、男の子だし。

話は終わったので、カジノの中に戻った。

すると速攻で。

「いいだろう、正道。金貸してくれ。」

コイツ、本当にゴミだな。

「断る。」

「そんなこと言うなよ。なっ、お前だって稼ぎに来たんだろう?」

「確かに稼ぎには来たが、小金に用はない。」

「ちょっ、暫く会わないうちにお金持ちに?何をやるんだ?」

「モンスターバトルだ。」

「VIPライセンスあるのか?」

VIPライセンスは、常連でしかも金持ちしか貰えない、庶民とは縁遠いライセンス。

「ない。」

「俺だってないぞ?」

俺が、ゴミを当てにするわけがないだろう。

アホかコイツは・・・。

「賭けるんじゃなく、出場するんだよ。」

「な、なに!お前、モンスなんて飼ってるのか?」

「ああ。」

たまたま、立ち寄った町で、モンスターバトル大会が開催されているのを知った俺は、エントリーしにカジノに来た訳だ。


「エントリーされるモンスターは何ですか?」

受付でそう言われたので。

「スライムです。」

「ス、スイムですか・・・。」

何か、受付の人に、すげえ見下されてる気がする。

「まあ、お前が飼えるなんて、そんなもんだよな。」

ゴミにまで・・・。

「それでは、こちらまで連れてきて頂けますか?」

受付の人にそう言われたので、俺はユラちゃんの名前を呼んだ。

「ユラちゃんっ!」

そう呼ぶと、ユラちゃんが現れた。

呼べば出現するまでの仲になったのだ。

夜限定だけど。

突然現れたユラちゃんを見て、周囲の人たちが神速の速さで逃げて行った。

あれ、ゴミまで。

「お、お客様・・・。」

遠くから、受付の人が聞いてくる。

「そちらのモンスター・・・、いえ、幽鬼ですよね、それ?」

「スライムです!」

俺は断言した。


「すげえじゃねえか、正道。」

ユラちゃんを引っ込めるとゴミが寄ってきた。

「おい、ゴミ。」

「あ、あの正道さん、いい加減名前を呼んで貰って?」

「恐らくベット出来るのは、最初だけだ。」

「いやいや、VIPライセンス無いからベット出来ないだろ?」

「特例でベット出来るように許可を貰った。」

コイツに金を預けるのは、信用できないのだが、今はコイツしか頼む相手が居なかった。

「全部、ユラちゃんに突っ込んでこい。」

そう言って、有り金全てをゴミに渡した。

まあ、最悪、優勝賞金でるから、金は心配ない。


「おい、正道。」

ゴミは、逃げずに戻ってきた。

「ユラちゃんの優勝に全額突っ込んできたぞ。」

「今って、そんなのがあるのか?」

「100倍だぞ。100倍。」

「優勝賞金より、多くならね?」

「一生、遊んで暮らせるぜ。」

ああ、やっぱりコイツはゴミだ。

駄目な大人の顔してる。

日本でも、当たってもない宝くじで夢見てるゴミのような大人が、周囲にもたくさん居たが、こいつはそれ以下だな。

今は、スライムでゴリ押ししてるが、勝っていくとイチャモン付けられる可能性はある。

最悪、1回戦の賭けの勝ち分だけでもと保険のつもりだったんだが・・・。

ゴミのせいで何が何でもゴリ押しするしかなくなった。

まあいいや、最悪カジノを潰しても手配される事は無いし、裏の世界で賞金首になる可能性はあるが、だからと言って困ることは無い。

そういえば・・・。

「おい、ゴミ。お前賞金首になってなかったか?」

「裏のだろ?」

「カジノに居て大丈夫なのか?」

「おいおい、俺だって冒険者の端くれだぞ?」

端も端、最先端と言っても過言じゃないような。

まあいいか、こいつが殺られたら、俺が賞金を貰おう。


一回戦の相手はサーベルタイガー。

うあ、めっちゃカッコいいんだけど。

「さっさと終わらせ。」

「スライムで出場なんて、なめてんのかっ!」

観客席から、ヤジが飛んでるんだが。

まあVIPって言ったって、カジノに出入りするような奴らだから、柄が悪いのはしょうがない。

サーベルタイガーの飼い主の勝ち誇ったような顔にも腹が立つが・・・。

「ユラちゃんっ!」

そう言って、ユラちゃんを登場させるとパニックになった。

観客は逃げるわ、相手の飼い主も逃げるわ、サーバルタイガーなんて、檻を登れないような高さまで登って、身を震わせてた。

もちろん、ベット終了後に会場から出る事は出来ず、出入り口は、物凄いことになっていた。

「あ、開けろ、私を誰だと思ってるんだ。」

「幽鬼を持ち込むなんて正気かっ!」

怒号が飛び交ってたが。

「あれは、スライムです。」

「「「アホかっ!」」」


結局、俺のというか、ユラちゃんの不戦勝になって、ユラちゃんを引っ込めたら、場は治まった。

大会は中止の方向で話は進んでいたが、ゴミの本領発揮。その辺のチンピラの如く、絡みに絡んで、ユラちゃんの優勝で話はついた。

カジノから巻き上げた豪華な馬車に、大金を詰め込んだ俺たちは、カジノを後にした。

もちろん無事に町を出れるとは思ってない。

「おい、有り金おいていきな。」

柄の悪い連中に、馬車を取り囲まれた。

「たった20人で俺たちに勝てるつもりか?」

もっと柄の悪いゴミが、馬車から降りて20人相手に凄む。

このまま置いて行ってもいいんだが、襲われて逃げるだけってのも性に合わない。

この世界に来て師匠に教わったことがある。

人に剣を向けていいのは、自分も斬られてもいいという覚悟がある者だけだと。

俺が馬車から降りる頃には、既に3人が死んでいた。

最先端に弱いゴミと言えど、冒険者。

この世界で冒険者になるには、越えなければならない壁が存在する。

幽鬼という壁が。

街に巣食うチンピラごとき束になろうと冒険者の相手ではなかった。

6人が絶命したころに、相手はビビり始めた。

数の優位が次第になくなり、更には数の優位が何の役にも立たないと気付いたからだ。

俺は、既に二人の首を落としていた。

どんな悪人であれ、死ぬ時くらい痛みがない方がいいという思いからなのだが、師匠からは甘いとよく怒られていた。

逃げ出そうとしていたチンピラの一人を捕まえて、ゴミの方に放り投げた。

「誰に頼まれた?」

こういう役は、ゴミのように強面がやるに限る。

「手足を一本ずつ斬っていけば、そのうち喋るだろ?」

俺がそうゴミに助言した。

実際、俺の師匠は、野党や悪党相手に、そういうことを躊躇なくやっていた。

「か、カジノに頼まれたんだ。」

手足一本も失うことなく、喋るチンピラ。

「どうする?」

ゴミは、そういうとチンピラを意にかけることもなく殺した。

「そうだな、潰していくか。」

悪の巣窟なんて潰しておくに限る。

カジノ潰して、金を奪ったら強盗だけど、さすがにそんな悪辣な事はする気はない。

だって、このお金は、真っ当に稼いだお金ですからっ!

ユラちゃん、様様なんだけどね。


カジノの建物の前に行くと、俺はユラちゃんを呼び出した。

いつもの十倍の大きさのユラちゃんがカジノの上空に現れると、あっさりとカジノの建物を押し潰した。

「「・・・。」」

唖然となる俺とゴミ。

「ま、まあ結果オーライか?」

ゴミが聞いてきた。

「よ、予定通りだ・・・。」

俺はそう返すしかなかった。

これは、ちょっとやり過ぎたかな?とも思ったけど。

カジノに集まるような奴は、碌なやつが居ないことは確かなんで、まあいいか。


「本当にいいんだな?」

俺は、ゴミに分け前は持てるだけ持って行けと言ったのだが、このバカ、動けなくなるくらいの金を持っていこうとした。

「お前、速攻で襲われて死ぬぞ?」

俺は、そう忠告してやった。

まあ、金がそんなにいるわけでもなく。

だって、何もせず優雅に遊んで暮らしてたら、間違いなく殺されるよね?

海外で、悠々自適に暮らしている日本人がよく殺されているしね。

一か所に留まって居ることが出来ない事情もあるし。


カジノで負けてショボショボと歩いている、おっさんを捕まえ。

現実世界でも、パチ屋から出てくるおっさんの殆どが、この世の終わりの様な顔をしている。

「荷車を売ってくれ。」

そう言って、相場の3倍の金を見せつけると、速攻で荷車を持って来た。

ああ、こんな大人にはなりたくねえな。

荷車に6割強の分け前を載せ、ゴミに渡した。

「お、おい、何かあるんじゃねえだろうな?」

疑うゴミ。

「後ろから俺を殺る気か?」

「お前を殺るのに、正面からでも余裕だが?」

「・・・。」

今回の金は1割でさえ、一生暮らせる大金だ。

が、このゴミなら、6割でさえ1年ももたないだろう。

カジノに対して、若干後ろめたさもあるし、還元分と思って、ゴミに6割も渡したのだ。

何度も、何度もこちらを振り返りながら、離れていくゴミ。決して感謝の気持ちで振り返ってるのではなく。

俺を警戒しているのだ。

まったく、去っていく時までゴミのような奴だ。

俺は、豪華な馬車を操り、カジノの町を後にした。

「しまった、女紹介して貰ってねえ。」

ふと思い出したが、まあいいや。

これだけ、金もあるんだし、女も寄ってくるだろう。

そう、よからぬ思いをはせていると、天が望みをかなえたのだろうか?

馬車の行く手を絶世の美女が立ちはだかった。

金髪青眼の絶世の美女。

パッキンに、青い瞳。

青緑の碧眼とは違い、完全なブルー。

決して元の世界では、出会えないような美女。


俺が、今、最も・・・。


「探したぞ、正道。」


会いたくない女性。

ああ、俺死んだな、これ・・・。


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