第1部 12芒星魔方陣 編 3章 精霊魔法
「ほんと、姉さんは手加減しないんだから」
私はさっきの戦闘をぼやいた。もう、着ていた服は埃まみれになっている。
この屋敷の風呂は大きな浴槽とサウナの設備が整っている。日本で言う銭湯の程度の大きさがある。
私は以前に日本で入った温泉がとても気に入り本国の屋敷の風呂を改装させた。屋敷内の使用人達にも人気が有り、使用人用の風呂も同じような風呂に改装させた。
「お嬢様、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
浴室の外側でエリカが様子を伺っている。
「良いわよ、入ってきて」
「やった!」
何か『やった』って聞こえたような気がしたが・・・。この後私は久しく忘れていたエリカの性癖を思い出したが既に遅くエリカがもう入ってきた。
「お嬢様ー」
エリカは叫びながら私の居る浴槽へ飛び込んで来た。
「うわー」
私は思わず悲鳴を上げた。エリカは研ぎ込んだ勢いそのままに私に抱きついて来た。
「お嬢様ー」
「ちょっと、エリカ離れて」
エリカは私の言葉を無視して頬ずりする。
「あら、お邪魔だったかしら」
私達を見たジュリアンが面白いおもちゃを見ているような顔をしながら浴室に入ってきた。
「なによ、エリカは私が油断するといつもこうなのよ」
まだ私にしがみついているエリカは私の体をのあちこちをなで回し始めた。
「辞めなさい、コラー」
私は湯船から立ち上がってエリカを引きはがしに掛かった。それでも必至にしがみついてくるエリカ、そうしているうちに私の胸に誰かの手の感触が・・・。
「きゃっ!」
「まあ、可愛い声、でも慎ましい胸ねぇ」
後ろからジュリアンが私の胸を揉んでいた。
「あっ、ジュリアン様ずるーい」
「もう、いい加減にしなさーい」
私は2人を魔法で湯船ごと吹き飛ばして先に風呂から出て行った。
「チーフから戻ってくる様に言われたのね」
2階のテラスで夜風に当たっていた私の所にジュリアンがやって来た。
「ええ」
「怪我とは言え2ヶ月も休んでいたのだからそろそろだと思っていたわ」
「だけどまだ怪我は全快してないのでしょ?」
「大丈夫よ、ここまで回復したのだから問題無いわよ」
ジュリアンはテラスの先まで進み両手を広げるとテラスの先の木々から無数の光の玉が浮き上がる。
「スプライト?」
「これは光の精霊ソウルスね」
両手を下ろしていたジュリアンは私の質問に返事せずに続ける。目の前に浮かぶ無数のソウルスは再びジュリアンが両手を上げると一気に空高く浮き上がり曇って見えない星の変わりに幾つも空を照らした。
「きれい・・・」
ジュリアンは両手を上げたままクルッと回り私の方を向くと左手を一度下ろし物を持ち上がる仕草をした。
空に上がったソウルス達は順に弾け打ち上げ花火の様に様々な光を放ち、夜空一面を光りの花へ変えた後に消えていった。
「シル、明日には日本に戻るわ、シルはどうする?」
「帰りのフライトプランは金曜日にしてるのだけど」
「3日後ね分かったわ」
「何か有るの?」
「私もただ、休養のために本国に居た訳じゃ無いって事よ」
ジュリアンは外へ振り向いてぽつりと言った。
「お爺さま、成田課長から預かりました」
私は祖父、エドワードに手紙を渡した。
「有り難う、後で読ませて貰うよ。所で日本の様子はどうだ?」
「凄いですね、戦後復興の速度が早いですね、学研都市の建設も予定の50%迄進んでいます。これなら支社機能を移譲する事も可能だと思います」
「第2次世界大戦後の30年で復興し世界1の経済大国になった実績も有る。300万人の犠牲者が出た事は痛手だろうがGDPが回復している。日本のすばらしい所であり、恐ろしい事でもある」
「そうですね。GDPがマイナス成長の時でもインフレが原因だった訳ですしね」
エドワードは机の引き出しからUSBメモリを取り出し私に手渡した。
「これを成田さんに渡してくれ」
「これは?」
「最近、本国で起きている事案の裏情報だ。事情はジュリアンに話してあるから後で聞くと良いよ」
「そうね、聞いておきますわ」
疲れた表情を見せるエドワードを気にしつつ私は祖父の部屋を後にした。
日本へはキングローズ社で手配して自家用ジェット機で帰る事になった。
キングローズ社は私達姉妹の祖父が設立した『デジタル魔法』を開発した会社の事で、故に独占した魔法の研究開発と管理を行っている。その開発の一部を学研都市に依頼している。
空港に向かう車の中でジュリアンはぽつりと言った。
「もうこの国も先が分からないわね」
「何?どうしたの」
「うんん、何でも無いわ」
車はカーディフ国際空港に到着した。
「何か有ったのかな?」
空港の入り口には数台のパトカーと警察車両が止まっている。ロビーに入ると電光掲示板の表示が全て消えている。
「何が有ったのです?」
私はカウンターに居た従業員に尋ねた。
「ハイジャックです。ヒースローから緊急着陸してきました」
「姉さん・・・」
「仕方ないわね、じゃあ、さっさと片付けましょう」
「姉さんちょっと待って」
ジュリアンは車に戻りトランクから長いケースを取り出した。私はスーツケースに入れていたM1951とショルダーフォルスターに納めた。
「エリカ、後お願いね」
「分かりました。お2人ともお気を付けて」
私達は再びロビーに入る。しかし今度は物々しい雰囲気の私達2人を警備員は見逃さなかった。
「何だお前達は」
「私達は日本の警察よ、捜査の協力をするわ」
私は直ぐに警察章を見せながら言った。
「しかし、日本の警察の方には・・・」
「何を言ってるの。母国を守るのも私達の仕事よ、早く案内して」
ジュリアンも警察章見せる。警察章には生年月日や国籍も記載されている。これ以上ない身分証明書だ。
「分かりました」
警備員に案内され着いた場所はソーティングエリアと呼ばれ、出発ゲートのF1の荷物を受け渡す所に警察感が25人程度居た。
「何だ、君たちは」
体格の良い男が訊く、ジュリアンはすかさず警察章を見せながら言う。
「私達は日本の警察よ、丁度現場に居合わせたから捜査に協力するわ」
「しかし・・・」
男は半信半疑な様子で警察章をのぞき込むと目の色が変わった。
「ジュリアン・R・ボールドマンと言うとキングローズ社の・・・ああ失礼しました。私はこの件を任されているロニーです」
「ジュリアン・R・ボールドマンです。後ろはシルビアそれで現在の状況は?」
「現在、航空機内に人質185人を取りつつ、国際犯罪者の釈放を要求しています」
「犯人の人数は?」
「それはまだ調査中です」
「分かったわ、シルビアやるわよ」
「分かってるわ」
私はフォルスターから銃を取りだして目を閉じた。ジュリアンはケースから日本刀を取り出し胸の前に上げた。
私の足元に魔法陣が現れる。ジュリアンの足元からも魔法陣が現れ触手が伸びるように繋がった。
ジュリアンの魔法陣は端が立ち上がり頭の位置まで上がるとカーテンの様な光の柱が浮き上がり、その柱の内側に幾つもの小さな画面とターゲットスコープが表示され次々とロックオンしていった。
「一体、どうやってテロリストを判別しているのです?」
ロニーは不思議そうに訊いた。
「今のところは銃を持っているかどうか?爆発物を持っているかどうかで判別してるわ」
「でも、銃なんてどうやって持ち込んで」
「塩化ビニール性の銃よ、後、機は内持ち込みが出来る液化爆弾を持っている者が3人、合計8人いるわ」
「そんなに・・・それで、どうするのですか」
「突入部隊の準備をして下さい。これから犯人を取り押さえます。それと、D23席にも客に偽装したテロリストアが居るわ」
「わ、分かりました」
私の説明にロニーは部隊の再編成を急いだ。
「じゃあ行くわよ」
ジュリアンは合図する。
「行っけー!」「ソナートランスファー!」
私のかけ声にジュリアンは刀を抜きはばきが見えた所で止めると後ろに半人半蛇の女性が現れ、周囲に出ている光のターゲットスコープかの色が変わった。
「とりあえず犯人と思われるに人間を拘束したわ、もちろん無傷でね早く突入して」
「あ、はい」
ジュリアンは刀を鞘に収めながら言うとロニーは慌てて突入の指示を出した。だけど私はまだ探知魔法を解除していない。残党が残っているかも知れない為だ。
「シル、どう?」
「大丈夫だと思うけど念のため探知は続けてるわ」
突入した航空機の内部では犯人達の体中に蛇が巻き付いていた為身動きがあ取れずに全ての犯人が逮捕された。その中に客にナイフを突きつけていた男1人。探索魔法の検索作害だったためか漏れていた。
突入部隊は銃を構え若干の降着状態になった。しかし男は人質と反対側に倒れた。
「どういう事だ?」
機動隊が訊いた。そのソーティングエリアに居た私にジュリアンが声を掛けた。
「お疲れさま」
「全くもう、この国も随分治安が悪くなったものね」
指揮を取っていたロニーお礼を言った。
「姉さん行きましょエリカが待ってる」
「そうね、行きましょ」
私達は出国手続きを済ませ自家用機に乗り込んだ。
「お疲れさまでした。早速、離陸許可が下り次第出発します」
「お願いね、エリカ」
私達は直ぐに日本へ向け飛行機は離陸した。
1部 12芒星魔方陣 シルビア編のプロローグはこの章で終わりです。
次章から本編に入って行きます。
大まかにシルビア、ジュリアンの強さがお判り頂けたと思います。