第1部 12芒星魔方陣 編 2章 英国の休日 1話
遅くなりましたが
あけましておめでとうございます。
本年も順次公開して行きますので程々にお願いいたします^o^
さて、3章までのシルビア編はざっくりプロローグです。4章から本編に入る予定です。
また、朝倉裕貴編や岡本浩子編で見えてこない事件首謀者(組織や国)などの陰謀や政治的要素を(無い頭で一生懸命考えます!・・・汗)入れて行こうと思います。
「お疲れさまです。シルビアお嬢様、これで検診は終わりです」
医者が告げると私はCTスキャナーの寝台から降りた。
「検査結果はもう分かるのよね?」
「はい、結果をお話致しますので診察室へお越しください」
キングローズ社が設立したキングローズ病院、脳髄膜コンピュータの基礎研究を行っている世界で唯一の病院で脳神経学科と言う。もちろん通常の脳神経外科や脳外科と言った脳に関わる専門の病院だ。
私に移植された脳髄膜コンピュータの定期検査が終わった。
「お疲れさまです。お嬢様」
「毎年の事だから慣れたわよ」
脳髄膜コンピュータに強い磁気は危険が在る為MRIが使えず代わりに放射線によるCTスキャナーを使う。他にも脳波検査等を行った。
「お疲れさまです。お嬢様」
診断を終え診察室へ向かう途中にエリカが大きなトートバッグを持って待っていた。
「もうすぐ、診察が終わるけど、一緒に来る?」
「はい、是非!」
エリカ・ヘップバーン、屋敷のメイドだが私の魔法を使う姿に魅せられたとかで実質私専属になっている。
検査の結果は特に異常は見当たらないと言う事だった。事故で機能を失い萎縮していた脳の一部は完全に回復したと聞き安心をした。
そうは言っても、元々、脳に障害を負いその機能を脳髄膜コンピュータが補填していたのに過ぎない為、例え脳の機能が完全に回復し無くても問題は無かった。
「この後、どうされますかお嬢様」
時刻は午後1時過ぎ、まだお昼を食べていない。
「お屋敷に昼食の手配が出来て居ます。さあ、直ぐに戻りましょ!」
エリカは病院の車を取ってくる為ロビーで待つ様に言い雨の駐車場へ走って行った。
屋敷に着く頃には雨が雪に変わっていた。今年は少し寒い日が多いそうだ。
「せっかくサロンで食事したかったのですけど生憎の天気ですわ」
「まだ4月よ、寒いでしょうね」
遅くなった昼食を食べているとジュリアンも食堂にやって来た。
ジュリアン・R・ボールマンは私の姉。前回のミッションで重傷を負い2ヶ月の労災を取ってボールドマン家の屋敷で休養を取っている。
「シルお帰りー」
ジュリアンは私に左側から抱きついた。
「姉さん、もう怪我の様子はよろしいのですか」
「ええ、もう回復したわ。エリカ、私の分も有る?お腹が空いちゃった」
「それでは、ミートパイとお茶を用意します」
エリカは厨房から顔を出すとまた直ぐに厨房に戻った。
「お願いね、ねえシル、後で道場へ来てくれない?」
「ええ、では久しぶりにやるのですか?」
「えー、その前に見せない物が有るの」
「分かったわ」
昼食を済ませ道場へ、闘技場だった部屋をジュリアンが改造した。何でも武道に興味があるらしく以前に2年ほど日本に留学していた。とはいえ今は私の姉さんも日本に在籍している。
私より若干背が高く引き締まった体をしていて、赤く長い髪を二つに編んで胸元まで垂らしている。大きく赤い目とすらっとしたプロポーションはとても美しい。
闘技場に着くと白いレースのワンピース姿のジュリアンが待っていた。左手には湾曲している剣を持っている。
「待っていたわ、シル」
「本当に怪我の方はいいの?」
「問題無いわ、それに魔力も戻ってきているわ」
「それより、その格好ネグリジェ?」
「似合うでしょ、そんな事より、これ見て」
ジリアンはワンピースの裾を摘んでお辞儀して見せた後、左手に持っている刀を見せた。
「その剣の事、変わった形してるね」
「日本刀って言うの、今まで持っていたサーベルとは少し扱いが違うけどとても良い剣だわ、その気になったら鉄だって切れるのよ」
ジュリアンは魔術師でも有り西洋刀を使った剣術も免許皆伝レベルの術力を持っている。
「鉄が切れるってあの鉄を魔力も使わずに?」
白い鞘には天龍を摸した銀箔の細工と、鍔から先端に掛けて一直線に白銀にまで磨き上げられた縁取りがしてある。
半信半疑でジュリアンの様子を見ていた。
木の柱に藁を巻いた物が立っている『薪藁』と言うらしい。
姉はその前に立ち、剣の鞘な抜いて大きく振りかぶった体勢から「はっ」とかけ声と共に剣を振り下ろした。
刀身は朝日を浴びて白い残像と共に薪藁はあっと言う間に斜めに真っ二つに切断され、薪藁の中から直径二センチほどの鉄柱が見えた。よく見ると建築用の鉄筋だ。
「凄い」
シルビアもサーベルを扱うが流派はどちらかというと『フェイシング』に似た構えから基本は『突く』と言った動作になる。
サーベルではこのようには行かない。
「これだけを見せる為に私を呼んだんじゃ無いんでしょ、姉さん」
「そうね、私もあなたの様に武器を強化する魔法を習得しようと思ってね」
「でも、姉さんは十分私より魔法の才能に長けているでしょ?」
「魔法はそうかも知れないけれど、ここ最近、1人でのミッションが増えてきているから近接戦になった時、競り負けるのよ」
そう言ってジュリアンは、ネグリジェの肩紐を解き背中を私に見せた。
「な!」
銃痕が左肩にできていた。
「それが前のミッションで負った怪我?」
姉はそう言って肩紐をまた結んだ。
「これだけの怪我をしたら少しは考えるでしょ近接戦も」
「それもそうよね、でもどうして、治癒魔法を使わなかったの?」
「私、治癒魔法が苦手だし発動まで時間が掛かるから」
ジュリアンは回復や補助魔法が得意なプリーストと言うよりは攻撃魔法が得意なウォーリアと言うタイプだ。私はその中間でメイジのタイプに属する。
「それで、剣術をそこまで訓練したの?」
「そうよ、で、この実力が本当に実践向けなのかを試してみたくて」
「つまり腕試しがしたいって事」
「そう、しばらく実践からも離れていたからその感覚を取り戻す意味も込めてね」
「分かったわ、それで場所と時間は」
「一応、決めてあるけど条件はシルに任せるわ、その方がより実践的になるだろうしね」
そう言って姉は刀を鞘に収めた。
「時間はいつ」
「できれば今日の夕方・・・そうね6時で良いかな?」
「私は構わないけど」
「良かったーありがとシル」
そう言ってジュリアンは私に抱きついてきた。
「じゃあ、待ってるからねー」
そう言い残してジュリアンは行ってしまった。
「エリカ、悪いけど場所の手配お願い」
「はい、かしこまりましたー」
エリカは慌ただしく準備へ向かった。