第1部 12芒星魔方陣 編 7章 水面下で起こる何か 2話
公安に入ってからはまともな休みは無い。その証拠に昨日は日曜だったと言うのに朝からずっと情報分析室に入ったままだった。
通信局から経由する外部の通信記録を調べて行くが早々スペルブーストに関わるデータが見つからない。アリアに自動検索をかけ昨日一日でアクセスの有った23垓4729京3890兆件のアクセス履歴を当たらせた。そしてその間に私はキングローズ日本支社のサーバーにアクセスする新たに登録された魔法のリストを検索する。
「なあに?これ」
リストの中に複製された記録が見つかった。コピーされた日付は昨日の午前10時14分から17分の間、デジタル魔法の取扱説明ファイルやランタンと言った非戦闘向けな魔法プログラムが殆どだった。しかしその中に重いデータが有る。
「これって、基幹プログラムのダミー?」
基幹プログラムとは、人とデジタル魔法を繋ぐ重要なプログラムでキングローズ社がブラックボックスにして管理している。
そのため世界中からハッキングの攻撃に日夜晒されている為ダミープログラムが数千種類用意されている。
本当の基幹プログラムは現在、イギリス本部でネットから独立した環境に保管されて居るが治安の悪化の為、日本に移送するかの議論が出ている。
そして現在、デジタル魔法は一般公開し広く普及させようとしているがキングローズ社が唯一魔法のデジタル化に成功し、この先30年は他の国及び企業では同技術の再現は不可能と読んで特許はまだ出願していない。特許を出願すると30年で特許権は一般公開されデジタル魔法の技術を独占出来なる為だ。
私は直ちにキングローズ社の日本支社へ暗号通信を送ったがしかし返信が無かった。
『-シルビア、直ぐオフィスに戻ってきて-』
椅子から立ち上がると同時にマリアから通信が入る。
『私もこれからそちらに戻って伝えなければいけない事が有ります』
『-キングローズ社の事?-』
『どうしてそれを?』
『-今、6課に通報が入った-』
オフィスに来るとジャンがオフィスを飛び出していく、何かには成田課長の他、マリア、北条が残っている。
「シルビアの為に繰り返す。今から11分前にキングローズ日本支社より何者からの電子攻撃をを受け、会社のセキュリティがダウンしたとの報告を受けた。これより、警護と防衛、セキュリティの再構築の支援に向かう。私達はカルマンと車で急行する。シルビアと北条は現場に急行して対応に当たれ。ジュリアンは小河と別で現地に急行している」
「分かりました」
私はベレッタM1951をショルダーフォルスターに入れ。7階の演習室に北条と向かう。
「座標は私が送る。行くわよ」
私は転送魔法『ダブルリング』を発動させる。私と北条の足元と頭上に2つの魔法陣が現れ胸の位置で1つに重なる。
目の前には第3ジオフロント、キングローズ日本支社の前に来ている。既に警察車両が有る。
「公安よ、通報を受けてきたわ」
すると近くに居た警察官が私達の所へ駆け寄って状況を説明した。
「分かったわ、直ぐに係に会わせて」
「分かりました」
警察官に案内されたオフィスに入る。予想したとおり騒然となっている。その中の奥の机で数人が集まって何かしている。
「シルビアさん、来てくれたんですか」
声を掛けたのはリン・マックレーン、本部からキングローズ日本支社へ出向している。
「初めまして、高見美里、ここの支社長をしています。先月本部よりここへ就任してきました」
少し気の強うそうな女性、歳はまだ30代半ばの様に見える。
「それで、今の状況は?」
「警察には連絡したのですがこちらでも独自に犯人を追跡を試みている所です」
「犯人の特徴は?」
「これです」
マックレーンはあらかじめ用意していたかの様にプリントアウトした防犯カメラの写真を私に見せる。
「こいつですか?」
私はディスプレイに映る人物を拡大表示するがぼやけていてよく見えなくなっている。
「何故、こんなに解像度が落ちているの」
「停電で予備電源に切り替わる時で画質が落ちていた様なんです」
背丈は160cm程だが小柄な印象を受けるような体格に見え、黒く動きやすそうな服を着ている。
「こいつには発信器は付いているの?」
「逃走経路で一度だけ接触しました。その時に」
私は追跡プログラムを起動させディスプレイに映し出された。受動式発信器のため今はマークされていない。『発信』アイコンを押すとこの施設に設置された発信器から電波が飛び受信機がその電波を跳ね返すシステムになっている。
「ここならまだ、そう遠くへは行っていないな」
北条の言うとおりビーコンで映し出されたマークは500mくらいの所で反応が有った。
「恐らくデータのコピーに手間取っているのでしょう」
高見が腕組みしながら私の後ろの大きな机で指示を出している間に言った。私は近く似有ったディスクのコンピュータの前に座り操作する。画面には突然幾つも防犯カメラの映像が映し出された。街を行き来する人の映像が映っている。
「それはあえて磁気テープにデータを記録しています。今時こんな古いタイプの磁気テープを使った設備なんて学研都市でもそう有るのもでは有りませんから」
「あえて時間の掛かる記憶媒体を使っているって訳ね」
「ええ、今確認をしていますが奪われたデータだけでは復元は不可能だと思います。しかし、それでもこのままにしておくわけには行かないので」
「分かったわ、北条さん行きましょう」
「ちょっと待て、ここに映ってる」
北条が幾つもある監視カメラのウインドウからここに進入した人物とよく似た体格と服装の人物を発見した。
「こいつか?」
「ここの場所は?」
「ここはAF36地点の県道44号を冷凍トラックで南下中です。車に乗り込む所を防犯カメラが捕らえていました」
私は直ぐにマリアへ通信を入れる。
『チーフ、今何処です?』
『-今、そっちに向かっている所よ場所はAF33地点-』
目の前に通信画面が現れマリアは返事返す。
『直ぐに引き返して下さい今AF36地点に被疑者を思われる人物がトラックで南下しています』
『-犯人の特徴が一致した-』
北条が気合いの入った声を出す。
『その場所からだと榊インターが近いわね』
『-分かった。急行する-』
『-チーフ、そこだと私は高速の南側で待機しています-』
小河からの通信が割って入った。
『-分かった-』
『私達は引き続き、キングローズ社で状況を確認しています』
北条は引き続き画面の人物を追いかけている。私は目を閉じ脳髄膜コンピュータの稼働率を上げる。脳の中で次々とシナプスが繋がって行く感覚が分かる。
一帯の電波を遮断する。そして。
『榊インターのゲートを強制封鎖した』
私は勝手だと分かっているがそれが一番都合が良いと判断した。
『-ゲートを閉じた?国土交通省の許可無しに?-』
北条が聞き返した。
『そんな物、後でどうにでもなるわ』
私はそのまま目を閉じた。
『-封鎖の件は私が何とかしよう-』
『ありがとうございます。課長』
『-トラックは榊インターのゲートを強行突破した-』
刻々と状況が伝わってくる。
『-小河です。今、ジュリアンとAT57地点に到着しました-』
『-なんとしてもトラックを止めろ!-』
マリアが通信の中でも叫んだ。
「そこのトラック止まりなさい!」
高速道路を南下するトラックに対して道を塞ぐように車を止め車載スピーカーで小河が叫んだ。
しかしトラックは止まる気配が無い。ジュリアンも車から降り正宗を鞘から抜くと刀が白く光り横一文字に振り払った。
剣先から発生した衝撃波は鎌鼬となって暴走するトラックを上下に切断した。
トラックのフロントガラスから上半分が衝撃で後ろにスライスされる様に少しずれ、御トラックがバランスを崩し左に蛇行すると上半分が右斜め後ろに滑り落ちた。
その弾みでトラックは軽く前が浮き、車に真っ直ぐ突っ込んでくる。
ジュリアンの足元に魔法陣が現れスピリットと言う氷の悪魔を召喚した。ハンドボールくらいの黒っぽいてるてる坊主に似た姿をしている。
悪魔は気味の悪い笑い声を上げながら接近するトラックの前で冷気を放ち、道路がたちまち凍り始めた。
タイヤのグリップが無くなるとトラックはバランスと崩し横転し、滑りながら小河の乗っていた車に迫ってくる。
このままでは滑ってくるトラックと衝突する寸前、車とトラックの間に氷りの壁ができトラックはその壁に衝突して止まった。
トラックのバンから這い出た女が防犯カメラに写っていた人物像と特徴が酷似している。運転席に居る男は顔じゅう血まみれになりながらもベレッタM8000を取り出すがそこで意識を失った。
マリアとカルマン達がトラックの後ろから追いつきベレッタM8000を構えながらゆっくり接近する。
女はこの状況で何かをしようとしたが何も起こらない。
「デジタル魔法なら使えない。投降しろ」
マリアの一言で女は銃を捨て両手を頭の上に上げた。が、女は俯いた顔を上げるとにやりを笑うと自爆した。爆発の勢いは女の前に有ったトラックの荷室を吹き飛ばし周囲に飛び散る。
瓦礫の中からジュリアンが展開したマジックシールドで防ぎはしたものの、私のシールドはカルマンの所まで届かず怪我を負った。
まだ御門目恵の件でゴタゴタしている時にこの事件、一体、何処が仕掛けて来た事件でしょう?
そういった部分は現在の世界情勢から引用しています。
物語はフィクションですが、現在の世界でもしも革新的な新技術が発明されたら・・・どうなるのでしょう?
そんな事を考えながら書いています。