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アクアリウム

作者: 葛城響子

 しづちゃんは金魚を飼っている。夏の縁日の金魚すくいで小父さん(しづちゃんのお父さん)に取ってもらったものだ。お腹のあたりと背びれのところに赤い模様がついていて、他は銀色っぽい白の金魚だ。光の反射具合でキラキラと光って見える。飼い始めたときには小さくて金魚鉢の中でも十分だったのに最近ではすっかり大きくなってしまった。それでは窮屈で可哀想だと小母さん(しづちゃんのお母さん)が言ったので金魚鉢より少し大きめの水槽で飼うことになった。水をろ過する装置が前より立派になって、砂利が底に敷き詰められた。

 「あとね、水草を入れようと思うんだ」

 しづちゃんは金魚に餌を与えながら言う。

それはいいかもね。このままじゃ、ちょっと寂しいと私は答える。少し間をおいて、どんな水草を入れるつもりなのと聞く。

しづちゃんは餌の袋を閉じて片付けたあと、本棚から重そうな図鑑を取り出す。しづちゃんが開いたページにはたくさんの水草の写真が載っている。しづちゃんはその中のひとつを指さす。

 「これだったら、大きさや丈もちょうどいい。それにあまり成長しない」

 ねぇ、しづちゃん。他には入れないの。

 「あまり入れすぎるとごちゃごちゃするからね。金魚が見えなくなってしまう」

 しづちゃんは図鑑を閉じる。

 耳をすますと水槽から水がコポコポと循環する音が聞こえる。それを聞いているとなんだかわけもわからず懐かしい気持ちが胸のあたりにせまってくる。そして、同時に安心する。不思議だ。

 「金魚は一体、どこを見ているのだろうね。」

 ふいに、しづちゃんが言う。

 「ほら、金魚の目ってさ。僕らの目とはずいぶん違うだろう?僕らは目が合えばお互いが見えているけど、金魚は目を合わせていても、何だか目が合った気がしないんだよね」

 金魚と目を合わせようとするなんて、しづちゃんは変わっているね。

 「そう?かずみちゃんはそんなことないの?」

 今まで考えてみたことがなかった。第一、私は金魚を飼ったことが無いからね。

 「かずみちゃんも金魚を飼えばいいのに」

 駄目だよ。うちはペットを飼うのはご法度だもん。

 「そうか、残念だね」

 うん。まあ、しょうがないよ。

 私は藻が全くついていない綺麗な水槽を見つめる。一ヶ月に一度は金魚を別の容器に移して水槽と砂利を洗うのだとしづちゃんが言っていたことを思い出す。この水槽はすみからすみまでしづちゃんの手が行き届いているのだ。だから、汚れることは無い。しづちゃんは潔癖じみたところがあるのでなおさらだ。

 この水槽はまるで庭のようだ。それもある程度自然のままにしておく日本庭園ではなく、何もかも計算しつくされたイギリス庭園のようだ。

 この中で飼われる金魚は何を思うのだろう。私は金魚になったつもりで口をパクパク動かす。

 「へんな顔」

 しづちゃんは笑った。


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― 新着の感想 ―
[一言]  これは誰の台詞なのか?登場人物の性別は?年齢は?という具合に、混乱をきたしてしまいました。例えば、「私」だったのに「僕」が突然出てきたり(「かずみ」は男?女?)、「ふいに、しづちゃんが言う…
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