前編
【※人によっては不快な要素てんこ盛りです。】
宣言通り過去作を投稿します。
予想より早く100pt超えてビックリしました・・・・・・
これは処女作です。
今大急ぎで一生懸命編集してるんですけど、読み直すと恥ずかしいですね。
三話構成です。
地味に元データを見つけるのに苦労しました。
いつも通りなんか指摘あったら是非教えて下さいなー。
食材、建材、服飾、奴隷が雑然と並べられる市場が中心に構えられているこの街は、商人で栄える港町だ。
賑わいの絶えぬこの町には、一際大きな豪邸がある。
そこに住まうという事は正しく商人として成功の証である
だが、成功には代償が付き物だ。
その豪邸の主人は代償として如何なるモノを差し出したのか?
一つわかる事としては、そう、彼には伴侶と呼べる存在がいなかった。
豪邸の一室、そこは客間であるが、効率と多忙を考慮し彼はそこを書斎としても使っていた。
これ程大きな豪邸に住みながらも彼自身は主に寝室と客間兼書斎と厠の三部屋しか利用していなかった。
彼曰く「人は大きいものに縋るもんだ。」との事である。
つまり彼は誰もが羨む豪邸に住みながら、他の部屋は飾りだと言ってのけたのだ。
しかし、それでも維持には金が必要である。
彼はその為か否か今日も仕事に勤しんでいる。
それが全て予定通りに進むとは限らない。
今日は彼の仕事場に取引相手の方が先についてしまったようだ。
端正な顔のメイドに連れられた若手商人が書斎へ案内される。
礼節からドアを開閉する所作全てがしっかり教育されているのだろう。
完璧に近い接客をしれっとした顔で行うブロンド髪の小柄なメイドに若手商人もタジタジだ。
「こちらへどうぞ。アレクサンドル様、ご主人様はすぐにいらっしゃいますので少々お待ちください。」
「は、はい。いつもいつもありがとうございます。」
取引相手との差を感じ、緊張してしまうアレクと呼ばれる若手商人だが、彼はここが初めてではない。
であるのに、この緊張の度合いはこの若手が頼りないのか主人が凄まじいのかどちらなのだろう。
メイドは礼を受けると若手の商人に一礼し、すぐに書斎を出て行く。
若アレクは恐る恐るソファーに腰掛けると、影の薄い執事が紅茶を一人分運んでくる。
「あ、ああ、ありがとうございます。」
意図せず声が上ずってしまう。
執事が手に持っているティーカップを手で受け取ったほうがいいのか、受け取ってはいけないのか考えてる内に気付けば紅茶は注がれていた。
音もなくシュガーポットとミルクポットを置くと執事は一礼して掻き消えるように去る。
アレクが軽く礼を言ったが聞こえていたのかはわからない。
アレクは少し固まり、周りを見渡して誰もいない事を確認するとおもむろに両手で顔を叩く。
「こ、このままじゃ駄目だ!いつもどおり、いつもどおり。舐められちゃいけない。」
アレクは目を瞑り、数回深呼吸をする。一般的だが有効だと彼は知っていた。
いつもこの方法で落ち着きをしっかり取り戻すからだ。
彼は、ただ狼狽えてばかりの新人商人ではない。
最近頭角を現してきたと噂のやり手な若手なのだ。
そこへ調度良く主人が書斎に入ってくる。
さっきまでのアレクとは思えないほどしっかりとした足取りで直ぐ様立ち上がり挨拶をする。
「やあやあ。アレク君、いつも待たせてすまないね。最近海賊の被害が酷くてそれについての話が長くなってしまってね。」
悪びれもしない主人がアレクと握手をし、二人共席に座る。
そこへすぐさま執事がやってきてもう一人分のお茶を出す。
「いえいえ。私のような若輩商人の為に時間を割いてくださるだけでも光栄な事なのです。贅沢など口が裂けても言えません。」
「ふむ。そこまで畏まる事はない。商人に上下などないさ。君が物を売り、私がそれを買う。それだけじゃないか。それに仕事仲間という意味では味方ではないか。まぁ、悪い気はしないがね。あっはっはっは」
剛気に笑う主人をアレクは瞬きを惜しみつつ見る。
「何をおっしゃいます。フィリップ様と言えば商人の間で知らぬ者はモグリと言われる程著名な方。そんな方と商談が出来る事自体が僥倖なのです。畏まるなというのは中々難しい注文で御座います。」
フィリップと呼ばれるこの豪邸の主人、商人としては誰もが認める腕を持っている。
彼の一足一投足全ての事に学べる要素があると感じているアレクは商人として彼に惚れていた。
「難しい注文か。難しい注文と言えば私がいつもしている注文こそ難しいと思うがね。」
「それもそうですが、それに応えるのが私めの仕事で御座いますので。」
フィリップの機嫌を良くする事は今後の自分の成長にとっても商売にとっても良い事しかないのだ。
「頼もしい。君はやはり見所があるな。では、いつも通り一つ貰おうか。」
「ありがとうございます。毎度の事ですが、商品の確認は無しで宜しいのでしょうか?」
「ああ。構わない。」
「わかりました。では、この契約書にサインをおねがいします。そしてこれが商品の保証書で御座います。私のサインは既にしてあるので。」
アレクは持参した鞄の中から主人に二枚の紙を渡す。
主人はその紙を受け取り、一枚にサインをしてからもう一つの紙を見て一言。
「しかし、大変ではないかね。黒や黄色ならともかく白で活きが良い男となると。一体どこで拾ってきているのやら。」
「それは・・・・・・・・」
アレクは奴隷商人である。一方大商人であるフィリップは奴隷の販売は取り扱っていない。
尊敬している相手とはいえ、力量の差があり過ぎる相手とはこうもやり辛いものかとアレクは改めて思う。
「いや何、純粋に気になっただけだよ。探る気は無いし、咎める気もないさ。とりあえず君の仕事は素晴らしい。ではまた来週頼むよ、いい男!」
固まったアレクを見てフィリップは何を感じたのだろう。
その言葉の真意をアレクはわからない。
本当に好奇心からくる質問であったのか、それともカマかけなのか、牽制なのか・・・・・・
「恐縮で御座います。毎週必ずご期待に添えてやってまいりますのでこれからもよろしくお願いします。」
密かに一度深呼吸をし、震えぬ声で礼をする。
「ああ。勿論だとも。ではチャールズ、彼を門まで案内したまえ。」
これは用が済んだのだから出て行けという意に間違いないだろう。
そそくさと帰り支度を済ませ、立ち上がり一礼すると執事が部屋の外へ案内してくれる。
そのままアレクは部屋を出て行った。
「ふむ。本当にいい男だ。礼儀も良く、仕事の腕だっていい。機転が利くのだろう。顔も童顔で中々じゃないか。あれでまだ独り身なのだろう?母さん。」
先ほど完璧な接客を演じていたメイドが気怠げに部屋へ入ってきて掃除を始めた。
「そうよ。人当たり良し、顔よし、腕よしで寄ってくる女は少なくないらしいけれども、今は仕事が恋人と謳っているらしいわ。」
「ほう。若いのに関心だな。私があの年の頃は忌々しい女の尻を追っかけるのに忙しかったものだが。」
「だったらそのうちフィリップより稼ぐようになるんじゃないかしら。」
「はっはっはっ。そうかも知れんな。やはり彼は有望だ。大物になるぞ。是非モノにして朝も昼も夜も愛でたいものだなあ。」
このメイドまだ幼さの残る顔立ちの娘だ。
中年男性の母親であるはずがない。
それであるのに、少女が自分の倍以上齢の離れているであろう大商人を敬いの欠片無く接している様は異様であった。
その異様さの自覚があるのかはわからないが、少女は自分を母と呼ぶ大商人に大変御立腹の様子。
フィリップの言葉に仕事を止めて向き直る。
「だったら、毎週あの人から奴隷を買うだなんて回りくどいアプローチはやめて、ちゃんと話したらどうなの?あの人はそれで気を悪く、ましてやフィリップを嫌いになったりなんてしないでしょう。」
「な、何!?それは駄目だ!願望は願望。現実は現実だ。私は欲しいものは手に入れる性分だが、月が手に入るなどとは思っていない。そこまで驕ってはいないさ。」
「あの人は月ではないわ。ごまかさないで。あれはただの若手の商人よ。フィリップより稼ぐ金だって低く、裏から根を回せば一夜で破産する程度の商人。」
「つまり、なんだ。金で釣れというのか。それで手に入れた奴など最早死体も同然だ。そんな高尚な趣味など携えておらん。」
「邪推しすぎです。私はただ普通に話せと言っているの。個人的にここに呼んで、酒を呷りながら夕餉をつまみ、談笑しながら仲を深めなさいと、そう言ってるの。」
「待て!待て。それで仲良くなれと言うのか。あいつと、私が・・・?しかし・・・・」
財を稼ぐすべがあれば、財があれば全てを手に入れられるというのは迷信であると昔の寓話では何度も言われてきた事だ。
フィリップもそれはよく理解していた。
今彼が欲しいと思ったのは勇気。
「だがもしかしも無いわ。そんなもの商品と一緒に売ってしまいなさい。なら、母として命じるわ。あの人を呼んで饗しなさい。」
「くっ。ここでそれは些かずるいのではないか。」
「あら。あなたがそれを金で買ったのでしょう。それを安寧と取るか、枷と取るかもあなた次第。」
「図に乗るなよ、小娘!・・・・・・し、しかし、母の言うことも、まぁ、一理ある。今までの奴隷の購入は下積みでこれからが本番だ、と。そう言っておるのだろう。」
流石に動揺したのかフィリップもつい設定を忘れてしまったようだ。
しかし、少女はそんな主人を歯牙にも掛けず言葉を続ける。
「はぁ、それでいいわ。わかったのなら。それであわよくば泥酔したあの人をこれでもかというくらい可愛がりなさい。」
フィリップの動揺は止まらない。
フィリップは少女を買い、母親として侍らせ、若く頼もしき同性に心を寄せているものの、ただ、それだけだ。
商人が何故、商人と名乗れるか。
それは、正しいからである。
彼は法を破らずに清く正しく生きているのだ。
そんな彼は・・・・・
「な、な、何を言うのだ!それはつまり、ご、強姦ではないか!!」
「強、姦ではないでしょう。あなたは列記とした男なのだからたばかりなさい。謀ってなぶりなさいが正解ね。」
「言いくるめて、私とあやつが寝るだと!?そんなこと出来るわけ、で、・・・・・・・出来るのだろうか。」
揺れていた。
「酒に酔えば男も女も無いわ。全てが夢朧。でも、出来事は事実。歴史は変えられない。既成事実を作ればこちらのものよ。」
「しかしだな・・・双方の合意もなくだな・・・・・・・」
「ならお得意の交渉術でサインでも貰えばいいでしょう。」
「なるほど。しかし、後に嫌われたりしないだろうか?」
「母として命じると言ったの。聞こえなかったの?」
「強姦を命じる母親がどこにいる!」
「ここにいるわ。」
フィリップは思案の濁流の最中感情が漏れ出てしまったのか思わず舌を打つ。
「あら、あなた今舌打ちした?母親に向かって舌打ちしたの?なんて良い子なのかしら。ご褒美に今日は寝かしつけないであげるわ。」
「な、わ、悪かった!私が悪かった!!母さんの子守唄と膝が無いと寝られないんだ!!許してほしい!」
「ならさっさと文を送りなさい。そうすればありったけの酒と料理を用意しておくわ。」
「よ、よし。ではチャールズ。あやつに文を届けてくれ。近々酒の席に来てほしいと。」
「自分で書かないの?」
「あ、怪しまれるかもしれんからな。うむ。」
あっそと、冷たく背を向けメイドは仕事を再開する。
そして指示を受けた執事は一礼をし、部屋の外へ出て行くが、フィリップはまだ落ち着かずに何か考えている。
「・・・・私が書いた方がいいだろうか。」
「その方が誠意は伝わるでしょうね。」
「・・・・・・ま、待て!チャールズ!!」
フィリップは執事を追いかけて足早に部屋を出て行く。
それに見向きもせずメイドは掃除を続けつつ独りぼやく。
「マザコンチキンが。家が破産さえしなきゃこんな仕事。・・・・・あいつとくっつけば母役は引退出来るでしょうけどね。・・・・・・お給金落ちるかしら。」