都輝さん
「都輝、ちょっとおいで。」
おばあちゃんが、ここで働いていて孫だという都輝さんを呼んだ。
「え、悪いですよ。」
「いいのいいの。」
「でも、仕事中じゃ・・・。」
「これも、仕事のうちよ。」
駆け寄ってきた都輝さんは、怪訝な顔をしている。
ごめんなさい。
心の中で謝っておく。
「都輝。自己紹介。」
「・・・は?」
顔が少しゆがむ。
「だから、自己紹介。早く。」
おばあちゃんにせかされて、都輝さんは自己紹介をした。
「えっと。・・・前田都輝です。25歳です。」
あまりにも短いから話すのが苦手なのかな、と思った。
「で、彩笑ちゃんも自己紹介。」
「あっはい。水月彩笑です。えっと、三高元高校の2年生です。」
とりあえず、都輝さんに習って。
「都輝。ちょっとなんか、作ってきて。」
「あ、うん。」
返事をすると、身を翻して厨房の中に入って行ってしまった。
「無愛想だろ。でも、優しい奴だから。よくしてやってくれよ。」
おばあちゃんは、顔をほころばせながらそう言った。
「はい。」
優しい人というのは、雰囲気で分かる。
いつか、おばあちゃんがそう言っていた。
私にはまだ難しいけど、あんなに人のことで嬉しそうに笑う人を私はカフェのおばあちゃんと、私のおばあちゃんしか知らない。
都輝さんがうらやましく思う。
あんなに嬉しそうに笑ってもらえて、本当に幸せそう。
でも私はもう、その幸せに触れることは出来ない。
だって、私のおばあちゃんはもういないから。
私を一番愛してくれていたおばあちゃんは、もういないから。
「どうぞ。」
都輝さんが、たくさんのフルーツがのっているパンケーキを持ってきてくれた。
「あぁ、ありがとう。彩笑ちゃん、サービス。いつも来てくれてるから。」
おばあちゃんが、都輝さんからお皿を受け取りながらそう言った。
「ごめんなさい。ありがとうございます。」
パンケーキからは、できたての香りが漂ってくる。
「いえいえ。」
このパンケーキを作ってくれたのは、
「つ・・・都輝さんも、ありがとうございました。」
「いえ。」
短く返事をしてくれたのは、少し嬉しかった。
パンケーキをほおばると、口の中に様々なフルーツの味が広がり生地のふわっとした食感がした。やばい、おいしい。
「このパンケーキ、すごくおいしいです。生地がすごくふわふわで、口の中に味が広がっていく感じで。」
想ったままを伝えると、都輝さんはほほえんでくれた。
「よかったね。都輝。」
小さくお辞儀をして、厨房に戻ろうと身を翻した都輝さんをなぜか呼んでしまった。
「あの。」
どうしよう、何か話題・・・。
「明日も、作ってもらえますか?」
「・・・はい。」
今日、思った。都輝さんはあまり人の目を見て話してくれない。
いつか、私の目を見て話してくれるといいな。