笑った
俺はその場に数秒立ち尽くした。ばあちゃんの作るモカと、俺のモカは分かるほど味が違うのか?
「あの・・・。」
呆然としていた。
「ごめんなさい。」
「あっ、いえ。」
「今日、おばあちゃんは。」
「あー、えっと。」
なんて言えば良いんだろう。
「・・・昨日、倒れて、病院にいます。」
「えっ。」
女の子は驚いたように、息をのんだ。そして、目を動かし一点に視線が定まった。
俺の肩の向こう。厨房。いつもばあちゃんがいるからだろうか。
「あの、私・・・。」
「えっ?」
最後の方が聞き取れなかった。
「私、手伝いましょうか?」
「えっ、あぁ。」
手伝ってもらうのはいいが、手伝わせてしまって良いのか?もちろん、手伝ってもらうのは、俺にとって、嬉しいのだが。
「あっ、ごめんなさい!」
「え?」
何がだろう。
「何も考えずに、言ってしまって。迷惑ですよね。ごめんなさい。いつもみんなに“相手のことも考えて”って言われるんですけど、つい・・・。」
「いえ。俺としては、手伝ってもらえるのはありがたいんですけど。・・・いいんですか?その、せっかくの祝日なのに。」
「私、手伝ってもいいんですか?」
「そう言ってもらえると、嬉しいです。」
「はい。あの、じゃあ、パンケーキ食べちゃったら持って行きますね。」
「はい。」
予想外だったが、2人でやれば多少は楽になるかもしれない。1人で厨房と、店内を見るのはさすがにきつかった。
「あの、パンケーキは今日もすごくおいしいです。」
おいしいと言われて悪い気はしない。とりあえず、お辞儀をしておく。
「笑った。」
女の子は嬉しそうに、小さな声でそう言った。