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推薦II

この時点では自分には関係ないと思っていた。

 自分で進んで推薦なんかすると目の敵にされそうだから俺は黙って下を向き誰かが推薦するのを待っていた。

 待つこと十秒。去年一緒のクラスだった田中が手を挙げ、静かに立ち上がり全体を見渡してから先生の方を向いて、

「女子学級委員には桜さんを推薦します。桜さんはまだこの学校に慣れていませんが男子学級委員がフォローすれば早く学校に慣れると思うからです」

「……推薦された桜さんはどう思う?学級委員になって学校に早く慣れたらどうかという理由だそうだが、慣れるために学級委員になりたくないなら言ってくれ。理由が理由だから今回は拒否権を認める」

 推薦された桜さんは一瞬戸惑っていたが、すぐに考える仕草をとり、静かに立ち上がった。

「はい……男子学級委員の方やクラスの皆さんに迷惑をかけることになるかもしれませんが精一杯頑張らせていただきます」

「じゃあ他に女子学級委員に推薦する人はいないか~。…………いないようだから桜さんを前期学級委員にする。桜さんでいいと思う人拍手」

 パチパチパチパチ

 かなり大きな拍手が教室を包み込んだ。

「では、賛成多数だから桜さんに学級委員を任せる。……それでは男子の学級委員で推薦のあるやつは手を挙げろ」

 先生の言葉が終わると同時に田中がこっちに何かしら合図を送ってきた。

 なんだろ……………ああ、自分を推薦しろと、だから君は桜さんを学級委員に推薦したんだね。

 男子中学生らしい微笑ましい姿じゃないの。

 俺はそういう姿勢嫌いじゃないよ。

 ……俺も同じ男子中学生だが

 でも、これで回避できるようなら少し発言することぐらい安いものだ。

 それでも急に言われても理由が出てこない。

 …………自分で推薦したのだから自分で責任を果たすべきだとか言えば何とかなるか。          

自分でフォローすればとか言ったんだし文句はあるまい。

 では発言するとするか。

 俺はゆっくりと手を――挙げられなかった。

 俺が挙げようとした時、後ろに座っている直樹が立ち上がった。

 真後ろにいたから全く気が付かなかった。

 俺が直樹を見上げていると俺に不気味な微笑みを向けてきた。

 嫌な予感しかしない。

「僕は泉直樹君を男子学級委員に推薦します。彼は昔から困った人や悩んでいる人を助けていたので桜さんをフォローするのに最適ですし、部活動にも入っていないので、その分しっかり学級委員の仕事をこなせると思ったからです」

 ……やっぱりか。

 だが俺にも田中という切り札がある。

 さあ田中よ、立ち上がれ!俺の力を超えて行け!

「先生、僕は田中君を男子学級委員に推薦します。田中君は先程桜さんをクラスや学校早く慣れさしてあげようとしてくれたほど心が広い人です。フォローの件も田中君が言ったことですし、そのことについては全く考慮しなくて大丈夫です。それに去年一緒のクラスで田中君は頼りになる人だと知っているので、学級委員を任せられると思います」

 どうだ!

 言おうと思ったことよりもかなり褒め方が飛躍しているが、嘘偽りは全くないから問題なし。

「推薦された田中。お前は他に推薦する奴はいるか?」

「いえ、推薦してくれた泉君の期待を裏切らないように学級委員をしていきたいと思います」

 ナイスフォロー!

 さすがフォロー案を提案しただけはある。

 これで後は多数決で俺が負けて田中が学級委員となり、リア充(田中視点では)ライフを満喫(?)することになるだろう。

 筋書とは違うが問題ない。

 ここで挙げられる問題はどう直樹に復讐をするかだ。

「他に推薦する奴はいないか?……それじゃあ泉と田中のどちらかを学級委員とする。多数決にするから全員伏せろ」

 勝利(学級委員になれないという意味では敗北だが)を確信した俺は先生に言われた通り伏せて、直樹の処刑の仕方を考える。

 さまざまな処刑方法が交錯するなか男子学級委員は決まったらしく、顔を上げ黒板を眺める。

 黒板には田中という文字が書いて――なかった。

 黒板には泉と大きく書かれていた。

 何があったんだよwhy?

 叫びたい衝動を何とか抑え、田中の方を向いてみる。

 瞬き一つしないで座っている。

 マネキンと言われても不思議じゃないほど動いていないし、生きている気配が全く伝わってこない。

 ……どんだけ桜さんの事が好きになったんだよ。

「結果は見ての通りだが泉、しっかり学級委員をやれよ。田中を僕は推薦しましたとかいう理由でさぼったりするなよ」

「…………はい」

「では、泉と桜さんは前に出てきて議事進行をやってくれ。最初だから泉、しっかりと司会をやってくれ」

「…………はい」

 

 これ以降の記憶は曖昧で、何とか委員決めをやれたという事実しかわからなかった。

 


 さて、俺はどんな仮病になればいいかな?

 風邪かなぁ、熱かなぁ。

 とにかく与えられた時間は五秒とないだろう。

 この状況を打破するには時間が圧倒的に足りない。

 いや、そう嘆いている暇すらない。

 考えろ。思考を加速させろ。

 俺ならば絶対にできる。自分を信じろ!

 

 どうにかして案内係という役目から抜け出せ!


『泉、桜さんは昨日この町に来てまだ知らないことが沢山ある。お前は桜さんの家に近いし、同じ学級委員だ。町を案内してやれ』

『……はい』

 何をのたまっているんだこのティーチャーは。

 突然のこと過ぎてうなずいてしまったじゃないか。

 ……ってもう先生いないし、いつの間にか桜さんがいるじゃないか。

『泉さん、町を案内してくれるんですか?』

 回想終了

  

 さあどうする。

 早い回想も終わったし時間がない。

 先生はもういないし、ここで何とか目の前にいる桜さんに行きたくない旨を伝えなくては。

 よし、ここは俺の切り札【田中】を召喚しよう。

 さあ田中よ、挽回のチャンスをや――

 田中の姿はどこにもなかった。

 ちっ!

 あ、もう時間切れだぁ~。

「……………………ああ、そうだね。案内するよ」

「ありがとうございます」

 桜さんは機嫌がいいのか、満面の笑みを浮かべた。

「いや、気にするな。……とりあえず一回家に帰ってからにしよう。そこから待ち合せでいいかな?」

「……はい」

 家の場所を聞くと本当に俺の家の近くで、近所の公園を待ち合わせ場所にして俺らはそれぞれ自分の帰路を辿った。


 


 被害者は俺、犯人は天使、今なお泉海斗は天使の犯行に気付かない。


かなりの間が空きましたがまだ生きてます。速水零です。


推薦と名をつけた題名ですが、二回で早くも終了。

次は三章となりもっと面白くなる!……はずです。

今後ともよろしくお願いします。

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