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堕ちていた天使

過去にトラウマはない、深い絶望を味わったこともない。

何も大きなことはなく平穏に過ぎていく日常。

漫画、アニメ、ラノベ、ゲーム、数々の娯楽は夢を与えてくれたが……現実はそれを嘲笑うかのように切り捨てる。

夢を切り捨てられたら新しい夢を、希望を、光を探す?

現代の中学生はそんなポジティブではない。

人によりけりな話だが、俺は違う。

そう思っていた。

実際この世界の理不尽を嘆く主人公がいる。

その頃はそんな主人公に親近感を抱き、少し憧れ、無意識にもその考えが定着していった。

ひねくれている、それがピッタリだった。

――それは永続的ではなかった。

俺は一人、一つ、一機に阻止をされる。

ひねくれた主人公と更生させるヒロイン。

そんな二人から始まるラブコメ(?)物語。


プロローグ


 

 キーンコーンカーンコーン時間にして約30秒のチャイムが校内に鳴り響く。鳴り終っり少し経って、新しい担任の斎藤先生がガラガラと教室の扉を開け、顔を覗かせる。

 今日は新学期を迎えて2日目。これだけだったら、これからの生活はここから始まるのかと考えるだけでいいのだが、斎藤先生の後ろには見知らぬ少女の姿があった。

 教壇の前まで辿り着いた時には、騒がしかった教室も事前に打ち合わせをしたかのように静まった。俺たちは信じられいものを目にした。簡単にいうと、すごい美少女が目の前に現れた。

 教室の後ろの席である俺にもはっきりと少女の端正な顔が見えた。

 長いストレートの黒髪。大きな目に幼い顔立ち。背丈は少し小さいがその愛らしい容姿にかなり合っていた。

「それでは、桜ゆららさん。自己紹介をして下さい」

 斎藤先生は転校生の緊張をほぐすように話しかけるが見た目よりもしっかりしているようで緊張している様子は窺えない。

 多少間を開けてから転校生――桜さんは自己紹介を始めた。

「桜ゆららです。ゆららはひらがなで書きます。家の都合でこの学校に通うこととなりました。皆さんと仲良く過ごしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします」

 少し噛むことを予想していたのだが見本のような自己紹介をしてい。俺だけがそう思っているのではなく、クラスで男女問わず皆がそう思ったようだ。その証拠にゆららの自己紹介の後、クラスは一気に騒がしくなってきた。……証拠にはならないか。

「静かにしなさい」

 斎藤先生の一言で今度は一気にクラスは静まった。斎藤先生は怒ると恐いというのが学校でも有名なのだ。2日目で目をつけらたくはない。

「桜さんは、後ろに空いてある席に座って下さい」

「わかりました」

 一気に静まったクラスの状況を見て悟ったのか、斎藤先生を少し恐がっているように思える。そこは見た目通りだ。

 それにしても、あの空いた席は転校生の席だったのか。昨日は休みだったのかと思ったぜ。まぁ俺の名字は泉でア行だから、隣になるってことはないな。

 俺は昨日から中二になった訳だが、思春期男子がかかる「あれ、こいつ俺のことすきなんじゃ。」といった酷く自意識過剰になったりはしない。

 それに、アニメやラノベ、ギャルゲーによく起こる美少女転校生登場イベントなんても 実際にそんな事が起こるのなら、今桜とかいった転校生は俺の隣の席に座るだろう。

 または、子供の頃出会っていた記憶があったり、将来大人になったら結婚しようと誓い合う場合もあるだろう。(そんな漫画も実際あるわけだし)

 しかし、俺にはどれも当てはまらない。

 鮮明というほどではないが、小さいときの記憶はしっかりとある。

 やっぱり現実はこんなものだ。

 そう思っていただろう。


           



         昨日までは…



第一章   堕ちていた天使 



 漫画、ラノベ、ギャルゲー、ジャンルは違えど、ラブコメの主人公というものは、絶対と言っていいほどに、鈍感である。

 とあるハーレム王になると宣言し、実現させるために努力を惜しまない主人公や、日々私たちのハーレムをつくりましょうと言われている主人公でさえも、やっぱり鈍感だ。

 ヒロインの苦労や、好意に気が付かず、さまざまな美少女を好きにさせてしまう。これはもう一般常識と言っても過言ではないだろう。

 今思えば、俺は前まで鈍感で、それこそそんな主人公に似ていただろう。

 周りの子は美少女ばかりだった。いろんな子と遊んだり、買い物に行ったり、学校を一緒に帰ったりした。ミニハーレムができていたといってもいいぐらいだった。だが、現実はそんなに上手くいくものではなかった。たった一つの事でリア充ライフは音を立てて崩れていった。

 もうあの子たちと一緒の生活はできない。すべては過去の出来事になり、別れの悲しみだけが心に刻まれていく。たちの悪いことにこの悲しみはいくら時間がたっても過去にはならず、今この瞬間にも俺の心を傷つける。もう痛みに慣れたとはいえ、もう疲れた。

 俺はベットに身体預け、意識を手放していった。

                            END

 

 俺はENDの文字が見えると同時にゲームの電源をブチっと落とした。

 文の最後のあたりから画面が暗くなったとはいえ、電源を切った後くる疲労感はプレー中で受けた辛さよりも大きい。普段なら叫んでやりたいところだがそんな余力は少しも残っていない。

 時計に目を向けると既に短針は6を指している。

 え~と大体12時くらいからゲームをやり始めたから、もう6時間も連続でやり続けたってことか。6時間連続プレイに加え、徹夜で、バットEND。さすがにきついな。どっちかというとノーマルENDな気がするが。

 いつもならカーテンを両手でサーっと格好つけながらあけているのだが、開けっ放しで過ごしていたため出来ない。

 朝日を浴びていたにも関わらず朝だと気が付かないなんて我ながらすごい集中力。(これが勉強に向くことは滅多にないが)

 すごいリアルを追求したゲームだとか言っていたゲームだけある。やはり、現実を意識した選択肢(?)ばかりで、ゆっくりやっていったが上手くいかなかった。普通のギャルゲーだと簡単に攻略できるのだが、現実に近いと俺にはきついようだ。ただ普通のギャルゲーといっても5,6本しかやったことないがな。

「はぁ~~あ」

 寝ていないせいか欠伸が漏れる.

 一人で作品評価と独り言を呟きながら、半分も覚醒していない頭を一気に覚醒させるべく洗面台へ向かって歩く。

 顔を洗い、ちゃんと目を覚ましたのち、今度はキッチンで朝食の準備を始める。

 親がいないで一人暮らしという訳ではないが、父さんは単身赴任で、母さんも単身赴任ではないが出張でいない時が結構あったりするので、朝食と昼の弁当は自分で作るようになっている(昨日は母さんは昼まで帰れないとか言っていたので徹夜ができた)。

一通り朝食の準備をし終えた頃、たった一人の兄妹ゆかりが今にも閉じてしまいそうな目をこすりながらやってくる。

「ふぁ~あ…おにぃ…ちゃん…おは…よう…」

「おぅゆかり、おはよう。今朝はいつもより一段と眠そうだな。母さんがいないからって、また夜更かしでもしたのか?」

 俺のただ一人の妹泉ゆかり。兄妹どちらとも母親の血を濃く受け継いでいるのか、俺とゆかりは似ているとよく言われる。

 重力に逆らって跳ねているセミショートの髪を少し揺らし、水玉模様のパジャマ姿で現れる。

 まだ幼い顔立ちであり、大人っぽく振舞おうとしているが、背伸びをしているようで可愛らしい。

 その証拠に、焦ったときの対応は年相応のものだ。

 ゆかりは基本朝に弱い。ただ、それを差し引いてもこの様子からしてあまり寝ていないだろう。

「おにいちゃんだってあまり寝てないでしょ。ゆかりが寝ようとした時もおにいちゃんの部屋の明りはついたままだったけど」

「まぁな。………そんな事よりも早く朝飯食べろよ。今日は始業式だから、遅刻は絶対にゆるされないぞ。ついでに寝癖をなんとかしろ」

「…今自分が人のこと言えないからって話題を逸らしたでしょ」

「ま、まぁ俺はもう中二だし、少しくらいはいいんだよ。でもゆかりはまだ小5だろ。年齢差を考えろ」  

「おにいちゃんは自分が言い返せない時はいつも年の差だとか、体格の違いだとかいう。

正直ずるい」

「本当の事だろ。正論だ。しかも俺は夜更かししても、しっかりと生活出来ている。でもゆかりはそうじゃないだろ。今もすごい眠そうだし、それに……ってもう時間がない。ほんとに早く食べろ。置いてっちゃうぞ」

「3歳も年下の妹に何マジになってるの?」

 

 

 俺泉海斗は客観的に見て性格については少し問題がある。別に中二病だとかいうわけではない。小学校高学年の頃友達のにおすすめされ深夜アニメやラノベを読むようにった。その後、時々いる捻くれた性格を持った主人公に憧れ、そんな主人公の思考を意識していくようになった.例えば、今朝徹夜してまでやったギャルゲーの主人公みたいな思考がわかりやすいだろう。

 あれは、さすがにびびったな。自分のことを振り返って俺はミニハーレムを作っていただなんて言えないし、主人公についての定義も付け加えて自分は主人公のようだったなんてほんと面白かった。…参考にしよ。

 そんな事から現実について冷めた考え方をもっているし、憧れの主人公に近い存在になりたいだとか思う。……うん、これは俗にいう中二病ってやつかも。さっき自分で否定したけど自信がなくなった。

 

 そもそもアニメに出てくるような中二病なんて殆ど存在しない。あれはかなり末期だ。あえて末期な中二病(俺が考えた中二病パラメーターの2番目にアウトなパターン。ちなみに1番は、死亡確定的な中二病で、は自分は飛べるとか確信して、屋上から飛び降りる人。それはもはや中二病ではないとかいう意見は無視)をだしてそう考え人の数の減少を図っているのだと思う。そうだと仮定するならば、軽い中二病であるかもしれない俺は、末期にふみこまないようにしてくれるアニメ制作者様に感謝すべきだ。有り難う御座いますアニメ制作者様。黒歴史を増やさないようにしてくれたこと。感謝しています。(有り難う御座いますは中二病らしく漢字で表現していると受け取って下さい。)

 誰に対してというわけでもなく、一人自己紹介に一人会話(どちらも間違っている気がするけど)をして時間をつぶしているうちに新入生の紹介に新入生代表の挨拶が終わった。

 え~と次のプログラムは生徒会長からの歓迎の言葉か。新入生は誰一人として例外なく驚くだろうなぁ。

 生徒会長が現れた時のことを脳内シミュレートしている間に姿を現した。

 輝く金色の長い髪、気の強そうなつり目がちの碧眼、通った鼻筋の整った顔立ち。また、制服の上からでもわかる均整のとれたスタイル。この瞬間にも新入生は何人心を奪われただろうか。

「新入生のみなさん、入学おめでとう――」

 生徒会長高瀬萌。容姿端麗、文武両道、沢山の美辞麗句が並べられるだろう。イギリス人である母の血を濃く受け継いだらしい。ちょっと上からっぽいところもかなりしっくりくる。彼女を初めて見た時は現実も捨てたものじゃないなとか思った。

 

 が、あまりに完璧な設定……設定は言いすぎか、完璧なスペックのため逆に近づき難くなった。ここで、再認識した。現実にはちゃんと二次元レベルの子はちゃんといる。それなりに可愛いこも存在する。でも、希少だし、理想は求められない。

 求めるのはいいが裏切られたと思いたくはない。

「――以上、楽しい学園生活が送れるようがんばってくれ。三年高瀬萌」

 いつの間に終わってた。やっぱり一人解説に一人会話は良い暇つぶしになるなぁ。別に友達はいるけど、一人もいいな。誰かが友達が普通にいるのに俺はぼっちだ、とか言ってたがその気持ちがよくわかった。

 そんな事言っているうちにも終わりの言葉も終わっていた。……いつの間にかばっかだなさっきから。

 だるい始業式をくだらない方法で華麗(?)に流しつつ、重い足取りのまま教室へ足を運ぶ。

 

 メイドというものは、ご主人様に奉仕をするものである。紺のロングスカート、白のカチューシャ、黒のガーターストッキング。この組み合わせがベストだと俺は思う。メイドこそ人類最高の姿であり重宝すべき宝だ。巫女さん、ナース、メイドさんどれが一番かという議題が有名だが、俺は絶対メイドさん派だ。

 

 よし、現実逃避終了。

 そろそろ目の前にあるものから逃げるのはやめよう。 

 まずはなにがあったか振り返ってみる。

 発表された新しい担任に不満を持ちつつ、先生の挨拶と学活をこれもまた華麗(?)に¥ その後、即席ラーメンを作りゆかりと一緒に食べた。(ゆかりには手抜きだと言われたが)

 昼ご飯の後は、ちょっと風に当たりたくなり近くの河原まで散歩をしていった。

 ある程度河原を歩いていたら、大きな段ボールを見つけた。

 大きい段ボールの中を覗くと、俺の理想のメイド服を着たメイドさん(?)がスヤスヤと気持ちの良さそうに、お休みにならいれていらっしゃった。

 だめだ。また現実逃避したくなった。噛まなかっただけ自分を褒めてあげたい。

 外国人だろうか。いや、北欧系でも銀髪はありえないはずだ。艶やかな長い銀髪のストレートを目を皿のようにして観察してみる。服はやはり理想のメイド服。メイド服の上からでもわかる豊かな双胸、引き締まったウエスト、すらっと長い脚。

 そんな女性の理想の姿の展示場は段ボールの中。

 メイド鑑賞を続けていると展示品の長いまつ毛がピクピクと動いた。

「ふにゅ~…っにゃ!…一体ここどこですかなぜ段ボールの中にいるのですかあなただれですか!……あなたもしかして私が可愛いからってこんなことを――」

「ち、違うわ。そりゃあ~あなたは可愛いっていうかきれいだけど……ってそうじゃなくて,あなたの質問そっこりそのまま返します。あなただれですか、なんで段ボールの中で寝てたんですか!……いや、そもそもなんでメイド服きてるんですか?」

 息を切らしながらも浮かんでくる疑問を手当たり次第にぶつけてみる。

 この人寝ぼけているのだろうか。

「わたしですか?……私は天使です。気軽に俺の天使イリスとお呼びください。ご主人様、マスター、旦那様どれで呼ばれたいでしょうか」

「ご主人様一択!……って平気な顔で嘘つくな」

「いえいえ本当ですよ、ご主人様。私は天使です。汚れている魂の浄化が私に与えられた使命であり、生き甲斐であり、誕生した理由です」

 現実を勝手に理解している海斗にはただ呆然とするか、かなり痛い人だなぁ~と憐みの目を向けてあげるぐらいしか選択肢がなかった。

 後この人の眠気はもう冷めているのが悲しいことにわかってしまった。

「……………………………………………」

「なんですか、その何~この人いい歳して初対面の相手に俺の天使と呼んでくださいとかいってるの?とかいう目でみるんですか?」

「おぉ~、ちょっと合ってる。ちなみに俺はいい歳してとは思ってません。ただ、何~この人いきなり自分を天使とか言ってるの。初対面の相手に自分の痛い設定まで堂々と語ってるの?……とかしか思ってませんよ」

 俺は自分のできる最大の笑顔を向けた。

「もっとひどいですよ!」

「でもいい歳してとは思ってませんよ。よかったじゃないですか。まだまだ、若いと認めれたんですよ。今時の大人はそう言ってもらえるように何万もドブに捨てているのに、あなたはなにもしないでそう言われたんですから」

「……そっそうですね。なんだか元気がでまし。」

 この人大丈夫だろうか。こんな度を越えた天然初めてみた。微笑んだ顔がすごく可愛い。 こんな時にこの笑顔を表現出来ない自分のボキャブラリーのなさが悲しくなった。……帰ったら国語の勉強しよ。

 流石にここから、「それでもやっぱりバカにされてますよ。」とか、「いつの間にか敬語じゃなくなってますよ」とかも言いずらい。

「それで、あなたは本当は誰ですか?」

「イリスです。泉海斗さんの天使です」

 受け入れたくない現実が俺の欠片しかない希望を嘲笑うかのように潰しにかかってきた。この人俺の名前何で知ってるの?これが私が天使であるという証拠です、とかいってくるの?

 

 ……いや、この人はただの痛い人、ただの痛い人。ただのストーカー。ただのストーカー。銀髪なんてあるわけないし。

 よし、自信がついてきた。もう一度聞いてみよう。

「あの、痛くてストーカーなメイドさん。本当のことを教えて下さい。ついでになんで俺の名前を知っているのかも教えてくれたらうれしいです」

「ひ、ひどいです。やっぱり私のことをそんなふうに思ってたんですね。本当に私は天使です」

「証拠は?」

 これで何も言い返せまい。俺の勝ち。

「これが証拠です」

 

 途端にイリスさん(?)の背中のあたりからから翼のようなものが出てきた。

 虚空から飛び出してきた翼は解放されたかのように広がり、たくさんの羽をイリス(?)と海斗の周りに舞わせる。その景色はこの時期に咲き誇る桜の吹雪のようで俺の心を魅了した。

 何色にも染まっていない純白。一対の翼の大きさは頭から腰の下のほうまであり、形はそれこそアニメに出てくるようだった。


「……え…あ…えぇ?………何…これ?」

「だ・か・ら、翼なんです~」

「うそ…………だろ」

「本物です。疑うんでしたら…触ってみますか?」

 よ、よし触ってみよう。そうすればしっかり現実を認識できるだろう。

 そ、そーと。

人差し指を伸ばし、ビクビク震えながら触る。

「は……ね?……羽…だ」

 感触はカラスの羽に似ていた。

「うそ…だろ」

 同じ言葉を今さっ使ったことにも気が付かないほどには動揺していた。

 それでも、そんな状態の脳でもしっかりと現実を認識しようとしていた。

「本当に現実……なの…か。じゃ、じゃあ…本当の本当にこれは翼で、あなたは天使…なんですか?」

「何回も言わせないで下さい。本当の本当に私は天使でイリスなんです!」

「………………………」

「さ、さぁ、本当にわかってもらいましたか?」

 もう認めてもいいかな。っていうか認めるしかないな。

「う…うん」

「そうでしょうそうでしょう。ですから、これからは俺の天使イリスとお呼びください。」

「いや、なんでお前が俺の天使になってるんだよ。俺にとっての天使はシルヴィ……ま、まあそれはおいといて、なんで俺の名前知ってるんだよ。やっぱりストーカー?天使って端から見守ってるんじゃないの?わざわざ近くまで来て見守ってるの?ちょっと幻滅だよ」

 まじか、天使ってストーカーなのか。一瞬現実やるじゃんとか考えたけどひどすぎる。天使って空からじゃなくて電柱の陰から見守ってるんだ。

「ち、ち、違います!ストーカーなんかじゃありません!私は大天使様より、汚れかけている魂の保持者である泉海斗の汚れた魂を浄化しろと命令されただけです。あなたの名前と顔を知ったのはそのためです。他にも情報を持っています」

 流石に何回もストーカーや痛い人呼ばわりされたら怒るか。でも、怒っている顔はとても可愛らしく、長いセリフを早口で言ったためか、頬が赤くなりさらに可愛さが増している。

 なにこれ、二次元キャラみたい。流石天使だ。

 ……っと忘れてた。一つ聞き逃せないところがあるんだった。

「それは悪かった天使様。でも勝手に汚れた扱いしないでくれ。失礼にもほどがあるぞ。後、なんで汚れかけているから汚れたにレベルアップしているんだよ」

 あれ……一つじゃなくて二つだった。

 まぁ…いいか、

「で、では汚れかけたから汚れたに訂正して下さい」

「普通逆でしょ!ってか、どこが汚れてるんだ?澄んだ心を持っていますね。とかならまだ理解できるが。……あと翼しまえるならしまえ。それはかなり目立つし俺の心にかなり悪い」

「わかりました。……それで、汚れているのはあなたの心です。魂というより心が汚れていて魂に影響を及ぼしています。多少は自覚していると信じていますが、あなたの心は年相応ではなくかなり冷めています。今はちょっとですがこのままだとさらに悪化するでしょう。魂を新たな肉体へと導く天使としては汚れた魂を導くことはできません。無理に導いたらその肉体の持ち主の心は最初から汚れていて将来大変なことを起こしたりするでしょう」

「………………………………」

 何も言えなかった。自分が変な考え方をしているのは自覚していたし、口ではああいったが、汚れた原因なのだろうとも少しは考えていたので納得できる。

 だが、そんな事で俺の魂(本当に魂が存在するかについては置いといて)の導かれる次の人に影響がでてくるのが不思議だし驚いた。

「どうかしましたか?具合でも悪いのですか?」

 心配そうな目でこちらの様子を窺っている。首を傾げながら見つめてくる姿はまた可愛く、こんな不安も一瞬で飛ぶようだった。

「いくつか質問していいか?こっちにもこれを受け入れるには時間がかかる」

 気持ちが少し楽になったのか、前よりも落ち着いたトーンで話しかける。

「わ、わかりました。何でも聞いて下さい」

 あまりに早い気の変わり身っぷりに少しまた心が落ち着いた。

 人が慌てていたりする姿を見ると自分の心が落ち着くってのは案外あっているもんだな。

「まず一つ目に、無視しようとも考えたんだが、なんで段ボールの中で寝ていたんだ?捨て犬ならぬ捨て天使なのか?」

「それは…命令を受け出ていったのはよかったのですが住むところがなかったからです。人間は住む所がない人はみんな段ボールで生活をすると聞いたことがありましたから。

 …なんか変ですか?」

「かなり変だが……まぁそれはそれでいいや。次、なんでメイド服着てるの?正装?みんなメイド服なの?なにそこ楽園?今度俺を連れて行って!」

「いきなりいくつも聞かないで下さい。今の質問今までで一番興味ある感じでしたよ。っていうか最後の方は質問じゃなくて願望ですよね。…残念ですが天界では…あ、天界というのは天使たちが住む世界です。ちなみにみんな女性の姿をしています。…話が逸れました。

それで残念ですが天界ではメイド服はあまり着ません。今メイド服なのはあなたがメイド好きだという情報があったので少しでも汚れが浄化できればと考えたからです」

 なんだ。天界はメイド天国じゃないんだ。ちょっとテンションさがるな~。

「なんだか急に元気がなくなった気がしますが大丈夫ですか?」

 ん、なかなか鋭い。

「ああ…大丈夫。それで、大体予想はつくがなんで最初は敬語でメイドらしく振舞っていたのに、今は結構普通の話し方になったんだ?最初みたいに海斗様でいいし、海斗でもいいし、海斗さんでもいい。あなたはやめてくれ。二人の時はご主人様でいいぞ。むしろ推奨する」

「で、では、海斗さんと呼びますね。それで最初にメイドになりきっていたのは海斗さんがメイド好きだと知っていたので印象を良くしようと思いましたし、せっかくメイド服ならメイドさんのようにするのが普通かと思ったからです。ですが、ちょっと意識しなくなるといつもの口調に戻ってしまいました」

「ご主人様でいいのに。…まぁそんな理由だと思ったよ。最後にお前は泊まるところがないらしいがあてはあるのか?ホームレス天使なんて、本に出しても売れないぞ。それは堕天使の物語になるしな」

「あと私のこともお前ではなくイリスとお呼びください」

「ああ…わかったよイリス」 

 他にも聞きたいことはたくさんあるが、ずっとここで話すわけにもいかないし、たくさん聞くとごちゃごちゃになりそうだ。

 イリスは言いたいことを言うと、頭を抱え俺の質問に悩み始めた。

 少ししたら思いついたようにポンと手を叩いて俺を指さした。

 嫌な予感しかしないなー。

「これがあてです」

 やっぱりそうか。

「……………………俺の家に来る意志だと受け取っていいのかな?」

 違うことに賭けてみた。

 が、

「はい!」

 太陽にも負けないような輝きを纏った笑顔が俺に降り注いでいるのだが、気分は不思議なことに、大雨洪水警報が鳴り響きそろそろ暴風警報出てくるようだった。(鳴り響いているのを見たことはないが)

 俺が聞かなかったらどうしたのだろうか。……聞かなくても勝手についてきそうだが。

「これ扱いは酷くない」

 返す言葉が逃避ぎみになってきた。

「あ、ごめんなさい」

「いや、わかればいいよ」

「それで、海斗さんの家に泊めてもらえますか?」

「お、俺的にはどうせ今後も変に接触してくるのなら予め近くにいてもらった方がいいから来てもらって構わない。他にも聞きたいことがたくさんあるしな。但し、俺は良くてもうちの家族はいいと言うかわからない」

「本当ですか!」

 あそこまで堂々と泊まるあてはこれですとか言ってたのに俺の了解がとれて大喜びするなんて可笑しいなぁ~。しかも俺は良くても家族はわからないと言ったのになぁ~。

 普段のおれなら――

「はぁ?見ず知らずの初対面の相手を家に泊めてやるわけないだろう。第三者から見たらあんたの体目当てで家に連れ込んでる性犯罪者予備軍になってるわ。第三者じゃなくてもうちの家族が見たら、震えた指で110番をプッシュしてるわ!」

  ――とか早口ながら言っていたことだろう。

 だが、今の俺にそんな気力は残ってない。

「まぁ~ここにずっといるわけにもいかないし、さっそくだけどうちに来るか?」

 俺にできたのは状況を先送りする事と、平穏な日々が戻ってくるように祈るだけだった。


 神というものは人間が未知なものに対し恐がり、その対処、駆除、気を紛らわしてくれるために創られたものだと語る本がある。

 ここにその本の信憑性をつける事があった。

 天使という未知のものと出会い、恐がってはいないものの、逃避という名の気を紛らわしのために、普段は全く信じない神を信じ、必死に祈っていた。

 だが、逆説的に神は存在しないものであるわけであるというものだった。

 よって、いくら信じようが全く状況は変わらないし、ここまで祈れば願いを聞いてくれるだろうと勝手に希望を持ち、勝手に裏切られたと言い出す。

 とどのつまり、海斗がいくら神に祈りをささげようが、代償をささげようと決意しようが全くもって無意味であり、無駄な時間が過ぎていく一方で、状況が良くなっていくこともなかった。(海斗目線では)



 もうどうにでもなれ!

 ――と抵抗する意志を放棄した海斗は、もうこのまま家に帰りたかったが、イリスのお腹が俺の主張を阻止し、家の前にファーストフード店に寄ることになった。

「なあ、別に家に帰る前に飯を食べに来るのはいいけど、天使って物を食べるのか?あまりそんなイメージはないんだが」

 ダブルチーズバーガー(350円)をおいしそうに食べるイリスに問いかけてみる。

を連れてきたせいで(連れてきてというよりは連れてこさせられたの方が正確だが)さっきから周りの客や店員の視線がすごく痛い。

 コスプレを強制させられているようにしか見えないだろう。

 立場が逆なら俺もそう思うはずだ。

 そうだったらまだよかったのになぁ~。なんでこんな風になったんだろう。やっぱり散歩に出てきたのが間違いだな。外に出たくないと引きこもっている人は、こういうのを恐れていたのだろうか。……絶対違うな。

 っていうか天使が人間の食べ物を食べて平気なのか。これだけおいしそうに食べていれば問題はないか。

 俺のたった今出てきた疑問も含め、イリスは口の中のハンバーガーを飲み込んだ上で質問に答える。

「天界では物を食べる必要はありませんのでそのイメージは大体合っています。天界では物を食べなくてもエネルギーを得る方法があります。方法は植物の光合成に近いでしょうか。ですが、地上ではそうはいきません。だから、動物と同じように他者を喰らいエネルギーを得ています。私は元々地上で普通に暮らしていけることが大切な役なので、臓器も多少は人間に近く、人間よりも遥かに強固です」

 頭の良さをアピールしようとしているのだろうか。難しい言葉を使っても変わりないのに。でも背伸びしようとする姿も可愛い。

 年上相手たぶんに失礼なことを考えながら現在の状況を整理する。


・この人(天使)はイリスさん

・天使でメイド服を着ていて銀髪美人

・住んでいた世界は天界で俺の変な(?)心(考え方)を正すために地上に降り立ったらしい

・住む家がなく段ボールから俺の家に引っ越し(居候)することを望む

・天界では食事は不要だがここでは必要

 

 こんな感じかな。

 余程腹が減っていたのだろうか。ダブルチーズバーガーがもうほとんどない。

 ずっとここにいると店員さんに迷惑だし、俺の心にも大変迷惑なので質問は今はもういいだろう。

「そうか、わかった。ハンバーガーも食べ終わったみたいだしそろそろ帰るか」

 よし、張り切って帰ろうそして寝ようさっきまであったことは一旦忘れ――

 く~。

「ごめんなさい。もう少し食べていいですか?」

 ――よ、う?

 またお前(イリスのお腹)が俺の邪魔をするのか。何が強固だ頑丈だ。要求度が強固なのか。失礼さにおいて強固なのか。期待を裏切るその精神が頑丈なのか。……精神関係ないな。

「うっ……そんなに睨まないでもいいじゃないですか。私二週間もあそこにいたんですよ。地上に降りる前は、あそこによく言っていたという情報があったので」

「え……………?」

 二週間も居たのあそこに。って二週間何も食べなかったのかよ。

 前言撤回。

 天使スゲ~色々な意味で

 そういえば、春休み前はよく行ったな~。だって春休みだと家に引きこもっても誰にも文句言われないもん。俺は悪くないその情報が悪い。

「大変だったんですよ。雨が降ったときなんて川の増水が激しくて家が流れるかと思いましたよ」

「段ボールだけどな。でもよく風邪ひかなかったな。あれ、今年一番の豪雨だとかいってたぞ」

 今年になってまだ三か月なのに、凄い大袈裟なことこの上ない。

 大体天気予報とかいつもいつもああだよな。観測史上最大だとか十年に一度だとか。過去の天気弱すぎだろ。簡単に記録塗り潰されてんじゃねーよ。もっと熱くなれよ!…最近どんどん暑くなってるよな~

 だからどんどん暑く(熱く)なってるのか。やるじゃん。

 でももっと暑くなったら迷惑だから。ツバルとかお前のせいで海に沈みそうになってるんだぞ。

「だから凄く大変だったんですよ。それはそれでお腹空きました。おかわりしていいですか?」

「あ、ああ」

「ありがとうございます。では700円下さい」

「あ、ああ。…はい」

 なんかさり気なく二個要求された。

 でも、あんな上目づかいで申し訳なく頼まれたら断れないよな。断るやつがいたらそれは悪魔かゲイだ。

 テンシズルイ。カワイイ。ユルス。

 いつの間にかイリスはダブルチーズバーガーを二個もって来ていた。

 は~1050円か~。痛いな~。この人も痛いな~。俺の頭も痛いらしいし、3痛いだな。

「海斗さんもお腹空いてるんですか?あ、良かったら一口食べますか?」

「ふぇっ……あ、じゃ、じゃあ、もらおうか、な」

 噛みまくった~だ、だって仕方ないじゃん。イリスったら自分の食べてる方を俺に向けてくるんだもん。これって間接キスになっちゃうじゃん。こんな綺麗な人と間接キスとか胸が高まって仕方ない。ほかの女子なら別にどうでもいいけどこの人(天使)かわいすぎるもん。

 二枚のパンに二枚のハンバーグ、二枚のチーズにピクルス。ハンバーガーの食べた後からはボーリング調査結果のように幾層にも重なって形作っている。

 ボーリングしていった口は薄いピンク色でとても柔らかそうで目が離せない。……真面目に後で国語の勉強しよ。さすがに語彙力がなさすぎる。

 ぱく!

 照れを隠すべく口を大きくし頬張る。

「た、食べすぎですよ~私の分がなくなっちゃいます。も、もうあげませんからね!」

 可愛いな~。さっきからこればっかだな~。伸ばしすぎだろ。口調も鼻の下も。

「あ、頬っぺたにケチャップついてますよ。とってあげますね」

「い、いや自分でと――」

 ぺろっ

 決してそんな音は出ないが擬音語としてはこうなるだろう。

 てっきり手で取ってくれると思っていたのだが、彼女は俺の予想の遥か上を行き、頬についたケチャップを舐めた。

「んなっ!」

「これで更に満たされました」

 笑顔が眩しい。天使すごいよ。

「っていうかイリスは恥ずかしくないのかよ。間接キスやこんなことして」

 再度照れを隠すべくイリスに反撃(?)をする。

「え、間接キスってなんですか?」

「え?…間接キスを知らないの?」

「は、はい」

 反撃失敗。

「はあ~。まあ天界で食事がいらなかったら知らないのも仕方ない」

「えっと。間接キスってなんですか?」

 また同じ質問を受け、まずは一般常識の確認からはじめてみる。

「まず、イリスはキスを知ってるのか?」

「ええ。好きな人同士がする行為ですよね。ここでは結婚の際にもすると聞いています。」

「正解だ」

 流石にそれぐらいは知っていたか。

「知ってるなら話は早いな。間接キスとはその名の通り、物を介してキスをすることを言う。今回はハンバーガーを介してだな」

「と、ということは、私はか、海斗さんと、ハンバーガーを介してが付きますが、キスをしたということになるのですか!」

「そ、そうだよ。ちょっと違う気がするがな」

 改めて口にされると凄い恥ずかしい。今回は俺だけでなく、イリスも羞恥で頬を赤く染めている。

「な、なんだか、は、恥ずかしいです」

「だな」

「す、好きな人同士でもないのに、こ、こんな事してもいいのでしょうか」

「べ、別に大丈夫だと思うぞ。間接だし。そ、それに、世の中には欲を抑えきれず、無理矢理キスしたりすることもあるらしい」

 勿論、聞いたのではなく、ギャルゲーの展開であったから、知っているだけだが。

 ありそうだから大丈夫だろ。

「そ、そうなんですか」

「あ、ああ。だから心配しなくても大丈夫だ」

 ここで「ゲームのなかではな」とか言えないな。

 罪悪感を覚え、つい俺は目を逸らした。

「な、なんで目を逸らすのですか。や、やっぱり、してはいけなかったのでしょうか。海斗さん嘘をついたのですか?」

「い、いや、そんな訳ないだろ。ただ時計を確認していただけだ」

「そっちに時計はありません!やっぱりだめだったのですか。正直に答えて下さい」

 うん。時計、こっちにないな。

 どうしようどうしようどうしよう。

 普段、くだらない事はパッと出てくるのに、こういう時だけうまい返し方がでてこない。

ふざけた返しもでてきてはいるが、この状況でそれは逆効果だし。

 よし、ここは考え方を変えよう。暗号や算数パズルでは、考え方を変えたらわかることだってよくあるし。

 …………さっきは、ギャルゲーの主人公の行動パターンを利用したから、今回も自分の言葉で返すって考え方を捨て、ギャルゲー主人公の言いそうな言葉で返そう。

 ここまで考えるのにコンマ5秒。

 心臓の鼓動が速くなる時に遅く感じたり、思考力があがり速く考えられるってのは本当だな。確か、あの格ゲーメインのラノベで言ってた気がする。……ちょっと違うな。

「悪い。嘘ではないが、そうだ!っと言い切れはしないな。でも、俺にとってイリスがそうしてくれて嬉しかった。合意の上ではないが、俺は別に構わないし嫌でもない。イリスはどうだ?俺とこんな事して嫌だったか?」

 満点とは言えないが、合格点はついてると思う。

「えっ……あ…はい。べ、別に、い、嫌では、ない、です」

「なら、問題はないだろ。問題ないならこの件はこれで終わり。別に俺は嫌じゃないからこれからしたいと思ったらいつでもすればいいさ」

 ……調子に乗りすぎた。最後の余分だった。やっぱり慣れないことはするものじゃないな。

「わ、わかりました」

 何とか誤解(?)を解くことができた。

 その為なのか、先程までは気にならなかった周りの視線も意識するようになった。

 店内は物音ひとつでも聞き分けられそうなくらいに静かだった。

 客や店員の視線は俺たちに向かれていた。(最初からだが)

「メイド服に銀髪のウィッグまでつけさせて」「口についたケチャップ舐めさせてた」「変態」「むしろ、そんなプレイしてみたい」「誰、今私と同じこと考えた人」

 視線だけでなく罵倒まで飛ばされた。

 うわ~。ラノベでよくあるたくさんの人達からの囁き声。

 しかも、最後の方は変なコメント、というおまけ付きだなんて。聞くのは初めてだな~。

感動だな~。

 よし、感動に心を動かされていないで、早くここから出よう。(勿論、感動でうごいたのではないが、感動だと信じたかった。)

 それにしてもイリス今までで一番うれしそうだな。まあ、どうせ悪い事をしていないと思いうれしかったんだろ。

 そんなことよりも、

「イリス、食べ終わったことだし、早くここから出よう」

「え、もっとここにいたいです」

 抵抗するイリスだが、無理矢理裾を引っ張り、店の外に出る。

「あ、そんなに裾を引っ張らないで下さい。伸びてしまいます」

「うるさい。少し我慢しろ」

 店を出てからも早歩きで帰路を辿っていった。

 その後騒ぎ出した店内には気が付いても、気が付いていない振りをした。

 


 家に辿り着いた時、俺は焦っていた。

 どうしよう。イリスの事どうやって紹介しよう。「お、お、お、お兄ちゃん。つ、ついに現実とゲームの区別がつかなくなったの?メイド服を着た女の子を連れてくるなんて。大丈夫なのお兄ちゃん。え、え~と。こ、こういう時は警察だっけ、それとも精神科病院だっけ。」と最悪言われて枕を濡らすことになるだろう。これから住んでもらうなんて言ったら精神科病院より警察に連絡されるだろう。河原でも似たこと考えたな。

 とにかく、まずは見つからないように上がってもらい、俺の中学の先輩で演劇部なんだ。とか何とか言って逃れよう。それからの事はそれからだ。

 完璧(海斗にとって)な策を練った海斗は行動に移そうとした。

「イリス。ここが俺の家だ。まずは俺の部屋に行ってもらう。それからの事は後で、お茶でも飲みながら話すか」

「はい。わかりました」

 イリスの返事を聞いた後、海斗は玄関のドアのカギをあけ、物音を立てないようにそっと入った。

 海斗は静かに入ったが、イリスは違った。

 別にうるさいというわけではないがイリスは少し大きめな声で――

「お邪魔します」

 ――と言ってしまった。

 家にいた人にしては、いきなりお邪魔しますと言われ驚いた事だろう。

 例に漏れず驚いたゆかりと母さんは玄関へと顔をだした。

「た、ただいま」

 嫌な予感がする中、焦っていることを悟られないよう微笑む。

「おかえりなさい海斗。珍しいお土産を持って帰って来たのね。メイドさん?海斗はメイド好きだもんね。それで、これは冥土の土産だと掛けてるの?確かに社会的に死にそうね。

面白くないネタだげど」

 酷い事をサラッと言ったのは俺の母さん。

 俺とはあまり似た感じはないが、ゆかりとは結構似ている。逆か。ゆかりは母さんに似ている。

 イリスに言った、若くなるために何万もドブに捨てている人だと思う。

 なのに、みんな20代だって言っても通用するぐらい若く見える。とか言う。

 そんな母さんとは打って変わって、ゆかりは困惑した表情で、

「お、お、お、お兄ちゃん。つ、ついに現実とゲームの区別がつかなくなったの?メイド服を着た女の子を連れてくるなんて。大丈夫なのお兄ちゃん。え、え~と。こ、こういう時は110番だっけ、それとも精神科病院だから119番だっけ」

 やったね。ゆかりのセリフは大体合ってた。

 なんて喜べるわけでもなく、ただただどうしようかと慌てていた。っていうか母さん恐い。

「え、えっとですね。彼女は俺の中学の先輩のイリ――」

「初めまして。海斗さんのメイドをさせていただく予定のイリスです。不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」

 俺の誤魔化しの途中でイリスが爆弾を投下。(主な被爆者はもちろん俺)

「ちょ、ちょっとイリスさん。そんな誤解を生むよ――」

「お兄ちゃんは黙ってて」

「海斗は黙ってなさい」

 またもや俺の言葉は遮られ、二人の剣幕に気圧される。

「は、はい」

「そ、それで、メイドをやるってどういう意味ですか?」

「海斗にメイドになるよう強要されたの?」

「あっ……う…え、え~と」

 俺だけでなくイリスも気圧されたようだ。

「ふ、二人とも同時に質問しても答えられないよ」

 仕方なく助け舟を出してやる。

「そ、そうだね。ごめんなさい」

「流石に迫り過ぎたわね」

 うん、わかってもらって何よりだ。

「では、お母さんから質問して」

「あ、そう。ありがとう。……ではまず、あなた達はどこであったの?」

「そ、それは河――」

「あなたは黙ってといったでしょ」

 俺に発言権はないようだ。

「河原です。」

 即答するイリス。

「それで、河原で会ってなんで、海斗のメイドをやることになったの?」

「それは…元々私は高校には上がらず、親が無理矢理私をメイドにしたのです。ですが、全く家事が出来なかった私は、勤め先に追い出されてしまいました。当然、住み込みだった私は職を失い、ひとまず家に帰ることにしました。…ですが、家に帰ったら…家が火事で焼かれていたのです。近くで捜査していた警官に話を聞くと、事故で両親は亡くなったそうです。……駆け落ちで結ばれた両親の子供の私は、当然帰るところがなく、一人で河原で何日か過ごしていました。それで、今日海斗さんが私に声を掛けてくれて、事情を話したら、なら俺の家に来るか。っと言ってくれたのです」

「そう、海斗がそんな事言ったんだ。その事情じゃ仕方ないわね」

「だろ、だから誤解しないでくれ。むしろ謝ってくれ。名誉毀損だ」

「確かに、私も夜は家にいないし、誰かこの子達を見てくれる人がいたらな、とか思うこともよくあるし、私は問題なし。では次にゆかりの番」

 ダメだこの人。俺の事軽く無視しやがった。悪いと1ドットも思ってないに違いない。

 にしてもこいつ、ちょっと抜けているところがあると思っていたが、案外頭の回転速いな。

 あんな話を途中つっかえる所があったけど、それでもあの理由なら自然だ。

 いや、イリスじゃなくて、天使のスペックが高いだけか。

 順番が回ってきたゆかりは、何かを決意したかのように真剣に質問しだした。

「イリスさんは、お兄ちゃんに何かされたのですか?」

「あ、それ私も気になる」

「なにもしとらんわ!」

「お兄ちゃん、五月蠅い」

「……はい。」

 うるさいに凄い力がこもっていた気がする。

 まだ発言権は公布されていないようだ。出すかの議題にすら出てないだろうな。

「イリスさん。どうなんですか?」

「はい。海斗さんには何もされていません」

「また~。だから誤解だって。謝れ、名誉毀損だぞ!」

 公布されないなら自分で無理矢理押し通せばいい。

 顎を上げ、両手を腰に添え、見下すような姿勢で威張った。

 だが、俺の政権交代は一瞬にして崩れた。

「でも、わ、私が、海斗さんに、キスをしました」

「ちょ、ちょっと海斗。なにが何もしてないよ。やっぱりしてるじゃないの。しかもキスって、あんなに『現実に希望はない、あるのは絶望だけだ』とか言ってたのにファーストキス奪わせるとか最低!」

「そ、そうだよお兄ちゃん。いくらなんでもキスするだなんて。あそこまで『ここに光はない。あるのは一寸の先も見えない闇だけだ』とか言ってたのに。こんなのお兄ちゃんじゃないよ。本当に病院行ったら」

「バ、バカ!んなわけないだろ。キスって言っても間接だ間接。しかも、俺は意図してやってないからな。後、俺はそんな事言ったことないし、そんなに酷くないわ!」

 酷い、酷いよ二人とも。俺をそんな風に思っていたなんて。

 イリスもイリスで、なんで余計かつ大切な部分を省いて言うの。完全に状況が悪化しているよ。

「本当に間接だったの。唇をじゃなくて?」

「イリスさん本当の事を言って下さい」

「は、はい。間接、です。言い間違えました」

「そう。なら大丈夫」

「そうだね。安心」

 あれ、俺の意見ではあそこまで食い下がったのに、イリスの時はすぐ身を引いたな。扱いの差が激しいな~。差別は良くないと思います。

「こ、こほん。では二つ目の質問です」

「は、はい」

「イリスさんは何歳ですか?」

 意外と普通だな。

「16歳で高校に通っていたら2年生です」

「なるほど。それでは次に、その綺麗な銀髪は地毛ですか?」

「はい。そうですが。親がどこかの国から日本に駆け落ちしたと言ってました。どこかは昔聞いていて、今は覚えていません」

「え、これ、地毛、ですか?」

「はい……?珍しいですか?」

「め、珍しいもなにも、かなり稀少です」

「そ、そうなんですか」

「はい。本来、銀髪が地毛なのは一般的に老人や若白毛を持つものです。まあその話は今度にしといて最後、スリーサイズは?」

 うん。やっぱり普通じゃなかった。お兄ちゃんバカだったよ。

「えっと、ここ数年は測ってません。メイドの仕事で忙しかったですし、学校に行ってなかったので機会がありませんでした」

 そっか。天使はもともと食事は要らないから、ずっとあのままで、スタイルに変わりはないから、測る必要がないのか。

「う、余計なことを聞いてすみませんでした」

「いえ、大丈夫ですよ」

 流石に触れたらまずいと思ったのだろうか。

 変なところに地雷があるものだ。

「もう三時だし、おやつにでもしよう」

 俺の提案は今度こそ満場一致で可決された。


 

 夕食も食べ終わり、風呂に入る。

 もちろん、妹やイリスとバッタリなんてイベントは未然に防ぐ(妹に限ってそれはないが、イリスはご奉仕だとか言ってやりそうだった故)。

 色々なことがあり、疲弊しきった俺の身体にはいつも以上に気持ちよく感じた。

洗った髪から伝わる雫が重力に引っ張られて湯船に落ちる。落ちた雫は形を失い、同心円状に波を作り出す。

 そんな波が幾つもでき、やがて波はぶつかり強い波が押し通る。

 髪が乾き、雫が出来なくなった。俺は風呂場から上がって、身体を拭き、寝間着に着替えて風呂場を後にする。

 自分の部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、イリスがオロオロとしていた。

「どうしたんだこんな所で立ち止まって。何か困ったことでもあるのか?」

「はい……」

「何に困ってるんだ?」

「えっと、これからどうしようかなぁと思いまして、色々と悩んでいた所です」

「そうか。それじゃあな。がんばれ」

「はい……ってなんで部屋に戻ろうとするんですか。なにかアイデアぐらい出してくださいよ」

 それもそうか。

「じゃあ…ゆかりの部屋に遊びに行ったらどうだ。ゆかりなら喜んで相手になってくれると思うぞ。ああ見えて結構子供っぽいからな。普段は大人ぶってるけど」

「はい、わかりました」

「おう。気にするな」

「あのぉ、よろしければ後で海斗さんの部屋に行ってもいいですか?」

「……いいぞ」

「はい。では、後ほど」

「…ああ」

 イリスは俺に別れを告げると、踵を返してゆかりの部屋へと向かう。

 俺とゆかりの部屋は隣だが、扉まで少し距離がある。

 イリスがゆかりの部屋に入るのを見届け、俺も自分の部屋に入り、今朝閉じたゲームの電源をつける。

 流石に悔しかったが、今夜も徹夜というわけにはいかない。

 なるべく早く攻略を終えたくなり、急かすようにコントローラーのボタンを連打する。

 急かしても意味はなく、しばらくして画面が立ち上がる。

 オープニングを飛ばし、一番最初の選択肢からロードする。

 転校生が来て初めての会話の場面だ。

 主人公(俺)が話掛けられ、返答する内容が選択肢として現れる。

「泉海斗さんですか?これからよろしくお願いします。えっと、なんと呼べばいいでしょうか?私の事は天音と呼んでください」

『そんな固い口調じゃなくていいよ天音。気軽に海斗って呼んでよ』

『呼びやすいやり方でいいよ。こちらこそよろしく天音』

『じゃあ、泉さんでお願いします』

『なんで俺の名前知ってるんだ。お前ストーカーか?気安く話し掛けるな!』

 ああ、こんなんだったな。そういえば昼にイリスに会った時ストーカー?と尋ねたのはこれが原因だったのか。

 あの時は…気安く話し掛けるのはビッチだ!と考えていたから…他人行儀な3番で返事した気がする。

 このゲーム、よりリアルに!とかで前選んだ選択肢教えてくれないんだよな。

 1と2は似ているが、1の方が軽い男みたいでだめだな。

 4は論外なので2を選び、仲良くなる意志があることを示す。

『呼びやすいやり方でいいよ。こちらこそよろしく天音』

「はい、よろしくお願いします。海斗さん」

「ああ…」

 その後呼んだ事のある部分は飛ばしていき、選択肢の前まで進めていく。

 今は共通編で天音がずっとでるようだ。

 さっきの返事から、今回は天音を攻略するのが良さそうだ。

 少しして、また選択肢が現れる。

「まずはどこから回るのですか?」

 天音に町の案内をしているシーンだ。

『ここからだと…スーパーが近いからスーパーにでも寄るか』

『スーパーも近くにあるが、もう少ししたら商店街があるから、そこにしよう。スーパーも便利だが、商店街の方がいろいろあって時間を潰すのにはちょうどいい』

『ちょっとしたとこにホテルがあるぜ。これからよく行くだろうから下見しようぜ』

 これを作ったシナリオライターバカか?

 なんでこんな極端に変なの入れるんだよ。これ、12歳以上推奨だぞ。セリフがぎりぎりアウトだろ。

 確か……俺だったら動くの疲れるし、早く帰りたいから1を選んだ気がする。バットENDじゃなきゃ俺は絶対にそれを選んだだろうし。

『スーパーも近くにあるが、もう少ししたら商店街があるから、そこにしよう。スーパーも便利だが、商店街の方がいろいろあって時間を潰すのにはちょうどいい』

「わかりました。では、先導お願いします」

「いや、隣で歩こうよ。そうした方が覚えやすいと思うよ」

「はい…そうですね」

 そんな感じでどんどんと進めていった。

 勿論、天音以外のキャラにも、あまり嫌いにならないよう心掛けた。

 一度間違えたからだろうか。客観的に見れるようになり、スラスラと選択出来た。

 二時間ぐらいした頃だろうか。飛ばすところも多少あったから、その分早く攻略でき、もう俺と天音は付き合うようになった。

 後はあまり選択肢がなく、そのままENDまで行けた。

 エンディングを聞きながら今回の成果を確認していく。

 今回の主人公の思考は今朝やって思った通り、面白かった。

 

 この一年でいろいろなことがあった。

 去年までの俺はただ惰性な日々を過ごし、その身を自由にさせていた。

 いや、否。惰性に過ごし、なにもしない自由が俺の心を締め付けていた。

 スタートの線もゴールの線もなく、ただ周りが壁で進むだけの世界で生きていた。

 だが、今は違う。一つ一つの事に目標があり、自分でスタートとゴールを自由に決め、走っている。

 しかもこれからは俺の隣に天音がいる。

 万里の長城の如く長く仕切られた壁の中での孤独から、二人の並走になっていく。

 これからも大変な事がたくさんあるだろう。

 それでもこの手は離さないで前へ進むと俺は決意した。

                            END


「終わった~」

 いや~良かった。やっぱりいいな。

 天音凄い可愛かった。何だろう、この心が締め付けられる感覚。もう天音以外の事は考えられない。

 もしかして、これがこ――

「お疲れ様です。海斗さん。」

 ――い?

「うわぁ!…イ、イリスか?急に現れるな。びっくりするだろ」

「す、すみません。で、でも私は10分以上前からここにいましたよ」

「え、マジ?」

「ええ、マジです!」

 全然気が付かなかった。でも、なんとか天音への恋にも今ので醒めた。

 いや~危なかった。このままだと俺の初恋は天音になるとこだった。

 それでも今はいいけど、後で絶対後悔するし、それはかなり痛い人だろう。

 いや、今一番好きな人は?とか聞かれて天音とこたえるなら大丈夫。

 でもね、初恋はアウト。

 少し感謝の眼差しを向けつつ、ここにいる理由を尋ねる。

「それで、なんでここに来たんだ?」

「ひ、酷いです。私、ゆかりちゃんとお話したら海斗さんの部屋に行く、って言ったじゃないですか。もしかして、忘れてたんですか?」

「そ、そんな訳ないだろ。ちょっとゲームしすぎてボケちゃっただけだ。心配するな。ちゃんと覚えている。」

 大丈夫大丈夫。今しっかりと思い出した。

 しかし本当に来るなんてな。正直社交辞令だと思った。

 まあ断る理由もないしいいか。

「じゃあ何から話そうか……なあ、ゆかりの部屋で何を話して来たんだ?二時間ぐらいいたってことだろ」

「はい。ゆかりちゃんとは色々と話しました」

「たとえば?」

「海斗さんの黒歴史?とか」

「ほ、他には……?」

「海斗さんの失敗談だとか」

「うん。他には」

「海斗さんを憐れんだ時の話だとか」

「全部俺を貶してるじゃねーか!」

 こわいこわいこわいこわい。

 自分の兄貴の失敗だけで二時間語れるとか女子恐い。

「でも面白かったですよ。小学校の頃運動会の借り物競争で――」

「シャラップ!」

「い、いきなり大きな声出さないで下さい。びっくりしました」

 そんな事は関係ない。まだ14年しか生きていないとはいえ、人には言いたくない悲しい事がかなりある。両手じゃ圧倒的に足りない。

 そもそも、あんな過去があるからこそ今の俺がいるんだ。なかったらこんなのになってない。

 ただし、俺はそんな過去も受け入れてる。自分を肯定していいのは自分だけだ。他人に勝手に俺のことを決めつけられたくない。

 自分しか肯定できないなら、たとえどんな嫌になることがあっても否定しない。反省はするが自分を否定しない。

 だからこそ今の変な心の俺がいてイリスがいるのだろう。

 色々と毒されて(?)今になったが、この考えはやめない。

 それにしてもいきなり叫ぶのは非常識か。

「ああ、悪かったな。触れられたくないんだ。……それには」

 わざと表情に翳りをだし、深刻そうな雰囲気をだす。

 この姿をみたら普通余計には突っ込まない。

「す、すみません。嫌な話題でしたね」

「いや、気にするな。もう気にしていない。これから気を付けてくれればいいさ。じゃあこれからの事を話そうか。浄化といってもどういうやり方か聞いてないし、気になる」

 普通じゃないこいつにも効いたな。

 根は優しいだろうし……当然かな。

 話題の転換に賛成のようで、どうするのか語りだす。

「まず、浄化にはまず原因を調べる必要があります。今回はその必要はありませんね」

「ああ…全く持って不本意だが、俺の心、つまり考え方が原因なんだろ」

「……はい」

「でも…一体どの辺りがダメなんだ?考え方にもいろいろあるだろう。ひとつひとつ確かめるのは骨だぞ」

「えっと……だから現実はとか思っているところみたいですよ。最近は多いらしいですよ。そんな人」

「へ~ってらしいは言い方可笑しくないか?こういうのお前の担当なんだろ。当事者らしからぬ言い方だぞ」

「あ、はい…そうですね。私こう見えても新人なのであまり詳しくないんですよ」

「え…新人?つまり今回が初仕事?」

「はい!」

「威張るな。威張ることじゃない。研修は?」

「ありませんよ。大事な情報はもともと頭に入ってます」

「まじか…つまり、君たち天使は人間の人生の左右をぶっつけ本番で変えると」

「言い方は酷いですけどそうです。でも、しっかりとベテランの方もいますよ。新人の数は結構少ないですよ。大当たりです」

「大凶引いた気分」

「そんな…酷いですよ」

 ちょっと悲しい雰囲気を出しながらそっぽを向く。

「それで…頭に入っているとか、誕生した理由だとか言ったが、もとからその姿なのか?」

 なんか面白いラノベでも天使ではないが、必要知識だけはもともと入っているアンドロイドがあった気がする。

「はい……そうですが」

 ……やっぱり。なんか空飛ぶ島を発見したみたいに感動した。ほら、あの主人公が言ってたように。

 ってことは…こいつ生まれて日が浅いのかな?

「じゃあ、今誕生してどのくらいたったんだ?」

「大体一か月くらいです。予定では二週間前から仕事開始だったのですが」

「わ、悪い」

 俺が悪いわけではないがつい謝ってしまった。

「最年長で何年ぐらい仕事を続けている天使がいるんだ?」

「まあ300年ぐらいですね。もともと寿命なんてないんですけど、なんか皆さんそのぐらいでやめるそうです。別に全そういうわけではありませんけど、なんかもう疲れた~とか言って」

「……そうなのか」

 いろいろと衝撃的なことをたくさん言われたが、アニメの設定として考えると、わかりやすく受け入れやすい。

「そういうものなのか。ま、そこまで生きていない俺らにはわからないわな。……悪い話が逸れたな。で、最近増えたっていうことは…対処法とかも公開されているのか?」

「あ、はい。公開というよりここに来る前に教えてもらいました。さすがに技術までは経験が必要なので、二週間ほど年配の天使に教えてもらうんですよ」

「年配っても見た目の年齢は変わらないだろ」

「そうですね。でも、私たちは何となく雰囲気でわかります」

「顔とか体つきとか性別とかは天使ごとに違うだろ?」

「はい。わからなくなりますし、私たちに性別わ関係ありませんが、地上では関係あるので。それと、送る相手の好みにも合わせるので、すごい小さい天使や老けている天使もいます。顔もなるべく合わせます」

 だから俺好みの顔だったのか。ありがとうございます大天使様。

「原因もわかったことだし、あとはどうするんだ」

「簡単です。原因を解消または解決すればいいのです」

「まあそうだな。それで、対処法はなんだ?」

 想像できるが、一応聞いてみる。

「それも簡単でした。実行するのは大変そうですけど、現実を好きになってもらいます。現実が好きになったり、認めてもらえばもうそうは思いません」

「どのくらいの人がそれで解決したんだ?」

 やっぱり想像通りだったが、それは理論(?)上であり、効果があるかについてはわからない。

「50万人ぐらいです、日本では。」

「は、50万?多すぎだろ。全員成功したのか?」

 流石にその数字は予想外だ。……この国大丈夫かな。心配になってきたよ。

 ……俺もその心配される対象でした。

 それは置いといて、この質問はかなり大切だ。

「全員ではありませんが一番有効だったそうです。50万といっても過去も含めてですので当然かと。むしろ低いぐらいです」

「ほかの国は?」

 そうだ、日本だけがアウトなわけない。ニートの用語を作ったイギリスなんてもっと酷いだろ。もうこんな王嫌だって革命起きたし、アメリカも元々イギリス領だからな。こんな事考える人もいただろう。

「残念ながら知りません。管轄が違いますし、新人の私には今余計なことを言っても、ショートするかもしれませんし」

「……そうか」

 残念だが納得できた。

 ただ、管轄とかがあるのに一瞬ビックリしたが、地球にいる人数や人種、宗教の違いも考慮するとなると、管轄として分担するほうが効率がいいかもしれない。

「タイムリミットとかはあるのか?多分ないと思うが」

「はい、ないですよ。強いて言うなら保有者が死ぬ時までです」

「じゃあ、その保有者が死ぬまでに解決されなかったことないのか。50万人もいたら失敗ぐらいあるだろ」

「ありません」

「……え?」

 聞き間違いだろう。そ、そうだ、そうに違いない。

「だ・か・ら、解決されなかったことはありません!」

「そ、そんな優秀なのか、天使は」

「そうです!天使は優秀なのです!」

 違わなかった。

 まあ人間とは別だからな。同じに考えるのが馬鹿馬鹿しいのだろう。

「効率が良いと言っていたが、絶対ではないだろ。その方法で失敗したらどうやってじょうかするんだ?」

「方法はたくさんあります。記憶を消したり、改竄したり、誘導したりと強引にやるのが主なやり方ですね。マニアックなものもあるらしいのですが、今の私は新人なので必要はないと言われましたが」

 恐いよ~。真人間にならなきゃ記憶消去。酷過ぎだ。

 全く、そんな風にするからニートや俺みたいなのが出てくるんだよ。

 世の中が理不尽なんだよ。……訂正。三次元が理不尽なんだよ。

 そんな簡単にカワイイ天使が創れるならこの世を変えろよ。

 俺は悪くない。三次元が、リアルが、世の中が、社会が悪い。

 俺みたいになるのは、大半がこの世界に絶望を少なからず感じているからだろう。……多分。

 その仮定で進めるとして、この問題については解決するより解消する方がよりいだろう。解決していくのはいいことだが埒が明かない。

 一応聞いてみよう。

 気が付きませんでしたで記憶が狙われる(?)のは嫌だ。

「人じゃなくて世界を変えた方が簡単じゃないのか?」

「私たちはあなた達とは全く違う存在です。私たちは簡単にこの世界の法則を変えることは許されません。それ故に、私たちは個人対応をベストなやり方だと考え、実行しているそうです。私はまだ新参者なので知識しかありませんが」

「そうなのかもな。個人対応ってことは他人には天使だってばれちゃいけないのか?どこかのアニメの番外編みたいに一人だけなら知られていいとかいうルールか?」

「いえ、別に構わないですけど、なるべく大事にはしたくないので個人的にはひろめたくないです。ところで、どこかのアニメってなんですか?」

「いや、作者は亡くなったが漫画がまだでてる5歳児のストーリーだ」

「ああ、あの将来痴漢で逮捕されそうな子の話ですか?」

「ああ…それだ。…………話がまた逸れた。イリスと話していると話がなかなか進まないな」

 これからはもう少し注意しよ。

「それは酷いですよ。私だけが悪いわけではありません。海斗さんも悪いです。むしろ、海斗さんがかなり悪いです」

 俺のことばが不服なのか、少し頬を膨らまし、声を少し大きくして否定した。

 言い返してやろうと思ったが、俺は大人の対応をした。

 ピシ!

「いた!な、なにするんですか」

「大人の対応だ」

「まだ中学生ですよね」

「何を言う。生まれてまだ一か月の赤ん坊に言われたくないわ。比率を考えろ比率を」

「はいはいはい、そうですね~」

「なんかバカにされた気がするがまあいいか。……………それで、俺の場合は現実がよりよく思えたり、今の考え方を変えることが浄化の条件なんだろ。どうやって考え方を変える、ラノベやギャルゲーとか漫画の主人公が『リアルは神ゲーだ』とか『理想を求めないで現実を見ようぜ』とか言うようもの見せるのか?」

「いえ、違います」

「なんだ、先生に説教でもさせるのか。今回の担任は恐いらしいからな。でも、俺は他人の意見や主張で自分を変えようとするのは自分がいない傀儡野郎だと思っている。そりゃあ少し自分がダメだと思うことは直すようにしているが、自分の根の部分まですべて変えようなんてのは絶対にない!」

「それもわかった上でプランは考えてあります。私ではなく過去の成功例の引用ですが」

『50万人もいて君は初めてのタイプです』だなんて言われるわけないか。ボッチであることを嫌だとは思ったりはしないが、過去も含め何十億といた日本人の中でのニュータイプなんて流石に嫌だ。

 違うな、ニュータイプだからこそ新しい日本は俺に託すべきじゃないのか。俺は何代目総理大臣になるのかな。前までコロコロコロコロ変わっていったから正直予測できないな。まず今何代目だろう。コロコロ変わるからこそ俺が総理大臣になるのか。

 ……………そもそも俺はニュータイプじゃないし、そんな新しい日本は一週間で壊滅するな。

 そろそろ正気に戻ろう。

「どんなプランなんだ?」

「海斗さんには現実の女の子を好きになってもらいます。それか、逆に攻略してもらいます。その二択ですね」

「前者はわかるが後者はなぜだ。心の隙間でも埋めるのか?それは悪魔だろ」

「なにいってるんですか…?」

「いや、こっちの話だ」

「えっと、それでギャルゲーみたいなことは現実でもできる!と思わせることで浄化ができるそうです。それで成功したこともあるらしいですし」

「どちらでもいいな。……なあ、別に急いでないならゆっくり浄化するって事でいいか。あせってやるは嫌だ」

「ダメ人間の言うことですよそれは。別に構いませんが」

 よし、じゃあ明日から頑張ろう!

「そうかなら話は終わりだもう長い間話して夜も遅い早く寝よー」

「……………………」

「おやすみ」

「……お、おやすみなさい。最後の反応が気に食わないですけど、海斗さんの言う通り夜も遅いので失礼します。」

 よし、早く寝よー。昨日徹夜したから凄い眠い。

 俺は宣言(?)の通りベットに入り1分とたたないうちに眠りについた。


 

 堕ちていた天使は海斗の意思を尊重しているようだが実はそうではない。

  

初めまして、速水零です。

今回、世の中の理不尽を自分なりに現してやるべく書きました。

大声では言えないので小説に託すチキンです。

まだ人としてヒヨっこです。

小説家の卵です。

そして、逆の進化を遂げていき零になります。

注意!

これ目的で名前を零にしたわけではありません。

漢字ミス、文法ミス等はあえてとカワイイ部分が含まれております。

速いですが、最後に、読んでいてくださりありがとうございました。

続きを書いたらその時も読んでいただいたら嬉しいです。



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