探索
あ
「もう嫌!帰りたいよぉ・・・。どうしてこんな目に・・。私が何したっていうのよぉっ!」
唐突な叫びに全員一斉に振り返る。
廊下のど真ん中に座り込み泣きじゃくる莉子。素早く石田千香が駆け寄って声をかける。
「落ち着いて、莉子ちゃん。きっと皆帰れるから・・。」
「何の根拠があって、そんなこと言えるの!?ねえ、本当に生きて・・帰れるのぉ!?」
千香が懸命に励まそうと試みるが、錯乱している彼女にはまったく効果がなかった。皆の表情が、明らかに莉子を鬱陶しがるものだった。皆が我慢していたことを、莉子が吐きだしたためだ。私は、どうしたらいいのか分からず、ただただ泣きじゃくる莉子を見つめていた。
「あー、もう・・。皆不安だったのに、考えないように頑張ってたんだよ?何で、あんたは我慢できないわけ・・?」
萩村愛花が、突然口を開く。先ほどと同様に、愛花に視線が集まる。見ると、愛花は心底莉子を見下しているような表情でいたのだ。
「私も我慢してたよ・・。でももう無理なんだもんっ・・。そんな言い方しないでよぉっ・・。」
莉子は、力なく叫ぶ。すると、隣で莉子の背をさすっていた千香も次いで口を開く。
「そうだよ。愛花ちゃんの気持ちも分かるけど、今は莉子ちゃんの気持ちを落ち着かせてあげないと・・。」
愛花は、顔をしかめそっぽを向いた。自分の意見が否定されたことが何より悔しいのだろう。
「ルル、どうする・・?」
隣で私と同じく立ち呆けていた俊佑が急に話しかけてきたため、少し面食らう。私にどうするかの判断を委ねられるのは、正直困る。しかし、一度休むのも気が引ける。
数時間前に、AグループとBグループで探索範囲をリーダー同士で決めていた。ちなみにAグループのリーダーは英本卓郎だ。英本卓郎は本校舎探索を希望していたため、その要求を私は呑むことにした。都合がよく、私は旧校舎探索を希望していたのだ。希望といえど、独自の希望なのだけれども。武器庫が旧校舎にある気がする、なんていうような理由ではない。旧校舎に興味があるからだ。本校舎は、ある程度形状が私たちがいた高校と似ている。考えてみれば、どこの高校でも形は同じなのかもしれない。となると、旧校舎ならある程度形状や、質などが変わっているのではないだろうか。今の本校舎の形状とは、必ず異なっていることは確かだ。私は、それを見越して旧校舎探索を希望した。しかし今となってはその判断は間違っていたかもしれない。旧校舎は、私が想像していた以上に広く暗かったのだ。そして、床に所々穴があいている。完全木製といったような校舎だ。メンバーを見れば、体力がもつとは思えないようなメンバーだった。私は、判断ミスをしてしまったようだ。体力だけではない、この旧校舎の異様な雰囲気。木造だからということもあるのか何か、異質な雰囲気を感じ取っていた。そのため、精神力もかなり削られる。赤島響や俊佑、角川幸人は心配しなくても良さそうな落ち着いた面持ちだが、それ以外のメンバーは皆滅入った表情で今にも泣きだしそうだった。
「・・・・。」
私は無言で、俊佑の問いには答えられないでいた。
「・・はぁ。」
背後で誰かが溜息を吐いた。振り返ろうとした瞬間、私の横を赤島響が通り過ぎる。溜息の持ち主だろう。響は迷いなく莉子の下へと向かっていった。
「・・響・・。」
莉子が、潤んだ瞳で響を見上げる。すると響は米神を掻くと莉子の目の前で背中を見せ屈んだ。千香が察したかのようにすぐに離れる。莉子は、呆けた表情から、花が咲いたような明るい表情に変わった。
「早く乗れ。」
響が冷たい声で呼びかける。莉子は、嬉しそうに響の背におぶさった。響は、面倒そうに私へと視線を向けた。瞬間的に、顔を背けてしまう。奴とは顔を合わせたくない。
「ねえ、もう行こうよ。」
私を見ていた愛花が呼びかけてくる。少し気が抜けていたのだろうか。注意力が散漫になっている。私は深呼吸をして気を入れ直した。そして、歩みを進めていった。
「あーマジ疲れたー。」
英本卓郎が嫌みたらしく言う。その瞬間全員の表情がひきつる。
Bグループのメンバーは、異色といっていいだろう。
リーダーは、当然のごとく英本卓郎。そしてそのペアの岡本優理。
不良の城前芽衣。
少しびびりな新上綱葵。
謎が多い涼谷大地。
孤立気味な瀬谷原蛍介。
隠れオタクの多田祐樹。
人見知りの尚本香奈。
比較的社交的な三田姫菜子。
暴力的で喧嘩早い素春清之助。
全員が全員、戸惑いつつある。皆このメンバーは異色なものだと感じているようだ。しかし、英本卓郎はそんなことお構いなしに自分勝手に発言し続ける。
「なー。全然見つからねぇじゃん。もう見つからなかったって言って戻ろうぜ。」
英本卓郎は先ほどから子供のように我儘ばかり言っている。困ったもので、それは特定の人物に言っていればまだ対処の仕様があるが、不特定多数の人間に尋ねているため、誰が答えなくてはならないということが分からないのである。そのため、沈黙が訪れてしまう。
「・・おい、無視かよ。誰か答えろよ。」
分かりやすいほどに機嫌が悪くなる卓郎に、皆更に不安の表情を浮かべる。すかさず、岡本優理が隣へ進み話し相手になる。
「でも、委員長が怒るよ?それに、私たちは食料庫を探してるわけだから、見つけないと皆飢え死にしちゃうしね・・。」
卓郎の機嫌を悪化させないように、穏やかな口調で話す優理。もっともな回答が返ってきたため、卓郎は少し顔をしかめ、「そうだな。」と呟きそれ以降口を開くことはなかった。
あ