BG減殺計画 -嚆矢-
登場人物たくさん出ます。
「ルル、どこに行くんだ?」
背後から呼び止められ、思わず立ち止まる。振り返ると、不安気な表情で私を見つめる俊佑がいた。殺しの場として設けられた舞台は、とある廃校だった。トラックの荷台は、外の景色が一切見えなかったためここまでの道筋は全く分からない。そして、荷台から降ろされる際も、目隠しをされていたため校舎外の景色も分からない。今、私たちがいる教室の窓も鉄の板の上に頑丈な鉄格子がはめられており、かなり厳重なものとなっていた。外光が入ることを遮られてはいるが、校舎全体に電気は流れているようで教室内の明るさは保たれている。実際に目で確認はしていないが、恐らく校舎全体の窓が塞がれているだろう。念のため、校舎を探検しておこうと思い部屋を出ようとしていたのだ。他の皆は、怖がってこの部屋から動こうとはしない。私はいい加減それに飽き飽きしていた。いつも
いつも先頭に立ち、自己中心的に物事を進めようとする傲慢な赤島響も、何故だか動こうとはしない。江波莉子は相変わらず赤島響にべったりである。
委員長は、担任と同様にやつれていた。部屋の隅で、体育座りをして膝と腹の間の空間に顔をうずめて沈黙している。国素健也は、いつもと変わらない無表情でどこかを見据えていた。全員放心状態だ。一体いつまでこうしているつもりなのか。
「・・・トイレ。」
平然と口にする私に、俊佑は頬を赤く染めこめかみを掻き、きまずそうにする。
「えっと、わ、悪い。危ないと思ったらすぐ戻ってこいよ。何があるかわかんねぇしな。」
何があるか。何もないと思うけれど。憶測で言っているわけではない。私たちで殺し合いをするのだから、何もわざわざ罠なんて仕掛けないだろう。安直的な考えだが、私はそう思っていた。もちろん、トイレなんて嘘だが偶然にもトイレは教室の隣に位置していた。そのため、あまり長い間探索をしていると怪しまれそうだ。しかし、案の定廊下の窓も全て塞がれていた。そして、トイレはこの階の一番端に位置している。つまり、私たちがいる教室も教室の中では、一番端といえるだろう。更に、ここへ来るまでに一度も階段をあがっていないため、ここは一階だ。教室の札は見えないため、学年や組も分からない。しかし、不思議と私たちが先ほどまでいた私たちの学校と配置などは似ていた。
とりあえず、隣の教室を見てみることにした。床が軋む。随分と放置されていたようだ。少しカビ臭いような気もする。しかし、窓の鉄板や鉄格子はいたって新しかったため、後からつけられたもののようだ。当り前かな。隣の教室の扉を静かにスライドする。一見するとあまり変わりはなかった。もう少し詳しく見れば何か発見できるかもしれないが、背後に現れた赤島響のせいでそれができなくなってしまった。
「・・何?」
音も立てずに、私の背後に現れることができるとは思わなかった。彼とは、あまり顔を合わせたくなかった。何故なら、ここに来るまでの荷台のなかで私は彼に抱きかかえられたまま、眠ってしまったのだ。それは私にとって恥といえるだろう。こんな男に、気を許してしまった自分が憎い。何故かはわからないが、あの時何か安心してしまっていた。赤島響の抱擁が意外にも心地よかったのだ。こんなこと考えるだけで、嫌になる。
目が覚めた時、彼も眠っていたのだ。無防備な寝顔に私は、苛立った。
「気づくの早いな。さすがというか、何というか。」
顔を見なくても分かるにやついた表情。声色でも分かるのだから、嫌なものだ。そして、彼に向き直る。改めて間近で見ると、彼はかなり長身だった。私はあまり背は高くないので、見下ろされている状態にある。それにも苛立つ。
「何か用?」
腕組をして、彼に対して威勢良くふるまう。彼は、鼻で笑い私の真似をする。今にも殴りたい気分だ。
「いや、用があるのは俺じゃねぇよ。委員長様がさ、何か演説でも始めるみたいだぞ。」
あからさまに馬鹿にしているようだ。委員長が、演説、ね。嫌な予感しかしない。委員長は、理想ばかりを語って現実逃避を始めるから、委員長が話すと聞いてあまり気分は乗らない。
「それで、呼びに来た。本当は、俊佑が呼びに行くって言ったんだがな。俺が、行くって言ったら、あいつ簡単に諦めたぞ。」
彼は、含み笑いながら話している。俊佑は、ただ反論して赤島響の機嫌を悪くさせるということに、気がひけたからだろう。俊佑の判断は正しいように思える。彼は、勝ち誇った笑みをうんでいるところを見ると、彼は説き伏せられたとでも思っているのだろう。
「そう。じゃあ、早く戻ろう。」
彼と長時間二人でいるのは、荷台の中のときのように、抵抗感があった。そのため、私は彼の隣を通り抜けて、元の教室に戻る。つもりだったが、彼の動作が私の歩みを止めた。
「待てよ。」
低くあまり機嫌のよくない声。彼は、私の腕をがっちりと掴んでいた。振りほどけない。彼の力は本当に強い。私が振りほどけないなんて、相当なものだ。私が、口を開く前に彼が口を開く。
「なあ、何でお前こんなところにいたんだよ。トイレとか言ってたじゃねぇか。一人でこそこそしやがって、お前どういうつもりだよ。」
冷たい眼差しが、私を捉える。私は溜息を吐き、彼の拘束から解かれるために少し手荒な手段に出ることにした。
「っなっ」
体を大きくひねり、彼の鳩尾をめがけて右足で蹴りを入れる。しかし、彼は両腕を交差させ私の蹴りを受け止めた。その隙に、私は素早く隣の教室へ逃げた。
ガラガラガラ
勢いよく扉を開けたせいか、全員が私に注目した。俊佑は、まるで捨てられた子犬のような不安気な表情で私を見詰める。私は小走りで俊佑の下へ行き、座ろうと諭した。そして、床に腰をおろし溜息を吐いた。
「ルル。ごめんな。」
申し訳なさそうに呟く俊佑に、私は微笑んで首を振った。彼は苦笑していた。
ガラガラガラ
その瞬間、赤島響も不機嫌そうに腕をさすりながら、教室へ入ってきた。両腕は少し赤くなっていた。江波莉子は大げさに心配し、赤島響へと駆け寄った。次いで、私を睨んでくる。私はそれを無視した。
「えっと、じゃあ皆揃ったみたいだし、話すね。」
委員長が、立ちあがってそう言うと教壇へと向かった。
そうして、黒板を背に委員長は息を吸い口を開いた。
「あのね、皆、私死にたくない。」
委員長は、落ち着いた表情でそう言った。全員が顔を見合わせざわめく。
「後、人殺したくない。皆に殺されたくない。」
ざわめきは一層大きくなる。彼女は、一体何を言っているのだろうか。そんなことできるはずはないのに。彼女の理想論は、私には理解できないものだ。
「皆、私を信じて。私も皆を信じる。ううん、皆も信じなきゃ。ここでは、誰も疑っちゃだめ。」
彼女は、一体どういうつもりなのだろうか。震える瞳で全員の顔を見つめる委員長。皆困惑していた。私は、彼女の言っている意味がわからなかった。
「委員長、私は委員長に賛成だよ。どうして、友達同士で殺し合わなきゃいけないの?おかしいよ・・。」
立ちあがって委員長に賛同したのは、石田千香。出席番号3。
彼女は、温厚で真面目なかなり優等生側の人間だった。俊佑と同様、多くの人間から信頼を得ている。教師からの評価も高く、評判も良かった。彼女は、いわゆる2年D組の母的存在であって、彼女に悩みを打ち明ける人間も多くいるようだ。委員長と同じようなタイプだ。しかし、彼女が委員長と違うところは現実的な考え方を持っているところだった。委員長のように理想だけでものを語らない。そんな人間だったのに。彼女も現実逃避という選択に出たのか。もう皆限界なのだろうか。
「俺も、委員長さんにせんせーい。ま、俺を殺せる奴なんていねぇと思うけど。」
胡坐を掻いたまま手をふらふらと振り、委員長に賛同したのは、英本卓郎。出席番号5。
彼が嘲笑し、自慢気に発言する理由は二つある。一つ目としては、彼は根っからの温室育ちで大財閥の御曹司であった。英才教育を幼少期から叩き込まれているため、非の打ちどころがないような人間だ。しかし、甘やかされていた部分もあり少し捻くれた性格なのだ。そのせいか、友達はいない。しかし、財力にものをいわせたため手下のような友達はたくさんいるようだ。彼に逆らうと、自分の親の会社が潰される可能性もある。それに、彼は気まぐれな性格なので色々と厄介なのだ。二つ目は、彼は護身術をわきまえており、人体の急所などを心得ているのだ。もちろん、銃器や刀、弓などの武器も楽々扱える。そして、彼が手にしている武器は「M60機関銃」という防御にも攻撃にも有効な兵器だ。ペアが誰なのかは分からないが、彼はかなり有利な立場だと言えるだろう。
二人をきっかけに皆口々に、委員長に賛同していった。不機嫌だった赤島響も、賛同する。江波莉子は、赤島響が賛同するならといった風に、一緒に立ちあがった。そして、賛同していないのは、私と俊佑だけになってしまった。
「神楽さん、俊佑君。賛成してくれるよね?」
委員長が私たちの下へ来て、首を傾げる。周囲からの視線は、私たちを責めているようだ。それが最高に居心地が悪かったので私はなんとなく頷いた。続いて俊佑も、頷いた。
「じゃ、じゃあ、皆の意見がまとまったんだから、団体で行動しよっか。」
委員長が戸惑い気味にまた教壇へ戻る。教卓に寂しく一つだけ置かれていた小さなチョークを手に取り、何やら黒板に書き始めた。全員立ちあがって教卓を囲むように集まる。
「・・・っよし。こんな感じかな。」
黒板には、A、B、Cとそれぞれ線で区切られて書かれいていた。
「えっと、まずグループに分けたいと思います。ここにいるのは32人・・。で、ペアはできるだけ一緒にいたほうがいいから・・。Cグループが1ペア多くなって、でいいかな。Aグループに10人。Bグループに10人。Cグループに12人。」
委員長がA、B、Cの隣にそれぞれ人数を書いていった。
「あ、説明するね。Aグループは校舎内探索&食料庫捜索。Bグループは校舎内探索&武器庫捜索。Cグループはこの教室に残って、皆のステータス・ペア・武器を黒板に書いてくこと。&脱出方法、この腕時計の外し方を考える。ってとこかな。」
委員長が淡々と説明する。腕時計を外すことなんてできないとは思うが、そんなこと言ってしまえば、今ここにいる全員を敵に回すことになりそうだったので止めておいた。
「だから、Cグループにはできるだけ頭の良い人が来てほしいんだけど・・。あ、私は一応Cグループね。国素君が頭良いし。」
委員長が国素健也をみて微笑む。国素健也は何も言わずに頷いた。そして、委員長がキョロキョロと全員の顔を見ていく。
「後、千香ちゃんも来てほしいかな。それに、英本君も。赤島君も。あとー、神楽さんも。」
委員長が私を見る。委員長の瞳は私を捕えて離さない。しかし、私はもとよりCグループには入らないつもりだったので首を振った。
「そ、そっか。勝手に決めちゃってごめんね。・・・じゃ、じゃあ、皆黒板に名前書いて。入りたいグループのとこに。人数調整は後でするから。」
委員長は戸惑い気味に皆へと呼びかけた。そこでペア同士の話し合いが始まる。見たところによると、石田千香のペアは大谷和正。出席番号6。
そして、英本卓郎のペアは岡本優理。出席番号7。
という風なものだった。どっちのペアも喧嘩なく相談しあえているようだ。少し、江本卓郎が我儘を言っているようだが。
「ルル、どうするんだ?AかBグループってことだよな?」
周囲を観察していた私に俊佑が尋ねかける。私は我に返り、俊佑のほうへ向きなおる。
「Bグループがいい。」
校内探索となればどちらでも構わなかったが、武器庫がどのようなものかこの目で見ておきたいのだ。俊佑は、それを聞くと何も言わずに黒板へ私と俊佑の名前を書き込んでくれた。そして、皆考えがまとまったのか自由に黒板に名前を記し始める。委員長は、国素健也と何か話していた。こんな行為、意味があるのだろうか。私はずっと疑問を持っていた。そして、しばらくすると黒板前から人がはけていく。一見すると、偏らず調度良いように見えたが、委員長の思い通りにはならなかった。
「えっと・・。何でかな?」
Cグループには、比較的控え目なタイプの人間たちが集い、活発的な人間はAとBに集中していた。それは、分かっていたのだが、委員長が指名していた頭脳派の人間は一人もCグループを希望していなかったのだ。赤島響たちは、Bグループ。英本卓郎たちは、Aグループ。石田千香たちはBグループだった。
「別に、これでも構わないけど・・。うん。じゃあ、調度だし。これでいいよね。ごめんね。何か・・・。」
少し落ち込む委員長を見て、石田千香だけが困惑した表情でいた。何故彼女らは、委員長の指示に従わなかったのだろうか。改め、Bグループのメンバーを見てみた。黒板には、ペアごとに名前が記されている。
Bグループ
神楽ルル 安藤俊佑
赤島響 江波莉子
石田千香 大谷和正
そして、荻村愛花。出席番号8。
石田千香の親友で、非常に面倒見がいい。毒舌なところもあり、思ったことをそのまま口に出す活発系女子だ。しかし、人情には厚く仲間を第一に考えている。しかし、一度でも嫌いになった相手に対してはとことん毒を吐く。友好関係も幅広く、人見知りをしない。
荻村愛花のペアは、角川幸人。出席番号10。
掴みどころのよくわからない男子と言われているが、男友達からは信用されている。嘘をつくことが苦手だが、かなりの秀才だった。しかし、学力的には偏った部分がある。荻村愛花と親しい関係にあり、友達以上恋人未満とも言えるような親しさに見える。ムードメーカー的存在でもある。
次いで、もう1ペアは久世咲子。出席番号12。
本当に親しくなった相手にはとことん甘え、心を許す。家庭的で、器用な女性らしい人間。クラス内ではあまり目立った立ち位置ではないが、ノリがよいところなどから、友達は多いらしい。甘いものが大好きで、自作のスイーツを皆に配っていたりもする。
そして、彼女のペアは海里太一。出席番号9。
学力は高いほうで、卓球を得意としている。少し無邪気な面もあるが、突っ込みは少し毒舌である。語彙力があり、口喧嘩を得意としている。3兄弟の真ん中なので、あまりこれといった厄介な面は見当たらない。
というような面々であった。委員長の指示なくともグループごとに集まっていた。問題がない、ことはない。何故なら、このメンバーの中に唯一厄介な人間が混じっているからだ。私にとって最も厄介な。
「武器庫、ね。んなもん、ほんとにあんのかね。」
赤島響が溜息を吐きながら、面倒そうに呟く。すると隣にいた江波莉子が赤島響にすり寄る。
「大丈夫だってー。絶対あるよ。」
はげますような台詞ではあるが、私にとっては彼女の声のトーンがかなり耳ざわりだった。このメンバーで無事に武器庫を見つけることができるのか心配だった。赤島響は、先ほどの一件もあって、私を厳重にマークしているようだ。面倒だ。
「じゃあ、皆何かあったらすぐこの教室に戻ってくること。AグループとBグループはそれぞれリーダーを決めておいてね。いざっていうときにまとめあげる人間が必要だからね。それで、リーダー同士で相談して探索するスペースを決めてね。一応教えておくと、Cグループのリーダーは私だから。武器は皆置いていってね。」
武器を置いていかなければならないということに、私は不満を覚えた。いざっていうときに必要なのは主導者ではなく武器のような気もする。主導者は皆を守ってくれるわけではない。主導者だって自分を守るだろう。自分を守る武器がないなんて、不用心にもほどがある。
「リーダー。どうする?」
赤島響が、髪を乱し面倒そうに全員へ尋ねかける。しかし、皆顔を見合わせるだけでいて、何も発しない。すると、一人が挙手をする。
「私っ響に一票!」
予想通り江波莉子だった。江波莉子の発言に赤島響は更に機嫌を悪くさせる。
「んな面倒なことしたくねぇよ。」
皆を引っ張りたがり、目立ちたがる彼があまりにも珍しかった。赤島響の発言を最後に誰も何も発さなくなったので、静かに手を挙げた。
「・・お前がやるのか?」
赤島響が、怪訝そうに言う。そんなことお構いなしに、俊佑も手を挙げ口を開く。
「俺はルルに一票だ。」
俊佑の発言を機に、石田千花も頷く。
「私も一票入れるね。ルルちゃんなら安心かな。」
石田千花は、私を見て微笑していた。他の皆も私に票を入れてくれ、私は流されるままにリーダーとなった。嫌がっている人間も一部入るが、そんなこと私は気にしていなかった。
眠い。