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BG減殺計画 -絶望-

ちょっと雑。

蜘蛛の巣が張り巡らされた天井。所々板が抜け、歩く度に軋む床。ひびが入り、すすだらけの壁。そんな狭い空間に、皆のすすり泣く声が反響する。嗚咽と泣声が私の脳内に侵入してくる。それが頭痛を引き起こす。最悪の気分だ。私が今現在立っている場所は、部屋の中心。この部屋には、机といすがそれぞれたくさんあり、かなり大雑把に並べられている。皆は部屋の隅に集まって座っている。壁には、小さな黒板や大きな黒板があり、部屋の後方には原形を留めていない壊れたロッカー。ここは、廃れた教室だった。そして、大きく言えばここは学校。私たちの学校とは、別の学校。そして、廃校なのだ。

「・・・殺し合い・・か。」

ここへ来るまでに、私たちは多くの恐怖を味わっていた。





「腕時計型爆弾について説明する。質問は受け付けないし、一度しか言わないからよく聞いておけ。」

全員の瞳は絶望に染まっている。今にも、卒倒しそうなほど青ざめた表情のものもいる。委員長もその一人だった。私は、改め腕時計を眺めた。これが爆弾には見えない。

ただのデジタル時計。平和な日常の中ならそう思えていただろう。しかし、教官の低い声と、重々しい雰囲気から察するに、これは本物の爆弾なのだろう。

「この腕時計は、お前たちの脈を感知している。それについて、説明するとお前たちには、男女でペアを組んでもらう。」

その瞬間、全員がざわつく。周囲を見まわし、顔を合わせ頷き合うものや一切顔を上げないものもいる。私は一つ疑問を覚えた。このクラスにいる生徒は、33人。ペアを組むとするならば、一人余ってしまうのではないか?もしくは、三人組にでもなるのだろうか。

「男女でペアを組み、協力して生き延びろ。脈を感知する機能がある訳は、片方が死んだ場合にある。片方が死ぬと、腕時計がそれを感知しもう片方の腕時計が爆破する。」

全員の表情が更に青ざめる。唇が紫色に変色している者もいる。私は、呆然と教官を見つめるだけだった。どうあがいても、地獄であることに変わりはなかった。

「故に、今からお前たちにはペアを組んでもらう。条件は、男女で二人組であることだ。他に指定はない。組めたものから、前に来るように。腕時計のペア登録をしなければならないからな。さあ、自由に話していいぞ。」

教官がそういうと、皆不安げな表情で立ちあがった。

一人余る、ということについては何も言わない教官。それが、唯一の不安要因であった。もう組んでいるものもいれば、喧嘩をしているものもいる。男女と言われれば、組むことがかなり困難だ。思春期であることも加え、組める相手が限られる。普段からふさぎこんでいる者は、組めるものがいない。この状況下で、思春期どうのこうのを考える必要はないような気もする。

「ルル。」

突然背後から呼びかけられ、肩が跳ねる。ゆっくりと振り返ると、見知った人間が立っていた。

「あ、悪い。驚かせちまったな。」

苦笑して、私に気を遣う男子生徒。

私の幼馴染だった。安藤俊佑あんどうしゅんすけ。出席番号2。幼馴染といっても、昔近所に住んでいて、よく遊んでいたからそう言えるだけで、一緒にいた期間は短かった。私が引越したためだ。私が唯一信頼している人物とも言えるだろう。彼は、クラスの中でも、信頼性が高い人物で、男女ともに仲がいい。目立った特技があるわけではないが、誰に対しても分け隔てなく接する彼の誠意を、皆認めていた。

「何?」

彼がこんな場面で話しかけてくるなんて、理由は一つしかないはずなのに、何故か彼の口からその理由が聞きたかった。

「何?って、いや、分かるだろ。ペア、組もうぜ。」

こんな状況なのに、彼は私を見つめながら和やかに微笑んだ。そんな微笑に、気の抜けた私は先ほどの彼と同じように苦笑した。

「別に、私は構わないけど。貴方なら、選択肢が多いんじゃない?どうして私なんかと?」

私が、自分を貶すような言い方をしたからか、彼は少し顔をしかめた。私は、正論をいったまでだ。彼なら、大体誰に声をかけてもペア成立になるだろう。反して、私は普段から孤立していたため、相手は限られる。正直、彼が声をかけてくれて嬉しかった。こんなこと、伝えたら笑われるだろうけど。

「だって、お前が組めるのって俺くらいだろ。」

全くの正論だ。彼の正直さにも、呆れが出る。しかし、私と彼はこれで何の問題もなくペアが組めたわけだ。

「じゃあ、前行こう。」

私が彼の腕を引っ張って教壇へと進む。彼は転びそうになりながらも、何とかついてきていた。一番初めにペア登録をするのは、私と俊佑のようで全員からの注目を浴びていた。

「お前たち二人でいいんだな?」

教官が顔をしかめつつ、私たち二人の顔を交互に見る。俊佑は戸惑いつつも頷き、私も小さく頷いた。全員が、また騒ぎだす。

「よし。ペア登録を行う。名前と出席番号を名乗れ。フルネームだ。」

教官の発言に間髪いれずに私が、口を開く。

「神楽ルル。出席番号11番。」

次いで、俊佑がぎこちなく言う。

「安藤俊佑。出席番号2番。」

教官がいつの間にか、ノートパソコンを教卓に出していて手慣れた手つきで何かを打ち込んでいく。恐らく私たちの出席番号と名前だろう。どういう仕組みなのかは、分からないが、これで私と俊佑は運命共同体というようなものになったのだろう。

「登録完了だ。お前たちは少し、そこで待っておけ。」

私と俊佑は、教卓の隣で待てと指示された。私たちが、ペア登録をした瞬間に組んだペアは迷いなく、前へやってきてペア登録をし始めた。集団心理が働いたせいか、初めに登録するというのは抵抗があったようだ。

「よし、名前と出席番号を名乗れ。」

私たちの次に来たのは、委員長と副委員長だった。

副委員長は、国素健也くにもとけんや。出席番号13。

高身長で、運動神経も優れている天才。しかし、近寄りがたい雰囲気を出しているため、密かにもてている。時々見せる無邪気な笑顔に悩殺される女子生徒も少なくないようだ。委員長とは、ある程度コミュニケーションをとれているようなので、このペアになったんだろう。委員長も、国素健也を信頼しているようなので、問題のないペアだった。そして、順調に続々と皆ペア登録をしていった。ちなみに、赤島響はというと、遊びで付き合っているといっている、女子生徒。江波莉子えなみりこ出席番号4。

小柄で天然な女子。少し茶色の入った長髪は、ゆるく巻かれている。今時の女子高校生だ。裏表が激しく、女子生徒からはあまり好かれていない。赤島響に遊ばれていることを知ってか知らずか、赤島響に依存しているようだった。そのせいか、彼女は私のことを嫌っているようだ。登録をする際も、彼女は赤島響の腕にひっつき離れない。赤島響は心なしか、うんざりしているようにも見えた。そして、登録後私を横目で見てくる赤島響。話しかけられそうだったので、俊佑の後ろに隠れた。そうして、予想通りに一人余ってしまった。余ったのは、里中真一さとなかしんいちという名の男子生徒。出席番号14。凡才で、クラスの中でもあまり目立たない人間。特別嫌われてるわけでもないが、好かれているわけでもない。云わば、あまり必要のない人間だった。特別なスキルも何もない、平凡な男子生徒。余ってしまった羞恥心に耐えられないのか、肩を縮こまらせ俯いていた。全員が全員、彼を見て嘲笑している。こんな状況でも、人間の醜い面は全面的に押し出されるようで、私は吐き気を催した。俊佑は、何も言わずに私の状態に逸早く気づき、背をさすってくれた。

「どうやら、お前が一人余ってしまったようだな。」

教官が、里中の前に立つ。里中は、表情を曇らせ怯えている。無理もないだろう。依然、教官は銃器を持ったままなのだから。

「ま、待ってください!何をするつもりなのでしょうか?」

担任が、口を挟む。突然口を開いたので、里中や教官も皆驚いている。担任のあせった表情が、里中を更に不安にさせている。

「・・勝手な発言は許さん!」

教官が、担任に怒鳴りつける。担任は、涙目になって悔しそうに下唇を噛み締めた。そのとき、私には聞こえた。担任の呟きが。

「ごめんな、里中・・。助けてやれなくて・・。」

その呟きは、涙声で絞り出したかのように苦し気だった。その時、担任は静かに涙を流していた。

「お前には、見せしめになってもらおう。」

教官が不気味に笑う。里中は、恐怖の表情で後退り、口を開いた。

「い、嫌だ。死にたくない!死にたくないッ!来るなっ来るなあぁぁぁっ!」

死を察しているのか、彼はそう叫んだ。教官が、右手を上げる。その瞬間、壁沿いに立っていた自衛隊員らは、銃器を構え銃口を里中へと向けた。

「見せしめ・・・って、まさか・・。」

俊佑が、青ざめた表情で呟く。私も、察してしまった。

見せしめというのは-

「来世でよい人生を歩むが良い。静かに眠れ。里中真一。」

そう言って教官は、右手を真っ直ぐに里中へと向けた。

「い、いやだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ-

パアンッパアンッパアンッ

里中の叫びは、無数の発砲音でかき消され、いつしか聞こえなくなってしまった。鼓膜が破れるのではないかと思えるほどの、発砲音。心臓が締め付けられる。担任は、口を大きく開けたまま、大粒の涙を流していた。

「止め。」

教官が、右手を下すと発砲音は一瞬で聞こえなくなった。

「あ・・うあ・・あ・・。」

誰かの嗚咽が聞こえる。嘔吐している音も。泣声も。様々な音が、部屋に反響している。発砲音の後の沈黙は、全員の涙で埋め尽くされた。里中はどうなってしまったのだろうか。徐に視線を向けると-

「うあああああああっさ・・里中っ」

誰かが叫んだ。里中は、もはや人間の形を留めていなかった。肉塊。肉の塊と呼ぶのが正しいだろう。血肉の塊がそこにあった。床に広がる血だまり。血の匂い。生温かい風。頭の中が真っ白になった。五感がそれを感じることを拒否している。目を閉じても、匂いがする。泣声が聞こえる。里中の死は、私たち全員に死の恐怖を、殺しの恐怖を植え付けるための見せしめだったのだろう。俊佑が、目を閉じ口を押さえる。私は、倒れそうになる俊佑を支えて、何とか立っていた。クラスメイトの過半数はうずくまり、吐いている。泣いている。そんな私たちにも容赦なく、教官は指示を出す。

「次にお前たちに、殺し合いの武器を与えよう。素手では、時間がかかってしまうからな。武器はくじ引きだ。使用する武器によって、生き残れる確率も変わるからな。気をつけろ。それと、他人の武器を使用することも、腕時計型爆弾は爆破するようになっている。ペア同士ならば交換可能だ。同じ型の武器でも、他人と交換すれば爆死だ。しっかりと、ルールを守るように。」

里中の死をまるで、何もなかったかのようにする教官。私はもう、教官を人間とは認識していなかった。化けものだ。逆らえば、殺される。それも惨たらしい殺し方で。私は、教官の思い通りに恐怖心を植え付けられていた。

「ではまず、初めにペア登録をした神楽ルルと安藤俊佑。お前たちから、くじをひけ。お前たちはペア登録順に、並べ。」

全員、まだ回復していないようでペア同士支え合いながら並んだ。一人も並ばないということはなかった。これも、里中の死の影響か。

「じゃあ、俊佑。私から引くね。」

俊佑に尋ねかけると、俊佑は何も言わず口を押さえたまま小さくうなずいた。どうやら、吐き気がするようで随分と気分が悪そうだった。先ほどまで、こんな状況でも平静を保っていた彼も、こんな事態には対処しきれていないようだった。

「・・・。」

教卓の上に、上に穴があいている箱が置いてある。

このくじで、運命が変わる。緊張感が私の動作を制限する。できれば、飛び道具でありたい。そう願って、全員の注目を浴びる中私は目をつぶってくじを引いた。小さく折りたたまれた白い紙。これを開けば、私の武器が決まる。後戻りはできない。私は意を決して、紙を開いた。

「・・・あ・・。」

どうやら神は私の味方をしてくれたようだ。白い紙に書かれた文字は、確かに「ワルサーPPK」と書かれている。教官は、強引に私の手からそれを奪い取ると、自衛隊員に紙を渡し、ワルサーPPKを持ってこさせた。それを私に手渡すと、同時に黄ばんだ冊子のようなものを渡された。見ると、一部英語で書かれている銃器の使用説明だった。

「次。さっさと引け。」

教官が、俊佑に指示をする。慌てて、俊佑は箱に手を入れる。後は、俊佑がどんな武器を使用するかによる。死ぬか生きるかは、このくじによって決められるのだ。見えないラインが見えてくる。生死の分かれ目。私は、また神頼みをした。

「・・・っまじかよ・・・。」

紙を開いた俊佑の表情が曇る。教官がまた紙を奪い取ると、自衛隊員に「刀」を持ってこさせた。私が見るに、あの刀はヨーロッパの片刃の刀「サーベル」と呼ばれるのものだ。初めて生でお目にかかる。俊佑は、サーベルを受け取ると申し訳なさそうな表情で私の下へと来る。全員がざわついている。これで、私と俊佑の死の確率は高まってしまった。

「悪い・・。ルル。俺・・。」

落ち込んでいる俊佑。正直言って、私も運がないとは思った。しかし、ペアになった以上、仕方がないことだ。

「サーベルは、湾曲しているから斬ることに適している。繊細な動きもできるし、それに大きめのサイズなのが幸い。サーベルはサーベルでも、サイズは様々だから。俊佑はまだ、運が良いほう。大丈夫。」

できるだけ、俊佑の気分を落ち込ませないようにする。初めから、これでは生き残れるものも生き残れない。ペアがどちらとも飛び道具を持っていれば、そのペアはかなり有利になる。これは確実だ。

「ルル・・。そう、か。そうだよな。・・要は気の持ち次第だな。足引っ張っちまうかもしれねぇけど、よろしく頼むわ。」

まだ少し元気がないように思えるけど、彼に私の思いは通じたようだ。生きるためには、強いメンタルも必要だ。ここでくじけていてはどうにもならない。

「まじかよ・・。」

隣で、別の人間の声が聞こえた。国素だ。手には、「コルトM1900」が握られている。国素も幸運ながら、自動拳銃であった。しかし、それに反し浮かない表情。ペアである委員長の武器のためだった。委員長自身も青ざめた表情。委員長の手に握られている物は、「サバイバルナイフ」だった。正に、戦闘において最も不利であろう短刀。委員長はそれを所持していた。フォローの仕様がないと思っているのか、国素に謝ることもせず、ただただ黙りこくっていた。運命の境界線が、ここで引かれてしまう。残酷なゲームだ。少なくとも、国素、南田ペアと対戦すれば、勝つ確率は十分にあるだろう。そんな想像をしていた。

そして、順番にくじを引いていき全員武器を持った状態になった。皆が皆、幸運というわけでもなく、絶望に打ちひしがれている者もいた。まだ、決まっていない。抗えば、どんな武器でも生き残れる。私はそう信じていた。

「殺し合いに制限時間はない。食料は、5日間程度の量を置いてある。生き残りは1ペアのみ。1ペア生き残るまで、殺し合いを終わらせることはできない。腕時計型爆弾があるため、全員全滅もありえる。全員全滅すれば、ここにいる担任の命はないと思え。」

教官の発言に全員、素早く反応し担任へと視線を向ける。担任はもはや生きているとは思えないほど、この短時間でやつれていた。教え子を目の前で殺されたのだから、当り前だろう。初めの担任の発言は、これを意味していたのだろう。助けてほしい、と。私たちを助けたいが、犯行すれば自分が殺されてしまう。苦渋の決断だったのだろう。私は、担任に同情した。

「まず初めに言っておくが、これはお前たちの能力を試すために行うのではない。ただ、量を減らすためだけに行われるものだということを、承知しておくように。」

教官は、ドスの利いた低い声で、私たちを睨みつけた。つまり、単純に殺し合えということか。生き残っても無事でいられる気はしない。

「では、場所を移動する。尚、脱走したものや腕時計を強引に外した者は、即刻抹殺するため、注意するように。食料庫と武器庫がそれぞれあるため、自分たちの力で探せ。いいな?」

そう言うと、教官は里中を殺したときと同じように右手を挙げた。その瞬間、一斉に自衛隊員が動き、黒い布を私たちの目に巻きつけた。

「な、なにっ!?いやあぁぁっ」

女子生徒の悲痛な叫び声。それに呼応して、他の生徒も叫び声を上げる。私にも黒い布が巻かれたようで、目の前が真っ暗になった。どうやら、目隠しをされているようだ。そして次いで、体が持ち上げられる。恐らく担ぎあげられているのだろう。体格から察するに自衛隊員。一人一人担ぎあげられているのだろうか。そうして、移動していく。皆はどうなっているのだろうか。視覚情報がないだけで、これ程までに恐怖を感じるとは思わなかった。聴覚が敏感になり、皆のすすり泣きが聞こえる。今日私の耳へ入ってくる音は、泣声ばかりだ。しばらくして車のエンジン音が聞こえてきた。そして、乱暴に投げられる。目隠しが取れてしまい、やっと周囲が見える。察するに、トラックの荷台だろう。外の景色は全く見えず、灯りもない。腕に鈍い痛みを感じる。乱暴に投げられたため、右腕を強打したようだ。武器は、取り上げられ今はない。どうやら、このトラックで運ばれていくようだ。

「っいってぇ・・。」

誰かのうめき声。既に一人が乗っていたようだ。

「誰?」

私の問いに答える人間はただ一人だった。それも、見知った声。

「・・ルルか。お前と同じ荷台に積まれてるなんて、光栄だな。」

表情は見えないけれども、嫌味たらしい笑みをうんでいることがわかる。赤島響だ。最も、二人きりになりたくない相手だ。

どうやら、この荷台に積まれているのは赤島響と私だけだった。何故か、ペアとは引き離されている。暗闇で何も見えない。手さぐりで赤島響は私を探しているようだ。私は、気配を察知して後ずさる。こんな状況でも、彼の憎たらしい性格は変わらないようだ。

「何だよ。逃げんじゃねぇよ。」

右腕を掴まれる。彼の握力は強く、私の抗う力は無に等しい。

「離して。」

こう言っても離してくれないのが彼の性格。そのまま腕を強引に引っ張られ、私は彼の胸に飛び込む形になった。そして、流れのままに抱きしめられ、離さない。

「離すかよ。怖いんだろ?俺が守ってやるから、安心しろ。」

珍しく、優しく囁く赤島に私は困惑した。と同時に不気味に思えた。守る?殺し合いの中で?ペア以外の人間を守る?彼は何を言っているんだろうか。そんなことできるはずがないのに。しかし、彼の抱擁は妙な安心感があり、本当に私を癒してくれているかのような感覚に陥った。そのため、私は抵抗をやめた。無意味な動作だと感じたからだ。決して、彼に心を許したわけではない。トラックの走行音と、彼の息遣いが聞こえる。トラックの揺れは激しかったが、私はその揺れが何故か心地よく感じてしまい、そのまま目を閉じた。


暇つぶし。

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