日常パレット
スーパー紅葉です!
コラボ小説今回は短編?です。
紫陽花が咲き誇る通学路。
雨上がりのその道を
千崎黄色は歩いていた。
長かった梅雨もようやく終わり
彼女の足取りも軽い。
足元の水たまりを避けながら
上機嫌で学校へと向かっていると
「きーいろー!」
不意に後方から、聞き慣れた声が呼び止めた。
黄色が振り返ると、そこでは
幼馴染である
焔赤が、ぶんぶんと手を振っている。
その隣には同じく幼馴染の
時雨青も、呆れたように立っていた。
二人の少年を見た途端
黄色の表情に笑顔が溢れる。
「赤、青、!おはよー」
「ん、おはよ」
「おはよう、黄色!」
ーーいつもの光景。
これこそまさに、彼女達の
『日常』だ。
時は過ぎて、昼休み。
屋上に集合した三人は、いつも通り
一緒にお弁当を食べている。
「ねー、展開早くない?四時間分の授業どこにいったんだよ」
「短編だから文字数増えると大変なんだよ。作者の技量のせいで。
だからメタ発言はやめてやれ」
「裏事情まで暴露しちゃったねぇ」
……三人とも、不用意なメタ発言はやめましょう。
とにかく
穏やかな空気が、辺りには流れていた。
「にしても、いい天気だねー」
「だな。梅雨も終わり、か」
「そろそろ再開しよっか!
『正義の味方ごっこ』」
そんな空気を破って
元気よく、赤が言う。
それは再開の合図だった。
平凡な彼女達の
非凡な放課後の始まり。
黄色と青は一瞬だけ顔を見合わせ
すぐに賛同した。
「いいね、今日から始めよっか!」
「別に。いいよ」
三人に反対する人は
否、反対出来る人は
誰一人いない。
二人の返事に、赤は満足げに笑い
高らかに宣言する。
「んじゃ、今日の放課後から再開ー!」
ーーごく一部の人間にとっては、死刑宣告にも等しいその言葉を。
そして
運命の放課後が、やってきた。
黄色達と同じ、学校帰りの学生や
晩ご飯の材料を買いにきた主婦などで賑わう街中を、ゆっくりと三人は進む。
彼女達は、とある人間達を探しているのだ。
一般的に、不良と呼ばれる人間達を。
「そういえば、聞いてなかったけど……
不良がどこに居るか知ってるの?赤」
「え?知らないよ?」
さらりと答えた赤に、青がため息交じりに言う。
「当てずっぽうかよ……」
「うん、歩いてればすれ違うかなーって!」
「そんな大量発生してなくないか?不良」
あくまで前向きな返事をする赤。
抑揚の無い声でツッコミを入れる青。
黄色は一歩後ろから二人を眺めて、くすりと笑った。
ーー相変わらず、仲良いなぁ。
心の中で呟き、彼女はなんとなく
青の肩に手を回す。
一瞬の沈黙。
そして、彼女はまたしても『なんとなく』
青を思いっきり抱きしめた。
赤を含む、周りにいた人々の視線が一斉に
青や黄色へと突き刺さる。
「え、あ、え?黄色?」
状況を理解し焦り出す青とは反対に
大して気にしていないのか、黄色はさらに青を捕まえている両腕へ力を込めた。
「仲間外れはんたーい。私も入れてよー」
「は、はぁ?なに言って、」
「えー?じゃあ俺もー!」
「はぁぁ!?」
「うんっ、赤ー!」
便乗した赤までもが、青や黄色に抱きつくと
三人を見る人々の視線が増す。
もしかしたら、黄色や赤は
こんな風に
青をからかいたかっただけなのかもしれない。
「……離れろ、歩きずらい」
「いーじゃん別にー俺達の仲だろー」
「そうよ。いいじゃない別に見せつければ」
無駄にキリっとした表情で二人は言い切った。
そう言われると青はため息をついてそのまま歩き出した。
軽く引きずられながらも二人は楽しそうに笑っていた。
「素直じゃないなー青も」
「「ねー」」
無言で歩いている青の顔は
少し赤くなっていた。
そんな三人を見ていた周りの人々は
微笑ましそうに見守っていた。
しばらくして、
「見つかんないなー……」
「この前狩りすぎちゃったのかな?」
「そうかもしれないな」
この前はすこーーしイライラしてたから
集団一個まるまる潰したのが
駄目だったのかなぁ……なんて。
「そろそろ暗くなってきたな」
ポツリと青が呟いた。
空を見上げてみると夕日が
少しずつ沈み始めていた。
あと十分もすれば一番星が見えるかもしれない。
「うわー、もうそんな時間かー」
「どうするの赤?」
「んー……」
さすがに暗くなってから家に帰るのは不味い。
両親に怒られてしまう。
まぁ、風紀委員の仕事が多くて遅くなったって言えばいいんだろうけど。
「今日はあきらめるか」
しょんぼりした様子で赤は歩き出した。
元気だった子犬が構ってもらえなくて
拗ねてしまった姿が重なって見えた。
「肉まんでも買って帰るか」
「!おうっ!俺ピザまんな!!」
「じゃあ、私はチョコまんー」
青の一言で赤はすっかり立ち直っていた。
うん、ほんとに犬みたい。
思わずそう思ってしまった私は悪くない!!
あの後本当に中華まんを買いに行って
今、赤と青は会計をしている。
先に会計を済ませた黄色は、一人
店の壁に凭れていた。
手には、出来たてのチョコまん。
久しぶりに三人で遊べて
彼女は間違いなく楽しんでいた。
と、そんなとき
「そこのキレーなおねーさんー」
「ちょっと俺らと遊んでくんない?」
耳やら鼻やら、顔中にピアスの穴を開けた男と
金髪モヒカンの男の
二人組が、彼女を取り囲んだ。
どちらも黄色より歳上だろう。
高校三年生……もしかしたらそれ以上かもしれない。
ニヤニヤと浮かべられた笑みに、黄色は少しだけ眉を寄せたが
すぐに作り笑いをして。
「ごめんなさい、友達と来てるので」
出来るだけ柔らかい口調で、それでいて
はっきりと断った。
だけれど、二人組は引かない。
さらには金髪モヒカンが
黄色の二の腕を掴んで引き寄せた。
「、ちょっ」
「いいじゃん、楽しませてあげるからさー」
「ね、俺らのアジトがこの先の空き倉庫にあんだよ。仲間もいっぱいいるからさ、みんなで遊ぼーぜー」
あまりにも強引な誘いに
文句を言おうと、黄色が口を開く。
『やめて下さい』と言いかけた
その時ーーーー
「ふーん、この先の空き倉庫にあるんだ?
わざわざ教えてくれてありがとー!」
「……その前に言うことあるだろ」
「え?あー……
女の子相手に無理やりは感心しないよ
とか?」
ぽん、と金髪モヒカンの肩に乗せられた手。
反射的に振り返った金髪モヒカンが目にしたのは
いつの間にか気絶させられていた自分の仲間と
中華まんの袋を二人分抱えた青
そして、嬉しそうに微笑む赤の姿だった。
「赤っ、青っ!」
黄色が名を呼ぶのと同時に
金髪モヒカンの顔が青ざめていく。
「な……!」
「それじゃ、お休みー!」
言うが早いか、赤は肩に乗せた右手を動かし
背後から金髪モヒカンを殴り飛ばした。
店の前に置かれたゴミ箱に激突した金髪モヒカンは、地面に転がり気を失っている。
「さあて、やっと見つかったことだし
帰る前に一仕事していこうか!」
元気良く拳を掲げる赤。
いよいよ、三人が待ち望んだ狩りの時間が始まるのだ。
ーーーーだが、まずは。
「赤、ほらピザまん。冷める前に食べないと」
「あー、忘れてたー!」
「食べてからにしよっか」
中華まんを食べなくては。
「やっぱりロー○ンのピザまんはいいな!」
「チョコまんだって負けてない!」
「……二人とも、もうすぐアジトに着くぞ」
のーんびりとした雰囲気で
三人はアジトに向かっていた。
本当に気軽に友人の家にでも遊びに行くのかって位のんびりしている。
これも一部の人達から見れば仲がいいなー、
としか思わないだろう。
もう一部の人達、
不良と呼ばれる人間からしてみれば
それは死刑を言い渡されたくらい、生きた心地がしない。
「今回はどれくらいいるのかなー?」
「結構いる」
「青が言うなら間違いないね」
そう、青は何故かなんとなくだけど
直感的にわかるらしい。
人間が持っている第六感ってやつなのかな?
「よし、なら今回も暴れるぞー!!」
「おー!!」
「…………」
「ほら青も!!」
一人どこか遠くを見つめている青を
赤は無理やり手を掴んで、
「暴れるぞー!!!」
「「おー!!(おー…)」」
なんだかんだ言っても青は結局付き合ってくれる。
少しやる気は無いけど、……。
今回は後片付け大変そう。
「まぁ、会長に任せればいいかな……」
「?どうした黄色、」
青がきょとんとした顔でこっちを見ていた。
「ううん、なんでもない」
会長ってお人好しだから
頼めば文句言いながらも手伝ってくれるし、丁度いいんだよね。
「青ー、会長って不憫だよねー」
「どうしたんだいきなり?」
「んーとねー、好きな人に
都合のいいやつってしか思われてないんだよー」
「ああ、そういうことか」
そんな会話が黄色のすぐ近くでされていた。
「今回はどうやって頼もうかな」
本人は全く気づいてなかった。
気づかないほうがいいのかもしれないが。
「と、ここかな?
あいつらが言ってたアジトって」
そこにはいかにもという雰囲気を出している
今は使われていないだろう古びた倉庫があった。
「ここ前にも来たことあるよね」
「あーそういうことかー」
うわーとか言いながら赤はしゃがみ込んだ
確かに一度使われた場所にはほとんど行かない、
ならあえてその場所を使えば見つかる確立は低い。
「少しは頭がいいやつでもいるのかもな」
「青それ褒めてるように聞こえない」
「そうか?」
本人達の前で言ったら切れそうなことを
うん、と頷きながら言う青はやっぱりどこか抜けている。
このせいで被害が広まるのはきっと気づいてないんだろう。
「うー……、よし!気を取り直して
『正義の味方ごっこ』始めようか!」
がたんと、何かが壊れる音が倉庫に響いた。騒がしかった話し声が一瞬にして聞こえなくなる。
「おい、」
静寂を破った声の持ち主は
このグループをまとめているボス、
坊主頭で紺に近い黒のサングラスをかけている。
こんな人に睨まれたのなら普通の人ならきっと
恐怖で動けなくなるだろう。
「お前ら……俺が居ない間に、随分弱くなったみてぇだなぁ?
たった三人に手も足も出なかったらしいじゃねぇか」
びくり、と何人かのメンバーが体を震わせる。
張り詰めるような緊張感が、彼らの周りに満ちた。
ボスの男は淡々と続ける。
「この業界で、『ナメられる』っつーことがどういうことか、知らねーわけじゃねぇよなぁあ?」
そう言って、苛立たしげに
ボスの男が、近くにあったアルミ缶を力強く蹴り上げた
ーーーーその瞬間。
鈍い音と共に、倉庫の扉が開く。
全員が扉の方を振り向くと
空き切る前の扉の、僅かな間から
見張りとして外にいたメンバーが投げ込まれた。
それと同時に、凛とした声が倉庫内に反響する。
「おっ邪魔っしまーす!」
「……風紀委員会だ。秩序を乱した者として、お前らを粛清しに来た」
「あ、でもおとなしく投降とかしないで下さいね?無抵抗の人間殴ると、流石に面倒なことになりかねないんでー」
「何だてめえら!ここがどこだかわかって、」
一番扉の近くに居たメンバーが
青の胸倉に向かって手を伸ばした。
が、その手は無残にも空振り
青が持っていたトンファーでの一撃によって、彼もまた殴り飛ばされる。
途端に、メンバー達の警戒と殺気が膨らんだ。
ボスの男に向かって、赤は告げる。
「それでは、風紀を執行しまーす!」
「っざけんなあああ!!」
明らかな挑発。
彼らの内の何人かも、そんなことには気付いていただろう。
気付いていたが故に、挑発に乗ったのだ。
先ほどボスの男が言っていたような
『ナメられる訳にはいかない』という
安いプライドを守るために。
だが、その選択はあまりにも愚かだった。
なぜなら、三人を相手にした彼らに
ーー勝ち目なんてなかったのだから。
どんな勝負においても、強者が必ず勝つという定理は成立しない。
『番狂わせ』ーー弱者がなんらかの理由で
強者に勝利することだってある。
それは当然のことであり
当たり前なことだ。
けれど、今回の戦闘において
『番狂わせ』など起こるはずがなかった。
「あれー?もう終わり?」
ひゅんっと赤が木刀を振って
刀身についた帰り血を払う。
その足元には、ことごとく叩きのめされた男達が転がっていた。
無論、誰一人死んではいないが。
「なんというか……、弱いな」
赤から少し離れた所で暴れていた青も
今は一旦動きを止めて
倉庫内を見渡し、呟く。
無自覚に吐かれた辛辣な言葉にさえ
反論出来る者はいなかった。
喧嘩や粛清というより
もはや虐殺に近い実力差。
それでも三人は、正義の味方でなければならない。
だから、赤と青が相手を圧倒している間
黄色は懸命にーーーー
「こっちに指紋をつけて、っと……
あぁ、現場写真も必要なんだっけ」
証拠を捏造していた。
……正義の味方のすることではない気がするが、今に始まったことではないので触れないでおこう。
「二人共ー、こっちは終わったよー。
そっちはどう?」
「うん、終わったよー」
赤は若干不満そうな顔をしながら
青と一緒に戻ってきた。
「赤ずいぶん不機嫌だね」
「だってさー、弱すぎなんだよー?」
ぷくーっと頬を膨らませて
青にあたり始めた。
まぁ、確かに今回の不良は弱かったけどね。
証拠集めるの楽だったし。
「おい、俺にあたるな」
「やだよー、だってまだ物足りないー!」
「……明日手合わせする」
ため息をつきながらも青は
赤の機嫌を直すためにこう言った。
実際、青くらいしか赤と対等に
やり合う人を見たことがない。
それは青にも言えることだけど。
「やった!」
「二人ともーそろそろ帰るよー!」
「はーい!」
「わかった」
この二人と一緒にいると
本当におもしろいなぁ…
「どうした?」
「きーいろー、置いてくぞー?」
少し離れたところで二人が
不思議そうな顔をしながら待っていた。
「あ、待ってよ!」
置いていくと言っても
待ってくれている二人がやっぱり好きだなー…なんて。
「何一人でニヤニヤしてんだよー」
「えー?してないよー」
だた、三人でいるの時間が楽しいって思ってる、
二人には言わないけどね。
すっかり日がくれてしまった帰り道を
三人で歩いていく。
「あー、これは怒られる」
「まぁ、仕方ないんじゃないの?」
「お前が一番はしゃいでたしな」
「二人とも酷い!」
話しているうちに
自分達の家が見えてきた。
「それじゃあ、また明日ね!」
「うん、また明日ー!」
「おう、また明日」
お互いに軽く手を振って、別々の方向へ。
あぁ、明日は生徒会長に怒られるかな。
特に怖くはないけどね。
その前に、親への言い訳考えなきゃ。
私は明日も続く、色鮮やかな日常に思いを馳せながら
玄関のドアを開けた。
「ただいまー」
翌日、放課後。
駆け足気味で、渡り廊下を抜ける。
向かう先は
今はめったに使われない旧校舎で
たった一つだけ
毎日のように使われている教室。
『第二講義室』
人呼んで、風紀委員室だ。
「赤ー、青ー!」
ガラガラと勢いよくドアを開けて、私は室内に足を踏み入れる。
すると、そこには
いつものメンバーである赤と青の他に
こめかみを押さえた生徒会長ーー
黒嶋 誠君がいた。
「あ、黄色だ」
「え、?き、黄色さん!?」
「……さんって」
三者三様の反応に思わず苦笑が漏れる。
というか、なんで会長がいるんだろう。
昨日のもうばれたとか?
「ばれちゃったんだよねぇ。
相変わらず地獄耳ですねー、会長」
「君たちが派手にやり過ぎなんだよ……
いくらなんでも
倉庫ごと壊滅させる必要はなくないか?
倉庫の所有者から苦情がきてたよ、『なんで一晩で半壊してるんだ』って」
「全壊にすれば良かった?」
「赤、それはもっと駄目だろ」
にっこりと無邪気な笑みで言う赤に
真面目な顔で青がツッコミを入れて。
黒嶋会長は深いため息をこぼした。
そして、私は笑う。
ありきたりの、でも普通とは少し違った
カラフルな『日常』に。
「会長、いつも後始末ありがとうございますー。
今回もよろしくお願いしますね!」
「へ、?あ、の、別に大したことは……じゃなくて!」
「会長顔赤いよ、だいじょーぶ?」
「指摘してやるな、恋愛経験薄いんだから」
「言いたい放題だな!?」
私と赤と青、時々会長。
今日も元気に、正義のヒーローごっこを始めよう。
多少の損害は、気にしない方向で……(笑)
イラストも描いてみました!良ければ見てやってください。
http://7773.mitemin.net/i73608/