第3話:キャンパスライフ
朝。
目覚めを促すように小鳥の囀りが響き、
カーテンの隙間から朝日が差し込み、俺の顔を照らす。
清々しい。
いつもならそう思えるんだけど…。
「孝宏さ〜ん。朝ですよ〜?」
こいつのせいで俺の平々凡々とした日常が非日常に変わってしまった…。
こいつはソフィアと言う昨日脅迫気味に(と言うか、完全に脅迫だけど…)
居候になった変人女だ。
自称魔法使いらしいが、冗談はその髪の毛ぐらいにして欲しいものだ。
「今日の講義は昼からだ。まだ時間があるから寝る」
ジャキッ
「ぐだぐだ言わずに起きましょう。講義とやらに行く前に死んじゃいますよ?」
「分かった!分かったからガトリングを向けないで!」
まったく…。こいつと一緒だと命がいくつあっても足りないよ。
「朝ごはん作ったので食べてくださいね〜」
朝飯…。これがか?
ちなみにメニューは
味噌汁にご飯。
ここまではいい。日本人のスタンダードな食事だ。
問題なのは、<肉厚のステーキ>。
重い。重すぎる。
「ごめんけど、ちょっと――」
「たーんと召し上がれ♪」
俺は再びガトリングを突きつけられながら朝飯を完食した。
い、胃が凭れる…。
それにしても…。
「何で銃器なんか持ってるんだ?それにここじゃ銃刀法違反で捕まるぞ?」
「心配御無用!捕まえる前に殲滅しますので♪それにこれがあった方が魔力を使わずに済みますし」
とソフィアは持っていたガトリングを頬擦りしている。
…普通に怖いよ。あんた。
「あ、そうそう。言い忘れてたけど、こっちでは魔法を使わないように!」
「え〜?何でですかぁ?」
「あたりまえでしょう!魔法なんてクレイジーなモノが有るなんて知れたら、研究所に送られてあ〜んなことやこ〜んなことをされちゃうぞ!?」
やらしい手つきでソフィアに迫る。
「エッチなのはいけないと思います!!」
「はい。すいません。私が悪ぅございました。
だからガトリングを寸止めで回すの止めてくれますか?」
…一応、分かってくれたみたいだ。
昼。
俺はキャンパス内にいた。
大学は光学系の大学で俺はソフトウェア学科を選考している。
ソフィアはというと、家で待機するように命を賭けて懇願した。
あいつがいると何をしでかすか分からないからな…。
「今日の講義どうだったよ?」
俺の友人、正人が話しかけてきた。
襟足は長めの茶髪男だ。
女の子にはそこそこ人気があるらしく、よく話し掛けられているのを見かける。
「あ〜、ダメだね。殆どが講師の自慢話になってた」
「だろうね〜。あのハゲチャビンの講義はいつも自分の武勇伝になっちまうからね」
「ドブ川すくってドリンクバーとか言ってた」
「オリ○ジのネタじゃん」
そんな他愛の無い話をしていると女の子が近づいてきた。
「あ…あの…」
黒のセミロングを両端で束ねている。
眼は少し垂れ下がりのどこにでもいる普通の女の子だ。
少し控えめな態度は俺の好みだけど、こういう状況の場合、正人目当てだろう。
「ん〜?どうしたの?」
と、いつもの様に正人が対応する。
「あ、いえ。そちらの方にお話が…」
「え?俺?」
意外だった。
正人もそんな顔をしている。
自慢じゃないけど、この大学にに来て話し掛けられたのは正人以来初めてだ。
「あ、あの…これ読んでください!」
女の子から四つ折にされた一枚の紙切れを渡された。
こ、これってまさか!
女の子は顔を赤らめながら走って俺達から離れていった。
「おいおい!これってラブレターじゃね!?」
「か、かもね」
すこし緊張気味に四つ折にされた紙を開く。
『開いてます!』
紙にはそう一言だけ書いてあった。
何の事?
「お、おい…」
正人がおずおずと話しかける。
「何?」
「『開いている』ぞ」
「何が?」
「…社会の窓。しかも全開」
「な、何ぃ!?うわホントだよ!!」
慌てて閉める。
俺、恥っ…。
少し精神的にグロッキーになっていると聴き慣れた声が聞えた。
「孝宏さーん!お弁当忘れてますよ〜?」
…来やがったか。規格外女め…。家で待ってろって言ったはずなのに。
わざと置いていった弁当を持ってきやがって…。
でも、わざと忘れたなんか言ったらたぶんガトリングを蜂の巣にされるんだろうな…。
「ゴメンゴメン!あり――」
後ろを振り向いた俺は目を疑った。
エプロンを着、三角巾を着けたソフィアは掃除機に乗って
フワフワと上空からやって来たからだ。
「掃除機に乗ってフワフワ来るんじゃねーよ!普通、箒とかだろうが!
ってか、魔法使うなって言ったろーが!」
「お、おい。ヒロ…この人…誰?」
正人が隣にいる事を思い出した!
正人はというと、わなわなと肩を震わせている。
や、やべぇ…。
「ま、マサ。これは何と言うか…。その…」
「可愛い…」
「さ、最近掃除機で空飛ぶのがブームなんだよ!……って。え?」
…コイツの目ん玉は腐れ外道ですか?
「落ち着けマサ!よく見ろコイツのどこが可愛いんだ!?髪ピンクだぞ?掃除機で浮いてるんだぞ?」
「それでも俺は構わない!お嬢さん俺と付き合って!」
「話し掛けるな。下郎が」
ひ、ひでぇ…。
マサの奴、凄んごく凹んでるし…。
「あ、孝宏さん。はいお弁当!今度忘れたら…(ジャキッ)…ね♪」
「は、はい!有り難く食べさせて頂きますでございます!!」
怖ええよ…。
「お、お前も災難だな…」
「分かってくれるか…。我が友よ…」
居候が来て二日目にして俺は居候に全ての実権を奪われました…。
「ところで、弁当って何が入ってるんだ?」
「飯と、……味噌汁と肉厚のステーキ…」