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そのご、

 本当に、遅くなりました…

 内容を忘れた方もいるのではないかと思います。続けて見てくださっていた方、本当に申し訳ないです。。


 彼サイドの話です。

 けっこう天然でおまぬけさんかと。

 

 僕と彼女は、いわゆる幼馴染ってやつだ。

 

 彼女は一言で言うと、バカ。

 というか、頭がゆるく、要領が悪く、おまけに運も悪い。

 あと頭同様表情筋もゆるいのか、怒られても嫌味を言われてもへらへらへらへらしている。

 そして実はどネガティブな人間で、実は泣き虫で、実は頑固で意地っ張りだ。

 なんて不器用なんだろうと僕は常々思ってきた。イライラもした。そんなんだから、僕のような人間に良いように使われるんだよ、と。

 全部ひっくるめて、バカ、だ。

 そう彼女に言い放っても、彼女は何も言わない。頬を染めて、ただ嬉しそうにへらへらと笑う。

 

 ……彼女は、僕に恋心を抱いている。

 

 確かめてみたことはないけれど、自惚れじゃない。彼女は分かりやすすぎるのだ。

 僕がどんなヒドイことを言っても(自覚はある)僕の後ろについてまわるのをやめようとしないし、進んで僕の為になるだろうことは勝手に何でもするし、僕の理不尽な命令にもなんだかんだ言いながら結局は従うし、それが10年以上も続けば、誰でも気付く。

 気付いていないと信じているあの子は本当にバカ。そんなところが、面白いんだけど。基本へらへら、でも長く一緒にいる僕には、いろんな表情を見せる。ちょっといじめてやると、絶対泣かなくて、その代わり泣く寸前の顔を僕に見せるんだけど、それが結構かわいい。


 彼女が僕のことを好きで好きでたまらないらしいのは、幼稚園の頃から気付いていたが、放っておいた。わざと突然彼女に優しくしたりして、彼女がテンパるのをにやにやしてからかった。


 異変に気付いたのは小学5年の時。彼女が妙にそわそわし始めた。どうやら彼女はようやく僕への恋心を自覚したらしい。

 僕が話しかけると、びやっっと変な奇声を上げ、トマトもびっくりなくらい顔を真っ赤にして、それが恥ずかしくてたまらないのか、僕から人二人分くらいの位置に逃げたり、物陰に隠れたり。

 ……正直、面白くなかったし、ムカついた。

 他のヤツとは普通にしゃべるくせに、なんなの。

 あんたは、他の女子とは違うだろう?

 ずっとこのまま僕だけに挙動不審な彼女の姿を見るのは気分が悪いし、何よりとってもつまらない。裏切られた気分だった。

 

 だから、決めた。彼女の恋心に、これからも絶対に気付いた素振りを見せないと。

 いつかは彼女もあきらめるだろう。そうすればきっと、今までの僕らに戻れるはずだ。

 僕は、一緒にいて楽しくて、おもしろい彼女を気に入っているのだ。


 さっそく実行に移した僕は、告白してきた女の子と付き合い始めた。長く続かなかったので、とっかえひっかえと思われても仕方がないようなお付き合いばかりをしていたのだが、それでも彼女には十分効果があったようで。


 『……咲君、3組の実島さんと付き合ってるって、ほんと?』

 『あぁ、そのことだけど、キリ、今日は一緒に帰れないから』

 『……そっか。あの、でも、昨日2組の近藤さんと…、その、きっ、きす、してるの、見たんだけど……』

 『うん、だから?』

 『えっと……、なっ、なんでもない』


 正直に言おう。彼女が顔を真っ赤にしておろおろしているのをにやにやするのも楽しかったが、女の子たちの柔らかい身体も嫌いじゃあなかった。キスをする必要性は見いだせなかったけど、望まれたらしょうがないよね、だって僕には利用しているという負い目があったんだから。

 あくまでも本来の目的は、僕に普通の反応を示す彼女に戻すこと。

 だけど、普通に戻ったら戻ったで、彼女が時々見せる悲しそうな微笑みに、時には僕が目の前で女の子と仲良くして見せても普通すぎる反応を見せる彼女にイライラして、また女の子の身体に溺れた。


 僕は、知らなかった。

 いや、気付かないふりをしていただけだ。

 彼女は、本当に、救いようのない、バカだ。



 「すきです」




 朝から様子がおかしかった。というよりここ最近ずっと、心ここにあらずで、ぼんやりとしていて、顔色がひどく悪かった。

 ちゃんと寝てるの、何か悩んでることでもあるの、僕にも言えないようなことなの。

 彼女に尋ねたいことはたくさんあって、けれど僕は何故か口にすることができなかった。

 代わりに口から出た言葉は、

 『キモい』。

 彼女は充血した丸い目を潤ませ、何かを言おうとして、結局へらりと笑った。

 そんなことがここ最近、ずっと続いていた。

 話があるの、彼女は僕に告げた。放課後、第一校舎裏に、来てくれませんか。妙に棒読みで、一目で緊張していると分かるほど頬は真っ赤で肩はがちがちに固まっていた。

 嫌な予感は、した。

 けれども何故か、嫌ではなかった。

 彼女の厚い眼鏡の奥の二つの目が、しっかりと僕を中に閉じ込めて、キラキラと輝いていた。


 第一校舎裏には結構お世話になっている。その場所の意味も、分かる。

 僕は冷静だった。


 「で、話ってなに?」


 彼女の口から出る言葉は分かっていた。

 僕は彼女の言葉をスルーすればいい。

 さすがに彼女も、僕が彼女の告白に聞く気がないことに気付くだろう。

 彼女は、何度か口を開いては、閉じて、そうしてぎゅっと目をつぶり、ぱっと目を開けた、


 

 「あなたが、すきです」


 

 …………破壊力は、想像以上だった。

 

 

 心臓が、熱い。

 脳の回路が一部ストッブ、視力を除く五感が鈍感になり、息さえ忘れるほど、僕は僕に訪れた生まれて初めての衝撃に対応できずにいた。

 彼女の愛の告白を、予想していたにもかかわらず、だ。


 彼女が、何かを言った。

 そして僕をじっと見つめていた。

 僕も彼女を見つめていた。

 

 ……やがて彼女が驚愕の表情を浮かべ、その丸い、大きな目に涙がじわりと浮かび、僕の前で、背を翻し、駆け去っていくまで、僕はずっと彼女と僕だけの世界にいた。


 なんで、僕の前からいなくなるんだ。

 君は、僕のことが、好きなんじゃないの?


 僕はようやく他の感覚も取り戻した。そして、心臓の異常なまでの高鳴りに、嫌な予感を覚えつつも、本当は嫌ではない自分を笑った。

 

 「ねぇ、サキくん、早く行こぉよぉ」

 

 え?……あぁ、そうか。

 彼女の涙の理由を、僕の腕を自分の腕にからませて媚びた目で僕を見上げる女の子の姿をみとめて理解した。僕は、にっこり笑ってみせた。

 

 「ごめんね、急用が出来たんだ」

 

 腕、放してくれる?そう告げると、女の子は(名前、なんだったっけ?頭がまだ働いていないようだ)ぽかんとしていたが、慌てたようにギュッと自分の胸元に僕の腕を押しつけてきた。あんまり胸には魅力を感じたことは無いんだけどな。まあ、柔らかくて嫌いじゃないけど、でも、今はうっとおしいとしか思えない。

 

 「やだっ!一緒に遊んでくれるって言ったじゃない!彼女のあたしより、栗原さん優先するっていうの?っていうか、栗原さんも意外と図々しいのね、彼女がいるサキくん呼びだしてこんなところで告白するなんて」

 

 いくら幼馴染だからって、気ぃ使うことないよぉ、と背伸びしてキスをねだるその子の声に彼女に対する嘲りを感じて我慢がならなくなった。いつもだったら抑えが利くのに、やっぱり僕もいろいろせっぱつまっているようだ。

 

 「じゃあ、別れてくれない?」

 

 僕は笑った。

 余裕はないんだけど、僕の笑顔が他人には毒にも薬にもなることは知ってる。

 



 本当に救いようのないバカだったのは、僕も同じだ。

 

 僕には、彼女が望む言葉を返す資格はないかもしれないけれど。

 ……今でも、どんな顔をして彼女に会えばいいかわからないけれど。

 でも、彼女を追いかけなきゃいけないんだ。

 彼女の泣き顔を見るのは、僕だけでいい。

 




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