そのに、
そもそもなぜ私が叶いもしない恋を本人に打ち明ける決心をしたのか。
……長い長い初恋とオサラバする為であります。
彼とは幼稚園からの間柄です。小学校低学年の頃に彼が家族とともに私の家の近所に引っ越してきてからは、家族ぐるみで交流があります。
彼は幼稚園生の頃から天使のような愛らしさで、むしろ天使で、今思えば、出会ってその日にわたしは恋に落ちたのです。幼稚園の女の子たちはみんな彼を好きになって、先生たちはもちろんママさんたちをも虜にする地上に舞い降りた天使は、しかしその頃から大変よろしい性格をしておりました。
天然か計算か、一緒に遊ぼうと誘う女の子たちにどっちつかずな態度をとり、サキくんはマミと遊ぶのーちがうもんミクとだもんと女の子たちが彼を取り合うのをにこにこしながら見守り、しまいには女の子たちが取っ組み合いのけんかになって大泣きして先生に怒られるのにも、さらりと笑顔で「ぼく、しりません」。計算ではないと思いたい、いやしかし天性のものでもそれはちょっと……
当時のわたしは彼の笑顔にぽけっとなりながら隅っこで一部始終を見ていたのですが、そんなことが毎日毎日毎日続けば、ちょびっと頭の弱かったわたしでも気付くというものです。そして怖いものなど雷とおかーさまが作るピーマンの肉詰めくらいしかなかった幼いわたしはついぽろりと言ってしまったのです。
「サキくん、どうしてルミちゃんとナツキちゃんがないてるのににこにこしてるの?」
…………ゆっくーりと振り向いた彼の顔は今でも忘れられません。(がくがくぶるぶる)
それ以来、いつの間にか彼の子分(下僕ともいう)という立ち位置となったわたしは彼にいじめられ、いじめられ、いじめられ、気が付くと友達が一人もいないとという状況に。
それでも、彼の後ろを追いかけ続けたのは、ひとえに彼が好きで好きでどうしようもなかったからなのでしょう。友達ができなくても、時々女の子たちからひどいことを言われても、彼がわたしに構ってくれるなら、笑ってくれるなら。それが恋だと気づいたのは恥ずかしながら小学校5年生の頃でしたが。
わたしのこれまでの記憶の中で、彼の存在がなかったことはないと言える程です。それは同時に、彼に笑顔で吐かれた毒の数々の記憶でもあります。変態と罵られようが、それらはわたしの大事な宝物です。彼の側にいるだけで十分でした。
しかし、ふと考えてしまったのです。わたしももう来年は受験生。想像もつきませんが、きっとあっという間に大人になっていくのでしょう。今までは、幼馴染みの特権というやつで、いそいそと彼の側に行くことができましたが、大人になれば、そうはいきません。彼はわたしよりも遥かに頭が良いし、大学だって良い所に進むでしょう。高校受験は死ぬほど努力をして何とかギリギリ彼と同じ高校に進学することができましたが、大学受験が同じようにうまくいくとは考えてはいません(残念ながら現在の成績はお尻から数えたほうが早い、むしろお尻そのものです)。
彼とわたしの歩んでいく道は、決して、交わることはない……。
ぞっとしました。わたしはよぼよぼのおばあさんになっても彼を一途に思い続けているのでしょうか。重い。重すぎる恋心です。
初恋が、こんな痛い愛であってはなりません。叶わぬ初恋なら、きれいに、甘酸っぱく終わるべきなのです!
今こそ、この長すぎる恋を終わらせる時なのです!!
美しく散る桜に自らを重ね、そう決意した半年前のわたし。それからの日々は聞くも涙、語るも涙、想像以上に過酷な道のりでありました。彼の返事を予想しては、撃沈、毎夜枕を湿らせる日々。せめて夢の中では、色良い返事をもらえる夢でも見させてくれればいいのに、夢の中でも、彼に嘲笑され、おかげで寝不足、顔色を常に悪くしたわたしを見て、現実の彼にもまた「きもい」とドン引きされ。
ええ、本当に。本当に、ほんっとーにっ、身も心もボロボロになった半年間でありました。
しかし、今日の告白で、報われるはずだったのです。
翌日彼と顔を合わせたくないから金曜日、人から見えにくいという第一校舎裏の告白スポットも押さえた。
シュミレーションは、完璧でした。
すっぱり、ばっさり、彼に振ってもらう。わたしは何を言われても、笑顔で、「うん」と言うはずだったのです。