茜音
ぼくは木の棒を使って絵を描くのが好きだ。
最近アニメで観た魔方陣を描くのが今ぼくの
中で流行っている。
「こーしてこーやって良しできた!」
魔方陣は魔方陣でもあまり難しいのは描けない
円のなかに三角形をふたつ重ねただけのやつだ。円を描いて上向きに三角形を描いたら今度は重ねて下向きに三角形を描けばいいだけだ。
「円から出でよ清き乙女」魔方陣に両手をカッコよく乗せる。アニメで観たセリフと手のマネだ。一瞬白く光った気がしたけど気のせいだったみたいだ。飽きてきたので帰ることにした。
「もう帰ろ」気付けば夕方だ早く帰らないとママに怒られる。
「忠頼~アニメばっかり観てないで早くお風呂に入っちゃいなさいよー!」「えーやだよ今良いところだからあと15分待ってて」「もー早く入っちゃってよごはん出来てるんだから!」
ママがぶつぶつ言っている。でもあと15分で終わりだそうしたらお風呂に入ろう。
自分の部屋のベッドの中で今日お寺で魔方陣を描いた事を思い出してみる。何か一瞬白く光ったような気がしたけど何だったんだろう少しわくわくした気分になる。明日また魔方陣を見に行こう楽しい気分も少ししずまって眠たくなった。
気が付いたらぼくはいつものお寺の前にいた。
「あっ魔方陣見に行くんだった」境内裏のイチョウの木の下に描いた魔方陣の前にぼくと同い年くらいの女の子がいた。彼女が振り向こうとしたその瞬間目が覚めた。(なんだ…夢か…)夢の中のあの魔方陣の前にいた女の子は一体誰だったんだろう不思議な気持ちになった。トントンと扉を叩いたママがぼくの部屋に入ってくる。
「忠頼ー起きた?早く朝ごはん食べて学校の支度しなさいよー」「はーい今行くよ」ぼくは今年小学校の2年生になった。友だちも少しはできたし勉強は嫌だけど学校はわりと楽しいと思う。学校が終わって友だちに公園で遊ぼうと誘われたけどぼくは少しでもはやくお寺の魔方陣の場所に行きたかったから断った。
家に帰ってランドセルと帽子を自分の部屋の机の上に置いた。「行ってきまーす!」「ちょっと忠頼今帰ってきたばかりでしょ宿題は?」とママに引き留められる。「え?帰ってきたらやるから」じゃ行ってくるねとすぐ家を出る。
「もうどこで遊んでんだか」とママのひとり言
が聞こえた。お寺は学校の裏手の奥にある。随分古いお寺だと誰かが言っていた。ぼくは駆け足でお寺への道を急ぐ。学校まではいつもの通学路を通って学校の正門を通りすぎて緩やかな下り坂になっている学校の横の道を走る。走ってそば屋や水車おまんじゅう屋を通ったあとは急に緑が深くなる。ぼくはいつも少し暗く感じる。でもこのフインキがぼくをちょっとワクワクさせる。何かが起こるような気がするからだ。息を切らせてぼくはお寺の前に着いた。「はぁ…」なんだか少し緊張している。手水舎を通って境内の左横までは落ち着いてゆっくり歩いた。ぼくが描いた魔方陣が見えるイチョウの木のところ境内の裏までもう少し歩く視線をちょっと上げればイチョウの木と魔方陣が見えるところまで着いた。誰かいるかもしれないと感じ少し俯き加減に歩くと視線の先に小さくて赤い色の靴が見えた。「っ!…」視線をゆっくり上げると白い花柄のワンピースの裾が見えたさらに目線を上げると顔が見えた。薄いピンクの唇にキレイな薄茶色の瞳髪の毛はつやつやのショートの黒髪でとても可愛らしい子だった。「ねぇこれ君が描いたの?」突然話しかけられた。「え?うんそうだけど」「私この絵好きだよ」「え本当?これは魔方陣って言うんだいろんなものをショーカンできるんだよ!」「ショーカン?」「うん精霊とかモンスターとか色々呼べるんだよ!」「へぇすごいね君にはそんな力があるんだ」「うーんそんな力はないかなアニメのマネしてるだけで」「君名前は何て言うの?」「忠頼だよ」「ただよりか良い名前だね」「君の名前も教えてよ!」「私?わたしは茜音」「あかねちゃんか可愛い名前だね」「ありがとう私も気に入ってるんだ」「名前の漢字ここに書いてみてもいい?」「書いてくれるの?いいよぼくも書いてみるね」お互いに木の棒を持ってきて名前を書く。「ほらあかねちゃんこういう字」「すごい!かっこいいね!」「私はねこういう字」「へぇやっぱりかわいいね」「ふふっありがとう」茜音が笑っている顔がすごく可愛い。「茜音ちゃんとは初めて会うよねどこに住んでるの?」「うーんひみつだよ」「え?なんで?」「ひみつだから」「そっかじゃあ今からこの木の棒でお絵描きでもする?」「うんいいよ」「じゃあ茜音ちゃんから描いてみてよ」「わかった」茜音が絵を描き始める丁寧にゆっくりと描いている。ようやく出来たようだ。「忠頼うさぎさん」「すごい!上手だねかわいい!」「ありがとう」「忠頼も描いて」「うんわかった」それから夕方まで茜音と絵を描いて遊んだ。「茜音ちゃんぼくもう帰らなきゃ」「えっもう忠頼と遊べないの?」「うん今日はもう帰らないとママにしかられるから」「じゃあ明日もここで忠頼と遊びたいな」「うんいいよ明日学校が終わったらまたここに来るね」「よかったまた明日ね」「うんまた明日」じゃあねと手を振ると茜音も手を振り返した。
「ただいま」「ちょっと忠頼こんな時間までどこで遊んでたの?宿題もしないでこんなことしてるとパパに言うからね!」「えーパパには言わないでよ」「じゃあ宿題してきなさいそのあとお風呂に夕飯だからね」「はーいわかったよ」ぼくはいそいそと自分の部屋に戻り宿題をする茜音の事ばかり考えて宿題が全然捗らない。「はぁ茜音ちゃんてどこから来たんだろう」と呟く。年は同じくらいだと思うけど学校では見たことないから別の小学校なのか?なんで魔方陣の前にいたんだろう。それに夢に出てきた女の子になんとなく似ていた気がするでもそれは勘違いかもと頭がぐるぐるする。とりあえず宿題は明日友だちに見せて貰ってやることにした。
次の日宿題を友だちに見せて貰ってやりおえた。苦手な算数の宿題だった足すと引くまではなんとなくわかったけど掛け算になったら全然わからない。九九を覚えるのも大変だ。
そのあとは授業そっちのけで茜音に早く会いたい茜音はちゃんとあの場所にいるだろうかなどと考えていた。
やっと学校が終った今日はすぐ家には帰らずに急いでお寺に向かう茜音はいるだろうか?境内の裏を見るすると茜音がしゃがんで昨日描いたうさぎの絵やぼくが描いた絵を眺めていた。
「茜音ちゃん!」「忠頼!来てくれたんだうれしい!」「もちろん昨日約束したでしょ!」「今日は茜音ちゃん何して遊びたい?」「うーん忠頼今日はランドセルしょってるだねもしかして宿題とかでてる?」「え?あぁまあでてるね算数の宿題がまた…」「もしかして忠頼算数苦手なの?」「うんまあちょっと…」「じゃあ今日は一緒に算数の宿題をしてから遊ぼうよ」「茜音が教えてくれるの?」「うん!私が教えてあげる」ランドセルから算数のプリントを取り出す。数字がいっぱいでげんなりする。「忠頼ちょっと見せてうーん…うん!これなら教えてあげられる!」「すごいね茜音ちゃんって算数得意なんだ!」「じゃあ1問目からね」と丁寧に分かりやすく教えてくれる茜音の教え方が本当に上手で算数が苦手なぼくでもすぐに問題が解けた。「やった!全部とけた茜音ちゃんありがとう!」「ふふどういたしまして」笑う茜音の顔がやさしい「じゃあ忠頼これから何して遊ぶ?」「そうだなぁかくれんぼしようよ!」「かくれんぼ楽しそうどっちが鬼やる?」「じゃんけんしようよ!」「いいよ!じゃあ負けた方が鬼ね」「じゃあいくよー最初はグーじゃんけんぽん」茜音が隠れるほうでぼくが探すほうになった。「じゃあ10秒数えるからその間にかくれてね!」「うん!わかった!」イチョウの木の幹の前で目を隠し10秒数える「もーいいかい!」「まあだだよ!」もう1回10数える「もーいいかい!」「もういいよ!」と言われたので茜音を探し始める木の裏、茂みの中、山になってる落ち葉の中、どこを探しても茜音がいない不安になって「茜音ちゃん出てきて!」と叫ぶすると「呼んだ?」と茜音が出てくる。するとさっき1番最初に探した木の裏から出てきた。「あれ?さっき茜音ちゃんそこにいなかったよね」「えっ?ずっとここにかくれてたよ」「本当?じゃあぼくがちゃんと見てなかっただけか」「それより忠頼次かくれてよ」「うんわかった」そこから1時間近く交互にかくれんぼをしていた。「忠頼早く帰らないとまたお母さんに叱られちゃうよ」「うんそうだね今日はもう帰ろうかな茜音ちゃん明日も会える?」「うん明日もここにいるよ忠頼のこと待ってる」「うんじゃあまた明日ねバイバイ」「忠頼また明日バイバイ」ぼくは茜音の姿が小さくなるまで手をふった。
ここ1ヶ月くらいずっと茜音と会っている。寒い季節になったのに茜音はあのワンピースのままだった。今日は朝から雪が降っていて茜音に会う時間には雪が積もっているだろう。
さすがに茜音も寒くて上着を来ているだろうと思ったらいつものワンピースのままだった。「ねぇ茜音その格好で寒くないの?」「ぼくの上着貸そうか?」「ううん平気私寒くないの」でもと心配になる。「それより忠頼今日は宿題ないの?」「あるけどこんなに寒いのにやらせられないよ」茜音と遊ぶ前に必ず宿題をするといういつものルーティンができていたがさすがに今日は外で宿題をするなんてムリだ。「じゃあさ茜音ウチに来ない?ウチだったらあったかいよ」「ごめんね忠頼それは無理なの」「えっなんで?」「気持ちは嬉しいけど無理ごめんね忠頼」「えっあっそっかこっちこそ無理言ってごめん」茜音の深刻そうな表情に不安になるでも「それじゃあ雪合戦して遊ぼうか体うごかしたら暖かくなりそうだし」と言ってみるすると茜音が「うん楽しそう」とのってくれた。茜音に丸めた雪を投げつけるできるだけ弱めに投げる茜音が楽しそうに笑っているそれだけで少し安心した。
今日はいつもより1時間近くも早めに目が覚めた。リビングに行くと「あらおはよう今日はずいぶん早く起きたじゃない」「うんまあね」「今から朝ごはん作るから座ってなさい」「はーい」何の気なしにながれているテレビのニュースを見るアナウンサーが次のニュースですといいそのまま見ているとテレビの画面に茜音の顔が映った。行方不明とか赤い靴花柄のワンピース茜音のらしき骨が見つかったなどの報道がされていた。ぼくは呆然とするよくよくニュースを見るとぼくが茜音に会う前にあった事件ようだじゃああの茜音は一体なんなの?もしかして茜音はこの世の人じゃないの?頭の中がぐちゃぐちゃになるそうだ今すぐ茜音に会いに行こうぼくはざっとイスから立ち玄関に向かう。靴を履いて玄関の鍵を開けるするとママが「ちょっと忠頼どうしたのまだ学校に行く時間じゃない…」「ちょっとぼく行くところがあるから!」バタンと扉を閉める。ぼくはいつもの通学路をダッシュで走り抜ける学校の正門も水車もおまんじゅう屋もそば屋も無視して走るようやくお寺に着いた境内裏までまた走る。「茜音ちゃん!」「ねぇどこ?茜音!」すると木の裏から茜音が出てきた「忠頼今日は早いね学校は?」「ねぇ!茜音?茜音は…」ぼくは息を切らせて必死に何かを言おうとするが茜音にもう死んでいるのかなんて聞けるはずもない。ぼくは息を詰まらせた「ねえ忠頼もしかして気付いた?もう私がこの世にいないってこと」ぼくは息をのむ。「でもね忠頼が私をここに呼んでくれたんだよショーカンでね」と笑う。ぼくは何も言うことが出来ない。「忠頼ここにまた魔方陣を描いてくれる?」ぼくはようやく喋る「うん…わかった」もう茜音と遊んだり喋ったりできなくなるんだなと思った。ぼくはまだ雪のあとが残る地面に魔方陣を描くいつもより慎重にしっかりと形を作る。「できた」すると茜音がその魔方陣の上に立つ「忠頼私の手を握って」初めて茜音の手にふれる温かくも冷たくもない生気のない手だ。ぼくは少し泣きたくなる。すると少しずつ茜音の体が光りはじめる「茜音!」「忠頼今までありがとう忠頼のこと絶対忘れないから忠頼が大人になったらまたここで会おう」「本当?茜音約束だよぼくも絶対忘れないから」茜音の体が光りにとけていく「茜音絶対だよ!」「うん約束…」と茜音の体が光りとともに消えた。
あれから12年の月日がたった茜音以外の女の子に告白されたり遊びに誘われたりしたけど全部断っていた茜音との約束があったからだ僕は二十歳になったその日に約束したお寺に向かった。茜音はちゃんといるという確信があった。
お寺に着いた。「茜音」と前より低くなった声で呼ぶもう一度「茜音!」すると木のうしろから「忠頼よんだ?」と美しい女性に成長した茜音が出てくる。「茜音!」と近づいて抱きしめるあの頃と違ってしっかりとしたぬくもりを感じる。「ね!私忠頼のことだけはずっと覚えてたよ」「うん僕もだよ」心地よいかぜがさぁっと吹き抜けた。終




