時の中の広大な可能性 ---- 第4部
竜の命名、神の覚醒
(Naming of a Dragon, Awakening of a God)
神々と竜、そして砕け散った現実が交錯する戦場は――
一瞬だけ、完全なる静寂に包まれた。
炎の君主は、砕かれ、血に濡れ、
存在そのものが崩れ落ちかけながらも――
ミランのもとへと、這うように進んだ。
周囲の時間はクロノアによって凍結されている。
創造主の影も動きを封じられ、
音でさえ震えながら停止していた。
炎の君主は震える指先で、ミランの手に触れる。
砕けそうな声。
それでも、そこには父としての最後の強さが宿っていた。
「……ミラン……」
その名が発せられた瞬間――
存在そのものに、波紋が走った。
ミランの瞳が見開かれる。
黄金。
霜の蒼。
虚無の白。
三色が溶け合い、ひとつになる。
世界が、揺れた。
炎の君主の声がかすれる。
「それが……
我が息子に与える……名だ」
現実が歪み、空間が折れ曲がる。
次の瞬間――
ミランの身体が、光とともに爆ぜた。
――――BOOOOOOOOM。
幼い姿は溶けるように消え去り、
代わりに現れたのは、成長しきった竜の王――
人の姿を纏う完全体。
七本の角が宇宙色に輝きながら螺旋を描く。
白金の髪が星屑のように流れ落ちる。
霜と炎、そして可能性の翼が背に広がった。
その気配は、もはや世界と衝突しない。
世界を――支配していた。
炎の君主は、苦痛の中で微笑む。
「それでこそ……
我が息子だ……」
その最後の笑みとともに――
彼は息絶えた。
魂が、薄れゆく。
……だが、それはほんの一瞬のことだった。
覚醒したミランが、口を開いたからだ。
その声には、創造そのものの権威が宿っていた。
「世界よ……
私はお前の創造主だ。
すべてを止めろ」
すべてが停止した。
創造主の影が凍りつき、
空中の破壊はそのまま止まり、
世界システムさえも沈黙した。
神よりも古く、
竜よりも古く、
最初の息吹よりも古い存在が――
目覚めた。
真なる創造主が、現れる。
完全な顕現ではない。
ただの輪郭。
ミランのかつての影の、より高位の残響。
彼は溜息をついた。
「はあ……
なんだこれは?
こんな展開、書いた覚えはないぞ……」
凍りついた戦場を見渡す。
崩壊しかけた世界。
時神のように輝くクロノア。
半壊したエミリア。
死んだはずで死んでいない炎の君主。
宇宙の気配を纏うミラン。
そして、彼は小さく笑った。
「……まあ。
悪くない物語にはなったな」
口元が歪む。
「よし。少しだけ直してやろう」
指を一本、持ち上げる。
だが――
彼は止まった。
「……おや? 時間もいるのか」
凍結されたクロノアの権能が、わずかに震える。
創造主はくつくつと笑った。
「小手先の修正で時間軸を壊すわけにはいかんか」
彼は、壊れたエミリアの身体に手を置いた。
「クロノア。
この身体はお前のものだ。
記憶を返そう」
停止した時間の中で、クロノアの意識が過去に触れる。
同時に、炎の君主の死の瞬間が巻き戻される。
形而上の姿で立つ“時間”が笑う。
「人間でいるのは楽しかった。
もう一度やりたいな。
物語を最初からやり直せるか?」
完全に覚醒したミランは、静かに答えた。
「もちろん。
だがその前に……
修正しなければならない。
私の過ちだ」
時間は笑う。
「言っただろう。
脆い世界に宇宙規模の力は、壊滅を招くと」
ミランは頷いた。
「ならば、正そう」
時間は腕を組み、満足げに言う。
「この世界は強い。
自ら修復しようとしていた。
お前の影はよく働いた。
法と意味が通っている。
正直、我々の宇宙より出来がいい」
ミランは柔らかく微笑んだ。
「神に褒められるのは……
妙な気分だ」
そのとき、可能性の声が彼の内に響く。
「よくやった」
ミランは深く息を吐き、世界を書き換え始めた。
「システム。
創造主の命を聞け。
魔竜王を復元せよ。
魔界へ、妻と共に送れ」
光が脈打つ。
《命令受諾》
消えかけていた炎の君主の魂が肉体へと変わり、
魔界へと消えていった。
ミランは続ける。
「次に……エミリア。
身体を返せ。
我が叔母――新たな竜の器にて再誕せよ」
光が包み、再構築される。
そして、最も深い法則を書き換えた。
「父と叔母の竜体は、
私とクロノアの器となる。
世界が我らを受け入れるために」
《命令受諾》
現実が揺らぐ。
クロノアとミランは目を開いた。
そこは――
完全成熟した、強大な竜の君主の器の中。
クロノアが息を呑む。
「な、なに……?!
どうしてエミリアの身体なの?!」
ミランも固まる。
「……なぜ私は父上の姿なんだ――?」
互いを見つめ合う。
大人の姿。
圧倒的な力。
竜王の器。
クロノアの顔が真っ赤に染まる。
「な、なんでそんなに背が高いの?!
なんで私は完全な成体なの?!
ミラン、何をしたのよ?!」
ミランは慌てて爪を上げる。
「せ、世界を直していただけだ――!!」
内なる可能性がため息をつく。
「そして今、ミラン……
お前は真に神となった」
ミランは瞬きをした。
「……は?」
可能性は優しく告げる。
「可能性に終わりはない。
この世界は本宇宙と接続された。
お前は観測者の神。
法はもはや完全には縛れない。
時も物質も、超えている」
巨大な竜の首の後ろを掻きながら、ミランは呟いた。
「……使うかどうかは別だな」
可能性は微笑む。
「らしい選択だ」
クロノアは胸に手を当て、震えながら問いかける。
「ミ、ミラン……
私たち……どうなったの……?」
凍りついた世界。
崩れた戦場。
そして、互いを見つめる二体の竜王。
神となった元・人間。
衝撃。
困惑。
そして――
強烈な自覚。
何かが、決定的に変わったのだと。
竜王と竜妃の覚醒
(Awakening of the Dragon King and Dragon Queen)
時間は、ゆっくりと再び流れ始めた。
まるで――
世界が長い夢から目覚めるかのように。
砕け散った大陸は、静寂の中で凍りついたまま佇んでいる。
完全成熟した竜王の器に入ったミランとクロノアは、
互いを見つめ合い――
言葉を失っていた。
成体の竜王の身体にパニックするクロノア
クロノアは、恐る恐る自分の身体を見下ろした。
背が高く。
しなやかで。
圧倒的な威圧感を放つ美しさ。
霜と時、そして神性を宿す銀色の竜体。
長い銀髪。
女王の風格。
巨大な天上の翼。
胸には輝く竜王紋。
クロノアの顔が一瞬で真っ赤になる。
「ま、ま、待って?!
な、なにこれ?!
こ、これ完全な成体の竜王ボディじゃない?!
つ、つ、妻レベルの身体なんだけど――!!」
胸を押さえ、尻尾で地面を叩く。
――BOOOOM!!
ミランはぎこちなく両手(いや、爪)を上げた。
「ク、クロノア、落ち着いて――
ただの器だ――」
クロノアは叫ぶ。
「“ただの器”じゃない!!
竜の身体がどういうものか分かってるの?!
こ、これ“繁殖可能な女王体”よ!!」
ミランが固まる。
「……は、繁殖……?」
クロノアはさらに赤くなる。
「そうよ!!
竜文化でそれが何を意味するか分かってる?!
なんで私があなたの叔母さんの身体なのよ!!」
ミランは喉を鳴らす。
「……世界を直してた……」
「それ直してない!!
悪化してるだけよ!!」
角を掴んでパニック。
ミランが近づいてしまい、竜の本能が発動
ミランはなだめようと一歩近づく。
――だが、忘れていた。
彼もまた、成体の“雄の竜王”の身体に入っていることを。
近づいた瞬間、
彼のオーラが本能的に前へと傾く。
支配。
庇護。
王の威圧。
クロノアがビクッとする。
「ち、近づかないで!!」
ミランが瞬く。
「え? な、なんで――?」
クロノアは後ずさる。
「オーラ!!
支配オーラ止めて!!
竜の本能が起動する!!」
ミランは青ざめる。
「何もしてない!!」
「してるの!!
身体が!!
王族求愛サイン出してるの!!」
ミラン叫ぶ。
「なんでだよ?!
俺は人間だろ!!」
クロノア絶叫。
「もう違う!!
竜王ボディなの!!」
二人は固まった。
――本能で交尾儀式を始めそうな竜王二体。
そこへ、人間姿のクシがぽつり。
「……大丈夫?」
二人同時。
「無理!!」
世界が解放され、新たな竜王と竜妃が顕現
時間が完全に再始動する。
霜の大陸全土で――
竜
エルフ
人間
神
獣人
リザードマン
すべてが、膝をついた。
二つの圧倒的な気配。
竜王。
竜妃。
結婚していないにも関わらず、
器が“対の王体”として共鳴していた。
空を裂く竜たちの咆哮。
「新たな王が誕生した!!」
「二体の王?! ありえない!!」
「王と妃が帰還した――!!」
獣人大陸がひれ伏す。
魔界が震える。
エルフ大陸は沈黙。
神々でさえ言葉を失う。
炎の君主の配下たちが叫ぶ。
「新王万歳!!」
「霜の女王万歳!!」
「竜王万歳!!」
クロノアは顔を覆う。
「やめて――!!
結婚してない――!!」
ミランは額を押さえる。
「なんで既婚扱いなんだ――?!」
クシが小声で言う。
「だってその身体、“王対ボディ”だもん」
二人同時。
「どういう意味だよ!!」
クシが説明する。
「竜文化では、
王の身体は必ず対で生まれる。
妃がいないと王体は現れない。
つまり――
世界的には“運命の番”」
クロノアが真っ赤。
ミラン、0.5秒気絶。
真なる創造主、最後の警告
空が再び暗転。
創造主の影が現れる。
「いやー……
これは想定外だな」
クロノア絶叫。
「直して――!!
なんで私ドラゴン妻なの!!」
ミラン。
「頼むから直して!!
身体のせいで結婚したくない!!」
創造主は首を傾げる。
「……うーん。
嫌だ」
二人。
「はぁぁぁぁ?!?」
創造主は腕を組む。
「世界は直すが、
恋愛問題までは面倒見ん」
ミラン。
「恋愛じゃない!!
生存問題!!」
クロノア。
「発情期とか無理!!」
創造主は真顔になる。
「聞け。
ミランが可能性で世界を書き換えた結果、
この世界は外宇宙と接続された。
つまり――」
ミランを指す。
「お前は神」
クロノアを指す。
「お前も神」
沈黙。
ミラン。
「……神?」
クロノア。
「神とかいらない!!
ミランと一緒にいたいだけ!!」
創造主は微笑む。
「知ってる」
そして最後に言った。
「だが、神になっても感情は消えない。
ただ――“結果”が重くなるだけだ」
パチン。
消失。
世界に残ったのは――
新生竜王
新生竜妃
書き換わる世界法則
暴走寸前の本能
震える神々
同じ器に閉じ込められた二人
クロノアが小さく。
「……これからどうするの……?」
ミランは深く息を吐く。
「……まず、身体を何とかしよう」
クロノアは激しく頷く。
「お願い」
二柱の神、竜王の器に閉じ込められる
(When Two Gods Get Stuck in Monarch Bodies)
大地の揺れが止まり、
空は澄み渡り、
創造主は姿を消した。
そして――
ミランとクロノアは、
望んでもいない“成体の竜王の身体”の中に閉じ込められたまま、
その場に立ち尽くしていた。
クロノアの顔は真っ赤。
ミランは今にも気絶しそうだ。
クシはトラウマを負った観客のように眺めている。
「……で、二人とも神になったの?」
クロノアは呻く。
「クシ……
その言い方やめて……」
ミラン、身体を書き戻そうとする
ミランは鱗に覆われた胸に手を当てた。
「……よし。
これを元に戻す」
可能性の力を集中。
金色のフラクタル光が身体を包む。
「システム。
書き換え。
私とクロノアを元の人型へ戻せ」
即座に返答。
《処理中……》
クロノアは祈るように手を握る。
「お願い……お願い……!」
《要求却下》
二人同時。
「はぁぁぁ?!?」
クロノア。
「なんでよ!!
どういうこと!!」
世界システムの拒否理由
《却下理由:
王対規則――
王が存在する場合、必ず妃が存在する》
沈黙。
クロノアの口が開いたまま固まる。
ミラン、ピクッ。
クシ。
「……世界が結婚させたってこと?」
クロノア。
「してない!!
手も繋いでない!!」
システム続行。
《片方が人型に戻る場合、
もう片方は魂崩壊に陥る》
ミラン。
「……クロノアが戻ったら、俺が死ぬ?」
クロノア。
「……ミランが戻ったら、私が死ぬ?」
クシ小声。
「……運命より重いカップリング」
二人同時。
「黙れ!!」
竜の本能、干渉開始
二人は必死にオーラを抑える。
だが身体は言うことを聞かない。
ミランが近づくと――
クロノアの心臓が早鐘。
クロノアが下がると――
ミランのオーラが噴き上がる。
野生動物のように円を描く二体。
クロノア。
「オーラ抑えて!!
全部感じる!!」
ミラン。
「無理だ!!
なんでこんな独占欲が――」
クロノア。
「言うな!!
本能が――」
遅かった。
ミランの尻尾が揺れる。
クロノアの尻尾が跳ねる。
共鳴。
――BOOOOM!!
五大陸圏内の竜、全員気絶。
クシ。
「……何してるの?」
クロノア。
「知らない!!
この身体が人生壊す!!」
クロノア、交尾咆哮を放つ(地獄)
クロノアが話そうとした瞬間――
「HRRROOOOOOOOOOOOAR――!!!」
世界規模の交尾咆哮。
大地割れる。
火山噴火。
銀河級覚醒。
全ドラゴン。
「女王が王を選んだ!!」
クロノア蒼白。
ミラン吐血。
クシ耳塞ぐ。
「それ、完全に求愛咆哮」
クロノア崩れ落ちる。
「終わったぁぁぁぁぁ!!」
ミラン。
「どうやって止めるんだぁぁぁ!!」
神々、交渉に来る
空に金色の裂け目。
神々降臨。
全員ビビり。
天空神。
「落ち着いて!!
世界壊さないで!!」
嵐神。
「竜王様、竜妃様……
外交会談を――
あと求愛波止めてください!!」
クロノア。
「死にたい」
大地神。
「以前殺そうとした件、謝罪します」
ミラン。
「……以前?」
神々。
「ごめんなさい!!
消さないで!!
交尾しないで!!」
ミラン、恥で火吹く。
クロノア。
「交尾言うなぁぁぁ!!」
神々即土下座。
クシ。
「……二人とも怖い」
クロノアとミランは絶望。
ミラン。
「……何とかしよう」
クロノア。
「お願い」
神であっても、恥ずかしい本能からは逃げられない
(When Being a God Doesn't Protect You From Embarrassing Instincts)
霜の大陸は、完全な沈黙に包まれていた。
気絶する竜たち。
震える神々。
そして――
恥ずかしさで死にかけている、クロノアとミラン。
クロノアは顔を覆ったままうめく。
「お願い……お願いだから直して……
私は女王として生きられない……
あなたの叔母の身体で……
本能オンとか無理……!!」
ミランは深く息を吸う。
「……方法は一つある」
クロノアが顔を上げる。
「なに?」
ミラン、“部分器分離”を試みる
ミランは目を閉じた。
金白色の可能性の糸が、身体の周囲に渦巻く。
「システム。
部分器分離を開始。
本来の魂と、竜王の器を分離。
どちらも破壊しないこと」
《処理中……》
クロノアは祈る。
「お願い……お願い……」
《警告:
分離は王対を不安定化させます》
ミラン。
「……それで?」
《警告:
以下の副作用の可能性》
・オーラ絡み合い
・本能過負荷
・絆強化
・番刻印
クロノアの心臓停止。
「つ、番って何ぃぃぃ?!?」
ミラン。
「……失敗すると、運命番として固定されるかも」
クロノア。
「やめてぇぇぇぇ!!」
しかし――
光柱降下。
クロノアの器、分離を拒否
一瞬――
分離しかけた。
だが次の瞬間。
クロノアの竜体が、ミランを抱きしめた。
翼で包み込み、唸る。
「……私の」
クロノア(精神体)
「やめてぇぇぇ!!
それ私じゃない!!」
ミラン。
「クロノア!!
身体が……抱きついてる!!」
クロノアの器はミランの首に頬擦り。
ゴロゴロ……
クロノア絶叫。
「猫みたいになるなぁぁぁ!!」
クシ爆笑。
「完全に番じゃん!!」
ミランが押し返す。
→逆効果。
クロノアの尻尾、腰に巻き付く。
クロノア精神体失神。
「もう無理……」
システム。
《分離失敗。
器は完全融合状態》
二人。
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
神々、予言を持ってくる
天空神が巻物を持って来る。
「古代予言が……」
クロノア。
「燃やせ」
ミラン。
「読むだけ」
巻物。
「“記されざる王と時の女王が目覚めし時、
世界は跪き、
神々は沈黙し、
創造は再起動する”」
クロノア。
「時の女王?」
ミラン。
「記されざる王?」
嵐神。
「あと……二人は運命番」
クロノア魂抜ける。
「結婚したくない!!」
大地神ぼそ。
「もうしてる」
クロノア咆哮。
魔界の反応
魔界。
再会で抱き合うミラン両親。
伝令。
「新竜王と竜妃誕生です!!」
父。
「……妃?」
母。
「嫁だわ~」
伝令。
「本能暴走中です」
母。
「きゃぁぁぁ!!」
父激怒。
「誰だ!!」
エミリア。
「クロノアよ」
父。
「……時間の子?」
母。
「最高!!」
霜大陸。
クロノアくしゃみ。
ミラン。
「噂されてるな」
クロノア。
「消えたい……」
真なる創造主、煽りに来る
創造主再臨。
爆笑。
「最高のエンタメだな」
ミラン。
「直せぇぇぇ!!」
クロノア。
「本能止めろぉぉぉ!!」
創造主。
「無理」
二人。
「なんでぇぇぇ!!」
創造主。
「力欲しがっただろ」
クロノア倒れる。
「女王なりたくない!!」
創造主、ミラン撫でる。
「可能性で“番ルート”書いたのはお前」
消失。
最後の言葉。
「3日後、発情期だ。頑張れ」
二人。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
竜の本能に囚われた女神
(A Goddess Trapped in a Dragon's Instinct)
霜の大陸は、
半壊、半凍結、半修復――
まるで、ミランとクロノアの精神状態そのものだった。
クロノアは氷のクレーターの中央で、胡坐をかいて瞑想している。
「……私は……この身体を……制御する……」
尻尾がぴくり。
翼がひくり。
求愛オーラが十秒ごとに脈打つ。
五十メートル離れた場所で、ミランが汗だく。
「……クロノア、大丈夫か?」
クロノアの目がピクピク。
瞑想失敗 → ミラン追跡
クロノアは深呼吸。
ゆっくり……
静かに……
氷粒子が舞う。
オーラが落ち着き……
心拍が低下……
表情が穏やかになる。
「私は時と一体……
本能を超越した存在……
女神……
でき――」
目、開眼。
「ミラン」
瞬間移動。
ミラン。
「来るなぁぁぁ!!」
クロノアは腹ペコの猫の目。
ミラン逃走。
クロノア追跡。
ミラン飛行。
クロノア高速飛行。
氷河破壊。
「戻れぇぇぇ!!
身体が勝手にぃぃ!!」
ミラン。
「分かってる!!
でも怖い!!」
衝突。
雪まみれで転がる。
クシ。
「夫婦喧嘩みたい」
二人同時。
「違う!!」
義父、査察に来る
炎の門が開く。
復活した炎の君主、降臨。
横にエミリア。
後ろにミラン母。
威圧地獄。
炎の君主。
「……息子の番か?」
クロノア硬直。
「こ、こんにちは……」
炎の君主。
「なぜ息子の上にいる」
クロノア爆発。
「違うんです!!」
ミラン。
「事故です!!」
炎の君主、観察開始。
「オーラ同期。
共鳴。
追跡。
捕獲。
息子逃げず」
クロノア。
「分析しないでぇぇ!!」
炎の君主、ミランに。
「泣かせたら魂砕く」
ミラン敬礼。
「はい!!」
エミリア。
「若いわね~」
クロノア魂抜け。
クロノアの時間権能、感情に反応
クロノアが岩の裏に隠れる。
胸に銀の時計紋。
ミラン。
「それ……時間権能?」
クロノア。
「……感情に反応する。
一番強い想いに固定される」
ミラン。
「俺?」
クロノア赤面。
「固定点……」
ミラン。
「運命?」
クロノア。
「違う。
生きてる限り、
私の時間は壊れない」
ミラン動揺。
クロノア小声。
「……私は……
心で結ばれてると思う」
ミラン。
「……クロノア」
クロノア。
「見るなぁぁ!!」
世界が公式発表
DING!!
《全界告知》
《竜王対確定》
王:ミラン
妃:クロノア
《魂結合》
《共鳴率100%》
《本能危険域》
《繁殖相性:完璧》
クロノア気絶。
ミラン気絶。
クシ。
「史上最高の災厄」
神々土下座。
竜祝賀。
魔界祭り。
世界公認カップル爆誕。
神の重荷、竜の本能、そして告白
(A God's Burden, a Dragon's Instinct, and a Confession)
世界はすでに、
ミランとクロノアを“竜王対”として認定していた。
――そして二人は、揃って気絶していた。
巨大な気絶竜二体の間で、クシは天を仰ぐ。
「……家に帰ればよかった……」
神々、世界修復を懇願
ミランが目を覚ますと、
自分の形にぴったりのクレーターの底に寝ていた。
周囲には神々の輪。
全員、土下座。
天空神。
「竜王陛下……
世界を修復してください……」
嵐神。
「外界が割れ――」
大地神。
「火山が――」
水神。
「津波が――」
天空神。
「あと、求愛圧止めてください……
天使まで気絶してます……」
ミラン、むくり。
「……なんでいるの?」
天空神。
「あなたは“記されざる王”。
寝ていても現実を書き換えています」
ミラン。
「……あ、やばい」
寝ているクロノアが、
無意識にオーラを放つ。
――BOOM。
神々、再び全滅。
大地神。
「助けてぇぇ!!」
嵐神。
「キスしたら宇宙再起動します!!」
ミラン。
「しない!!」
クロノア寝返り。
時間、5秒停止→再開。
神々絶叫。
ミラン。
「……分かった。
世界法則を安定させる」
神々即土下座。
「感謝します!!」
天空神小声。
「繁殖は……控えて……」
ミラン魂抜け。
クロノア、母性本能でクシ拉致
クロノア目覚め。
「ミラン……?」
クシを見る。
身体が勝手に動く。
翼で包む。
「寒い?
お腹空いた?
怖い?」
クシ。
「食べないよね!?」
クロノア。
「母性本能」
クシ。
「私は赤ちゃんじゃない!!」
クロノア。
「刻印した」
クシ。
「返せ!!」
ミラン。
「無理」
クシ号泣。
二人、正直に話す
神々追い出し後。
氷の尾根に並んで座る。
クロノア。
「……私のこと嫌い?」
ミラン。
「なんで?」
クロノア。
「全部私のせい……」
ミラン。
「違う。
一緒にやった」
クロノア息止まる。
ミラン。
「怒ってない。
恥ずかしいだけ」
クロノア。
「嘘」
ミラン。
「……少しだけ」
クロノア。
「本当?」
ミラン。
「クロノア。
君は俺を救った」
クロノア。
「本能じゃない」
ミラン。
「じゃあ?」
クロノア。
「……好きだから」
空気停止。
ミラン動揺。
クロノア。
「世界より前から」
ミラン。
「……」
クロノア。
「答えなくていい。
離れないで」
ミラン。
「離れない」
尻尾絡まる。
《感情共鳴》
《相性120%》
クシ。
「寒いんだけど!!」
二人笑う。
世界法則を共に安定
爪を合わせる。
心音同期。
火山停止。
竜回復。
神安堵。
《世界安定完了》
クロノア。
「心臓、温かい」
ミラン。
「静かだ」
コア接触問題
《コア接触必要》
クロノア。
「魂キス!?」
ミラン。
「知らなかった」
クロノア悶絶。
魔王、発情期警告
炎の君主。
「二日後だ」
エミリア。
「暴れたら大陸消える」
クロノア気絶。
クシ。
「自然壊すな!!」
本能か、自由か
(A Choice Between Instinct and Freedom)
竜王対の話し合いが終わり、
世界はひとまず静けさを取り戻した。
夕陽が霜の大陸を黄金色に染める。
クロノアは尾根に座り、膝を抱え、翼を畳み、尻尾を強く巻きつけていた。
巨大な竜の姿であっても――
彼女は、とても小さく見えた。
怯えていた。
ミランが、静かに歩み寄る。
「……クロノア」
彼女は振り向かない。
「また叱りに来たの……?
選べなかった本能のことで……」
ミランは隣に座る。
「聞きに来ただけだ」
クロノアの瞳が揺れる。
「……誰も傷つけたくない。
あなたも、世界も……」
声が震える。
「発情期が来たら……
私は私じゃなくなる」
ミランは息を吸う。
「……なら、消そう」
クロノア、顔を上げる。
「え……?」
ミランは胸に手を置き、
可能性の金糸を呼び出す。
「システム命令。
竜王器を幼体化。
発情本能削除。
生殖機能削除。
力は維持」
クロノア。
「こ、子供になるの……?」
ミラン。
「一番安全だ」
光。
二人の巨大な身体が縮む。
十歳ほどの小竜。
もふもふ。
丸い。
小角。
クロノア。
「ち、小さい!!」
ミラン。
「想定外だ」
クシ。
「可愛すぎ!!」
クロノア。
「恥ずかしい!!」
ミラン。
「世界壊れない」
クロノア、微笑む。
「……ありがとう」
無意識添い寝事件
夜。
クロノア、もぞもぞ。
ミランに寄る。
頭乗せ。
尻尾巻く。
ミラン。
「……おやすみ」
クシ。
「死ぬ」
エミリア。
「団子」
炎の君主。
「息子……?」
魔王妃。
「孵化前!!」
新たな試練
DING!!
《幼体竜王対、世界試練》
《別大陸へ行け》
クロノア。
「別れるの……?」
ミラン。
「世界のため」
クロノア。
「……嫌」
ミラン。
「俺も」
クロノア涙。
ミラン。
「戻る」
クロノア。
「約束?」
ミラン。
「約束」
魔界式典
魔王。
「来い」
魔王妃。
「家族」
加護儀式。
守護付与。
出発
試練開始。
王→人間大陸
妃→霜領域
クロノア。
「本当に行くの……」
ミラン。
「効率的」
クロノア心折れる。
出発前の静かな触れ合い
額合わせ。
尻尾触れる。
クロノア。
「記憶が欲しい」
ミラン。
「……こう?」
額密着。
クロノア。
「ありがとう」
別れの涙
クロノア泣く。
「怖い……」
ミラン。
「戻る」
クロノア。
「好き……」
ミラン。
「……一緒にいるのが好きだ」
クロノア崩壊。
ミラン、転移。
クロノア見送る。
「……強くなる」
若き竜の肩にのしかかる王国の重み
(The Weight of a Kingdom on a Young Dragon's Shoulders)
霜竜王国。
果てなき蒼の氷原。
天を貫く氷河。
古代魔力を宿す水晶の森。
その中心――
かつて巨大な王が立っていた場所に、
今は一体の小さな銀竜が立っている。
クロノア。
小さな身体。
大きすぎる責任。
そして――失敗への強い恐れ。
王城のバルコニーの下には、
何千もの霜竜が集っていた。
すべての視線が、彼女に向けられる。
クロノアは喉を鳴らした。
「……頼んでないのに……」
声がかすれる。
彼女の親友――前霜王は、
世界法則によって“上書き”された。
弱かったからではない。
退きたかったわけでもない。
ただ、クロノアが“番”に選ばれた瞬間、
称号は自動的に移ったのだ。
今、その親友は隣に立っている。
誇らしげに。
そして、少しだけ寂しげに。
「大丈夫だ」
彼は囁く。
「君ならできる」
クロノアは震える小さな爪を見つめた。
「……身体は子供なのに」
「だが、魂は王だ」
彼は微笑む。
「それに――
ミランが君を信じている」
その名に、クロノアの心が揺れる。
王国統治の混乱
初日は、地獄だった。
・霜エルフの国境申請承認
・竜と魔族の小競り合い調停
・聖霜樹の魔力循環管理
・エルフ評議会の苦情処理
・若竜同士の凍結事故防止
・雪崩阻止
・一時間ごとに泣きそうになるのを我慢
「陛下」と呼ばれるたび、
尻尾が緊張で丸まる。
夕刻、玉座に崩れ落ちた。
「……ミラン……
どうやって平然としてたの……?」
小さな爪を額に当てる。
「……会いたい」
氷の大広間に、声だけが残る。
秘密の記憶
自室の氷の巣で丸くなる。
目を閉じる。
思い出す。
あの、論理的すぎる笑顔。
「クロノア、分離は93%成功する。
統計的に安全だ。戻る」
あの、無駄に整いすぎた直線的な微笑み。
クロノアは吹き出す。
「……なんであんな顔が可愛いのよ……」
真似してみる。
無表情。
直線口。
数学竜。
自分で崩れる。
「……会いたい」
翼の中に顔を埋める。
クロノアの試練発動
DING――
《霜女王試練発表》
《聖霜樹再生》
クロノア凍る。
「……枯れる?」
《守護者離脱により根系不安定》
クロノア沈黙。
「……私はここに縛られるのね」
《王の務め:
故郷を守れ。
民を守れ。
王に並ぶ力を得よ》
涙が氷床に落ちる。
「……やる」
立ち上がる。
小さな竜。
大きな決意。
「ミラン。
あなたが旅する間に、
私はここを守る」
翼が広がる。
試練開始。
霜エルフの疑念
聖霜樹の下。
評議会が囁く。
「子供だ」
「前王に及ばぬ」
「失敗したら?」
クロノアは全部聞いている。
尻尾が下がる。
でも。
「……小さくても守る」
爪が時魔力で光る。
震えながらも続ける。
ミラン、感情共鳴を察知
人間大陸。
森を歩くミラン。
突然、胸に銀光。
《感情共鳴検知》
発信:霜大陸
強度:72%
ミラン停止。
「……泣いてる」
眉が寄る。
「急がないと」
走る。
論理的な心。
優しい動機。
古代氷精との出会い
夜。
聖霜樹、弱光。
「泣くな、クロノア」
振り返る。
雪髪。
氷星の瞳。
最古の氷精。
「母を知っている」
クロノア凍る。
「……母?」
「時の女王」
膝をつく氷精。
「娘はよく泣くと言っていた」
涙溢れる。
「……私みたい」
「強く、孤独だった」
頬を撫でる。
「王は皆、孤独だ」
クロノア目を閉じる。
「……会いたい」
「まず樹を救え」
クロノア立つ。
「教えて」
「喜んで」
銀光。
青魔力。
時刻印。
「母の娘だな」
試練、本格始動。
樹の復活
聖霜樹、鼓動弱まる。
クロノア、爪を置く。
「失わない」
時魔力波紋。
氷精。
「時が目覚める」
銀青白に発光。
浮遊。
「“今を慈しむ者に時は咲く”」
思い出す。
ミランの笑顔。
声。
約束。
理解された感覚。
「彼も、この国も、大切」
爪押し込む。
FLASH!!
大地発光。
氷柱輝く。
河再生。
霜大陸震撼。
聖霜樹、結晶葉再生。
安定。
クロノア着地。
「……終わった」
王として認められる
エルフ跪く。
「霜女王万歳」
クロノア震える。
「……私でいいの?」
大神官。
「樹を救った。
時と霜を宿す。
国を慈しむ」
涙。
「守る」
霜大陸、正式受容。
母の秘密
氷精。
「母は時霜混血」
時計雪紋。
「永遠冬核」
クロノア息止まる。
「創造主の遺物」
「時を凍らせる核」
「母は二段階まで」
「第三段階は?」
「時間凍結」
クロノア震える。
「危険」
「だから訓練」
胸に触れる。
冷たさ増す。
「継承された」
涙止まる。
「……ありがとう」
「誇るだろう」
クロノア、地平線を見る。
「並び立つ」
霜大陸、蒼光。
女王は成長した。
物語は続く。
新たな仲間
(A New Companion)
夜が静かに降りる。
霜の大陸は、深く穏やかな蒼に包まれていた。
聖霜樹の下で、クロノアは小さな銀竜の姿のまま座っている。
結晶の枝葉が、彼女の鱗を淡く照らしていた。
小さな爪を胸に当てる。
そこには――
永遠冬核が、静かに脈打っている。
永遠冬核との鍛錬
古代氷精が、背後に静かに浮かぶ。
「目を閉じよ、子よ」
クロノアは従う。
吐息が銀霧となって広がる。
「時の律動を感じよ。
霜の静寂を感じよ。
それらを重ねよ」
吸う。
――ドクン……ドクン……
心拍がゆっくりと落ち着く。
冷気が増し、
魔力が柔らかな雪嵐のように彼女の周囲を巡る。
「よい。
今、核を受け入れよ」
クロノアは一瞬ためらう。
「……あたたかい」
氷精が微笑む。
「それは母の記憶だ」
クロノアの瞳が震える。
爪を開くと――
青白い火花が弾けた。
音すら凍らせる、絶対零の炎。
「……これは?」
「永遠霜炎。
肉ではなく“時代”を焼く炎だ。
制御できるのはお前だけ」
クロノアは小さく息を呑む。
炎は心拍のように揺らめく。
氷精は続ける。
「永遠冬核には三段階ある。
母は二段階までしか至らなかった」
クロノア。
「三段階目は?」
氷精の声が低くなる。
「任意の時間線を凍結できる」
クロノアの背筋が凍る。
「……強すぎる」
「ゆえに鍛錬が必要だ。
他者を守るためにも、
己を守るためにも」
クロノアは深く頷く。
「制御する。
ミランのために。
この世界のために。
私自身のために」
霜炎が強く輝いた。
新たな存在
そのとき――
氷柱の陰から、小さな結晶の影がのぞいた。
クロノアと同じくらいの背丈。
銀色の瞳。
霜色の髪。
丸い頬。
小さな氷精。
クロノアは瞬く。
「……誰?」
小さな声。
「ぼ、僕はフレイン!
氷精守護見習いです!」
クロノア首を傾げる。
「……子供?」
フレイン胸を張る。
「七百歳です!」
クロノア。
「……子供」
フレインしょんぼり。
「みんなそう言う……」
古代氷精が大げさにため息。
「この子は、お前を手伝いたいと騒いでおった」
フレイン、慌てて立ち直る。
「手伝います!
伝令できます!
魔力調整できます!
樹を守れます!
すごく頼れます――」
足を滑らせ、顔面着氷。
クロノアの瞳が柔らぐ。
「……可愛い」
フレイン真っ赤。
「可愛くない!
戦士です!」
クロノアは小さく笑う。
爪を差し出す。
「じゃあ、フレイン。
一緒に聖霜樹を守って」
フレインの頬が輝く。
「はい、女王様!」
古代氷精が穏やかに言う。
「もう、ひとりではない」
クロノアはフレインを見つめた。
ミランが旅立ってから、初めて――
胸の寂しさが、少しだけ軽くなる。
フレインはぴょんと近づく。
「修行も手伝います!
火竜も追い払います!
魔王も――」
クロノアは吹き出した。
銀の瞳が星のように輝く。
「ありがとう、フレイン」
霜の風が、やわらかく渦を巻く。
新たな絆。
新たな仲間。
そしてクロノアは――
本当の“女王”へと、歩み始めていた。




