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時間における壮大な可能性 - 第三部

嵐の後の崩壊


(Collapse After the Storm)


砕け散ったドームの周囲を吹き荒れていた冷たい風が、

ようやく静まった。


粉雪がゆっくりと舞い落ち、

割れた氷晶の上に静かに積もっていく。


ミランは、クロノアとクシの間に立ったまま、

霜と炎が激突した直後の余韻に身体を震わせていた。


吐く息は白く曇り、

速すぎて、浅い。


――そして突然。


視界が歪む。


世界が傾く。


激しい眩暈が、頭を殴りつけた。


「……か、母さん……ぼく……」


弱々しい声。


誰かが駆け寄る前に――

ミランの膝が折れた。


最初に動いたのはクロノアだった。


氷騎士よりも速く。

クリムゾンよりも速く。


彼女はミランの胸元を抱き留め、

前に崩れ落ちる身体を受け止める。


ミランの額が、

彼女の鎖骨に触れた。


温かな吐息が、

冷たい肌にかかる。


クシは一瞬凍りつき――

すぐに駆け寄った。


「ミラン! ミラン、私を見て!」


声が震える。


背後でクリムゾンが不安げに咆哮する。

巨大な翼が震えていた。


クロノアはミランの体重を抱えたまま、

静かに立ち上がる。


瞳が時間魔法の光で輝く。


「大丈夫。」


穏やかだが、確信に満ちた声。


「戦いと……

これまで無理をしすぎたせいで、

エネルギーが枯渇しているだけ。」


彼女はミランを見下ろす。


無意識に――

指が彼の髪を撫でていた。


本人も気づかないほど自然な仕草。


その瞳に、

一瞬だけ“温かさ”が宿る。


クシは膝をつき、

ミランの胸に手を当てた。


「ええ……魔力経路が酷く消耗しているけど、

安定してる。」


クリムゾンが頭を低く下げる。


「目を覚ますか?」


巨大な竜の声は、かすかに震えていた。


クロノアはミランを抱き直し、

より楽な姿勢にする。


「目を覚ます。」


「時間が必要なだけ。」


その瞬間――

クロノアの雰囲気が変わった。


柔らかさが消え、

時間王女としての威圧が立ち上る。


ミランを抱いたまま、

氷結王国を見渡す。


「十分だ。」


「兵士。国境を強化。」


「ドームが壊れた。

今侵入されれば、この国が被害を受ける。」


兵士たちが即座に背筋を伸ばす。


「了解、クロノア様!」


「動け。今すぐ。」


数十人の兵士が走り出し、

防衛魔法と結界の構築を始める。


クロノアは横目でクリムゾンを見る。


「お前もだ。国境警備に回れ。」


クリムゾンが鼻を鳴らす。


「我は王族か、

ミランからしか命令を受けぬ。」


クロノアが言い返そうとした、その時――


クシの声が静かに響いた。


「クリムゾン。」


竜の身体が固まる。


クシは一歩前に出る。


淡く光る瞳。

悪魔の気品と、エルフの威厳。


「主の安全のため、この地を守りなさい。」


「あなたはミランの騎士。」


「だから、ミランが立つ大地を守りなさい。」


沈黙。


やがて――


クリムゾンは深く頭を下げた。


「……ミランの母よ。

命令、承る。」


大きく羽ばたき、

紅の番人として空へ舞い上がる。


クロノアはクシを横目で見る。


「一言で従わせたのね。」


クシは小さく微笑む。


「私は母よ。」


「竜は、母を尊敬する。」


クロノアは、腕の中のミランを見る。


ほんの一瞬――

表情が柔らぐ。


「……あなたは?」


クシが静かに尋ねる。


クロノアは一瞬瞬きをする。


「何が?」


「彼を落とさなかった。」


「クリムゾンよりも先に動いた。」


クロノアは視線を逸らす。


頬がわずかに赤い。


「……反射よ。」


「重要な存在だから。」


一拍置いて。


「王国にとって。」


クシは、すべてを理解したように微笑む。


クロノアは無意識に、

ミランを少し強く抱き寄せた。


静かで、

まだ名前のない感情が芽生え始めていた。


ここまでが

Chapter: Collapse After the Storm の日本語訳です。

目覚めと断片


(The Awakening and the Fragment)


――温もり。


それが、ミランが最初に感じたものだった。


柔らかく、穏やかな熱が身体に広がり、

硬直していた筋肉を少しずつ解きほぐしていく。


新たな鱗の下へと染み込むように、

まるで霜を溶かす陽光のように。


――そして。


何かが指先に触れた。


柔らかくて、少し冷たい。


手。


誰かの手。


ミランの瞼が、ゆっくりと開く。


薄暗い部屋。

淡く輝く水晶の壁。

魔力の篝火が放つ温もり。


そして、すぐ隣に――

クロノアが座っていた。


銀の髪が淡く光を反射し、

いつも通りの気品ある姿勢。


だが。


彼女は――


ミランの手を、握っていた。


指と指が絡み合うほど、しっかりと。


まるで、離すのが怖いかのように。


ミランは瞬きをする。


「……クロノア?」


彼女の瞳が、即座に開く。


鋭く、

だが彼を見ると、柔らかくなる。


「目が覚めたのね。」


声が、ほんのわずかに揺れていた。


ミランは身体を起こそうとする。


途端、眩暈。


クロノアはすぐに胸に手を当て、

優しく押し戻す。


「動かないで。

まだ回復していない。」


彼女の手は、

少しだけ長く胸元に留まっていた。


ミランは気づく。


「……さっきまで、

手を握ってた?」


クロノアの目が一瞬見開かれる。


すぐに視線を逸らす。


「……眠っている間、

魔力が乱れていた。」


「安定させていただけよ。」


「実用的な処置。」


ミランは、かすかに笑う。


「うん。実用的だね。」


クロノアの頬が、

淡く光る。


彼女は手を離さなかった。


ミランも、離さなかった。


突然――


胸に鋭い痛み。


ミランは息を呑む。


視界が歪む。


クロノアの声が遠くなる。


「ミラン?」


だが、ミランの意識は沈んでいく。


闇。


鼓動。


自分のものではない鼓動。


輝く一枚の鱗。


虚空を揺るがす咆哮。


そして――


声。


古く、巨大で、

彼の内側から響く。


「……小さき者よ……

お前は、我が残り火を宿す……」


ミランは震える。


巨大な黄金の眼。


誇りと、悲しみを宿した竜の眼。


「……我が心臓は、

お前の心臓の代わりに鼓動している……」


世界が砕ける。


ミランは跳ね起きた。


胸を押さえ、息を荒げる。


クロノアがすぐに顔を近づける。


「何を見た?」


ミランの声は震える。


「……中に、何かがいる。」


「竜の……記憶。」


「『我が心臓はお前の代わりに鼓動している』って……」


クロノアの表情が引き締まる。


「それは記憶じゃない。」


「魂の契約……

あるいは、それより古いもの。」


ミランは、無意識に彼女の手を強く握る。


クロノアの瞳が、少し柔らぐ。


「全部話して。」


ミランは深呼吸する。


「巨大な黄金の眼。」


「『小さき者』って呼ばれた。」


「僕は、残り火を宿しているって。」


クロノアは、ゆっくりと言う。


「……あなたの命は、

もうあなただけのものじゃない。」


「古代の存在と、共有されている。」


ミランは苦笑する。


「……やっぱり、そうか。」


クロノアの声は、強かった。


「でも、あなたは一人じゃない。」


「私がいる。」


ミランは頷く。


「……うん。」


クロノアは、まだ手を離さなかった。

心臓は、その王を知っている


(The Heart Knows Its Monarch)


ミランの身体が、再び激しく跳ね上がった。


胸が黄金に輝き、

鱗が不規則にうねる。


まるで体内の“何か”が、

外へ出ようとしているかのように。


呼吸は荒く、

苦しげな喘鳴が漏れる。


クロノアの瞳が、決意に燃えた。


「……これで終わらせる。」


彼女はミランのこめかみに両手を当てる。


背後に、巨大な時計の紋章が出現した。


古代のルーンが、

天球儀のように回転する。


クシが息を呑む。


「クロノア……!

それは高位魔法よ!

魂が――」


「構わない。」


クロノアは即答した。


「時間安定化――

心拍逆行。」


紋章が脈打つ。


時間の糸が、ミランの胸へ絡みつく。


暴走する鼓動が、

ゆっくりと減速していく。


だが――


クロノアの口元から、血が流れた。


クシが叫ぶ。


「やめて! 自分を壊すわ!」


クロノアは歯を食いしばる。


「……気にしない。」


「彼は……

私の前では死なせない。」


ミランの身体が、

最後に一度だけ跳ね――


静かになった。


呼吸が整う。


クロノアはベッドの縁に倒れ込む。


肩で息をする。


クシが支える。


「クロノア!」


クロノアは血を拭い、

ミランを見る。


「……彼は今、

心の内界にいる。」


「心臓の記憶が眠る場所。」


心臓の内界


闇。


だが、温かい。


黄金と紅が渦巻く空間。


巨大な鼓動。


ミランは、そこに立っていた。


闇の中から、

山よりも巨大な影が現れる。


黄金の鱗を持つ竜。


神話より古い存在。


「……小さき者よ……」


ミランは震える。


「あなたが……中にいる竜……」


竜はゆっくり頷く。


「創造主と世界法則が、

我が心臓を奪い――

お前に与えた。」


「我が子よ。」


ミランの足がもつれる。


「ぼくは……あなたの……?」


「心臓を持つ者は、

我が継承者だ。」


空間が震える。


現実の断片が流れ込む。


――父が暴れる姿。

――エミリアが戦う姿。

――世界が崩れる光景。


竜が唸る。


「彼は、お前の魂を感じられない。」


「死んだと思い込んでいる。」


ミランは拳を握る。


「……行かなきゃ。」


竜は胸を開く。


中に、純粋な黄金の火。


「これを取れ。」


ミランは躊躇する。


「あなたは……?」


竜は笑った。


「我は、これだ。」


ミランは手を伸ばす。


触れた瞬間――


炎。

記憶。

血の繋がり。


ミランは叫んだ。


現実――


フレイム・モナークが翼を広げる。


「ソーラー・アポカリプス!!」


太陽のような光球が生まれる。


エミリアが叫ぶ。


「止めなさい!!」


絶対零度の盾で受け止める。


だが、吹き飛ばされる。


「……強すぎる……」

魔の聖母、現る ― ミランの力の真実


(The Demoness Appears — The Truth of Milan’s Power)


空が、砕け散った。


ミランのかすかな声――

「……父さん……やめて……」


その響きが、

大陸を越えて広がった。


だが――


天から降りた“光の手”が、

その繋がりを断ち切った。


魂の絆が遮断される。


フレイム・モナークは、

咆哮の途中で凍りついた。


「どこだ……ミラン!?

答えろ!!」


雲が裂け、

海が割れる。


だが返事はない。


そこへ――


静かな声。


「……あなた。

もうやめて。」


空気が、落ち着いた。


エミリアが目を見開く。


空から降りてくる一人の女性。


聖なる悪魔の炎と、

氷の気配を纏う存在。


――ミランの母。


長い白銀の髪。

優雅に湾曲した一本角。

尖ったエルフの耳。

凍りついた太陽のような瞳。


エミリアは即座に頭を下げる。


「陛下……」


彼女はフレイム・モナークだけを見る。


「あなたは……

子の声を聞いたでしょう。」


「なら、正気に戻って。」


フレイム・モナークの胸が上下する。


「いた……確かに……

だが、神々が切り離した……!」


エミリアが一歩前に出る。


「陛下。

ミランは生きています。」


母の瞳が鋭くなる。


「どこに?」


「氷結王国。

衰弱しています。」


フレイム・モナークの炎が静まる。


人型へと変化。


異様なまでに美しい王。


エミリアまで赤面する。


「問題はそこではない。」


エミリアは腕を組む。


「ミランは弱いのではありません。」


「強すぎるのです。」


フレイム・モナークの目が見開かれる。


「生まれつき、

権能を宿していました。」


「名は――

可能性。

あるいは、現実。」


母が息を呑む。


「権能保持者……」


エミリアは続ける。


「そこに、あなたが

創始核を与えた。」


「結果、世界が拒絶した。」


フレイム・モナークは歯を噛みしめる。


「なら……どうすれば……」


エミリアは彼を指差す。


「ミランが、あなたを名付ける。」


「神級の竜でなければ、

彼を安定させられない。」


フレイム・モナークは即答した。


「ならば受け入れる。」


「我が死ぬなら、それでいい。」


沈黙。


母は静かに微笑む。


「あなたは、良い父ね。」

神々が震えた日


(The Day Gods Trembled)


三柱の神は、

母の威圧に押されながらも、光を融合させた。


三重の紋章が空に刻まれる。


エミリアが叫ぶ。


「三位一体処刑陣!?

大陸を消し飛ばす禁呪よ!!」


フレイム・モナークは嗤う。


「やっと本性を出したか、卑怯者ども。」


神々の声が重なる。


「魔の聖母。

貴様を存在ごと消す。」


光が収束する。


世界を書き換えるほどの裁き。


エミリアは氷翼で身を覆う。


フレイム・モナークは前に出る。


だが――


母は、静かに手を上げた。


「……哀れね。」


第二段階・起源凍結


空気が、止まる。


光が、遅くなる。


母の背後に現れる新たな紋章。


黒き太陽を抱く、

氷と魔炎の輪。


エミリアが震える。


「起源凍結……

第二段階権能……」


フレイム・モナークが呟く。


「久しぶりだな……その姿。」


母は一言。


「凍れ。」


世界が凍る。


神の攻撃が、

空中で停止。


次の瞬間――


光が砕け散った。


神々の顔なき光が揺らぐ。


母は手を伸ばす。


「触れた代償を、払いなさい。」


空が割れる。


神々の下半身が、

ガラスのように砕けた。


悲鳴。


神々は初めて、恐怖を知る。

二柱の王の憤怒


(The Wrath of Two Monarchs)


砕け散った神々の光の残滓が、

空に漂っていた。


だが、戦いは終わらない。


さらに重い“存在”が降りてくる。


白き宇宙模様を宿した、

上位神。



「フレイム・モナーク。」


星が崩れるような声。


「我が眷属を殺したな。」


フレイム・モナークは牙を剥く。


「だから何だ。」


神は続ける。


「ならば、お前にも同じ痛みを与えよう。」


空気が凍る。


「その魔王妃もろともな。」


フレイム・モナークの瞳が細まる。


神は指を向ける。


「彼女は検知された。」


「システムが連れ戻す。」


――


世界に、機械音。


【魔王妃 識別】

【帰還命令】


フレイム・モナークが咆哮する。


「やめろ!!」


だがシステムは従わない。


母は静かに微笑む。


「……時間ね。」


フレイム・モナークは、

彼女を抱き締めた。


「行くな!!」


母は彼の頬に触れる。


「ミランを……お願い。」


光。


彼女の姿が消える。


フレイム・モナークは、

膝をついた。


エミリアが肩に手を置く。


「子は……生きている。」


フレイム・モナークは立ち上がる。


「……迎えに行く。」

父、降臨す ― 世界、震撼す


(A Father Arrives — And the World Trembles)


氷結大陸。


ほんの一瞬だけ、

静寂が訪れた。


次の瞬間――


空が、闇に覆われた。


太陽が消える。


大陸全体が、影に沈む。


巨大な黄金の存在が、

地平線を切り裂きながら迫る。


音速を超え、

雲を割り、

海を沸騰させながら。


フレイム・モナーク。


彼の咆哮が、

世界を揺らす。


「ミラァァァァン!!」


氷山が砕け、

山脈が割れる。


氷宮殿が激しく揺れた。


内部で、クロノアが目を見開く。


「この気配……

もう来たの!?」


クシは膝をつく。


「強すぎる……」


宮殿の壁に、

亀裂が走る。


空から、

山のような竜が降り立つ。


「我が子はどこだ。」


沈黙。


世界が、息を止める。

父の気配、母の声


(A Father’s Presence, A Mother’s Voice)


フレイム・モナークの降臨によって、

氷宮殿の大地は激しく揺れ続けていた。


黄金の気配が重すぎる。


空気が焼け、

氷が溶け、

また瞬時に凍り直す。


クロノアが叫ぶ。


「止めて!

あなたの“存在”そのものがミランを押し潰している!」


フレイム・モナークの瞳が揺れる。


腕の中のミランの身体が、

震えているのを見た。


「……我の気配が?」


エミリアが前に出る。


「人型に戻りなさい!

今すぐ!」


黄金の巨体が光に包まれ、

王の姿へと縮小する。


だが、それでも重い。


ミランが小さく呻く。


クロノアの顔が青ざめる。


「まだ強すぎる……

核を隠して!」


フレイム・モナークが歯を食いしばる。


「竜王の核は――」


「押し込めるのよ!!」


彼は膝をつき、

自らの核を圧縮する。


黄金の亀裂が皮膚に走る。


苦痛。


だが、彼は止めない。


「……息子のためなら、

自らを砕く。」


圧力が、下がる。


宮殿の揺れが止まる。


ミランの呼吸が、

少しだけ安定する。


エミリアが息を吐く。


「できた……」


フレイム・モナークは、

崩れ落ちそうになりながらも、

ミランを見つめる。


「……ミラン。」


そのとき――


優しい声が、

彼の魂に届いた。


「あなた。」


彼は凍りつく。


「……愛?」


母の声。


「まだ繋がっている。」


彼は震える。


「無事か!?」


「封じられているけれど……

大丈夫。」


そして。


「ミランを……お願い。」


フレイム・モナークは、

ミランの胸に手を置く。


「……パパはここにいる。」


黄金の鼓動が、

静かに重なった。

三つの力を宿す子、覚醒


(The Child of Three Powers Awakens)


フレイム・モナークがミランの胸に手を置いた瞬間――


ドクン。


ドクン。


ドクン――!!


二つの鼓動が、

激しくぶつかり合った。


黄金の光が爆発する。


「ミ、ミラン……落ち着け!」


だが、ミランの心臓は言うことを聞かない。


身体が大きく反り返り、

皮膚の下で金色の脈動が走る。


クロノアが叫ぶ。


「衝突してる!

竜核と、ミラン自身の権能が!」


ミランの口から、

弱々しい声が漏れる。


「……パパ……痛い……」


フレイム・モナークの表情が崩れ落ちた。


「ち、違う……

パパはお前を傷つけない……!」


クロノアが歯を食いしばる。


「彼はあなたを拒絶してるんじゃない。

“世界法則”を拒絶しているの。」


フレイム・モナークの瞳が見開かれる。


「……世界が……息子を?」


クロノアは静かに頷いた。


フレイム・モナークは震える声で囁く。


「……すまない、ミラン……」


クロノアがミランの額に指を当てる。


小さな時計の紋章が浮かび上がる。


「時間権能――断片解放。」


エミリアが叫ぶ。


「やめなさい!

それ以上使えば死ぬ!」


だがクロノアは退かない。


「ミラン……

呼吸して。」


淡い銀の光が、

ミランを包む。


心臓の鼓動が、

少しずつ遅くなる。


クロノアの鼻から血が垂れる。


クシが支える。


「クロノア……!」


彼女は震えながらも囁く。


「ミランの方が……大事。」


その瞬間――


世界に声が響いた。


「警告。」


全員が凍りつく。


「権能保持者――覚醒。」


「対象:ミラン。」


フレイム・モナークが息を呑む。


「……覚醒?」


システムが続ける。


「複数権能、融合中。」


クロノアの顔が真っ青になる。


「竜核――確認。」


「デーモン創始核――確認。」


「可能性の権能――起動。」


「時間共鳴――検出。」


最後の一文。


「警告。

ミランは――

自らの存在を書き換えている。」


光が満ちる。


ミランの身体が宙に浮かび始めた。


「……パパ……クロノア……エミリア……ママ……」


弱い声。


「……今、行く……」

書かれざる存在の誕生


(The Birth of Something Unwritten)


光が、部屋を呑み込んだ。


それは、ただの光ではない。


神の光でも、魔の光でもない。


――創造の光。


世界が生まれるときの、あの光。


ミランの身体が宙に浮かび、

黄金、霜白、そして未知の輝きが渦を巻く。


彼の鱗は変質していた。


ただの竜の鱗ではない。


黄金に、

宇宙のような黒が混ざり、

時間の裂け目のような白い紋様が走る。


背後に、

誰も見たことのない記号の輪が浮かぶ。


クロノアが息を呑む。


フレイム・モナークは凍りつく。


エミリアが震える。


クシは両手で口を覆った。


ミランが、目を開く。


その瞳は――


黄金。

氷の青白。

そして、虚無の白。


三層に重なっていた。


声が響く。


幼く、

古く、

そして重なる。


「……見える。」


クロノアが一歩前に出る。


「ミラン……?」


ミランが彼女を見る。


「クロノア。」


彼女の瞳が潤む。


だが、彼の声が変わる。


「……まだ、整合していない。」


光が爆発する。


世界が揺れる。


フレイム・モナークが耐えきれず飛び出す。


「ミラン!!」


肩を掴んだ瞬間――


衝撃。


黄金の王が吹き飛ばされる。


「な、何だこの力……!」


クロノアが叫ぶ。


「触れたら死ぬ!!」


フレイム・モナークが血を吐く。


「……我が子が……竜を拒絶する……?」


クロノアは囁く。


「竜だけじゃない。」


「世界そのものを、

書き換えられる。」


その時――


世界が警報を鳴らした。


「警告。」


空が黒く染まる。


大陸を覆うルーン。


「創造レベル異常。」


フレイム・モナークが震える。


「創造……レベル?」


クロノアが呟く。


「神を超えてる……」


そして。


システムの声が、

重くなる。


「創造主の影――

必要。」


世界が止まる。


影が現れる。


巨大。

無形。

絶対。


その存在が、

ミランを指差す。


「未登録存在。」


ミランが見上げる。


「……?」


影の声。


「お前は、書かれていない。」

創造に記されなかった子


(The Child Not Written in Creation)


世界が、悲鳴を上げた。


空が裂け、

時間がよろめき、

全ての生命が本能的に膝をつく。


創造主の影が、

氷結大陸の上空に広がる。


冷たい。

無慈悲。

絶対。


フレイム・モナークでさえ、

背筋が凍る。


エミリアも、

クロノアも、

呼吸ができない。


だが――


ミランは、目を逸らさなかった。


影が告げる。


「お前は、書かれていない。」


ミランは小さく首を傾げる。


「……書かれていない?」


影の手が動く。


「お前は起源の書に存在しない。

構造外の存在。

現実の誤り。」


雷鳴。


大地が割れる。


ミランの声が震える。


「……消えたくない。」


影は即答する。


「未記載存在は削除される。」


フレイム・モナークが吠える。


「やめろォォォ!!」


影の指が上がる。


概念消去。


存在したという事実そのものを消す力。


光でもない。

闇でもない。


“無”。


クロノアが叫ぶ。


「やめて!!

まだ子供なの!!」


影は無視する。


「消去開始。」


黒い奔流がミランへ。


その瞬間――


黄金が、前に出た。


フレイム・モナーク。


「うおおおおお!!」


彼はビームの前に立つ。


肉体が、

魂が、

削られる。


それでも、立つ。


エミリアも飛び込む。


「一人で背負うな!!」


霜と炎が絡み合う。


だが、押し負ける。


フレイム・モナークの胸が焼け落ちる。


エミリアの翼が消える。


それでも二人は退かない。


「俺は父だ!!」


「私は叔母だ!!」


ミランが叫ぶ。


「……パパ……エミリア……」


影が囁く。


「未記載は消える。」


その時――


時間が、砕けた。


クロノアの瞳が白く輝く。


時が止まる。


血も、涙も、炎も。


彼女が一歩踏み出す。


「私の物語は、ここで終わらない。」


巨大な時輪が背後に現れる。


「ミランに、触れるな。」


影が唸る。


「時間神など存在しない。」


クロノアが叫ぶ。


「なら――

私がなる。」


世界が軋む。


時間が、逆流する。


エミリアの翼が再生する。


フレイム・モナークの傷が戻る。


クロノアは血を流しながら、立つ。


「私は……

ミランを守る。」


影が手を上げる。


クロノアも、手を上げる。


二つの絶対が衝突する。


次元が砕けた。

了解しました。

続けて Chapter: When Time Defies Creation Itself を日本語訳します。


時が創造に反逆する時


(When Time Defies Creation Itself)


氷結大陸の上空は、

砕けた次元の破片で埋め尽くされた。


創造主の影が、

白い輝きに包まれたクロノアを見下ろす。


影が手を上げる。


クロノアは、待たない。


彼女が拳を振るう。


時が圧縮され、

星が老い、

塵となる。


影の腕が砕け散る。


「時間源……

我に逆らうか。」


クロノアが叫ぶ。


「ミランを傷つけるなら――

誰であろうと許さない!」


影が一瞬で距離を詰める。


概念打撃。


クロノアは両手で受け止める。


腕が砕ける。


だが、即座に巻き戻る。


影が告げる。


「お前はその段階に存在しない。」


クロノアは血を流しながら笑う。


「なら……

私が書き換える。」


時間停止結界――完全封鎖。


影が凍りつく。


だが、一秒だけ。


影は突破する。


光線が放たれる。


クロノアが身構える――


その前に。


黄金の閃光。


ミランが立っていた。


彼は片手で、

攻撃を受け止める。


地面が消える。


それでも彼は立つ。


クロノアが震える。


「ミラン……!」


ミランが振り返る。


「ごめん……心配させた。」


小さな微笑。


影が解析する。


「存在矛盾。

未記載でも記載でもない。」


ミランが静かに言う。


「クロノアに触るな。」


翼が広がる。


金と霜と宇宙の色。


影が沈黙する。


「時間を守るのか。」


ミランは答える。


「心を守る。」


影が襲う。


世界が悲鳴を上げる。


ミランが迎撃。


空間が割れる。


互角。


だが――


フレイム・モナークが吠える。


「二度と触れさせるか!!」


壊れかけの核を燃やす。


神炎昇華。


影を押し戻す。


だが代償。


肋骨が砕け、

核が崩壊寸前。


エミリアが叫ぶ。


「彼は自分を燃やしてる!」


影が手を上げる。


フレイム・モナークが膝をつく。


「目的があるなら……

それでいい……」


その時。


エミリアが前に出る。


静かに。


覚悟を決めて。


「私が行く。」


星の紋様が走る。


「霜星形態――解放。」


クロノアが震える。


「それは……死ぬ……!」


エミリアが微笑む。


「甥を守れるなら。」


彼女は影に向かって飛んだ。


死を覚悟して。

霜星、絶滅へ向かう刹那


(Frost Star — Absolute Extinction Form)


エミリアは、影へと向かって飛翔した。


全身が、

宇宙の霜に包まれる。


星のように輝く紋様が、

彼女の身体を走る。


温度は――


絶対零度。


海は一瞬で凍り、

空気は結晶化し、

音が消える。


影が低く告げる。


「存在し得ない力。」


エミリアは笑った。


「竜を……甘く見るな。」


彼女の声が、

銀河のように広がる。


「私は、もう何も失わない。」


彼女は両腕を広げる。


「ミランを……

二度と泣かせない。」


霜と星が融合する。


「霜星・絶対絶滅形態」


世界が、

白く染まった。


影が初めて、

後退した。


ミランが叫ぶ。


「エミリア!!」


クロノアが泣く。


フレイム・モナークが吠える。


「やめろォォォ!!」


だが――


エミリアは、

もう止まらない。


彼女は影へ突撃した。


命と引き換えに。


光と霜が、

全てを呑み込む。


――続く。

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