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時における広大な可能性:第2部 降下

議論と決断


(The Argument and the Decision)


ワシュトが声を荒げた。


「馬鹿げてる!

 お前はもう自分の世界を作ったじゃないか!

 つまり神になったってことだろ!?

 もう“やってしまった”んだよ!」


ミランは首を振った。


「違う、違う、違う。

 それは違うんだ。」


彼はゆっくり言葉を選ぶ。


「ただの想像だよ。

 そこから何かを得てるわけでもない。

 ずっと、そういう世界があったらいいなって思ってただけだ。」


三人を真っ直ぐに見つめる。


「全部、頭の中にあるだけ。

 何も創造してない。

 この世界は僕のPCの中にしか存在しない。」


少し間を置いて続けた。


Minecraftマインクラフトっていうゲームで、

 その世界の“構造”を作っただけなんだ。

 知らない?

 地球にあるゲームで、

 自分の想像したものを何でも作れる。」


「自分の世界、家、建物……全部。」


ミランは静かに微笑んだ。


「僕はいつもその世界のことを考えて、

 どうなるのか、

 何を持つのか、

 どんな未来になるのかを書いてる。」


「どうしてかは分からないけど……

 この世界はずっと、僕の想像の中で生きてた。」


タイムが小さく笑う。


「全部、ポシビリティの仕業さ。」


ワシュトが鼻で笑った。


「はっ。

 ポシビリティはいつも汚い手を使うな。」


ミランは一歩前に出る。


「じゃあ聞くけど。

 君たちはこの宇宙のこと、全部知ってるんだよね?」


三人を見る。


「なら、僕の“新しい宇宙”に行こう。

 ……いや、君たちの新しい宇宙かな。」


「君たちは物語カードよりも上位の存在だ。

 もっと高次の存在なんだから。」


深く息を吸う。


そして、静かな威厳を込めて言った。


「でも、一つだけお願いがある。」


三人の目が向く。


「君たちは“全能”から切り離されてほしい。」


「そうすれば、

 世界を楽しめるし、

 本当の意味で“人間である”ことを理解できる。」


沈黙。


やがて、三人の宇宙的存在は同時に歩き出した。


輝くPCモニターへ。


デジタルの光が渦を巻き、

三人を引き寄せる。


モニターが白く閃いた。


彼らの姿は光の線となり、

ミランの想像が生んだ世界へと消えていった。

奈落での覚醒


(Milan’s Awakening in the Ravine)


果てしない石壁に囲まれた奈落に、

かすかな低音が響いていた。


空気は淡く青く光り、

岩の内部を走る魔力の脈が、

まるで生きた川のようにうねっている。


ミランは、ゆっくりと目を開いた。


身体が重い。

異物感。


腕を上げようとして――止まる。


指先に、鱗。


薄暗い光の中で、

銀と氷青が混ざった鱗が、かすかに輝いていた。


足元の水溜まりに映る自分の姿。


人間の目ではない。

竜の瞳。


「……人間じゃない。」


かすれた声で呟く。


円卓。

落下。

宇宙的存在たち。


すべてが遠い夢のようにぼやける。


残ったのは、

この静寂だけ。


立ち上がると、胸が強く脈打った。


周囲の空気が重い。


ここでは魔力が“生きている”。


息をするだけで、

圧迫されるような感覚。


突然、胸が焼ける。


皮膚の下で、何かが光る。


竜の紋章。


「……何だ、これ。」


その瞬間。


無機質な声が、頭の中に響いた。


【システム・プロトコル初期化……】

【権能種別:竜核検出】

【インターフェース構築……完了】

【システム起動】


淡い半透明のパネルが、視界に現れる。


【ようこそ、ミラン】

【血統:悪魔(半)/竜(半)】

【状態:竜の刻印 ― 起動中(呪い)】

【警告:悪魔心臓と竜核の衝突を検出】


ミランは瞬きをする。


「……システム?

 お前は何だ。」


【応答:あなたの竜権能から生まれた構造体】

【あなたの力を安定化・翻訳するために存在】


「……僕が作ったのか。」


【肯定】


青い光のメニューが展開される。


【能力概要】


種族:混血(悪魔/竜)

生命力:安定

魔力流動:重度制限

心臓状態:竜の刻印(呪い)

潜在力:S級 ― 封印中


【解析】

竜の刻印は力であると同時に呪い。

両血統を心臓に結びつけ、魔力吸収を制限。


【未治療の場合】

竜側血統は徐々に衰弱、最終的に崩壊。


ミランは胸を押さえる。


「……不死でも、死ぬってことか。」


【肯定】

悪魔血統は物質的栄養を要求。

竜血統は周囲魔力を要求。


奈落の高魔力密度により、

心臓が両立不能。


【結果:竜核封印】


ミランは壁を見上げる。


暴れる魔力の川。


「……この場所が、僕を殺してる。」


【警告:次元漂流検出】

【大陸間を繋ぐ奈落が閉鎖中】

【残り時間:48時間】


ミランの目が細まる。


「……なら、登るしかない。」


胸の刻印が、心拍と共鳴する。


システムの光が、出口を示す。


「呪いがどれだけ深くても……

 この血がどれだけ重くても……」


一歩、踏み出す。


「僕は、進む。」

奈落の登攀


(Climbing the Ravine)


一歩。


また一歩。


奈落の壁は鋭く、

魔力は荒れ狂い、

空気は肺を焼くように重い。


ミランの身体はゆっくりと変化していった。


悪魔の血が、

周囲の冷たい魔力と融合する。


その結果、生まれたのは――


氷。


彼の足元に霜が走る。

踏み出すたび、岩が凍りつき、足場が形成される。


「……適応している。」


【解析:悪魔血統が高密度魔力を氷属性へ変換】

【竜血統が環境耐性を強化】


時間の感覚が曖昧になる。


数時間か、

数日か。


爪が岩に食い込み、

翼が未完成のまま空気を掴む。


胸の刻印は痛むが、

崩壊はしない。


そして――


光。


奈落の縁。


彼は這い上がる。


上界の風が、顔を打つ。


鋭く、冷たい。


だが――生きている風だ。


ミランは深く息を吸った。


視界の端に、システムパネルが浮かぶ。


【更新】

竜の刻印:安定率22%

呪い:封じ込め成功(暫定)

目標:刻印源または竜神殿を探索


ミランは静かに呟く。


「……これは力の旅じゃない。」


視線を遠くへ向ける。


「生き延びる旅だ。」


事件:下位竜の怒り


(Event: The Lesser Dragon’s Wrath)


平穏は長く続かなかった。


【警告:高魔力変動検出】

【存在検知:下位竜 ― 年齢50年】


南の稜線。


空が赤く染まる。


雲を突き破り、

巨大な影が降下する。


溶岩のように輝く金の鱗。


真の竜。


腐敗もなく、誇り高く。


だがその瞳は――


軽蔑。


竜は混血を嫌う。


純血の誇りに反する存在。


地面が砕ける。


竜が着地する。


雷鳴のような声。


「半血よ……

 鱗を穢す者よ……

 我らの心臓を持つ資格はない。」


ミランは立つ。


氷の気配が渦巻く。


「なら、確かめに来い。」


胸の刻印が燃える。


【権能命令:隷属プロトコル起動】


システムが同期する。


古代文字の氷鎖が空中に形成される。


竜の炎と激突。


炎と霜が天を裂く。


【警告:刻印過負荷87%】

【呪いにより出力制限】


ミランは歯を食いしばる。


「敵じゃない……

 僕は、証明するだけだ!」


権能が広がる。


竜の炎が弱まる。


巨大な身体が、ゆっくりと膝を折る。


【調教成功】

【下位竜:同行者登録】


ミランは膝をついた。


呼吸が乱れる。


震える手で竜の鼻先に触れる。


「……お前は僕を憎んでる。」


静かな声。


「でも、いつか……

 僕が何になれるか、見せてやる。」


誇りと憎しみで生まれた50年竜。


その頭が下がる。


力にではない。


意志に。


この瞬間。


彼の最初の仲間が生まれた。

戦いの後 ― 地獄を越えて


(After the Battle — The March Through Hell)


視界が揺れる。


灰と溶岩の匂い。


胸の奥で、竜権能の最後の火花が消える。


ミランは地面に崩れ落ちた。


【警告:生命力 臨界値】

【心臓出力:9%】

【緊急搬送プロトコル起動】


下位竜――今や従属した存在が、

巨大な頭を持ち上げる。


システムの命令が、ミランの核から響く。


【命令:最寄りの生命反応地帯へ移送】


竜は慎重にミランを掴む。


翼を広げ、咆哮する。


奈落周辺は地獄そのものだった。


割れた大地。

溶岩の川。

噴き上がる火山。


呼吸すら焼ける。


【環境解析:インフェルナル・リフト区域】

【竜出現密度:4】

【遭遇確率:78%】


50年竜は若い。


真の竜の世界では、まだ雛。


もし上位竜に見つかれば、

即座に消される。


だが、それでも飛ぶ。


灰雲を裂き、数時間。


やがて――


黒い石と発光結晶で築かれた集落が見える。


悪魔の居住地。


竜は外縁に降り立ち、

ミランを地面にそっと下ろす。


周囲の悪魔たちが凍りつく。


「竜だと……?」

「死刑宣告だ……」

「半竜……穢れた混血……」


ミランの鱗が青から灰へ揺らぐ。


擬態が不完全。


【敵意検出】

【威嚇表示起動】


古代ルーンが空中に展開される。


竜権能の紋章。


【通知:干渉は即時殲滅対象】


悪魔たちは後退する。


武器を落とす者もいる。


沈黙。


その時――


柔らかな声。


フードの女性が影から歩み出る。


落ち着いた気配。


守るような魔力。


彼女は膝をつき、

灰を払う。


「可哀想に……」


温かく、重みのある声。


「大丈夫。

 私が世話をしてあげる、 маленький дракон……」


下位竜が低く唸る。


だが――


【上書き:受動状態】


竜は従順に頭を下げる。


彼女はミランを抱き上げる。


空気が冷え、穏やかになる。


【警告:混血発覚は即時処刑対象】


彼女は何も言わない。


ただ歩き出す。


竜は静かに後を追う。


灰の空の下。


守護者として。

魔族領の地下の安息地


(The Haven Beneath the Demon Lands)


彼女の腕は、

周囲の冷たい石の空気とは対照的に温かかった。


ミランの意識は、

途切れ途切れに揺れる。


下位竜は後ろを歩く。

翼を畳み、命令に従って。


彼女のフードがずれ、

尖った耳と一本の湾曲した角が見える。


混血の証。


彼女の魔力は古く、静かで、抑え込まれている。


悪魔の集落を抜け、

生きた蔦に覆われた地下道へ。


蔦は淡く光る。


――聖魔樹の根。


世界樹の兄弟。


空気が冷え、

壁が金と緑に輝き始める。


やがて洞窟。


水晶と枝が淡く脈打つ。


彼女の住処。


ミランを苔と竜皮で作られた寝台へ寝かせる。


下位竜は入口付近で丸くなる。


「可哀想に……」


彼女は髪を払う。


「鱗まで痛みで焼けてる……」


聖魔樹の鼓動のような音。


温もりがミランの体へ。


呪いの痙攣が和らぐ。


彼女はそっと抱く。


母のように。


悪魔でも、エルフでもない。


その間。


ミランの呼吸が落ち着く。


「眠りなさい、小さな子……」


ミランは彼女の胸に顔を埋める。


生命の香り。


初めての安らぎ。


痛みのない眠り。


――――


目を開けると、

蔦の光。


下位竜は入口に。


「目が覚めたのね。」


ミランは頷く。


「ここ……生きてるみたいだ。」


彼女は微笑む。


「聖魔樹の分枝の聖域よ。」


壁に触れると緑の波紋。


「あなたを守る場所。」


ミランは尋ねる。


「どうして僕を知ってたの?」


彼女の左目が金に光る。


「ワールドアイ。」


「落ちる前から見てた。」


「氷の炎が落ちるのを。」


ミランは俯く。


「なぜ助けたの?」


彼女は静かに答える。


「あなたは私と同じ。」


「世界の狭間に生まれた者。」


手を肩に。


「あなたは安全。」


「名前はまだ要らない。」


「この世界では、名前は力。」


ミランは頷く。


システムが囁く。


【安定化完了】

【母性守護リンク確立】


彼女は微笑む。


「もう一度眠りなさい。」

名を与える決意


(The Naming — Khushi)


静かな洞窟。


蔦が淡く揺れる。


ミランは目を開け、

彼女を見つめる。


落ち着いた仕草。

母のような温もり。


その時――


【システム通知】

【対象:不明存在】

【提案:竜権能による支配・隷属化】


ミランの表情が曇る。


「……支配?」


拳を握る。


「助けてくれた人を、

 奴隷になんかしない。」


「システム。拒否する。」


【了承】

【倫理抵抗検出】


ミランは彼女を見る。


「この世界では、

 名前は力を持つんだよね?」


彼女は頷く。


「名は魂の欠片。」


「与える者と与えられる者を繋ぐ。」


ミランは静かに手を上げる。


微かな宇宙光。


「なら――

 守るために名を与える。」


「支配じゃない。」


「信頼のために。」


彼女は目を見開く。


「それは……とても重い。」


ミランは微笑む。


「それでもいい。」


光が洞窟を満たす。


「あなたの名は――


クシ(Khushi)」


温かな光が彼女を包む。


【ユニークネーミング検出】

【絆種別:コズミック・ドラゴン契約】


彼女は胸を押さえ、震える。


「……温かい……」


ミランは言う。


「もう一人じゃない。」


彼女はそっとミランを抱きしめる。


「なら私は、

 あなたの母になる。」


システム表示。


【母性リンク強化】

リフトの震動 ― 世界衝突の前兆


(The Rift Tremor — When Worlds Begin to Collide)


聖魔樹の低い鼓動が、

突如として歪んだ。


大地が軋む。


蔦から粉塵が落ちる。


【システム警告】

【次元リフト不安定】

【奈落崩壊シーケンス開始】

【原因:外部干渉】


ミランは立ち上がる。


「何が起きてる……?」


【原因特定:ドラゴン・デーモン・ハイブリッド】


クシの表情が険しくなる。


「現ドラゴン・デーモン王よ。」


「彼が大陸を強制融合させてる。」


ミランの目が見開く。


「そんなこと……」


「聖魔樹と世界樹の根を錨にしてる。」


【確認:ラゼス・フレイム・モナーク】


壁が悲鳴を上げる。


【聖魔樹損壊率92%】


ミランは拳を握る。


「世界が壊れる……」


【提案:竜権能で一時安定化】


ミランは一歩踏み出す。


「僕が止める。」


クシが腕を掴む。


「死ぬわよ!」


「それでも。」


赤金の光。


【竜権能起動】

【一時安定化成功】


ミランは膝をつく。


【生命力17%】


クシが抱き留める。


「無茶しないで……」


【新目標:聖魔領から避難】


ミランは微笑む。


「行こう。」

聖魔樹の種子と紅の竜の進化


(Holy Tree Seed & Crimson’s Evolution)


クシはミランを強く抱きしめながら走った。


周囲では、大陸が融合する衝撃で、

溶岩の山脈が蛇のように隆起していく。


ミランの意識は薄い。


「……かあ……さん……」


クシの胸が締め付けられる。


「大丈夫よ……必ず守る。」


【警告:空間リフト崩壊間近】

【宿主生存のため睡眠モード推奨】


ミランの体が冷たくなる。


クシが叫ぶ。


「目を閉じないで!!」


その瞬間――


天を裂く翠の光。


聖魔樹の枝が雲を突き破り、

ミランの手に触れる。


枝は砕け、

一粒の“種子”となる。


【緊急命令発動】

【従属竜ネーミング開始】

【名:クリムゾン】


紅の竜が咆哮する。


鱗が赤く輝き、

急速進化。


クシは竜の背に飛び乗る。


「飛びなさい、クリムゾン!!」


世界は崩壊していた。


だが結界は耐えた。


数時間後――


荒廃していない地帯。


ミランの手の種子が発芽する。


根が大地に広がる。


【世界樹分枝受容】

【称号:ユグドラシルの兄弟】


新たな森が生まれた。


根と血の進化


(Evolution of Roots and Bonds of Blood)


【宿主安定】

【呪い干渉低下】


ミランの胸の黒い血管が消えていく。


【神性マナ接続獲得】

【能力:精霊成長操作】


ミランの魂は、

無数の根と繋がる。


【精神成長:1万年相当】


クリムゾンも変化。


【紅の上位竜へ進化】


根の兄弟の覚醒


(Brother of Roots Awakening)


ミランが目を開ける。


瞳は金と紅。


【Celestial Core OS 起動】


「……世界樹の兄弟?」


彼は胸に手を当てる。


クシは泣き笑いで抱きしめる。


「おかえり、私の子。」


クリムゾンが頭を下げる。


【種族:半悪魔/半竜/神樹系】


「封印82%」


ミランは苦笑する。


「また封印か。」


氷結大陸への転移


(Transfer to Frozen Continent)


根が突然暴走。


白と桃色の光。


【警告:未知存在】


ミランは引きずり込まれる。


――


白銀の世界。


【現在地:氷結大陸】


システムは停止。


ミランの竜化が進行。


黒紅の翼。


宇宙の鱗。


遠方に巨大な氷樹。


だが力尽きる。


雪に倒れる。


――


薄れる意識の中。


エルフの少女。


霜色の瞳。


「凍死するわ……」


彼は運ばれる。


氷竜の背。


天空の氷宮殿。


「治療を。」


王の声。


「この子を救え。」


ミランは再び眠りについた。

氷の王国での目覚め


(Awakening in the Frozen Kingdom)


まぶたがゆっくりと開く。


天井は透き通る氷でできていた。

光が反射し、七色の揺らめきが部屋全体を満たしている。


毛皮と絹で整えられた寝台。

空気は冷たいのに、不思議と寒くない。


「……ここは……」


かすれた声。


窓の外には――

空を泳ぐ氷竜たち。

オーロラに包まれた浮遊城。


「目が覚めたのね、竜。」


ミランが振り向く。


銀髪の少女が立っていた。

肌は淡い氷色。

瞳は深い霜青。


彼女の魔力は清澄で、

しかし王族の威厳を持っている。


「……君は?」


彼女は微笑む。


「ここは氷結王国。

 そして私は、この国の王女。」


ミランは起き上がろうとするが、

体がまだ重い。


「どうして助けた?」


王女は首を傾げる。


「なぜ助けないの?」


「あなたは竜。

 私たちは竜と共に生きる一族よ。」


ミランの眉がわずかに動く。


「炎の竜でも?」


「炎でも、氷でも。

 共鳴できるなら、敵ではない。」


彼は小さく息を吐く。


「……甘いな。」


王女はくすっと笑う。


「そう思う?」


突然、視界が揺れる。


まだ完全回復ではない。


王女が支える。


「だから休みなさいって言ったのに。」


再び暗転。


ハイエルフの警告


(The High Elf’s Warning)


目を開くと、

部屋にもう一人いた。


長身のハイエルフ。

古代の気配。

金色の瞳。


「炎の後継者よ。」


ミランは沈黙する。


「ユグドラシルに拒絶された子。」


胸が締め付けられる。


「……やっぱり、あれは拒絶か。」


ハイエルフは頷く。


「世界樹は“理解できない存在”を拒む。」


「お前は三つの血を持つ。

 竜、悪魔、そして外界の力。」


ミランの目が細まる。


「存在してはいけなかった?」


「違う。

 お前は試練だ。」


彼は続ける。


「呪いは破壊ではない。

 制限だ。」


「世界が準備できるまで、

 お前の神性を抑えている。」


ミランは静かに言う。


「なら、どうすればいい。」


「絆を増やせ。」


「根を張れ。」


「名前を与え、与えられろ。」


その時――


大地が揺れた。


轟音。


空が赤黒く裂ける。


黒炎竜の襲来


(Arrival of the Black-Flame Dragon)


氷宮殿が震える。


屋根を貫き、

黒紅の炎が空を焼いた。


巨大な竜。


闇と炎の混合体。


その咆哮だけで氷が溶ける。


「迎撃!」


氷竜騎士団が飛び立つ。


だが、次々に弾かれる。


王女が時間魔法を展開。


「止まれ――!」


だが炎が突破。


彼女が落ちる。


ミランの本能が爆発。


翼が展開。


白銀の竜体。


氷と宇宙光の混合。


王女を救おうと飛ぶ――


だが別の白竜が彼女を受け止める。


空に二頭の巨竜。


黒炎と純白氷。


睨み合う。


時間が止まる。


王女が魔法を放つ。


「やめて!」


白竜の声が響く。


「友だ!」


黒炎竜が力尽き落下。


白竜が支える。


緑の光。


そして――


白竜の鱗が砕ける。


中から現れたのは――


ミラン。


王女が呆然と呟く。


「あなたが……白竜……?」


その瞬間。


「ミラン!」


クシが駆け寄る。


彼を抱きしめる。


「どれだけ心配したと思ってるの!」


ミランは苦笑。


「ちょっと寄り道。」


クリムゾンが後ろで低く鳴く。


氷竜たちが武器を下ろす。


雪が静かに降る。


フロストモナーク降臨


(Arrival of the Frost Monarch)


空気が一変する。


さらに低温。


竜たちが一斉に膝を折る。


オーロラから現れる巨影。


結晶の鱗。

蒼い瞳。


フロストモナーク。


絶対支配の気配。


「十分だ。」


嵐が止む。


彼女の視線がミランを射抜く。


「炎はいつも破壊をもたらす。」


クリムゾンが頭を下げる。


「害意はない。」


モナークはミランを見る。


「火と影の子。」


「何を求めて氷の地へ来た。」


ミランは答える。


「呪いの真実を。」


モナークは静かに言う。


「お前は剣であり、封印でもある。」


「止めることはできない。」


「だが、終わり方は選べる。」


沈黙。


そして――


「氷の宮へ来い。」


「我が保護下に置く。」


ミランは立つ。


炎と氷が混ざる蒸気。


新たな章が始まる。

呪い解除の条件


(Conditions to Break the Curse)


フロストモナークは静かに振り返った。


氷の大地に淡い青光が走る。


「もし二か月早く来ていれば――

 お前は呪いから解放されていたかもしれない。」


ミランの目が見開かれる。


「……どういう意味だ?」


モナークは腕を組む。


「我が娘――フロストプリンセスは、

 氷竜と霜エルフの混血だ。」


「本来なら存在できないはずの融合。」


「だが魂が完全に共鳴したことで、

 世界はそれを許容した。」


ミランは唇を噛む。


「じゃあ……僕も同じように……?」


モナークは首を振る。


「お前の場合、相手は“悪魔”と“竜”。

 破壊属性同士の融合だ。」


「世界はそれを拒絶する。」


静寂。


「では……どうすればいい。」


モナークの瞳が鋭くなる。


「父を名付けろ。」


ミランの心臓が跳ねる。


「……父を?」


「もしくは、

 父と同格以上の竜と魂の契約を結べ。」


「その絆はユグドラシルの法よりも上位になる。」


ミランは呆然とする。


「……父は、僕を捨てた。」


モナークの表情がわずかに揺らぐ。


「私はそうは思わない。」


「彼は妻を深く愛していた。」


「何かが起きたのだ。」


沈黙の後――


システムの囁き。


【提案:フロストモナークを挑発】


ミランは目を細める。


「つまり……

 あなたは父より弱いんですね。」


空気が凍りつく。


氷柱が浮かぶ。


モナークの目が光る。


「……ほう。」


ミランは続ける。


「なら、止めてみせてください。」


一瞬――


そして、氷の嵐が消える。


モナークは背を向けた。


「……やってみよう。」


エミリアの正体


(Emilia’s Truth)


フロストプリンセスが小声で言う。


「エミリア……お願い。」


モナークはため息をつく。


「その名を炎の前で呼ぶな。」


ミランは首を傾げる。


「エミリア?」


モナークは静かに答える。


「かつてクロノアを名付けようとして、

 逆に名付けられた。」


クロノアが微笑む。


「私が勝った。」


クシが呟く。


「ミランと同じ……可能性の力。」


モナークはミランを見る。


「私はお前を助ける。」


「だが条件がある。」


「この地を離れるな。」


「フロストツリーに近づくな。」


ミランは頷く。


その時――


モナークの表情が変わる。


遠方を見る。


無言で翼を広げる。


「……見つけた。」


一言。


そして――


光の柱。


エミリアは飛び立った。


向かう先は――


ミランの父。


嵐の前の静寂


(Silence Before the Storm)


氷の地に静寂。


ミランは空を見上げる。


「……父。」


胸の奥で、

呪いが微かに脈打つ。


新たな因縁が動き出す。

父とエミリアの激突


(Clash of Monarchs — Flame King vs Frost Queen)


天空が裂けた。


赤黒い炎が大地を焼き、

氷嵐がそれを迎え撃つ。


二つの王権が正面衝突する。


空間が歪み、

山脈が蒸発し、

海が一瞬で凍り付いた。


ドラゴン・デーモン王――

ラゼス・フレイム・モナーク。


フロストモナーク――

エミリア。


ラゼスの巨躯から、

漆黒と紅蓮が渦巻く。


「どけ、氷の女王。」


エミリアの翼が静かに広がる。


「世界を壊す前に、

 お前を止める。」


ラゼスが嗤う。


「世界などどうでもいい。」


「私は息子を失った。」


エミリアの瞳が細まる。


「……ミランは生きている。」


一瞬、

ラゼスの炎が揺れた。


「嘘だ。」


エミリアは言う。


「呪われているが、生きている。」


「お前の力の残滓が、

 彼を殺しかけている。」


ラゼスの咆哮。


「ならば世界ごと壊す。」


エミリアの声が低くなる。


「それがお前の“愛”か?」


沈黙。


次の瞬間――


衝突。


炎と氷の神撃。


宇宙規模の破壊。


観測者ミラン


(Milan Watching From Afar)


フロスト領。


ミランの胸が締め付けられる。


【感情反応:父性リンク】


「……止めなきゃ。」


クシが抱き寄せる。


「まだ早い。」


クロノアが呟く。


「選択の時が近い。」


ラゼスの過去


(Razes’ Past)


エミリアの氷がラゼスの胸を貫く。


しかし再生する。


ラゼスの記憶が溢れ出す。


――エルフ王家の娘。

――優しい笑顔。

――禁断の恋。

――混血の子。


そして――


彼女の死。


ユグドラシルの裁き。


「存在してはならない。」


その言葉。


ラゼスは狂った。


「私は世界を憎んだ。」


ミランの決断


(Milan’s Decision)


ミランが立ち上がる。


「もう十分だ。」


クシの手を離す。


「僕が行く。」


クロノアが頷く。


「覚悟は?」


ミランは答える。


「父を名付ける。」


空間が静止する。


親子の邂逅


(Father and Son)


戦場に現れるミラン。


炎と氷が止まる。


ラゼスの目が見開く。


「……生きている?」


ミランは見上げる。


「父さん。」


世界が息を呑む。

名付けの儀式


(The Naming — Bond Beyond the World)


戦場に、

音が消えた。


炎も、

氷も、

風も。


ただ、

二人の鼓動だけが響く。


ラゼスは震える声で言った。


「……本当に、

 お前なのか?」


ミランは一歩進む。


「うん。」


「捨てられたなんて思ってない。」


「でも……」


彼は胸に手を当てる。


「父さんの怒りが、

 僕を殺そうとしてる。」


ラゼスの瞳が揺れる。


「……私は……」


ミランは静かに言う。


「父さんの名前を呼ぶ。」


エミリアが目を見開く。


クロノアが息を呑む。


クシが祈る。


ミランの体から、

微かな宇宙光が溢れ出す。


「我、可能性を宿す者ミランが、

 汝を名付ける。」


世界が震える。


「ラゼス・アーク・フレイム」


光が爆発。


【唯一名付け検出】


ラゼスの体が硬直。


過去と未来が接続される。


呪い崩壊


(Curse Collapse)


ミランの胸の紋章が割れる。


黒い鎖が砕け散る。


【呪い解除:70%】


【竜権能解放】


ミランの背に、

漆黒と白銀の翼。


ラゼスが膝をつく。


「……息子よ。」


炎が静まる。


父の贖罪


(Razes’ Atonement)


ラゼスは泣く。


「私は……間違っていた。」


「世界を憎んだ。」


ミランは首を振る。


「母さんを愛したなら、

 それで十分。」


エミリアが静かに言う。


「終わりだ、ラゼス。」


ラゼスは頷く。


「私が責任を取る。」


彼は空へ向かう。


「大陸融合を解く。」


新たな均衡


(New Balance)


大地が震える。


大陸がゆっくり離れる。


空が青くなる。


聖魔樹の悲鳴が止む。


ユグドラシルが静まる。


【世界安定化開始】


ミランは立つ。


「まだ……終わりじゃない。」


瞳が輝く。

新世界への旅立ち


(Departure to the New World)


空は、

久しぶりに“青”だった。


雲は穏やかに流れ、

大地は静かに息をしている。


大陸融合は解かれ、

世界は再び本来の形へ戻りつつあった。


ミランは高台に立ち、

その光景を見つめていた。


背後には――

クシ。

クロノア。

エミリア。

クリムゾン。


皆が、

静かに彼の背中を見守っている。


【システム通知】

【呪い解除率:72%】

【竜権能:部分使用可能】

【称号更新:可能性の王子】


ミランは小さく息を吐く。


「……やっと、スタートラインだ。」


クシが微笑む。


「生きてるだけで十分よ。」


クロノアが肩をすくめる。


「でも、退屈はしなさそうね。」


エミリアは腕を組む。


「お前は歩く災厄だ。」


ミランは苦笑。


「ひどいな。」


クリムゾンが低く鳴く。


「主が進むなら、我も進む。」


可能性の王子


(Prince of Possibility)


ミランは振り返る。


「僕は、王になりたいわけじゃない。」


「世界を支配したいわけでもない。」


彼は拳を握る。


「ただ――」


「選べる世界にしたい。」


「血じゃなく。」


「種族じゃなく。」


「生まれじゃなく。」


「“意思”で。」


沈黙。


そして、皆が頷く。


クロノアが言う。


「それが一番難しい。」


ミランは笑う。


「だからやる。」


新たな旅路


ミランは歩き出す。


まだ知らない土地へ。


まだ知らない種族へ。


まだ知らない運命へ。


彼の背中には――

翼と、

呪いの痕跡と、

無限の可能性。


世界は、

再び動き出した。


― 完 ―


(続編・第二部完結)

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