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VAST POSSIBILITY IN TIME  作者: freezn
VAST POSSIBILITY IN TIME — PART ONE The Purpose Beyond Creation Chapter 1
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堕落者パート8

沈黙が、悲鳴のように続いた。


平穏な沈黙ではない。


何かが取り返しのつかない形で起きた後に訪れる沈黙だ。


ミランは、砕けた海岸線の縁に片膝をついたまま、動かずにいた。

片手は、いまだ熱を帯びた岩に突き立てられている。


海は元の位置へ戻っていた。


だが、音が違った。


打ち寄せる波の一つ一つが、かすかな不協和音を含んでいるようだった。

まるで世界そのものが、彼を刺激しないよう慎重になっているかのように。


ルクシオンが近くに浮かんでいた。


もはや完全に安定してはいない。


損傷しているのではない。


負荷がかかっているのだ。


[マスター……]

[直前の出力は予測許容量を超過しました。]

[この反応に関する前例データは存在しません。]


ミランはゆっくりと息を吐いた。


一度だけ、震えた。


それから無理やり呼吸を整える。


「……痛かった」


静かな声だった。


「身体じゃない。

存在そのものがだ」


ルクシオンが解析する。


[概念的痛覚を確認。]

[原因:相互に適合しない権限への同時曝露。]

[堕落存在の影響+神性撤退+ワールドシステム介入。]


ミランは立ち上がった。


動作は遅い。


慎重だ。


疲労ではない。


世界が、彼に距離を取っているかのようだった。


ソニアはいない。


暴力的に消えたわけでも、消滅したわけでもない。


撤退した。


その場には、かすかな痕跡だけが残っている。


圧縮された土。

緊急性の残響。

そして――後悔。


ミランは地平線を見つめた。


「……つまり、人類が失敗しているのは、神を失ったからじゃない」


低くつぶやく。


「構造を失ったからだ。

そして、その代替を知らない」


ルクシオンは否定しない。


[観測:]

[人類の道徳体系は、従来、神性権威へ外注されていました。]

[現在の状態:外部仲裁の不在。]

[結果:概念的真空。]


ミランは一瞬、目を閉じた。


都市の光景が脳裏をよぎる。


数週間前に歩いた街――

明るく、効率的で、調和していた。


同じ通りは今、表面下に緊張を抱えている。

鋭くなった言葉。

長くなる視線。

静かに積もる不満。


影響力を溜め込む指導者。

空虚さを埋めるために過剰に耽溺する市民。


怠惰は休息ではない――無関心だ。

強欲は野心ではない――喪失への恐怖だ。

嫉妬は欲望ではない――存在そのものへの憎悪だ。


「……彼らは生存を解決した」


ミランは言う。


「だが、意味を学ばなかった」


ルクシオンの返答は即座だった。


[結論はデータと一致。]

[罪は、高知性・低形而上耐性社会で最も効率的に顕現します。]

[人類の魔力感受性は、概念侵入を自己調整するには不十分です。]


ミランは目を開いた。


「……そして神々はフィルターだった」


[肯定。]


彼は海に背を向け、内陸へ歩き出した。


一歩一歩が重い。


疲労ではない。


責任が、形を持ち始めている。


試練のカウンターが、意識に浮かび上がる。


――

試練進行率:69%

――


動かない。


「……詰まっているな」


ルクシオンが近づく。


[理由特定。]

[ドラゴン―人類敵対ナラティブの崩壊:成功。]

[第二段階未解決。]


「……堕落存在か」


[正解。]


ミランは短く、乾いた笑いを漏らす。


「……世界は神を追い出した」


「そして、もっと厄介なものにぶつかった」


ルクシオンは否定しなかった。

彼らは夕暮れの都市外縁部へ到達した。


夜が沈み始めている。


ネオンの帯が塔の側面を滑り、

交通レーンは柔らかな青で発光する。


都市は、今もなお機能していた。


完璧に。


少なくとも表面上は。


だが、その下では――


音楽。


ミランは足を止めた。


下層地区から漂ってくる音。


生演奏。


増幅されてはいるが、生々しい。


作られた完璧さではない。


人間の声だ。


彼は、その音を追った。


会場は、二つの建物の間に吊られた屋外プラットフォーム。


観客が密集している。


見世物ではなく、感情に引き寄せられて。


ステージライトは暖色。


意図的に不完全。


そして――


そこにいた。


ライトの中央。


ゆったりとした白いシャツ。


いくつかのボタンは外されている。


濃い色の布が脚に沿って張り付く。


髪は自由に垂れ、顔の一部を隠している。


薄いマスクが残りを覆う。


衣装は演劇的ではない。


意図的だ。


注目を集めるため。


感情を引き出すため。


欲。


粗野ではない。


暴力的でもない。


注意を逸らす。


ミランは即座に彼女を認識した。


「……セレン」


ルクシオンの分析が静かに重なる。


[対象確認:セレン。]

[行動逸脱を検出。]

[概念干渉あり。]

[分類:欲望領域の影響、低レベルだが累積型。]


ミランは、彼女の歌を見つめる。


声は美しい。


澄んでいて、痛みを帯び、誠実だ。


だが、目が違う。


強すぎる。


焦点が合っていない。


まるで、どう頼めばいいか分からない承認を追いかけているかのようだ。


「……彼女は楽しんでいない」


ミランは静かに言う。


「補償しているだけだ」


[確認。]


周囲の観客は揺れている。


魅了されているのではない。


消費している。


繋がりのない欲望。


配慮のない注目。


そしてこの地区の外では――


ルクシオンがデータを送る。


[人種差別指数上昇。]

[非人類種族への敵意増加。]

[主要感情:嫉妬。]

[対象:魔法寿命、身体能力、非人類の優位性。]


「……彼らは、なれないものを妬んでいる」


ミランは言う。


「そして神が善悪を示さなくなった今――」


[彼らは敵を発明している。]


ミランは決断した。


セレンの演奏が終わり、拍手が波のように広がった瞬間――


ミランは後退し、消えた。


次の瞬間。


観客が息を呑む。


セレンは宙に浮いた。


都市が彼女の下に遠ざかる。


ミランが彼女を受け止めた。


翼が一瞬、展開する。


暗く、光の中で輪郭を描く。


彼の姿は人型だが――


圧倒的だった。


セレンは悲鳴を上げない。


頬を染めた。


恐怖ではない。


はるかに危険な感情。


彼らは高層タワーの頂上に降り立つ。


風が唸り、都市の光が果てしなく広がる。


ミランは彼女を静かに下ろし、一歩下がる。


空間を与える。


影響は即座に切れた。


セレンはよろめき、息を詰まらせる。


自分のシャツを掴む。


「……なに――」


ミランは静かに言う。


「自分を見ろ」


ルクシオンが反射パネルを形成する。


超常ではない。


ただの光と空気。


だが、十分だ。


セレンは凍りつく。


「……これが……私?」


囁き。


膝が崩れる。


座り込み、手が震える。


「……私は……」


「こんなつもりじゃ……」


「笑っていれば――」


「みんなが見てくれれば――」


「そしたら、たぶん――」


声が途切れる。


「……空っぽじゃなくなると思った」


ミランは少し離れた場所に膝をつく。


触れない。


裁かない。


「欲が君にこれをさせたんじゃない」


彼は優しく言う。


「欲は、すでに痛んでいたものを増幅しただけだ」


涙が頬を伝う。


「……ごめんなさい」


囁く。


「利用してしまって」


「……こんな自分になって」


ミランは首を振る。


「気づきは罪じゃない」


「自分を失うことが罪だ」


セレンは震えながら息を吸う。


ゆっくりと立ち上がる。


シャツのボタンを留める。


髪を後ろへ流す。


マスクを外す。


もう一度ミランを見る。


目は、少し澄んでいた。


「……私たち、どうなってるの?」


ミランは都市を見下ろす。


「罪が人類を試している」


「壊すためじゃない」


「神が残した空白を、何が埋めるのかを見るためだ」


セレンは唾を飲み込む。


「……それは何?」


ミランは立ち上がる。


翼が消える。


「……それが」


彼は静かに言う。


「俺の試練の正体だ」


上空、見えない場所で――


ワールドシステムが再調整する。


――

試練状態:進行中

進行率:69%

条件更新:概念耐性が必要

――


遠くでクロノアがそれを感じた。


危険ではない。


方向だ。


そして現実の向こう側で――


堕落存在は、ようやく理解し始めた。


今回は、世界は崩壊していない。


学んでいるのだ。

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